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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百二十一話

御伽学園戦闘病

第四百二十一話「葬」


攻撃の黒狐とサポートの猫。それだけで見れば圧倒的に黒狐が強いのだが矢萩は本人の性能が非常に高く、それに加えて反動のデカい言霊も使用するつもりだ。そうなると猫によるサポートは必要不可欠、いなくてはいけない存在である。黒狐も同じ事、言霊使いを一人で相手するのは厳しい、それはまだ練度が高くないルーズとの模擬戦でも旧生徒会メンバーほぼ全員が感じていた事だ。

なので黒狐を時には囮にしたり、逆に水葉自身が囮になって攻撃して貰ったりして臨機応変に動こう。


「行くよ」


先に動くのは水葉だった。しっかり理由がある、言霊がある矢萩に対して受けの姿勢を見せてしまうと強化を付与され不利になる可能性が高い。ここからはノンストップが理想、そうでなくとも強化の隙を与えてはならない。


『盲目』


身体強化に続いて今度は攻撃の言霊。言葉通り水葉の視界が真っ暗になった。


「黒狐!」


とっくのとうに言葉は話せるので一時的に目となってもらう。


「前!」


刀を持った矢萩の位置を教える。だが矢萩だってただ斬りに行ったわけでは無い、言霊でのアドバンテージがあるのだ。甘える事はせず更に差を付ける。


『停止』


水葉の動きが止まる。だが黒狐が瞬時に間に入り、矢萩の方に全力タックルをかましたので何とか攻撃を阻止出来た。そして停止が解除される。

今度こそ交える事が出来る。互いの刀がぶつかり合い鉄の音が鳴る。その距離まで近付ければ上出来、だが矢萩が口を開きそうになったらすぐに後退出来る様少し力を抜いている。


「まぁしないよ、だって力抜くって予想つくから」


言霊に意識を割かない。一方水葉は言霊、それだけではなく本人の刀と猫も警戒しなくてはいけない。単純に意識しなくてはいけない事象が多く状況不利を招いたり一瞬の油断、それだけではなく間違った判断さえも生みかねない。

そんな事は理解しているはずなのに言霊と刀"だけ"に意識を割き相手本人の心情や思考を読み解こうとしなかった。簡潔に言うと妥協だ。


「知ってる。ただ負けただけ」


矢萩が大きく刀を振るった。避ける事など出来ず左肩から右脇腹までかけて斬られた。幸い後退していたので傷は浅く、服が切れて血が多少出た程度だ。黒狐もその程度なら問題は無いだろうと二人で行動に出る。

やはり水葉一人では考える事が多すぎて勝てない。なので黒狐をも利用する。出来れば猫が術を使って来たタイミングでカウンターとして用いたかったが仕方が無いというものだ。


『妖術・上反射』


『妖術・上反射』


完全同時タイミング。ぶつかり合うその瞬間に唱えた。考える事は同じと言う事だろう。


「なら!」


だがやはりこうなると矢萩の方が有利になってしまう。


『上反射無効』


他の術を完全に無効化にするのは結構な反動が来る。だがそれでも唯刀 猫に収めていた霊力を徐々に体に流し込んで行けば問題は無いはずだ。唯一心配な事と言えば反動の痛みで本当に一瞬怯む事を見破られ、突かれる事ぐらい。

だがその隙を捉えるのは刀迦でも困難なレベル、水葉に出来るとは到底思えないので考慮する必要は無い。なので変に気にせず今は水葉の手段をことごとく封じ圧倒的な優位に立つのだ。


「最近分かった気がする、紫苑の気持ち。ブラフに見事に引っかかってくれると、凄い気持ち良いよね」


振り被さって斬ろうとしていた水葉は攻撃を中断し思い切り跳んだ。すると次の瞬間黒狐が突進してくる姿が目に留まる。流石に避けるべきなので順当に左右どちらかに避けようとする。

正直どちらも良い、水葉上、黒狐は真正面、瞬時に次の攻撃に繋げるのはまず無理なのでほんの一瞬でも体勢を整える時間が出来るのでそこで次の攻撃について考える。

なので適当に右に避けた。だが水葉はそこまで予測していた。


「だから言ったじゃん。ブラフだって」


ブラフ発言、それすらもブラフなのだ。

水葉は刀を使って斬る事だけに特化している訳ではない。薫はひたすらトリッキーな事を教え込んだ、あとの刀術は完全自己流、逆に言うと少し特殊な戦い方はほぼ全てが薫に教わったものなのだ。

そして薫は刀を投げる事に何の躊躇も無い。そう、手ぶらになったとしても。


「は?」


水葉は空中で刀を投げた、当然矢萩に向けて。弾いたり避ける事など造作もない、だが絶対に裏がある。そんな簡単な攻撃を行ってくるはずがないのだ。

そこで気付く、真横の黒狐の存在に。そちらが本命かと振り返った瞬間背中から胸部に刀が刺さる。だがそれで黒狐の攻撃を対処出来るのなら安い物だ。

そう思って構えたが全く動かない。悟った、変なブラフをかけたのはこのためだ。適当に言葉で騙せば無償で一撃、しかも致命傷に成り得る攻撃が出来る。しかも黒狐はサボれる。水葉達にとってはこれ以上無い最高の一撃となる。

だが矢萩は学ぶ。ブラフが何重かに敷かれている可能性、そして逆にブラフではない可能性、その両者を頭に入れて動く事にした。そして水葉だってそうして来る事は予想出来るので奇をてらったブラフはこれ以上行わない。何故ならそれは命取りになるからだ。


「黒狐!」


今度は二人で攻撃する。だが矢萩にはまだ上反射がある。先程は振り返らせる事で突破したが今度はそう上手くいかない。


『妖術・上反射』


今度は四方八方、全てに展開した。これでは攻撃が出来ない。それに水葉の刀は現在矢萩に刺さったまま、何とか近付いて引き抜かなくてはいけない。ひとまず引き抜ければ出血量も少しは増やせるし焦らせる事も出来る。まずは刀だ。


「行くよ!」


ならば黒狐と協力して上反射の弱点を突く。それは紫苑が数年前、工場地帯での素戔嗚との戦いで見せた芸当。すり抜けである。上反射は攻撃を全て跳ね返す事が出来るのだが攻撃など全くしていない、ただ通過する者に対しては何も反射出来ないのだ。

そうなるとどれだけ何重に重ねていても意味は無く霊力の無駄遣いになる。だが矢萩はそれぐらい理解している。そもそも自身の霊力量が少なく唯刀(ちょちく) (タンク)を利用する程ならば無駄遣いを極限まで減らす方法ぐらい知っているに決まっているだろう。

そしてそう言った行為には必然的に弱点や強みを知り尽くしている必要がある。なので上反射の弱みも知っている。更には対策も。


「無駄」


水葉はすぐそこまで来た、既に矢萩の刀が届く範囲だ。そこで勘付く、対策に。上反射の展開位置である。この術は特に意識しないと少し離れた位置に生成されるのだが、少し意識するだけで生成位置を少し変える事が出来る。

そして矢萩はその展開位置を極限まで近く、即ちすり抜けると本人と衝突する距離に展開しているのだ。こうすればすり抜けの抑止にもなるし、万が一されても本人が斬ってしまえば何の問題も無い。それが通用しないと分かっている相手にはそもそも上反射など使わない。

徹底している。水葉は一度引き黒狐の頭に乗った。


「…」


少し考えてみる。弱点はあるはずだ。絶対に。そしてその弱点を見つけ出し、つけ込む事で一気に攻めて勝つ。何だか行ける気がする。何かが引っかかっているのだ、物凄い違和感。何処に潜んでいるのだろう、確実に大きな弱点となる違和感。

だがそう長くは考えられない。矢萩だって相手にわざわざ思考の隙を与える程馬鹿ではない。今度は矢萩が突っ込む。


「!!」


気付いた。すると水葉は黒狐の頭に乗ったまま動かない。矢萩は構わず突っ込んだ。そして斬りかかる。水葉は全く抵抗しない、だが避けようとはする。

完全には回避出来ず先程の一撃とは反対方向、傷がばってん印になるように斬られた。先の一撃よりは深く、筋肉さえも少し斬られてしまった。大分マズイが立ち止まっている暇は無い。止血は後回し、それより先に刀の柄を握る。


「クソ…」


致し方ない。出来れば引き抜かれるのを阻止したかったが無理なので仕方無く反撃を繰り出した。だが引き抜いたと同時に刀で受け止める。水葉の反応速度はやはり異常だ。

そんな事より出血量が大分多くなって来た。そろそろ水葉にも大きな一撃を入れなくては勝ちの芽が摘まれてしまう。それだけは阻止しなくてはいけない。


「もう良いよ黒狐、私の勝ちだから」


するとそのタイミングで黒狐は還って行った。意味が分からない。どうすればこの段階で勝ちを確信できるのだろうか、理解が及ばない。だがこれがブラフだった場合弱すぎるので本当に勝ち筋が見えており、何なら既に手の平の上で踊らされている可能性も浮上して来た。

どうするべきだろうか。ひとまず向き合っているので余裕はあるがいつ仕掛けてくるか分からない。それにどんな手で来るかも完全未知数、全てが不明なのだ。


「矢萩、多分あんたは自分の弱さに気付けてない。だから私は気付かせて、一気に倒す」


水葉は賭けた。

矢萩は今まで気にもならなかった眼の炎が急激に怖くなる。まるで威圧されているかのようだ。


「無理。私は全ての弱点に気付いているから」


恐らく勝った。


「行くよ」


最後の最後、本当に大詰めだ。

一気に斬りかかった。まだ上反射が展開されていると言うのにも関わらずだ。受ける必要もない、上反射が返してくれる。水葉はそのまま攻撃を行い上反射によって同じ分のダメージが返って来た。

物凄い激痛、まるで腕が切断されたかのようだ。だが大丈夫だ。まだ行ける。再度特攻し斬りかかる。


「それに何の意味が…」


やり方を変えて来るのなら三度目以降のはずだ。二度目から変えるのほどザルな作戦を水葉が考え、実行するはずがないのだから。ある意味信頼、だがその信頼によって刃が喉元まで迫る事をまだ知らない。

次の瞬間水葉は刀を地面に突き刺して矢萩に抱き着いた。あまりに急すぎる行動の変更、対応が一瞬遅れる。そして水葉はそのまますり抜け、抱き着いた。

それは油断を誘った故成功したのだ。


「でもそれじゃ…!」


「出来るの、私なら」


上反射に重なっているような状況、だが構わない。

マフラーを外し、素早く矢萩の首にかけた。そしてそのまま絞める。

もう抵抗せざるを得ない。だが矢萩が知っているであろう弱点を利用してくる訳では無いのだ。なので多少の痛みを貰ってでも一旦抜け出す。


『退いて』


水葉の「気付いていない弱点を突く」という発言。これは賭けであった。何処が賭けか、それは言葉通りに受け取ってくれるかどうかである。

そのまま行ってくれれば矢萩は自身の知っている弱点ではない何かを水葉が決め手にしようとしていると予測、断定するはずだ。

断定、盲目。

水葉が覚えた違和感の正体、それは言霊の使用である。上反射を展開してから一度も使っていなかった。それまでは余裕がある時には使っていたのだが急激に使用しなくなった。

軽く考えた結果それは上反射のデメリットによる物だと推測したのだ。上反射や反射は発動者でさえも効果対象である。そのため言霊を放つと上反射にぶつかり、自分に丸々返って来るのだ。それ故使用できなかった。

そこを突こうと考えた。突っ込んで攻撃を仕掛ければどんな攻撃をしてくるかは分からない。もしかしたら言霊を使わないかもしれない。だがそれでもやりようはある。ならば直感で思いついた方法を実行したかった。

結果として成功する。矢萩はこの弱点ならば問題は無いのだろうと思い込んでいたので跳ね返って来た言霊『退いて』によって後退する。


「私の勝ち」


隙だらけ、次の瞬間何が起こるかなんて自明の理。

一気に絞める。そして発動帯を思い切り潰す事で能力の発動を停止させた。するとどうなるか、まだ隙はあるのに上反射は猫、言霊すらも使えない。


「楽しかった」


思い切り斬った。

血が吹き出し。矢萩はそのまま仰向けになって倒れた。


「……やっぱ…無理だった…」


まだ意識はあるし、喋れるようだ。


「普通に危なかった。たまたま思い浮かんだだけ。成功しなかったら相当ヤバかったよ」


「でも…勝ったじゃん…」


「確かに。まぁいいや、貸して」


唯刀 猫を奪い取った。


「私はこの無銘で良いからさ、刺すね」


矢萩は頷いた。

水葉は心臓に向けてゆっくりと唯刀 猫を突き刺した。


「葬儀の代わり、智鷹にそんな温情があるとはとても思えないけど…実際ある機能だしね。とりあえず持って行ってね、先行ってて。私も頑張るから」


「…うん」


最後は嬉しそうに目を閉じた。魂が出て行く。それと同時に唯刀 猫は消滅した。


「所有者の死に際に刺しておくと一緒に消える、良い機能。とりあえず外しておくね」


遺体から首輪を外し、静かな怒りを全てぶつけて粉砕した。心が落ち着き覚醒が解かれた。


「よし、行こう。お姉ちゃんの所」


背を向け歩き始める。マフラーを巻き直しながら小さく呟いた。


「待てって、行って来るから」


《チーム〈TIS〉[榊原 矢萩] 死亡 > 姫乃 水葉》



第四百二十一話「葬」

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