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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百四十六話

御伽学園戦闘病

第四百四十六話「能力封じ」


首を切られた佐伯は発動帯まで持って行かれた事を瞬時に理解し後退する。そして一度能力の使用を試みた。すると意外にも使えた、重力操作は可能だ。だが少し違和感がある、効力が普段の四分の一程度にまで落ちてしまった。これでは最大放出でも半田を止められない。むしろ自身への負担を大きくするだけだ。


「どうだよ、これで」


「大分効力が弱くなるな…まぁでもあまり関係無いだろ、最初から通用していなかったしな。今後の戦闘を考慮に入れるとするならば面倒臭い事をされた、そのぐらいの認識だ」


「言っとくが"それ"で終わるつもりは無いぞ」


「どう言う事だ」


「くらえば分かるさ」


半田は距離を詰める。だが佐伯も詰めて来るだろうとは分かっていたのに加え体と頭が慣れて来たのもあって普通に対応出来た。上手く受け流すと半田は驚きながらも追撃をしてくる。

だがそれすらも軽くいなし、避け続ける。光輝の清水とは比べ物にならないほど粗雑なやり方ではあるがやはり才能があるようで避けられる。


「やっぱ俺が来て正解だったか…」


思う所があり、実際接してみるとその違和感が的中したので少し嬉しいのだ。半田はここで佐伯を殺し切るのは不可能だと考えているし、最初からそのつもりは無かった。人を殺すのが無理な訳では無く、佐伯を殺せないと踏んでいる。理由は単純で力が及ばないからである。

佐伯が当初想像していた超重力化での殴り合いではどうしても佐伯に軍配が上がると予測していた。最初で一度でも触れる事が出来れば何とかその後も戦えるのだが、それが出来なかったら戦闘は一分も経たずに終わるはずだった。

一分での殺害、そんなのは有り得ない。そう、半田の勝ち基準は"殺害"ではない。


「…」


その言葉に対して疑念を抱いた佐伯は距離を取りながらほんの少し顔をしかめ考える。半田は絶対に何か企んでいるに違いない、単純に殺しをしてくるような能力でも力でも無いのだ。今まで一度も見せた事の無い技術やら何やらで不意を突いて来るのかもしれない、だがそうだとしたら先程からずっと生身で戦っているのがおかしい気がする。こんなにも前に出て戦わなくてはいけないのなら二人以上で戦うのが賢明と言えるであろう。

そこまでして一人で戦う意味、もしかしたら広範囲の無差別攻撃なのかもしれない。そう考えるとやはり距離は取った方が良い。現在能力があってないようなものなので単純な戦闘力で言えば大した差が無いからだ。


「佐須魔に治してもらえばいいか…」


佐須魔の回復術は沙汰方 小夜子のものなので発動帯ぐらいなら瞬時に治せるだろう。なので全力で逃走しても良いのだが半田がそれを許すか分からない。

少し遠方では天仁 凱やら砕胡やらがガンガンやりあっているので巻き込まれる可能性も少なからず存在している。正直これ以上リスクを取るのは良い選択肢とは言えないだろう。


「ならこうだな」


軽く覚悟を決めた佐伯は向き合い、構える。半田も何をしたいかは理解した上で対抗策が殴り合いで勝つ以外に無い事を悟り構える。身体強化も何も無い一般人並みの二人が向き合い、殴り合う。ここまで発展した戦闘の中でこれが起こるのは非常に珍しい事だ。

傍から見れば低レベルなのだが今ここには言いようのない殺気とぐにゃりと曲がった緊張感が漂っている。ゆっくりと距離を詰める。一挙手一投足を見逃さず、僅かな動きにも反撃の手を入れられるよう心掛け、更に詰める。

少し手を伸ばせばギリギリ触れる距離。これ以上は詰めない、ただどちらかが先にアクションを起こすだけ。


「…」


「…」


十三秒の沈黙の後、痺れを切らして動いたのは佐伯だった。だがそれは半田にとっては好機以外の何者でもない。佐伯が突き出した右拳にカウンターするように左手をぶつけた。丁度衝突し相殺される。それなりに速度は出していたのでそんな芸当が通用すると思っていなかった佐伯は次の手が送れる。一方半田は既に右手で殴り掛かっている。

受け止めたりするのは不可能、なので避けるほかあるまい。すぐにしゃがむようにして避けたのだが、すかさず蹴りを入れられた。最悪な事に顔面に直撃してしまい一瞬目を瞑った事による視覚の不利を貰ってしまう。


「俺の勝ちだ、佐伯」


最後の一撃、この時半田の脳内には走馬灯に非常に似ている過去の追憶が発生していた。



映し出されたのは一年前の夏の暑い日の事だった。なんでも屋として康太と共に雑用(そうじ)をしている時だった。その日は小さな会社の全域と指示されていた。半分近くが終わり軽く休憩を取る事にした二人は外にある自販機で水を買い、ベンチに座ってリラックスしていた。

そんな時敷地外から何の迷いも無く二人を見つめながら寄って来る男が目に入る。四十代程の一般的な顔立ち、白髪が混ざった灰色に近い髪色、そして目立つ白衣。

明らかに常人じゃないと察した二人は立ち上がり、目立たない程度に軽く戦闘体勢に入る。一般人ならば分からないレベルだ。それなのにその男は両手を上げながら不敵な笑みを浮かべた。


「やめてくれ、私は能力者では無いよ」


「分かるのか、俺らが能力者だって事」


康太は声量低めでそう訊ねた。


「霊力放出の感じからして分かる。それに見た事がある気がする……あぁ、そうだ、君はあれだろう?生徒会の麻布 康太と穂鍋 光輝」


大会に出ていたとはいえ顔も知られているようだ。


「何の目的だ」


危険だと判断した康太が霊を出し、見させた。これで男の視線は固定される。


「たまたま見かけたから接触してみたかっただけさ。そこまで溺れたニンゲンモドキがどんな生体をしているのか興味があるんだよ、私はね。

そうだ、名刺を渡しておこうか」


だが二人は距離を取っているので男は二つの名刺を投げた。そして綺麗に足元に落とした。


「俺が触る」


何か能力が宿っているとしても半田が触れておけば大丈夫なので、先に触れるのは当然半田だ。視線は外さずにゆっくりと屈み、手に取った。だが何の異変も無い。

体勢を戻し見てみる。


「[佐武(サタケ) 一将(タカノブ)]か……外科医……なんでそんな奴が能力者に興味を?」


「私は興味本位で医者になった、だが御年四十五歳、飽きて来たのだよ。一般人の造形には。だから患者の幾人かに洗脳をかけて自殺させたり、病状を悪化させたりして実験してみて分かった事がある。無能力者の大半は弱すぎる。

だから更に強い一部の能力者に目をつけたのさ。だが私の実力では解剖まで至らない。故に接触し、知る事で我慢、妥協しようと言う訳だ」


「まぁ接触するぐらいなら…」


「待て半田」


康太が止める。


「お前TISと関係持ってるだろ」


「分かるかい?」


「勘だ。智鷹とか佐須魔とか、屑共と同じ感覚がする。こいつもそう言ってる」


相棒の肩に手を回しながらそう言った。


「ここで引くなら手は出さない。ただ条件がある、俺らがここにいたって事は言うな」


正直口約束なのでやってくれるとは思っていないが次会う時に殺しても良い材料にしておきたいのだ。


「分かった、約束しよう」


「ならさっさと行け、解いてやる」


霊は戻した。すると佐武はすんなりと姿を消した。あっけらかんとしてしまう。思っていた以上に素直で、ただのヤバイ奴だったのかもしれない。


「さっさと終わらせて…」


「すまないすまない、言い忘れていた事があった」


佐武が焦って戻って来た。すぐに康太の相棒で視線を固定する。だが佐武は何も抵抗せずただ口を開く。


「佐須魔から伝言だ。『芽を摘む事はするなよ』だってさ。それじゃあね」


視線を外せないので後ろ歩きで何処かに行ってしまった。三十秒程待ったが戻って来ない。霊力感知で完全にいなくなった事を確認するとすぐに仕事に戻り、急いで香奈美へと報告するのだった。



今そんな事を思い出した。佐須魔からの伝言、芽を摘むな。それがどんな意味を成しているのかなんて分からない、深い意味があるのかもしれないし、抑制のためかもしれない。

だが目の間にいる佐伯(こいつ)は"芽"なのかもしれない。そう思うと一瞬躊躇いそうになるがこれ以上に絶好の機会はない。そもそも最初から、覚悟は決めていたのだ。

すぐさま首を掴み、そのまま"ある物"を口に押し込んだ。


「警告したはずですよ?駄目です、と」


直後、半田は瞬間移動のような速度で移動した。違う、持って行かれた。

戦闘が終わった直後の拳の傍を通るその時、完全に反射で首根っこを掴んだ。一瞬何を手に取ったのか理解出来なかったが直視する事で絶望と共に、知る。


「半田!!」


そこには腹部が見るも無残に乱され、即死しているであろう半田の遺体があった。


「あら、凄い反応速度ですね」


そして傍には悪魔、アリス・ガーゴイル・ロッドが立っており、その手には多量の血が付着していた。


「お前ええ!!!」


殴り掛かろうとしたのだが駆け付けた光輝が止める。


「やめておけ!!今のお前じゃジリ貧だ!!分かってるだろ、俺らじゃこのクソには勝てねぇ!!」


「あら、物分かりが良いのですね」


嬉しそうにニコニコしている。アリスだってこんな所で無駄な体力を使いたくないのだ、佐須魔に指示されていなければ佐伯に手を出されても無視していた。


「では私はこれで。精々、足掻いてください」


悪意のない悪意。アリスは捉えられない速度で消えて行った。


「待てよ!!」


拳が追いかけようとするが止められる。


「拳!!それより半田は…」


光輝は軽くポケットをまさぐり、何とか安心した。


「やり切ったようだ。魂までは死んでない…って信じたいな。とりあえず佐伯は能力を使えなくなった。実質一人減った様なものだ。今残ってるのは無能な佐伯、蒿里、素戔嗚、譽、原、アリス、來花、智鷹、佐須魔、あと災厄だな……どれも強すぎる、一旦待とう、香奈美の指示を」


「クソが…」


どうしても納得出来ない様だが確かにアリスに挑むのは無謀だ。仕方無くここに留まる事とした。


「とりあえず佐伯がやってくれたおかげで面倒な超重力は無くなった。あと前半接触組は…いやもう全員終わったようだ。半田で最後だったのか……ゆっくり休んどけよ、半田。後は俺らが引き継ぐ」


手を合わせ、その後ひとまずはタルベの元へ向かう事になった。

歩き出した時、タイミング良く通知が来た。半田の死亡通知だ。だがおかしい、二件来た。

理解する、今力尽きたようだ。


《チーム〈旧生徒会〉[葉月 半田] 死亡 > アリス・ガーゴイル・ロッド》



第四百四十六話「能力封じ」

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