第四百三十四話
御伽学園戦闘病
第四百三十四話「七匹」
燦然、効果は大体知っているつもりだが未知数と言って差し支えない。芹もいるので一旦距離を取って清水で受け流しつつ相手の手札を見て行くのが良いだろう。
だが思う、こんなテンプレート一直の行動をした所で怜雄達には何の意味も無いのではないかと。こいつらは神殺しのために作られた怪物、ならば大半のテンプレートは対策出来るはずだ。
やはり奇をてらった戦術で突破するしか無さそうだ。それに凍漸と違い二人は冷静に見える。先程と同じようには行かないはずだ。ゆっくり冷静に、だが常軌を逸した作戦を。
「原初の能力者…まぁ能力は既に無いらしいが……使えるんだな、燦然」
「当然さ。これは力の全てを失ってから与えられた物だからね」
「…まだ時間に余裕はあるだろ、少し聞かせてくれよ、お前の元の能力」
「…ほんの少しだよ」
意外にも乗ってくれた。もしかしたら過去の話から情報が得られるかもしれない、しっかりと聞こう。
「僕の力は少し特殊だった。簡単に言うと生を受けたその日から上限が決まっていたのさ。莫大な力をどんな配分で使い、統治していのかを神は見たかったんだろう。だけど僕はそう上手く動かなかった。
最初にしたのが恋だったからね。知っての通り僕には子孫がいる、そう言う事さ。結局力は家族や少し先の世代の子達を守るために使用した。そして力が尽きた僕は無能力者と成ったのさ。
これだけだよ、僕の能力なんて」
「…そうかよ」
怜雄は別に性格が悪い訳では無い、ここで変なブラフをかけるような男ではないはずだ。これ以上聞いても有益な情報は出て来なさそうなので再度戦闘に戻る事とした。
「助かった。それじゃあ行くぜ」
全力の身体強化、降霊、他の術もすぐに使用出来るように準備しておきながらジリジリと距離を詰める。芹は浮いているが怜雄はしっかりと地面に足を着けて待ち構える。まるで対等な場で戦いたいとでも言いたげな顔で。
だが光輝は警戒が解けない。虫はともかく芹が怖すぎる。変形する武器を所持していて空も飛べる、おまけに身体能力も高い。盾などにも出来るので防がれてからご自慢の身体能力で大剣でも振り回されたらたまったもんじゃない。
それだけではなく当然怜雄、そしていつ気が付くか分からない凍漸にも少しの警戒を回さなくてはいけない。それに清水のタイミングや秘策の打ち所などとにかく考える事が多すぎる。
思考回路がショートしそうだ。
「敵だから考え物だが、少し思考を回し過ぎだ。分かっているだろう、僕らには勝てないと。深く考えず投了するのが最善策……何だけど君の眼を見ればそんな事はしないだろうって理解出来る。だから早く終わらせよう、その方が君も僕らも嬉しいはずだ」
「そんな訳無いだろ…こちとらどれだけの大役掴まされた事か…」
「そうか、それは少し同情するよ。だけど君は無茶をしている。念能力や体術は問題ないが降霊とそれによる自身への妖術が物凄い負担をかけているように見える。
その滝のように流れている汗がその証拠だろう」
確かにその通り、大分無理をしている。だがそうでもしないと凍漸には勝てなかったし、この二人にも勝てない。格上相手への挑戦、それがどれ程無謀な事なのか身に染みているのだろう。だから忠告し情けをかけている。
だが光輝にとってそれは侮辱に等しく、怒りを増長させるのみ、逆撫でしている事には気付くがそれが最善策だと信じてやまない。そんなほんのばかり自己中心的な優しさを持ち、天仁 凱に付き従って戦う、それが蟲毒王なのだ。
「それでも止まらないと言うのなら、僕は容赦しないよ」
「好きに知ろよ」
怜雄が剣を掲げたタイミングで光輝は走り出した。全速力、だが怜雄は集中すらせずとも捉えられる。勿論芹もだ。
「その速さじゃ僕らを…」
だが目的が違うことに気付く。走っている最中光輝はずっと怜雄達の方に向けてフラッグの反射を使用していた。それは牽制でもあるのだろうが何より別の目的があるに違いない。わざわざ距離を取りながら体力を消耗する必要は無いからだ。
そしてそれが何を目指しているのか、恐らくはどうすれば芹を怜雄を分断させる事が出来るか考えているのだ。光輝は凍漸との戦いで一対一でもギリギリであった事、地上で戦っていたら既に死んでいた事などを参考にして本気でやるなら一対一でやると決めたのだ。
ただ二人にその策を取るのは少々マズイ。何故なら凍漸と違い冷静さを持ち合わせ、尚且つ強力だからだ。人型の三匹の中で一番弱いのは凍漸なのだ。
だからこそ二人は凍漸を使って大体の実力を図った。別に助けても良かったが凍漸は結構な頻度で無自覚な邪魔をしてくるので真剣勝負とあれば早めに気絶してほしいと思う所もあったのだ。
光輝はそんな事を知らない。呑気にも何処かで絶対に来ないであろうタイミングを待ちわびている。
「そう言うのは通用しないよ」
次の瞬間光が満ちる。芹は瞬時に高度を上げ、剣を盾にして防ぐ。天仁 凱と虫四匹も後退して範囲外に出た。燦然の効果、出来ると思っていなかったしそんな事に意識を向けてなどいられなかった。無詠唱。
元々ラックや紫苑などは『brilliant』または『燦然』などと言っていた。なので詠唱が必須だとばかり考えてしまった。だが全ての力を引き出せる怜雄ならば無詠唱で撃てても何らおかしくないはずだ。何故こんな事にも気付けなかったのか、自分自身を殴りたくなって来る。
「ヤバイ…!」
瞬時に影の子世界にダイブして事なきを得たが少しくらってしまった。左腕に少し、本当に入る一瞬の間だったはずなのに何十時間もずっと叩かれた続けたかのような痛みが走る。
このウザったい痛みを消す為に左手を切り落としてしまいたいと感じるレベルだ。すぐに冷静になってそんな事はやめたが何とかしてこの痛みは消さなくてはいけない。
そこでヒッソリと能力を解放する事にした。ゆっくり息を吸いながら右の手の平で痛む場所に触れた。更に息を吸う、次第に痛みが和らいできた。これは一時的なものではなく実際に治っているので今後くらわなければひとまずは安全だ。
「無詠唱があるのか…注意は必要だな。あとこれでバレなきゃ良いけど…」
そう呟きながら飛び出した。その際に上反射を展開しておく。凍漸の時のように割られる可能性もあるので反撃の姿勢は見せたままだが。
二人は全く攻撃してこない。それどころか警戒心が高まったように感じる。それは無詠唱に対して一瞬で影の子世界に逃げ込んだ反応速度か、痛んでいる様子が無いためか。光輝にとってはどちらとも取れるので何とも言えない。
ひとまず距離を取る時間は出来たので次無詠唱をされてもすぐに逃げられるポジションを取る。やはり影の子世界が一番安全である事に変わりはないが飛び出すのが怖すぎるのだ。
「どうした、急に止まって」
返答はない。ただそこで違和感を覚える。何だかおかしい、先程までは光輝の方を見ていたはずなのだが二人共明後日の方向を向いている。何か変な事でも起きているのだろうか、そう思い軽く霊力感知をしてみた。様々な場所で戦闘こそ起こっているが何も変な所は無い。
だが数秒後の事だった、本島どころか待機島にまでしっかりと伝わる程の異様な霊力反応が多数接近している。怜雄と芹は怪訝な表情を浮かべながらその場を離れた。
光輝も明らかにヤバイと感じたが遅い。霊力感度は十三割、オーバーだ。到底人が生きられる状況ではない。そんな所に降って来た怪物達。
「「「主の復活だ!!」」」
八つの頭を持つ竜、八岐大蛇。
「何処ですか主!」
「おいどこ行ってんだ!!」
牛の頭に人間の体を持つ牛頭、馬の頭に同じく人の体を持つ馬頭。
「主~、もうちょっと後で出て来てくれたら嬉しいですぜ~」
人々の煩悩を表す鬼こと天邪鬼。
「旦那ー!旦那ー!」
牛の顔、蜘蛛の巨体、口からは明らかにヤバそうな毒っぽい息を吐きながら主を呼ぶ化物牛鬼。
「あぁ?なんだこのニンゲンはよぉ」
猿の顔、狸の胴体、四肢は虎、尾は蛇。獰猛そのものともいえる性格でこの霊兵の中でも気に入られている者、鵺。
「やめておけ馬鹿者が」
上空、他の者を先導して来たのであろう三本の足を持つ鴉が制止した。するとそのタイミングで天仁 凱の怒号が響く。
「何を死に来た馬鹿野郎共!!」
するとこの計画のリーダーこと八岐大蛇の一顔が説明する。
「主の復活を願って我々がかけつけました。死して尚戦う御姿に前大会でかつての仲間も心を打たれたのですよ」
「そうか、悪い気はしないな。だが今は怜雄と芹が戦っていたはずだ。それなのに盤面をグチャグチャにしおって、霊力放出ももう少し抑えろと言ったはずだろう」
一瞬にして霊力濃度が通常状態へと戻った。
「どうする穂鍋 光輝、わしを倒すにはこいつらもやらなくてはいけないと言う事だが……それにまだ怜雄と芹は残っているだろう?」
「やらないって言う手があんのかよ…」
「分かった。だがわしも鬼ではない、お前らはまず見ていろ。怜雄と芹が万が一にでも負けた場合はお前らが戦え、まぁ大丈夫だろう。他の強者との戦いに備えておけと言うのが本音だ」
「「「分かりました」」」
八岐大蛇に続いて全ての霊が天仁 凱の中へと入って行った。これで更に難易度は上がった。もう滅茶苦茶、今からもう一度怜雄と芹との戦闘をすると考えると心がすり減って行くようだ。
だがそれでも気合を入れ直し前を向く。二人はいつの間にか戻って来ていた。
「勝つ方法は見つけた。行くぞ、蟲毒王」
「邪魔が入ったね、僕も少しやる気が削がれてしまった、芹も同様にね。だから本気で行かせてもらおう、その秘密、見抜かせてもらうよ」
『燦然』
詠唱アリ、本気の燦然、光輝は逃げない。ただこう唱えた。
『妖術・反射』
光輝が閃いた攻略法、それ即ち"反射"である。
だがそれは妖術・反射を差しているのではない。今回だけは教訓から目を背ける、解放するなら二個以上という教訓を。
真田 胡桃の能力『エネルギー反射空間』のみ、使用解放。
第四百三十四話「七匹」




