第四十六話
御伽学園戦闘病
第四十六話「mission complete」
剣を構え準備万端の二人の合間に礁蔽が割り込む。
「ちょーいちょい!待て待て」
「なんだい、危ないぞ」
「いやお前らどっちもメチャクチャ強いんやろ?そしたら住民に被害どころか死者が出るかもしれへんやろ!」
「心配するな。これは私達TISの問題、住民や君達は決して巻き込まない」
礁蔽はその言葉を聞いて数十秒間唸りながら悩んだ末決闘を承諾した。そして倒れている流を担いで扉を鍵で開き消えていった。
すると二人きりになった瞬間に戦闘が始める。英二郎が剣を振ると來花は浮遊し大穴から飛び出して、今の今まで流達と戦っていた道へと出た。
追うように跳び上がり、地上へと出た英二郎はすぐに來花の方に踏み込む。來花は飛ばずにただ英二郎の攻撃を交わすだけだった。負傷っぷりからもうまともに浮遊出来ないのではないかと考えた英二郎は自己流で最大火力の七連斬りを行った。攻撃が終わる、確実に斬ったはずだ。だが手応えがあまりにも無さすぎる。
無いわけではなく斬っている感覚自体はあるのだ。ただ感覚は人では無く、最早紙などを斬っているかと錯覚するほどに小さいのだ。おかしいと思い、斬りつけた場所に視線を移すと強く斬ったはずなのにかすり傷程度しかくらっていない來花の姿があった。
「私の体は霊みたいなものだ。そんな私に霊力指数10にも満たない程度の霊力しかこもっていない剣が効く訳ないだろう、今の私はあの機械では測り切れないほどに霊力が高いんだよ」
「…」
「まぁこれだけ傷だらけの私相手ぐらい勝たないと佐須魔やあいつには勝てないぞ」
「うるせえ!」
英二郎は怒りながら剣を振る、來花はくらってもろくなダメージにはならない事を理解しているが攻撃を避け続ける。その状態が八分程続いた、日は完全に落ち、暗い街の中最後の戦いは繰り広げられている。英二郎は真っ暗な街と激的な疲労が相まって來花を目で追う事すら困難なレベルまで動体視力が落ちていた。來花はそれに気付いたのかスピードを何段か落とし英二郎が付いて来られるよう調節する。
「そんな事すんな…!!」
「素戔嗚と戦って少ない霊力を使い切り疲労が溜まっているのも分かる、だがそんなスピードじゃ普通の状態の私になんて到底及ばない。だから少しスピードを下げてあげたんだ。子供には成功体験をさせるのが一番だからな」
「…は?これを子供の遊びだとでも思ってんのか?」
「そうだ。それ以外の何者でも無いだろう」
その言葉を聞いた瞬間英二郎は今までにない怒声で叫ぶ。
「おい!出てこい!聞こえてるんだろ!見てんだろ!出てこい!俺に力を寄越せ!」
來花はそれを見て足を止め英二郎を見つめていた、來花には英二郎が何をしようとしているかなんてお見通しだ。それを踏まえて足を止めたのだ、この子にもう勝機はないと。
んー?何ー?
そう言うのは少し前にエクスカリバーの力を授けてくれたモノだ、英二郎は白い世界へとやってきた。その声を聞くと共に英二郎は心の中で強い口調で提案と言う名の一方的な交渉を行う。
(僕に力を寄越せ)
やだ
(なぜだ!)
悪いけど覚醒ってのはそう易々とやっていいものじゃないの。君がお気に入りだからたまにやってあげてるだけで一日に二回もできないよ。
(そうかよじゃあもういい…役立たずが)
そう意地汚く諦めた。力を与えしモノは呆れたように英二郎を現実世界へと送還する。
現実世界に戻るやいなや剣を握り、來花に向かって突っ込んだ。だが無表情で交わされてしまう。その時英二郎の目を見て一つ感じ取れることがあった、完全に周りを見下し自分が一番だと思っている。そんな目を見た來花は教育の一環だと思いながら力を見せつけてやることにした。
『呪・自心像』
そう唱えると來花の自心像が現れた。だがそれを無視して來花に攻撃をしようとしてくる、自心像がそれを難む。
通り抜けようと横に移動しようとする英二郎に神楽鈴を突き刺した。血が溢れ出し途轍もない痛みに苛まれた身動きを取れなくなった。
すると急激に焦り出し息を切らす。來花は少し離れた場所からただそれを冷たくも、温かくもない生ぬるい嫌な目で見つめている。そんな目で見られていると知ったのか英二郎は叫びながら前へと進もうとする。だが自心像は更に奥まで鈴を刺しこんだ。あまりの痛みに気絶しかけたがなんとか持ち堪え、今あるだけの霊力全てを剣に込める。そして鈴を刺して離れる事が出来ない自心像に向かって剣を振り下ろした。
自身像は何も抵抗しなかった。だが斬られた自心像と鈴は泥のように溶けていき消滅した。自由になった英二郎はすぐに足を前に出したが霊力も体力もすっからかんになってしまっているようで動けない。來花は訊ねる。
「皆が手を繋いで世界平和、こういう事を世間では綺麗事と言う。君はこの綺麗事の事をどう思う」
英二郎は息を切らしながら自信あり気に答える。
「くっだらなねぇ!結局は全てを支配する王が一人いれば解決なんだよ!周りの奴らなんか頼りにならねぇ!強い自分だけが正義!」
「そうか…残念だ。君は十分素質はある、だが自らをドン底に叩き落とした上に自分は強いなどと豪語しこの有様、今の君はただの馬鹿だ。脅威にしかなり得ない邪魔者、そんな奴は今のうちに駆除する」
來花は自信の霊力を七割使って最強格の呪いを唱えた。
『呪詛 螺懿蘭縊』
すると英二郎の頭上にとても煌びやかである巨大な蘭の花が現れた。その蘭は空か吊られているように花弁を地面に向けている。そしてゆっくり、ゆっくりとつぼみに戻るかのような動きをして英二郎を包んでいく。
完全に閉じ切ってつぼみのようになると次は地面から真っ蒼な炎がメラメラと、火花を散らしながら燃え上がった。つぼみの中は蒸し焼き状態で限界が来て息が苦しくなって来る。
死んでしまうそう思った時だった。つぼみが弾け飛び、炎も一気に消えた。何事かとそこを見ると一人の女が立っていた。透き通った金髪で低身長、眼鏡をかけている。
「絵梨花…先生」
その人物は高等部二年を担当している数学教師[幸徹 絵梨花]だ。絵梨花は笑いながら英二郎を安心させる。
「もう大丈夫だ。後は私がやる」
その後前方の來花に向かって叫ぶ。
「来るなら来い!お前に私は倒せない」
來花はその言葉を聞いた瞬間に自心像を出そうとしたが「やめておけ」と声が響く。その声の主は來花の後ろに突如として姿を現した佐須魔だった。佐須魔は來花を引き留め戦闘を強制終了させてから絵梨花に話しかける
「いやー結構深い傷ができちゃったみたいだけどさ、こっちもそっち陣営の紫苑助けたしチャラにしてくれない?絵梨花"先輩"」
「その呼び方やめろよ、虫唾が走るんだよ。そもそもお前は私の知ってる頃のお前とはもう別人みたいなもんだ。それに敵の実質ボスだろ?そんな奴に敬われたって気持ちが悪い」
「そうかい。それでどうする?僕とやる?」
「いや、これ以上被害が出るとこっちも面倒くさくなる。だからやらない」
「分かった、じゃあ僕達は帰る。行くよ來花」
そう言いながらゲートを作り出した、來花は何か物足りなさそうにしながらも大人しくゲートへと入って行く。佐須魔もゲートに入ったのを確認した絵梨花は英二郎に肩を貸しながらゆっくりと歩き出した。
「お前にはまだまだ教育しなくちゃいけないことがあるな!」
「すい…ません…」
「まぁいいよ。ひとまずお疲れ様」
そう優しく声をかけ皆が待つ広場へと戻っていった。
英二郎はこの短時間で強い屈辱、絶望、そしてより一層強い高揚感を得た。そして新しい思想や戦い方も覚えた、今の英二郎は成長性が凄まじい。人生の目標が一つ増えた、それは『自分の強さの限界を知る』事である。
ただ闇雲に強さを追求するこの少年を止める事が出来る人物はこの世にはいない。
コルーニア・スラッグ・ファル
能力/身体強化
身体能力を底上げして戦う。
強さ/拳に続く学園内での身体強化使い最強候補
第四十六話「mission complete」
2023 10/21 改変
2023 10/21 台詞名前消去




