第四百二十三話
御伽学園戦闘病
第四百二十三話「格差」
オーディンの槍を構え、投げる。それと同時に蒿里も飛び出し少し方向を変える事で二方向からの攻撃を行った。だが灼はそう言う攻撃の対処を知っている。それに現在蒿里は回復手段が無く多少控えめな行動を取るはずだ。なので少し大胆な回避をしても多分追撃は来ない。
前後から来ているので右側にひょいっと避けた。普通ならばそこで追撃を入れるのだがオーディンの槍の回収だけして再度距離を取った。
「未知数だからね、慎重に行かせてもらうよ」
当然だ。こんな所で攻撃を貰う訳にはいかない、せめて殺す時に一撃程度だ。
「俺はガンガン行くけどね~」
今度は灼が突っ込んだ。やはり生身だけ。オーディンの槍を出している蒿里にとってそれはカモにも近しい。まずは投げて牽制しようとしたその時であった。上空から鳥神の鳴き声がする。
どうせ戦っているのだろうが鳥神の声がする時点で朱雀との戦闘、即ち負ける事は無い。それ故視線を逸らす事もせずただ灼本人を見ながら迎撃する。
「そう言うの無駄だよ。私強いから」
まずはオーディンの槍を投げ、その後に唱える。
『呪・斬壇堂』
美琴の呪、蒿里も既に模倣していた。飛び交うギロチンの刃。だが灼はその全てをかわしていく。やはり身体能力の向上は凄まじく、その中でも反射神経は大幅に上昇している様子、そうなると数で押すには手が足りない。別に両盡耿などで出来なくはないのだが切るには少し早い。
まずはそこまで強くない術や戦法で朱雀と成長した灼の全容を露わにするべきである。ただそれには手数または強い力が必要不可欠、オーディンの槍やらは完全に知られているので問題ないが今後の事も考えるとあまり新しい手札は切りたくない。
今までに何度も使っていて探りに丁度良い術。とりあえず撃ってみる事にした。
『漆什弐式-伍条.衝刃』
飛ぶ斬撃。ただ一発撃つだけなら大した威力ではないし、避けられて終わりだ。だが違う。今回は少し特殊な出し方をした。と言うのも衝刃は発動者の方から出て正面に飛んで行く。それは制御が出来ないし発動場所を変えるのも中々時間がかかる。
ならば何を変えたか、霊力使用量だ。蒿里は霊力操作が相当上手い。一個の術に使う霊力量を感覚で把握し、調節できるように訓練した。
今回は少な目、あくまで陽動と言う訳だ。
「流石に分かりやすいなー」
灼は避けた。触れずに、蒿里の方を見て。
「そう来るよね。だってそれが目的だもん」
思考の誘導、裏の裏。灼相手にそれをするのはとても勇気のいる事であるはずだが蒿里は迷わなかった。何故なら自信があるから。沢山の経験と長い戦闘歴、そして何より軽い戦闘病による効果。
まんまと引っかかった灼がどうなるか、答えは一つ、攻撃を受ける。オーディンの槍はまだ手元に無い、となると使えるのは体だけ。それでも身体強化を出来る限りかけているので流とまでは行かずともそれと同等の力はある。
「やっば!」
何とか防御しようとしたが間に合わないし、そもそも意味などない。力強いパンチによって吹き飛ばされた。少しだけ固まっていたがすぐに立ち上がり、鼻血を止めた。
「いた~」
呑気なのは変わらない。だが明らかに警戒しているようだ。灼の背後には既に朱雀が降りてきている。
「行くよ~」
灼が出ると同時に朱雀も前に出る。一方鳥神は未だ上空、というか鳥神は降りてこない。なので蒿里一人で戦う必要がある。だが問題など存在していない。負ける訳が無いのだ。
『呪術・羅針盤』
『呪・重力』
とりあえず強いコンボ。重力動きを遅くして羅針盤で裂く。灼は当然回避をしようとするが重力のせいで出来ない。近付いて来る羅針盤、すると力を振り絞って朱雀が庇った。
通常の霊ならばその時点で倒れているのだが朱雀は違う。仕事としてはタンク、耐える事が役目なのだから防御が強いに決まっている。刃を弾き返してしまった。
「強くなってる…?」
蒿里の予想通り朱雀は堅くなっている。それは単純な強化によるものであり特殊な術を使ったりしている訳でも何でもない。だが羅針盤をほぼ無傷で跳ね返せるのならば相当強い攻撃をしなくては倒せない。
朱雀が本体の近くにいる以上ターゲットを変更し、朱雀を先に殺す必要がありそうだ。手段自体は幾つかある。だが大体が鳥神の機嫌に左右される謂わば運頼み。それはごめんなので唯一自分の力だけで灼諸共倒す方法を選ぶ事にした。
強い手札を見せるのは致し方ない。ここで傷を受けるより幾分もマシと考えよう。
「行くよ」
オーディンの槍を投げ走り込む。今まで以上に爆速、灼も一瞬見失ったほどだ。ただ瞬時の霊力感知によって見つかった。後ろだ。
朱雀が盾となり庇い、オーディンの槍は避けた。ただ避ける動作によって隙が生まれる。朱雀も灼本人もマズイと感じたがどうしようもない。
『人術・螺舌鳥悶』
当然習得している、佐嘉 正義の人術。灼の目の前に頭蓋のみが白骨化している山羊が姿を現した。
『妖術・上反射』
完全に反射でそう唱えた。大正解の行動。蒿里は一瞬で螺舌鳥悶を解いた。この術を跳ね返されたら普通に死んでしまう。少しでも危険だと思うのならすぐに別の行動に出る、そう決めて戦っているのだ。
段々勘が戻って来た。体も慣れて来たし相手の動きもある程度読めるようになって来た。何だかんだ言っても戦闘は楽しい、これが仕組まれた感情なのだとしても本心からそう思える。
「じゃあこれ」
『漆式-壱条.血燦』
対象の全身からまるで溢れ出るかのように血が吹き出す。血が煌びやかに舞う、それ故に血燦という名がついた。当然灼はこの術式を知っている。
くらったら物凄いダメージをくらうのは分かり切っているが回避などどうやっても無理、蒿里がミスをしなかったら不可避なのだ。そして蒿里がミスをする可能性なんてほぼ無いのでこの血燦の対処は諦めて次の行動に繋げるのが先決だと判断した。
「良い判断」
称賛。
当たり前だ。大体の能力者は血燦をくらいたがらずに対策を試みて失敗し、その隙にやられてしまう。だが灼は一瞬で無理だと理解し次の行動を取る、全てに無駄がない。
成長というのもあるのだろうが蒿里には無かった天性の才能が感じ取れる。ただ蒿里はその才能を捻りつぶす事が出来る程の努力、苦痛、力を得た。
だからこそTISに牙を向いても生きて、こんな戦場に立っているのだ。そんな最強に近しい能力者がたった一人の天才如きに負けるはずがない。
「でもね、駄目だよ」
突っ込んできている灼の後ろには帰って来るオーディンの槍があった。そして灼より速く、丁度心臓ぐらいの高さと位置で移動している。
避ける暇なんて与えない。
『漆什弐式-伍条.衝刃』
正面は衝刃。だからと言って横に避けても蒿里が同じように移動すればオーディンの槍は軌道を変える。絶対絶命。朱雀のサポートは一方向、四方向を防ぐ方法は灼を包み込むしかないのだが時間的に間に合わない。出来て二面、だがそうなると横からの攻撃が駄目だ。でも一方向よりは二方向防げた方が絶対に良い、そう考えて少し上を飛んでいた朱雀は羽で防ぐようにした。前と後ろ、出来れば全身を使って包み込みたかった。
「ありがと」
狙っていたのはこの行動。灼を守るこの行動なのだ。大きな隙が生まれる。何故なら攻撃を全て受け止め、動こうとしないからだ。最低二秒程、チャンスと捉えれば充分過ぎる時間だ。
呼び出せる、隙がある。
『降霊術・唱・黒龍』
怒号のような鳴き声と、黒い鱗と体表に、赤い目玉。とんでもない霊力と気迫。蒿里の霊の中で鳥神やアヌビス、他数匹の主戦力が一匹、黒龍である。
空は鳥神、地面は黒龍。逃げ場も無いし術も無い。この時灼は死と同時に香奈美の目的を悟り、少しだけ不満気に呟いた。
「おもしろー!」
だがまだ終われない。目的が分かっても達成しなくては意味がない。そのためには本気で最後までぶつかる必要がある。
「朱雀行くよー。最後だから気合入れろよー」
朱雀と灼の雰囲気が少し変わる。
「半疑似だったのね」
「んー?良く分かんないー」
「そう」
半疑似から疑似覚醒状態への強化。場は整った、両者が切れるカードは全て切った。あとは力をぶつけるのみ。勝者は既に蒿里と決まっているのだから。
第四百二十三話「格差」




