第四百二十八話
御伽学園戦闘病
第四百二十八話「呪使い」
いきなりの些悦・燕帝。使えるとは予想しておらず対応が一瞬遅れる。だが問題は無い。
『呪詛 伽藍経典 些悦・燕帝 雲蛛・糧手』
周囲の霊力が消える。そして白い気体で満ちる。
「お前も知っているだろ拳、これでようやく準備が終わったの段階なのだと」
「知ってるに決まってんだろ」
拳は瞬時に後退し白い気体が充満している範囲から出ようとする。だがそれをされては撃った意味が無いと知っている砕胡は呪で引き留める。
『呪・瀬餡』
ギリギリ効果範囲内、逃げる事が出来なくなった拳は反撃する他無くなった。だが最初からそのつもりではある、一応逃げられないか試してみただけであって本当に逃げられるなんて微塵も思っていない。仮に逃げられても砕胡なら何回も些悦・燕帝を発動し無理にでも効果範囲内に留まらせるはずだ。
そして逃げようとした一瞬でとある対処法を思いついた。成功するかどうかは完全未知数、だがやってみる価値はある。何故ならそれ以外の策が浮かばないのだから。
「行くぞ」
『呪詛 伽藍経典 些悦・燕帝 逆刃・星線』
物凄く鋭いエネルギーが白い気体に反射しながら拳を狙う。身体強化は使えているので正直何の問題も無い、ただしそれは砕胡の能力が無い場合に限るが。
そして砕胡はその事を予想していたので既に能力を拳の全身に向けて発動している。即ち体中弱点だらけ、そんな状態にも関わらず様々な方向から飛んで来る。
それに気体が拳の方に近付いている気がする。次の術で強制的に霊力を吸わせて必中にする所までは知っているのだがもしかしたら逆刃・星線の時点で白い気体は対象に向けて近付きじわじわと追い詰めていくのかもしれない。
「ならこうだ!!」
拳は動きを止めた。いくら拳の硬度といえども急所と逆刃・星線の合わせ技を防ぐことは不可能、致命傷に成り得るはずだ。それなのに泊って迎撃体勢、まるで次飛んで来る時にぶっ壊してやるとでも言わんばかりの気迫と構え。
砕胡の頭にはとある考えが浮かんだ。そして目的に気付き瞬時に些悦・燕帝を解除する。エネルギーは拳に当たるギリギリの所で消滅し、同時に白い気体も同時に無くなった。
「お前、雲蛛・糧手吸おうとしてただろ」
「当たり前だ。口ん中と体全体、どっち守りたいかって言われたら体全体に決まってんだろ」
「…まぁな」
確かにそうだ。あそこで口の中に吸い込もうとする動作を見せなければあのまま拳はやられていた。結局無傷で解除させられてしまった。ここまで考えていたとは到底思えないのだが拳にとって嬉しい誤算である事は確か、無意識の内に一本取られてしまったようだ。
「些悦・燕帝をほぼ無傷でやり過ごされた…少し本気を出す必要がありそうだな。僕の急所単体では意味が無く、些悦・燕帝は通じない。封、魚針雷、羅針盤は無理か……ならこれだな」
『呪・剣進』
「流石に通じるだろ」
急所は全身のまま、瀬餡は継続中。拳は三本の剣を全て撃ち落とそうとしていたのだがそれは不可能だと気付く。何故なら砕胡本人も近付いて来ているからだ。考えずとも分かる、剣なんかよりも砕胡の方が圧倒的に強い。それに急所を理解しているのも当然砕胡だ。
そうなると拳が予想出来ない攻撃をしてくる可能性だってある。優先は砕胡、余裕があるのならば剣も撃ち落とそう。
「だから駄目なんだよ、拳」
甘いのだ。ここで剣を撃ち落とせるかもしれないなんて安易な考えをする時点で負けるに決まっている。ここでの剣による被弾は割り切って砕胡の攻撃を完全に受け流す事が最適解、そしてそれ以外に道は無い。
自分なら何でも出来る、そう信じ切っているからこその油断、大きな隙だ。意識が少しでも他の物に向いているならば砕胡は幾らでもその隙を突くことが出来る。
「知るかよ、んな事」
次の瞬間結界が作られる。
「重力七倍だ!!」
言葉通り重力が七倍になる。流石に砕胡は突っ伏し、剣も墜落した。だが視線の先にいる拳は歯を食いしばりながら立っている。ここで無駄なエネルギーを使用する意図が分からないが何らかの理由があるはずだ。
この結界の効力が弱まったらすぐに下がって状況把握、拳の動き、自身の状態を確認しよう。そう考えた一瞬後、砕胡の体は吹っ飛んだ。何が起きたのか理解出来ない。
「はぁ!?」
だがすぐに理解する。拳が蹴り飛ばしたのだ。それだけではない、追撃を打ち込もうとしている。流石にマズいので効力を右腕に集中させる。この重力だ、刺激は強いので幾分か時間は稼げる算段だ。
ただそんなの拳には通用しない。急所になっているはずの右手で思い切り腹部を殴って来た。その重さは段違い、血を吐きながら結界にぶつかった。脱出不可能の結界のようだ。
本当に意味が分からない。急激に体に負荷をかける事は拳にとってもデメリットのはず、それなのに自身の退路を塞いでまで攻撃をしたいらしい。論理的ではないし何より普通に馬鹿すぎる。こんなの戦闘馬鹿だった健吾でもやらない。
「どう……言う……」
「重くすればお前の動きは止まるだろ。俺は気合で動けばいい、そんだけだ」
もう何も言うまい。ただ力で捻じ伏せるしか無いようだ。とにかくこの重力七倍結界内に滞在していては何も出来ずに殺されて終わりだ。
立つのは難しい。出来ないわけでは無いのだがエネルギーを使い過ぎる。無駄に消費してしまうと今後の戦闘に影響が出るかもしれないし、そもそも結界が解けた後の争いでも不利になってしまう状況が出てくるはずだ。
今は無様に突っ伏してでも良い、かわすか受け流すか反撃するか。その三択のどれかを常に選ぶのだ。
「行くぞ!!」
気合を入れて突っ込んで来た。
ならばこうするだけだ。この空間はあくまで重力が七倍になっているだけで霊力濃度が変わっている訳でも能力が使えないわけでも無い。ならば呪が使える砕胡はこうしてしまえば何とかなる。
『呪・自身像』
使って来るだろうとは予測していた。何が出て来るかまでは分からないので一旦距離を取って様子を見ようとした。だが驚きが勝ってしまう。何故なら地面を抉りながら出て来た自身像は見た事があったからだ。
デカい赤目の黒いデカブツ、そう神と同じだ。そこで拳の脳内で繋がって行く事があった。気付く。
「まさかお前、神とリンクみたいな感じなのか…?」
反応があった。
「良く分かったな」
「まぁな、そこまでヒント出してくれれば分かるに決まってんだろ。さっき呪が使えないだとか言ってたしな。それあれだろ、今光輝が戦ってる神が使ってるからだろ」
「正解だ……まぁ簡単な話だ……単純な戦力増強…それだけだ」
「そうかよ。なら手加減なんていらねぇよな」
次の瞬間拳の雰囲気がガラッと変わる。肌で感じる、強者の風格。だがそれと同時に砕胡も同じ強者の風格を醸し出している。互いの実力差は未だに分からない。
だがここでの一撃は確実に致命傷になると分かる。砕胡はここで無茶をする事に決めた。想像以上に拳が強かったからだ。ゆっくりと立ち上がり、構える。
「行くぞ」
「来い…」
瞬きをする間も無かった。まるで時間が飛んだように、砕胡の体は結界に叩きつけられる。あまりの衝撃と激痛によって意識を失った。
「…まぁそうだよな、呆気ねぇ」
死んだと思われた砕胡はすぐに立ち上がった。多少の傷はあるが先程の一撃は無効化に近しい程治癒されている。それがどう言った術によるものなのか、観戦している者達はサルサとリヨンを除いて誰一人分からなかった。
だが間近で見て感じた拳には分かる。起き上がる一瞬だけだ。本当に一瞬、間違いかもしれないと感じるほどの数瞬の事。空傘 神の霊力を砕胡が放っている様に感じた。
そして確かに頷いていたはずだ、神とリンクしていると。ここである仮説が立てられる、至極必然的な思考。こんな拳でも思いつくような、単純な思考。
「おいまさか、神も一緒に殺さなきゃいけねぇのかよ…」
砕胡は割れた眼鏡を外し、スペアと取り替えた。その後口を開く。
「大正解だ」
強制される他者との共同作業。
そう、拳が全くと言っていい程練習してこなかった行為。
砕胡は知っていた、"ずっと"見ていたのだから。
第四百二十八話「呪使い」




