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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百六十四話

御伽学園戦闘病

第四百六十四話「最極端」


拳とアリスは島の端っこに飛ばされた。それもそのはず、あまりにも破壊する範囲が大きすぎるので皆と離す必要があるのだ。

二人は軽く肩を回したりして準備運動を終えた。互いに引き延ばす気は無い、どうせ大きな一撃が入って時点で勝負は決まる。フィジカルだけで言えばトップとトップのぶつかり合い、何が起こるなんて分かったものじゃないが勝者はまだ分からない。


「あなた潜在能力が凄いですね。まだ強くなれそうです」


見つめながらアリスが言った。


「煽ってんのか」


「いえいえ違いますよ、単純に褒めているんですよ。ですが完全に力を発揮できていない事に関しては勿体ないと感じますね。限界まで鍛えればニアちゃんにも圧勝できる実力は付きそうなものですから」


「舐めてんじゃねぇぞ、俺は殴り合いじゃ最強だ。お前だってぶっ飛ばしてやる」


「無理ですよ」


「んだと!」


「私の体は機械ですからね」


そう言いながら軽く服をたぐり、見せた。まるでただの体に見えるが確かに少し目を凝らすと繋ぎ目の様な部分や機械部品が点在している。


「本当なのか、それ」


「当たり前です。だから無能力者の私がここまで強いんですよ」


「はぁ!?お前無能力者なのかよ!」


「そうですよ?術式はやはりロッドの末裔と言う部分からなのでしょうね。ですが私は能力を持っていません、あくまで術までです」


「そこまでして強くなりたいのかよ、何のために…」


「違いますよ。私だってこんな体になりたくてなった訳じゃない。私元々末期癌患者だった。伽耶さんに機械の体を作ってもらって何とか繋ぎ留めましたが、それまではただの女の子だったんですよ。

最初も戦闘が好きだった訳では無いのですけど、今となっては唯一の生き甲斐です」


「戦闘病も罹ってんじゃねぇか」


「いいえ、あって無いようなものですから。実質常人との勝負ですよ」


「お前が常人とか笑わせんなよ」


「まぁ良いじゃないですか。そろそろやりましょう、準備は良いですよね」


「来いよ」


拳はずっしりと構えたがアリスは予備動作すら見せない。おかしいと感じ拳から仕掛けようと足を踏み出したその瞬間、目の前にいたはずのアリスが背後に移動して来た。

速い事は知っていたので軽く霊力感知を動作させたまま戦うつもりだった。それのおかげで気付けたが霊力感知が無かったら絶対に分からなかった。

反撃など無理な速さだったのでとにかくダメージを抑えようとガードをしたその瞬間、再度背後に回り込まれて背中を蹴られた。くらった事も無い痛み、この世の者が出せるとは到底思えない馬鹿力。

身体強化は能力の仕様上体内の方が堅いので何とか内臓に傷は付かず、背骨にヒビが入るぐらいで済んだがあんなのを二度も三度もモロにくらったら体の限界より先に衝撃で気絶する。


「クソいてぇな!!」


「当たり前でしょう。もしや砕胡さんと同じベクトルで考えてました?甘いですよ」


この間もニコニコ笑っている。それが妙に不気味で、苛立ってくる。これが戦闘病じゃなければ何と言うのか、だが分かる、この笑みは戦闘病じゃないのだ。感覚的なものでしかないのだが本当に笑っている。

完全な異常者、こいつは昔からそうだったがフィジカルモンスターを見つけるとすぐ玩具のような扱いを始める。だからと言って勝てる相手はいない。


「今度はそちらからどうぞ。どれ程の力か受けてみたいです」


「ふざっけんなよ!!」


怒りを表すパンチをくらわせた。機械ではない首から上、即ち顔面を殴ったはずだ。普通ならば顔面はグチャグチャになりそのまま死ぬレベルの力のはずなのにアリスは鼻先が軽く赤くなる程度しかダメージを負っていない。

だがとても感心したような表情のままジンジンと痛む鼻先に触れる。本当に久しぶりに痛いと感じて興奮が収まらない。力が湧いてくる。拳を握りしめ、楽しそうに殴り掛かった。

速度が上がっているので拳は避けられず、防御なども出来ずに吹き飛ばされた。島の外に出されそうになったが何とか木を掴み減速、崖ギリギリで立ち止まった。


「まだまだ終わりませんよ!あなたもさぁ殴って!」


まるで悪魔、物凄い速度追いかけて、体勢を整える暇も与えずに殴り掛かって来る。

だが拳もそんなの慣れっこ、出来れば足払いでもしてやりたいのだが到底くらうとは思えない。まずは何でも良いので突き放し、距離を取る事からだ。


「黙ってろ!!」


大声を出しながら拳を突き出す。アリスは嬉しそうに左手を突き出し、拳と拳をぶつけた。とんでもなく重い音が鳴り、そのまま拳の動きが止まった。

そこにつけ込むようにしてアリスは右手を突き出した。顔面をぶん殴られた拳は気絶し、吹っ飛ばされて海に落下した。


「あ…ちょっとやり過ぎましたかね……でもニアちゃんとの勝負のためのウォーミングアップと考えれば充分…」


次の瞬間体が浮く。投げ飛ばされたようだ。そして真下には拳がいる。


「終わってねぇよ!!!」


そのままアッパーをかましてきたが左手で軽く受け止め、右足で蹴落とした。自分は拳を踏み台にしたので減速、ゆっくり優雅に着地した。


「素晴らしいです。やはりこの程度では終わりませんよね。なら次です」


ニコッと笑いかけた直後姿を消した。霊力感知でも位置が分からない。そろそろ攻撃を加えないとどうにもならない、拳は少し焦りながらも冷静に構える。

するとアリスは想定外の場所から飛び出してきた。それは地面。拳の足元から飛び出し、そのまま顎に全力パンチをくらわせた。重度の脳震盪、もう駄目だろう。

拳は白目を向きながら仰向けに倒れた。アリスも流石にこれで終わりだと確信し、まだ息がある事に驚きながらも安らかなトドメを刺してやろうと思った。


「面白い人でした。ですがやはり身体強化だけとなるとこんなものですよね。楽しかったですけど、短かったです」


頭蓋骨を粉砕しようと拳を振り落とした。

だが止まる、腕の動きが。筋肉が停止した訳でも、何らかの能力の弊害でもない。ただ拳が両手を使って受け止めているのだ。その姿に異常なまでの感動を覚えたアリスは手を離し距離を取った。

そして拳に復旧の時間を与える事と決めた。


「立ち上がってください」


「どう言う事だよ…」


まだフラフラしながらも何とか立ち上がる。


「私は可能性を感じました。あなたはまだここで終わって良い人間ではない。ずっと暇何です、ニアちゃんが来るまで。ファルちゃんは先に死んじゃいましたし……ラック・ツルユや兆波 凪斗は恐らく私と戦うつもりが無い。ですがあなたは違う、私の元に来てくれました。

これまでもそう言った無謀な挑戦を仕掛ける人物はいましたが大抵数秒で終わっていた。でもあなたは違います、暇潰しに付き合ってください」


「ふざっ…」


「でもあなたの目的はそれでしょう?」


見抜かれている。仕方が無い、付き合う事で佐須魔の元に行かないのならそれが最善策なのだろう。


「…仕方ねぇな。俺ももうお前と戦う以外にやる事はねぇ。やってやるよ、最後の最後までよ!!」


「それじゃあ行きますよ!」


互いが全力で距離を詰める。そして衝突するそのタイミング、本当に同時に拳を突き出した。一発目、ぶつかり引く。二発目、ぶつかり引く。三発目、四発目、五発目、六発目、何度も同じ事。互いの拳がぶつかり合う。

既に拳の拳はグチャグチャで酷いものだが火事場の馬鹿力ならぬ火事場の体力生成で何とか補っている。だが何故こうもぶつかり合うのか、別に意図してやっている訳では無い。

両者が感覚で最善だと思う行動を起こすと被るのだ、本当に全てが。とてもとても凄い事なのだが両者頭がぶっ飛んでいるのでそんな事全く気付かなかった。

それよりも早く一撃ぶち込んで有利になりたい、そんな事しか考えていなかった。


「…!!」


そんな事を初めて十秒、二百はくだらない拳を交えたその時だった。

衝撃波で周囲の木々は薙ぎ倒され、吹き飛ばされた事でそこだけ平野のようになっている。そこで起こった、不運な災難。もしかしたらここまで計算していたのかもしれない。吹っ飛ばされた丸太の端っこが拳の頭にぶつかったのだ。

予想だにしない場所からの衝撃、体勢が崩れ攻撃の手が止まる。アリスは逃さない、そのまま反撃の余地をも与えない連撃で拳を五秒間殴り続けた。


「不運ですが、それも戦闘の一環ですよ」


血だらけ、腕や足も変な方向に曲がっている。息も無いように思える。少し距離を取って動かない、普通ならばここで死んだと思って中央へ戻るだろう。

だがアリスは違う、しっかり感じ取っている、息吹を。

十秒後、拳は意識を取り戻す。だが体が動かない。もうアリスは去っただろうと思っていたので迅速に体力を生成し、体の修復を待とうとしていた。

この時既に光輝は死亡していたが時計が壊れていたので分からなかった。全員生きているとばかり思っていた拳は急いで中央に向かい、合流しなくてはと考え立ち上がった。


「…まだいんのかよ…」


満面の笑みで立ち尽くすアリスの姿を見て半分絶望、半分嫌悪という最悪な気分へと変化した。


「勿論です。だってまだ終わっていませんから。少し本気を出します」


「好きにしろ、俺はお前を足止めするのが仕事だ」


「そうですか。少なくともそちらの作戦が終了するまで私はここを動くつもりはありませんけどね」


それは生かすと言う事か、拳を殺しても動かないと言う事か。どちらにせよ戦った方が良いのは事実だ。

だが体中が痛む。もう動きたくないレベルだ。するとそこでアリスが変な事を言い出した。


「そんなヒョロヒョロじゃ面白くありませんね…かと言って回復させる手段はありませんし……良い事思いつきました」


純粋な笑みのままとんでもない提案をする。


「今死んだ光輝さんの命を喰って生きながらえましょう」


思考が止まる。


「…は?」


「あら、時計を見ていないんですか?ほら」


そう言いながら胸ポケットにしまっていた時計を見せた。そこには確かに光輝の死亡通知がある。

それだけならまだ問題は無かった。だがその前の言動、まるで光輝の死を侮辱するかのような提案。拳の怒りは一瞬にして限界ををっぱした。


「殺す」


とんでもないオーラ、第二(さいしゅう)ラウンドが無理矢理開始させられた。

拳は既に、アリスの手の平の上である。

だがそんな風に嵌められて終わりの人間ではない事は誰もが知っている、旧生徒会の皆ならば。



「最後まで戦えよ、拳」


待機室の薫によってストッパーが外された。



第四百六十四話「最極端」

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