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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百五十四話

御伽学園戦闘病

第四百五十四話「発現」


仕切り直し、先に動いたのは康太だ。今までの速度が馬鹿馬鹿しくなるレベルで体が軽い。譽もその変化には気付き、瞬時に後退した。だが微かな指を動きさえも見逃さず、もっともっと距離を詰めた。

譽は視界の中に入れていないと不意を突かれると確信していたのでそこまで離れようとはしなかった。だが当然裏目に出るに決まっている。

目前、その拳も素晴らしい程速い。


「クッソ面白いな、戦闘って」


譽の顔面に一撃を入れた。衝撃に備えていなかった譽は一瞬だけ気を失い、吹っ飛ばされていた。すぐに目を覚まし能力を使って力と体力を三倍、近くの木の枝を使って動きを止めた。

だが気を失っていたのもあり位置を見失った。霊力感知でも分からない、隠れてしまった。だがやり方なんてある、譽は能力を同時に何回も使えるのだ。元々一気に能力を使用する事で発生させている疑似的な空気爆発の回数を増やすのだってそう難しい話ではない。

そうとなればやる事は一つ。


「こっちも本気だからね」


譽の視界内全域。近くに仲間がいるかもしれないがそんなの知ったこっちゃない。今は康太を潰したい。

たった一回の指パッチンでとんでもない音と同時に木々が破裂していった。一秒も無くまっさらになってしまった。だがそこに康太の姿や霊力残滓は見えない。

おかしいと感じ周囲を見渡してみる。最悪の場合目を増やしてでも位置を特定してやると意気込んだその瞬間、背後から強い衝撃を受ける。

振り返るとそこにいたのは康太の霊だった。すぐさま指を鳴らして攻撃しようとしたのだが、姿が消えた。本当に一瞬にして姿が消えたのだ。

だが目線は引っ張られる。それも今までにない速度で。


「これっ…首が!」


どうやら相棒はグルグル回転しているようで、譽の回転が追いつかないので首がもげそうだ。急いで硬度を三倍にしたから何とかなっているものの、限界も時間の問題。だからと言って回転している中康太を見つけて倒すのも難しい。そもそも隠れている可能性だってある。

正直無差別に攻撃して相棒を一時的にでも活動停止状態に追い込む、これ以外手段が無いようにも感じる。だがそれはギャンブルに近しく、外れた場合死が待ち構える。出来る訳が無い。

だからと言ってどうしようか、必死に頭を回し康太本体に攻撃出来る手段を見つけようとする。

そんな時だった、本当に少し目が慣れた。そこで違和感を覚える。二人いるように思えるのだ。白いのと明らかに服を着ている青髪の人間。絶対に康太だ。

何故わざわざ出て来ているのかは分からないが好機である事に変わりはない。悟られないように小さく、小さく指を鳴らした。譽の能力は指パッチンの仕方でも出力が変化する。相手にバレないように使う程効力は弱まる、当然逆も然り見せつけるようにして鳴らすほど効力は高まる。


「こっちだって、攻撃ぐらい出来る」


周囲に軽い衝撃。聴力を三倍にした雑音も大きく鮮明に聞こえて来るのであまりやりたくないのだが確認は必要なのだ。

そして正解だったと分かる。康太の声が小さく聞こえた。


「だったら…」


大きく見せつけながら指を鳴らした。効果は重力、三倍だ。一気に動きが遅くなり隙が生まれた。その瞬間再度指を鳴らし地面の土を思い切り爆発させた。それによって相棒と譽は目を合わせられず、能力がほんの一瞬解除された。

普通の人間ならここで逃げるか目隠しなどをして対策を施すだろう。だが譽は違う、そんなの普通過ぎて面白くない。折角相手は楽しんでいるのだ、ならば両者楽しまなければ損と言う物。


「はぁ!?」


土を突き破って特攻してきた譽に驚いた康太は一瞬動きを止めてしまった。譽との戦闘でそんな隙を見せるなんて命取りだ。すぐさま指を鳴らされ空気爆発が発生した。

吹き飛ばされる、譽はそう思っていた。だが康太は異常な動きをして回避した。その動きとは引き寄せられるかのようだった。よく見てみるとその先には相棒がいる。

大体理解した。


「『覚醒能力』じゃなくて能力の強化ね。引き寄せ」


「当てられるの早すぎだろ」


「まぁ私強いから。それで引き寄せる事によってとんでもない速度の回転を生み出してたのね、そもそものあんたが速いから出来た技って事」


「大正解だ。でもまだまだ戦える、これまでの俺ならこの一発芸が見破られた時点で負けは確信してただろうけど…何だか気分が高まるな、覚醒って」


「知らない、私戦闘病も覚醒も持ってないから」


そんな事を言いながらも確実に距離を詰め、引力で逃げられても問題が無いレベルの近距離で空気爆発を起こそうとする。だが指を見せた時点で逃げられている。

先に片方を潰さなくてはいけないのだが、その片方を潰すには片方を潰さなくてはいけない。正に箱の中に鍵、不可能と言っても過言では無い。

だがそれはあくまでも一人ずつ潰す場合。一気に両方殺せるのなら何も問題は無いだろう。だが相手は引力で素早い回避を可能としている。なので時間差がある範囲攻撃は通用しないと見て良い。ならばどうするか、広範囲無差別、そして時間差は無し。

普通の能力者ならば術を使わなければ絶対に無理なのだが譽ならばその身一つで可能。


「私の本気はそう長くないんだよね、やれる事が滅茶苦茶に多いから」


目線が固定され再度グルグル回転が始まりそうになったタイミング、ここで放つ。

大きく腕を掲げ、どうやっても視界に入るようにして、鳴らす。その効果とは、単純なる空気の増加。だが先程までの攻撃と比べると全く違う、何故かと言うと数が桁違いなのだ。

精々二十回程を同じ場所、かつ同時に発動させていたのだが今回は全体。霊力消費だけで見ても指数200は難くない。そしてその全てを同時に発動すると言うのだから異常なのだ。


「何が…」


明らかに違うやり方に康太も危機感を覚え、引力を使いながら撤退しようとしたのだが間に合わない。間に合うはずがない。広範囲、次元が違うのだ。大抵の広範囲は精々半径250mもあれば充分。だが譽は逃がしたくなかったし、何より久々に骨がある奴だったので気分が高まっていた。

結果として決めた半径は1km、直径にして2km。当然範囲内には他の戦闘をしている者や戦闘が終わり一時の休息を取っている者だっていた。思わないだろう、自分の所にまで攻撃が届くなんて。


「私が抜けた理由、優しいからだよ」


意味が分からない。


「私が強すぎてあんたらが蹂躙される。それが流石に可哀想だと思ったから抜けた。でも今なら違う、本気でやって相応。だから、やる」


次の瞬間範囲内全体に隕石でも降ったのかと思う程の衝撃が走った。丁度効果範囲にいた光輝と拳は影の子世界に入る事で難を逃れたが、居合わせた原とアリスは逃げ切れず鈍痛をもらう。それだけではない、ギリギリ効果範囲だった菊の遺体も攻撃を受けてしまい跡形もなくなった。


「楽しかったよ、ちゃんと憶えておくから、康太」


まっさらになった空間でうつ伏せになって倒れる康太の息が止まっている事を確認し、佐須魔の元にでも行こうとした。だが足を掴まれる。

絶対に死んでいたはずだ。それなのに。


「どういう…」


言葉を失う。動いていない。ただ掴んでいたのは康太本人だ。腕もベキベキに折れており動かないはずだ。


「伝達~、やりすぎだって」


智鷹がやって来た。

だが見た事の無い顔をしている譽と、明らかに死んでいるのに足首を掴んでいる康太。状況は把握した。


「降霊っぽくはない、だったらもっと動くか完全停止のはずだ。だが生き返ったとも考えづらい……でもね良く見てみると良いよ譽。君は大戦犯って事だ」


康太を見る。気付き青ざめる。


「圧倒的な衝撃波、それによって消滅する霊力。完全な感知不可空間の完成。感知って言うのは対象だけじゃなく、周囲に僅かなる霊力がなくちゃ一気に難易度が上がる。それに加えて透過、霊力放出無しなんてなったらねぇ…

もう遅いよ、佐須魔の所に行くよ。どうやら既に来ちゃったよ」


「…うん」


手を払いのけ、走り始めた。

康太の死体に残っていたもの、それは右眼に微かに光る紫の火種だった。

佐須魔達はとある仮説を立てていた。それは菫眼の発生条件だ。この百年、菫眼は極稀に発生していた。それ以前は一度も発生していない、そもそもアイトが始まりだった。

加えておかしい事がある。ラック・ツルユが死亡してから一人も生まれていなかった。発現者はいずれもラック・ツルユまたはアイト・テレスタシアと接触がある。そこから見て分かる事、もう分かるはずだ。

それが無意識か意図的かはどうでも良い。重要なのは菫眼はラック・ツルユによって起こされている、この仮説だ。

そして康太の発現、この仮説が正しいとするのなら、


『TISメンバー全員に告ぐ。智鷹からの伝言だ。康太が菫眼を発現した。本番だ。来るぞ、化物(ラック)が』


《チーム〈旧生徒会〉[麻布 康太] 死亡 > 紗凪架 譽》



第四百五十四話「発現」

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