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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第三章「工場地帯」
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第四十五話

御伽学園戦闘病

第四十五話「2/3」


「行くぞリアトリス」


紫苑のパートナー[リアトリス]は素戔嗚に攻撃するために動き出した、紫苑も動きを合わせ素戔嗚に向かって走り出す。素戔嗚は普段同時には戦闘をしていなかった紫苑がリアトリスと一緒に突撃してくるのを見て判断に迷う。

とりあえず下がって様子を見ようと足を引いた瞬間、平衡感覚(へいこうかんかく)がおかしくなる。まるで目眩(めまい)が起こっているようにフラフラと立っているのが精一杯で動く事が出来ない。

そんな状態の素戔嗚まで近付き「おせぇよ」と言いつつ片足を九十度上げ、素戔嗚の顎を蹴り上げた。素戔嗚は蹴られた直後に狐の面を被り呼び出す。


『降霊術・面・狐』


素戔嗚の肩には何時ぞやの(シャク)戦の時に呼び出した小さな狐霊が姿を現した。狐霊は反射してくるバリアなどを出せる事を紫苑は知っているが攻撃を止めない。

当然『妖術・反射』を使って前方からの攻撃を反射するバリアのような物を展開した。だが紫苑はそのバリアを破る勢いで突撃してくる。流石の紫苑でも異常な行動だと思い、刀に手をかける。その感覚は正しかった、素戔嗚の裏を取ったリアトリスが攻撃を仕掛けてきたのだ。

それに気付いた素戔嗚はあり得ないスピードで振り向き刀を抜いた。リアトリスも人間離れした反射神経で攻撃を避け、後ろに引く。素戔嗚は紫苑の事を完全に失念している。だがそれが大きなミスとなるのだ。「ナイス」と言う声と共に後頭部に衝撃を受けた。その衝撃の正体は言わずもがな紫苑の攻撃だ。


「何故抜けてきている!?」


「いやーあんとき言わなくて正解だったなー」


「どう言う事だ…」


「丁度流が来る頃に少し稽古をつけてもらっただろ?その時にお前の狐霊の反射で気づいたことがあったんだよ、攻撃しなければ普通に通り抜けられる。俺が突破出来たのはただ攻撃しなかっただけ、それだけだ」


「そうか、だがいくらでもお前に勝つ手段ぐらいある」


そう言いながら狐霊を自分の体に戻し、ただ様子を伺い指示を待っている干支神犬神に指示を出す。


「犬神!こいつを殺せ!」


そう指示したはずだが犬神は動かなかった。指示を繰り返す素戔嗚はあることに気付く、犬神はただ待っているだけではないのだ。立っていない、それを見た瞬間にリアトリスの能力『触れた者の平衡感覚を崩す』という能力をくらっている事、それと同時に霊には頼らず自分だけでリアトリスと紫苑を相手にしなくていけないと言う二つの事を理解した。


「相手にするとめんどくせぇだろ?俺の霊」


「本当にな、お前みたいだよ」


「いやー心外だな。お前の方が面倒だよ。礁蔽と兵助はがっかりするだろうなぁ、流も落ち込むだろうなぁ、まぁあいつらよりニアをあんなんにしてくれたしな?それが一番許せねえんだよ、俺は」


怒りに煽り、二つを混ぜ合わせた言葉にどう反応していいのか分からない。だがもう深く関わる事は無いだろうと割り切って刀を構えた。すると紫苑は間髪入れずに攻撃を仕掛ける、リアトリスは紫苑の一瞬後に攻撃する事によって確実に片方の攻撃は当たるようにしている。

素戔嗚は両方を対応するのは無理だろうと考え本体の紫苑を優先することにした。だが紫苑を優先しているとリアトリスの攻撃を頻繁にくらう、その時に気付いた事がある、リアトリスの攻撃力が妙に高いのだ。

何度か戦った事があるので分かる。今日は少し攻撃力が高い。霊と言うのはその日のコンディションで霊力消費や攻撃力は変化しないのだ。何らかの原因があるはずだ。


「気付いたか!?今の俺はリアトリスを完全に支配している。そしてリアトリスに俺の力の半分を与えた!一撃のダメージは下がるが二対一の状況を作り出せてる以上こっちの方が強い!」


「ほんっとうにめんどくさいな…」


そう言いながら刀を振り上げつつ距離を詰める、流石の紫苑でも刀相手には生身で戦うのは少し厳しい。後ろに引いて交わそうとした時、何かのいたずらかあるいは運命なのか、ある記憶がフラッシュバックする。



それはまだラックがチームに加入してすぐの頃


紫苑とラックは校庭で手合わせをしていた。ただ身体強化をしているラックに勝てるわけも無いので紫苑は一方的に殴られ蹴られ血まみれになっていた。なんとか力を振り絞って生まれたての子鹿のようになりながらも立っている。ラックはそれを見て休憩を持ちかけ、応急処置をしながら紫苑に質問を投げかける。


「なぁ紫苑、お前はなんで一々後ろに引くんだ」


「そんなん避けるために決まってんだろ」


「何故後ろに引く、持ち霊を使えばいいじゃないか」


「あ?お前聞いてねぇのか?」


「何をだ」


「俺体質で霊力が少ないんだよ、バックラーにしてはな。最近はちょっとだけ増えて来たけどよ。だけどその代償か限界突破して霊力を消費できる。限界突破した分は寝込んで回復出来る。そんな体質だから基本リアトリスは使わねぇんだ」


「そうなのか。バックラーとして欠陥だな。それで霊を使わない理由は分かった…がなんで引くんだ」


「俺自身は対して強くない、俺は誰かが駆けつけてくれるまでの囮だ。だから時間を稼ぐために避けてる、それだけだよ」


「じゃあお前は命に変えてでも守らなくてはいけない大切な物を破壊されてもただ囮として避け続け、仇を誰かに譲るのか?」


「んー…俺今までの人生でそんな大切なものが出来た事ないからわかんねぇな」


「そうか…じゃあ一つ覚えておけ。自分の大切なものを壊された時は引かずに全力でそいつを潰せ、お前にはそれを成す力がある。俺が今まで生きた中で一番後悔している事だ、お前は注意しろよ」


ため息混じりのアドバイスをして基地へと帰って行く。紫苑はイマイチ理解出来ず頭に?を浮かべながらグラウンドに座り込んでいた。

だがここに来て活きた。そのアドバイスが。



――あぁお前の言った通りだったな、俺は今お前のアドバイスを理解したよ。あんがとなラック――


紫苑は後ろに引こうとしていた足を前に突き出し、向かってくる素戔嗚に対抗するように走り出した。素戔嗚は攻撃法を変えようか一瞬悩んだが結局変えず、そのまま斬ると判断を下した。

だが素戔嗚は自分に対して突撃してくる紫苑が予想より何段も速く近づいてきている事に勘で気付いた。ただ気付いた時にはもう遅かったようだ。普段の三倍はあるスピードで近付き、リアトリスに分配していた力を全て自分に戻して、今出せるフルパワーで思い切り肺を殴った。

素戔嗚はその体格からは信じられない程吹っ飛び仰向けになって倒れた。うまく呼吸ができずただ空を仰ぐことしか出来ない。紫苑はお構いなしに素戔嗚の顔面に(かかと)落としを決めた、鼻から血を流しどうにかして呼吸を整えようとしている素戔嗚を見下ろしながら慈悲を与えようと問う。


「これが最後だ。今ならまだ許してくれる、もうやめようぜ素戔嗚」


素戔嗚はゆっくりと呼吸を整え(しゃが)れ声で答えた。


「俺はまだ本気を出してねぇぞ!」


その言葉を聞いた紫苑は少し哀しそうな表情を浮かべ直ぐに殺意に満ち満ちた表情に豹変し、今までになかったオーラを発し始めた。



こりゃあ凄い、私の力を借りなくても覚醒しちゃった。まぁまだ不十分だけどね、でも素質はある。これからの活躍が楽しみだね。



明らかにオーラが違うのは何をせずとも分かる。距離を取ってから刀を構え、唱える。


『降霊・刀・スサノオ』


すると素戔嗚の刀に大量の霊力が(こも)る、霊力が増えた事を確認すると共に紫苑の動きを伺い始めた。紫苑は深呼吸をしてから素戔嗚に向かって突き進む、素戔嗚も反撃(カウンター)を出来るように目を逸らさず集中する。

だがその過度な一点への集中は周囲の警戒を(おこた)る事と同義、後ろからリアトリスが触れていた事に気付かず一瞬にして平衡感覚を失い(ひざまず)いた。紫苑は跪いている素戔嗚の至る所を蹴りまくった、平衡感覚が多少治るとすぐに立ち上がる。

だがその瞬間に再びリアトリスに触れられて、平衡感覚がおかしくなる。という行為を繰り返す。それは正に底無し沼のような、拷問のような状態が続いた。だが紫苑は血を流しへたり込んでどうにか息をしている素戔嗚を相手に完全に油断していた。

素戔嗚は急に顔を上げ確実に当たるように狙いを定め雄叫びを上げながら心臓部に刀を突き刺した、驚きただ血を口からトクトクと垂らす。そしてゆっくりと胸部へと目を落とす。刀が刺さっているのを見た紫苑は至って冷静だった。ただ淡々と力を全てパートナーに託した。


「やれリアトリス」


一秒もいらなかった。リアトリスは後頭部にフルパワーの回し蹴りをくらわせた。素戔嗚は激しい振動を感じて脳震盪(のうしんとう)を起こし、気絶した。紫苑はリアトリスに与えた力を自分に戻してからゆっくりと刀を抜いた。もう痛くもない、死ぬのだろうか。

そう思った刹那、視界が少し霞む。そして前方に自分より背丈の低い青髪の少年が姿を現す。佐須魔だとは分かっていたがもう何もする気力が起きない、もういいや、そうやって諦め目を閉じたが何が起こるわけでもなかった。むしろ胸部の違和感がなくなっていく。怖いもの見たさで恐る恐る目を開くと佐須魔が紫苑の傷を治していた。


「なんの真似だ…」


「お前は不完全だが覚醒を起こした。俺は初めて見たんだ、ただ怒りだけで覚醒する奴を。今まで怒りを含めた覚醒は見て来た。だが怒りだけは見た事が無かった。そんな逸材をこんな所で殺す訳にはいかないんだ」


「そりゃありがたいが…なんか契約とか結ばされたりしないだろうな」


「そんなのしなくても俺はお前を手に入れる…はい完治」


「こう言う時は敵でも言ったほうがいいよな…サンキュー…でもこれは貸しじゃねぇからな」


「どういたしまして。貸しなんか作らないよ、俺らにはそんな物を必要としない力があるからな」


それだけ言うと佐須魔は気絶してはいるが何段も体格差がある素戔嗚を軽々と担ぎ上げ、ゲートを作り出した。そのまま移動しようとしている佐須魔を紫苑が引き止める。


「おい!ちょっと待ってくれ」


「なんだい?俺は早く見たい勝負があるんだが」


「…素戔嗚はどんな気持ちで俺らと生活していたんだ」


佐須魔は振り返らずに、背中を見せ答える。


「さぁ?…だけど定期通信でTISに戻る時、エスケープチームに伝えて欲しい事があるって言ってた。「お前らと一緒にいた期間はまぁまぁ楽しめた」だってさ」


そう言い残し手を振りながらゲートに入いって何処かに消えてしまった。紫苑はその言葉を受け、何も感じていない筈だったが頬に何かが伝う。触れてみるとそれは正真正銘涙だった。

敵だろうが、ニアを殺そうとしようが、長い事共に過ごしたチームメンバーである素戔嗚との別れを悲しむ自分が心の奥底にはいたのだ。

だが今はその心をギュッと押し込み、ニアが倒れていた地下通路まで向かうのだった。だが瞳に降り注ぐ雨は止まず空十字 紫苑は未だ涙を流していた。



第四十五話「2/3」

2023 10/21 改変

2023 10/21 台詞名前消去

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