第四百五十八話
御伽学園戦闘病
第四百五十八話「終天」
一度目の神武をくらった時の出来事。
須野昌の脳内かもしれない、もしかしたらほんの一瞬だけ別の世界に連れて行かれていたのかもしれない。とにかく対面していた、香澄と。
「…よぉ、ようやく出て来たか」
「久しぶり」
「んでどうしたんだよこんなタイミングで。参加する気にでもなったか?」
冗談交じりに問う。
「うん」
驚きの返答。
「マジ?マジで何で今何だよ?」
「仮想世界で色々やってる時から決めてたんだけど、須野昌と喋れる時間が無かったからさ」
「あー…確かに、そう言われると余裕も時間も無かったな。でもこんな瀬戸際でするか?普通」
「でもここで僕が出なきゃ死ぬでしょ、須野昌」
「そうだな。これ体の動きが停止するだろ……まぁ、そう言う事だよな?」
香澄が肩代わりしてくれる、と言う事だ。
「そうだね。だけど全て僕が吸える訳じゃない、それなりのスタン効果は須野昌にも行くよ、大丈夫?」
「効力減るだけでも大分デカい、頼む」
「分かった。それじゃあさ、もう出るよ」
「出るのか?別に出なくても良いぞ、肩代わりしてくれるだけでも…」
「これで最後なんだ、厚かましくも最後ぐらい貢献させてくれよ」
「そうかよ、好きにしろよ。でも邪魔はすんなよ?」
「しないよ。それじゃあ頑張ろう」
「おう、行くぞ」
互いの拳をこつんと合わせ、その世界は終わった。そこから來花との死闘を繰り広げ、良いタイミングが出来た。安全かつ敵が油断している。今更出て来るとは思っていなかっただろう。
体を捧げた故にニンゲンではない、だが人でもない。ただ霊力で出来た何か、零式によって呼び戻された奴らを同じような状態。現れる、諏磨 香澄。
「やはりそう来るか」
「当たり前だろ。僕だってこのまま終わったらたまったもんじゃない。須野昌の成長を促す為だったのに、何の意味も無かったしね」
「はぁ?んな事されて俺が成長する訳ねぇだろ、馬鹿かよ」
「誤算だったね。とりあえず壁を退かしてくれ、邪魔だよ」
「了解」
壁が無くなった。來花は突っ込んで神武をくらわせようとしたが通用しない、まず須野昌の壁で阻まれ、次に香澄の銀狐二匹が左右から突撃して来た。
神武だけでは対応出来ないので呪を使いたいのだが返って来た封の効果が持続しており使えない。となると引くしかない。須野昌自体も脅威であるし、香澄に妖術などを使われたら成す術がないからだ。
「一気に押すぞ!」
「おっけー!」
二人が距離を詰める。香澄も透明の床を踏み、一気に。
來花は浮遊が出来るので有利なはずだ。元々一人だけで他者を気にする必要が無かった須野昌の道は香澄の事も考えて作る必要が出た、少しぐらいスピードが落ちるはずだ。そう思っていた。
だが実際はそんな事なかった。まるで心が繋がっているかのように動きが同じ、遠慮なんてしていない。ただ須野昌が行きたいと思う道を作り、香澄は予測して同じ速さで走っている。
素晴らしい共鳴。だがそんなのは甘さの象徴、同時に二人が走っているとなれば一網打尽もそう難しい話ではない。既に封の効果は切れているのだ、螺懿蘭縊で二人仕留めるのは難しい。ただ香澄はこの対策をしていないはずだ。
『呪詛 伽藍経典 八懐骨列』
だが甘いのは來花の方だった。
『人術・砂塵王壁』
『人術・砂塵王壁』
二人が砂塵王壁を発動し八懐骨列を防いだ。
「ずっと須野昌と一緒だった。感覚ぐらい分かるんだよ。でもそっちからしたらそんなの知る由も無いだろうね。何せレアリーは術の才能が無いから、使う事をしなかった。僕のためだよ。こういう場合を考慮して『阿吽』以外の術を断固として使わなかった。
僕は須野昌が使える術は、全て使える。だから出来るんだよ、砂塵王壁だって」
「そうか。ならばこれはどうだ。今までしっかりと防いだ者は一人としていなかった」
『呪詛 伽藍経典 些悦・燕帝 篠・絃』
対象は須野昌。
『呪詛 伽藍経典 些悦・燕帝 雲蛛・糧手』
白い気体が充満する。
『呪詛 伽藍経典 些悦・燕帝逆刃・星線』
反射するエネルギー。須野昌を切り裂くようにして飛び跳ねる。このままではマズイと香澄が手を打とうとするがそんな暇を与えるはずがない。まだ終わらない、対策の無い伽藍経典はあるだろう。
『呪詛 伽藍経典 時雨酒』
酒の雨が黄色い花弁に変化する。そしてそれは來花の意思を汲み取り、香澄に向かって突撃を始めた。このままでは須野昌を助けられない。一応身体強化薬が残っているとはいえども計三個しか持って来ていない、そして螺懿蘭縊で一つ使っているので残り二つ。
この薬の大きな弱点、それは効果が短い事にある。覚醒誘発を除く全てが十秒程度しか持たず、些悦・燕帝を耐えきるんは少々難しい。かと言って一撃でもくらったら致命傷に成り得てしまう攻撃。第三者の介入が必須だ。
それなのに時雨酒で動きを封じられたら何も出来なくなってしまう。香澄は考えた、新たな術を生み出すにも時間と経験が足りなさすぎる。だが銀狐二匹ではどうにもならない。ただ香澄にはこれぐらいしか出来る事が無いのだ。
「終わりだな」
些悦・燕帝の威力ならば透明壁も一撃で破壊し、そのまま貫通するはずだ。恐らく香澄は須野昌の霊力を借りて実体を作り出しているので須野昌が死んだらこのまま終わるはずだ。
「まだだ」
須野昌が霊力増強薬を飲み込んだ。次の瞬間起こったのは香澄への霊力譲渡量の変更。増やした。それが何を意味するか、捧げ物に使える。常に持ち歩いている短いハサミを香澄に投げ渡し、やらせる。
受け取った香澄はすぐさま伸びた髪を切り落とした。そして霊力と髪束を使用して唱える。かつて自身の肉体を捧げ行った究極の術。
『妖術・混』
二度目の融合。変わらず狐へと進化した。
だが霊力が違う、本来の主である香澄が使役しているからかどことなく楽しそうだ。
「ようやくか、香澄!」
「ちょっとは態度改めたね、行くよ!」
『妖術・上反射』
上反射を展開させながら時雨酒を跳ね除ける。來花も上反射があると話は別で、花弁を引かせるほか無かった。すると香澄はフリー、しかも上反射と融合状態の狐がいる。
そして須野昌は最後の身体強化薬を使って耐久している状態。今から就瀧・双宮を使用した所で間に合わない。ならば他の呪を使って叩いた方が得だ。
『呪術・羅針盤』
二人をまとめて切り裂くつもりだ。それだけではない、動きも封じる。
『呪・瀬餡』
『呪・重力』
瀬餡の対象は香澄だ。このまま押し切る。
『呪・自身像』
『呪・剣進』
三本の剣と共に自身像が突撃する。
「そういうのはさ、通用しないんだよね」
『妖術・絆薔』
香澄が作ったもう一つの妖術。狐から茨を発生させ、巻き取る。來花はこの術を知らなかった。無理もない、素戔嗚が既に香澄は死んだから良いだろうと判断し報告しなかったからだ。
全く知らない術を向けられた時來花が取る判断、それは撤退だ。すぐに自身像を引かせ、距離を取った。伸びる茨を警戒しながらも妨害だけは行おうとする。
「遅いね。やれ」
狐は上反射を利用して突撃、些悦・燕帝を破壊した。そして上反射の効果でエネルギー直撃一発分の痛みが來花に与えられる。痛みに慣れてると言ってもほとんど不意打ち、しかも一番嫌な喉元にダメージは集中していた。
そのせいか能力が一瞬全て解け、無くなった。
「よし、勝ったな」
ほとんど無傷で出て来た須野昌を見て來花は決断した。ここで使いべきではない術である事は重々承知している。だが使わなければ流との戦闘が満足には出来ないだろう。
なので撃つ。最後の伽藍経典を。
『呪詛 伽藍経典 叉威片屯』
これだけを使わなかった理由は一つ、被害が大きすぎるからだ。
「さぁこれで、終わりにしようか」
次の瞬間、周囲一体は全てを溶かす爆発に巻き込まれた。
第四百五十八話「終天」




