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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百二十六話

御伽学園戦闘病

第四百二十六話「冷静な仇」


光輝の戦闘が始まる前、丁度敵と対面した者がいた。


「まぁお前は来るだろうな、考える間でも無い。だが一人で良いのか、拳」


「黙れよクズが!」


「声量はそちらの方がデカいぞ。数年経っても何も変わっていないな、馬鹿のままだ。本当に嫌いなんだよ。成長すると思っていたがそうでは無かったな」


「良いから黙れって…」


「お前は絶対僕に勝てない。それは冷静さを欠いているからでも無く、力で負けているからでもない。僕が強くなり過ぎた、それだけの話だ。

大会が始まってから本気で戦っていない。必要も無かった。恐らくお前とやるならば本気を出さざるを得ない。不服ではあるが強いからな、だが本気を出すだけでお前は絶対に負ける。

断言しよう、諦めるべきだと」


ただのイキりに見えるが確かに雰囲気が違う。明らかな強者感、それだけでは無く眼が違う。何とも言えぬ絶望と希望が入り混じった様な眼をしている。少なくともTISにこんな眼をしている奴はいなかった。

だが拳だって成長している。どれだけ砕胡が強くなっていようが追いつけるよう必死に頑張った。当てようの無い怒りもここにある。それに家族が全員死んでしまった拳を悲しませまいと様々な工夫をしてくれた仲間達の意志も背負っている。

負ける負けないなんて話じゃない、殺す。ただただ殺す。


「英二郎が駕砕 杏を殺した怒りを僕にぶつけるのはお門違いだと。他の連中にはそれをも力に変えろと言われたのかもしれないが、そんな奴と戦うつもりはない。少しでもその意思が見えた時点で僕は佐須魔にゲートを頼む。

……逆に言えば正々堂々真剣に戦うのならば受けて立とう。どちらかが死ぬまでやろうじゃないか」


選択肢が狭められた。既に術中、当人は気付いていないが。


「やるか」


「待てよクズ」


「何だ、小細工ぐらいならして良いぞ」


「ちげぇよ、んな事しねぇ」


拳はポケットからある物を取り出し、砕胡に向けて投げた。投擲物かと思い弾き返そうとしたがそれがチョコである事に気付き一旦待つ。

とりあえずキャッチして見てみる。どうやら霊力補給チョコのようだ。ミスだと分かり投げ返そうとしたが衝撃の発言が送られる。


「正々堂々なら霊力回復しろよ、今まで戦って消費してんだろ。食わないって手は無いぞ、正々堂々って言ったのはお前だろ砕胡」


物凄く困る。これに仕掛けがされていたら相当マズイが発言を撤回するのも無駄に高いプライドが傷付く。仕方無いと割り切ってチョコを口にした。

初めて食べたのだがあまりにも甘い。崎田が作っているので予想はついたがゲロ甘い、口の中が焼けそうだ。


「お前らこんなの食って戦闘してたのかよ…」


「甘いだろ、そんなもんだ」


「まぁ良い。崩壊は…無いな」


霊力オーバーによるヒビ割れは無い。ほぼ万全これ以上チョコを食ったら逆に危ないのでこれで準備は整った事になる。互いが構える。拳は最初からフルパワー、砕胡も全力だ。

両者深呼吸を終えてから目を見て動かない。正直敵の攻撃の威力が高すぎて日和っているのだ、二人共。


「…来いよ砕胡」


「お前から来い、拳」


「…」


「…良し分かった一旦やめよう、仕切り直しだ。確かに忘れていたな、どちらも威力が高すぎて攻めに出れないな。だったらこうしよう」


そう言いながら砕胡が能力を発動した。だがそれは"砕胡の能力"ではなく、"真澄の能力"である。威圧、大変軽いものだ。くらった本人もくらったと理解出来る程効力がレベル。

だがこんな事をしたら冷静だった拳も怒り心頭、動き出すはずだ。そしてその狙いは見事に当たり明らかに怒っている拳が突っ込んで来た。砕胡はとても良いチャンスが初っ端から生まれたと嬉しそうしながら能力を発動する。今度こそはしっかり砕胡の能力である。

急所の生成、当然強くなっている。雑魚には使って来なかった新しい力がある。それを最初から使うのだ、拳に出し惜しみなど出来るはずがない。


「悪いな」


『呪・瀬餡』


そう、呪。


「何!?」


想定なんてしていなかったので避けられず足を取られた。拘束された拳はどうにかして抜け出せないかもがいてみるが何の意味も無い。一方砕胡は視界に入っており動けない、そんな絶好のチャンスを逃さまいと能力を発動した。

急所の作成、効力全開。極限の身体強化で強固になっている拳の体さえ切り裂く事が可能になる極限の弱体化、のはずだった。少し前までは通用した、少し前までは。

今は通用しない。拳は砕胡を殺す為だけに訓練を積んで来たのだ、こんな初歩的な攻撃を対策していないはずがないのだ。だがどうたって対策したのか、答えは簡単気合だ。


「お前…小細工無いんだよな」


「ねぇよ」


「じゃあどうやって」


「気合だ」


「気合?馬鹿か?」



その頃教師陣の待機部屋ではサルサがある疑問を投げかけた。


「どう言う事だ、気合?」


それには元が返答する。


「拳は私の分身と戦闘を交える中である事に気付きました。それに気付くまでは日によってムラが凄く何とか対策したいと本人も言っていましてね。私は理解していましたが本人が気付く方が楽しいでしょうし達成感もあるでしょう?まぁそのせいで期限ギリギリだったんですけどね。

謂わば戦闘病と同じ仕組み、感情の高揚によって生み出されるパワー。拳はそれを感覚で習得し、私が一つ一つ読み解く事で完全に物にしました。

砕胡を殺すためだけ、彼はそう言っていましたがそれは違う。死んでいった友、そして家族のため。優しいですから、自分のために使えないんですよ、大きな力を。だから皆を傷付けたTISにぶつけようとしている」


「そんな奴が勝てるのか?俺と愛猫(リオン)は少なくとも勝てると思えないのだが」


「心配はいりませんよ、サルサさん。何せ彼はラックが認める程の実力者です。信じて見ていましょう。絶対に勝ってくれますよ、勿論拳だけではなく他の皆もですがね」



その信頼は正しい物なのか、確信付けるのは拳本人だ。あまりに強い打撃を放ちながら瀬餡が取れるのを待つ。瀬餡は大体一分で取れるのでそろそろだ。


「おっしゃ来た!」


解除された瞬間に距離を取り、遠距離から衝撃波でちょっかいをかける。


「無駄だ」


『呪・瀬餡』


再度瀬餡をくらわせようとする。だが同じ手には引っかからない。瀬餡は基本必中、少なくとも拳が阻止する術は詠唱中断程度しかない。だがそれは難しい、そうなると少し頭を使って不利な状況ではなく、むしろ有利な状況に持ち込む。

跳んだ。高く高く、何も無い天空へと。


「マズイな」


砕胡は瞬時に狙いに気付く。だが既に唱えてしまっているので遅い。拳は空中で足を拘束される。普通は地面から影が掴んで来るのだが対象が空中、即ち地面からでは届かない場所にいる場合はどうなるのか。

結論としては空中に拘束される。宙に黒い塊が生成されそこに足が吸い込まれる、そしてぶら下がる。現在拳は空中で黒い影を中心としぶら下がっている状況だ。


「これじゃあ生身じゃ攻撃できないか…まぁ良い、こうすれば」


『呪・剣進』


動けない事を利用する。三本の剣が突っ込んだ。だが拳は当たり前のように弾き返す。当然そんな事予測しているし剣進は陽動の道具に過ぎない。


「そうじゃない、こっちさ」


『呪・封』


『呪術・羅針盤』


能力を封じてからの羅針盤。いくら鍛えていても生身で羅針盤を耐える事は出来ないはずだ。それに砕胡の急所だって生成したままなのだ。気付く、異常に。

封を使って身体強化が解けたというにも関わらず急所による傷が一つも無い。それ即ち先程と硬度がほぼ変わっていないと言う事、そして更に硬度が高いと言う事は羅針盤の刃は通らない。


「どう言う事だ…?」


異常、それ以外の言葉で表すのは難し過ぎる。異常、ただただ異常。

どうして防げるのか、通じないのか、理解出来ない。


「成功だぜ、桃季、薫」


その二人の名が出た時点で予想はつく。


「呪術の封か…」


呪術・封、それは対象の能力状態を保存し、そのままにする術。拳は既にその効果を受けており、その後に呪・封を受けた。その実験は学園側のほぼ全員が気になっていた事でもあり、何回か実験をした末に呪術・封が勝つと証明された。

なので使えそうだと考え現在旧生徒会全員に『呪術・封』が適用されている。その代わり桃季の負担は凄いので時子が付きっ切りで回復術をかけている。


「後押しがあるからな、こっちも本気で行けんだよ」


「…そうだったな」


何だか苦しそうな顔をしながらも砕胡は作戦を練り直す。そして新たな作戦の第一撃目を放つ事とした。折角拘束されているのだ、打ってつけの術だろう。

現在その術を素の状態で扱えるのは來花と空傘 神しかいないのだが。


『呪詛 伽藍経典 些悦(さえつ)燕帝(えんてい) 篠・絃(ささのいと)



第四百二十六話「冷静な仇」

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