第四百二十九話
御伽学園戦闘病
第四百二十九話「皆の力で」
影の世界に引きずり込んだ。ここまでは順調と言えるだろう。大抵の攻撃は清水で何とかなると分かったのでここからは反撃に出る。この能力を使った以上他の能力も持っている事は大体悟られれているはずだ。
なので適切なタイミングが来たと感じたら躊躇わずにドンドン解放していく事にした。この影の子世界では発動者が非常に有利である、影はずっとそれに気付いていたのだが上手く扱えなかった。本人のフィジカルがあまり強くなかったからだ。
ただ譲渡する時に教えてくれた。光輝ならば上手く扱えるだろうと信じて。
「わざわざ最初にこれを使った理由、これのためだ」
光輝は影に沈んだ。直後地面が崩れる。違う、崩れているのではなく液状化しているのだ。神はそれに気付き跳びあがろうとしたが踏み台が無い。そのまま足を掬われ転んでしまった。
まるで底なし沼に落ちているかのようだ。とにかく苦しい、息が出来ないしろくに身動きも取れない。
光輝も数回しか練習していなかったが影が使わなかった理由は良く分かる。これを使うと自分自身も影に揉まれ苦しくなるからだ。耐えるか飛び出すしかないのだが影ではその両方共難しい。
だがその代わりにこの液状化は非常に強力だ。一度でも引きずり込んでしまえば脱出は液状化を解除した瞬間に飛び出すしかない。飛び出せなかったらコンクリートに埋められたかのようにして死ぬ。
神はそれを察知して無理矢理にでも脱出を図る。
『呪・封』
流石にこれは避けられないだろう。『影の子世界』を封じればこの液状化からも逃れられるはずだ。
「無駄だ」
光輝は既に這い上がって脱出している。そして液の中から聞こえて来たその詠唱にそう言葉を返した。
だが清水で避けるのは無理だ。清水で受け流せるのはあくまでも実体のある攻撃だけ、封のように実体の無い攻撃は受け流せないはずだ。
ただ少し考えれば分かる事だ。神を殺すとなって呪の対策をしないはずがない。そして呪には実体の無い物が結構な数存在している。対策、しているのだ。
「そもそも最初から地上戦で大打撃入れようとは考えてなかったからな。ちょっと無茶して"張ってもらってる"んだよ」
張ってもらっている。結界。影の子世界というシウが今まで来た事も無いし感知した事も無い場所に対しての結界。始まる前、菊水葉香奈美の三人が退室した時に『阿吽』で頼んでおいた。それにシウにだけは作戦も全て話している。
納得の末結界をずっと張ってもらっていた。いつ引きずり込むか分からないからだ。そしてその効力。
一つ、影の子世界全体を包み外部へ効果は一切反映されない。
二つ、この結界内で実体の無い攻撃は全て無効化される。
三つ、この結界は破壊不可能だがシウの操作によって効果を一時的に消す事が出来る。
この三つとなっている。一つ目は何らかの場合によって結界が現世にニョコっと顔を出したりした場合に悟られたりしないため。三つ目は選択肢を増やすため。二つ目が本命の効果と言う訳だ。
戦闘が始まる前に桃季に助けがいらないと言っていたのはここに結界を張っている事を悟らせない為である。幸い戦えたのが神だったのでそのブラフは必要無かったが。
「お前はこの空間で封を使っても何の意味も無い。精々苦しみながら死ね」
力で抜け出すしか方法は無いと言う事だ。シウが効果を消す可能性など無いに等しい。そもそもそれ以前に封をくらっていない事も確証が持てていない様な状況なのだ。
言ってしまえば絶体絶命、神が生き残る方法は一つと言っても過言では無い。そして神は本能でその一択を導き出した。
「砕胡ぉ!!」
砕胡の名を叫びながら一気に力を解放する。目にかけている布を外した、本気を出したのだ。そして唱える、こんな状況でも非常に有効な奴らを。
『呪・自身像』
大量の自身像が液状化した影を押しのけ神のためだけの道を作り上げる。あまりにも早い復帰、このままではまた同じ風にやられる。そう感じた光輝はすぐに距離を取って次の手を取ろうとする。
「逃がさない」
まるで悪魔の声のよう、掠れたガビガビの声、そして唱える。
『呪・斬壇堂』
その瞬間光輝は液状化を解き飛び出した。そして着地もせずに直接神の懐まで潜り込み、静かな怒りをぶつける。
「それはお前の使っていい呪じゃねぇよ」
今まで一番の出力、物凄い音と威力。神は吹っ飛んだ。子世界は現世とリンクしているので実質無限に広がっている。なのでひたすらに飛んで行く。そんな隙だらけの状態を逃すはずもなく追跡して次の攻撃を行う。
今度は地面に叩きつけた。変な声を出しながら仰向けになった神をそのまま殴る。ただひたすらに殴りまくる。反撃が来るとしても清水で受け流せば良いのだ。今はチャンスなのだからひたすらに殴る。
「おまえらぁ!!」
すると自身像が突撃してくる。光輝は考えた。そしてここで使う事にした。
『降霊・狐』
これは美玖の半霊だ。光輝は霊をもらってから何度か降霊術を試していたのだが上手くいかなかった。なので降霊で自分自身を霊という判定にするために使わせてもらう事に決めた。
それは佐須魔が神になった際妖術を自分に適用させられるようになったのと同じ原理。なので現在光輝は妖術を自分に使う事が出来る。まずは強化だ。
『妖術・刃牙』
そして近付いて来る七匹の怪物を数匹遠距離から潰す。
『妖術・遠天』
その威力は凄まじく重なっていた二匹を一瞬にして破裂させた。残り五匹。
『妖術・戦嵐傷風』
これで終わりだ。暴れ、のたうち回る怪物を背に光輝は神の方を見た。その時神は恐れた。これは大変珍しい感情であり光輝が神より強い事への証明にもなっている。
だが強者を前にしたからと言って諦める訳でも無い。むしろ心は燃える。呪そのものである神がこんな陳腐な戦法だけで終わるはずがないと知っている。
もっと凄いのが今から来るのだろう。
だがさせない。させるわけが無い。
「させない」
次は蓮の能力、目躁術だ。これは盲目だった蓮だからこそ有用だった術で普通に両目が見える光輝が使っても大した効力は無いように感じる。
だがそれは間違い。そもそも目躁術は目雲の家が代々引き継いできた能力、外部の者に受け継がれたのはこれが初めてなのだ。それ即ち対策の必要が無かった。光輝が目躁術を持ってくるなんて予想だにしていなかったからだ。
なので刺さる。裏の裏。
「なっ!?」
途轍もない違和感。いつもの目線ではないし、何より自分自身を見ている。神はまともに動ける気がしない。だが光輝は違う、練習していた。入れ替わった時にどうすれば上手く動けるのかぐらい薫や元の分身に手伝って貰う事によって既に分かっている。格差だ。努力での格差。
神はここでようやく気付いた。光輝の戦闘に穴が無い事を。隙はあった。だがその隙どれもが誘導や何らかの準備時間、仕方のないものだった。よくよく考えれば油断や力不足による隙は無いように思える。
「まさか…!」
「そうだ。俺はな、最初からお前に負ける前提で作戦立てて無いんだよ」
光輝は最初からこう決めていた。空傘 神と天仁 凱を二人共殺すと。それならば注意すべきは蟲毒王なども加味して絶対に天仁 凱である。ならば神は中ボスと同じ、苦戦するべき場所ではないのだ。
それにどうせこの能力達は天仁 凱に向けて使っても一撃入れる間もなく対策されていただろう。そう考えるとここで使う判断は間違いどころか大正解だったと思える。
何故ならこうして撃てるのだから。少し工夫して、喉元に力を入れて、体内に流れる霊力、その少しを体力にして。それだけではなく、反体力にして。
「黄泉に行ってからすぐロッドの皆が細工してくれた。ありがたいぜ、こうして一撃で終わらせられる」
ただこれだけは安全に最大火力の一撃をぶち込める時に解放すると決めていた。
「一旦下がってな、バケモン」
微かな反体力を纏った拳が神の顔面を砕いた。声も何も出ず、神は吹っ飛んだ。そして倒れ動かなくなる。だがそれだけで終わるはずがない。ここからだろう。
「さぁ来いよ、どうせこれで終わりじゃないだろ」
次の瞬間立ち上がった。
「まんまとやられたな、神。だが一つ言っておくぞ、わしに反体力は通じない」
「知ってる。だから神に使った」
「ほう、とことん面白いな。では行くぞ、次はわしとだ」
第二ラウンド、対天仁 凱の始まりである。
第四百二十九話「皆の力で」




