第四百十八話
御伽学園戦闘病
第四百十八話「過去と未来」
「覚醒…一秒後の未来を読む、だっけ?まぁ問題は無いわ、それよりも身体強化が消えてくれて感謝するぐらいね」
「どうかな、多分重要な所を見落としていると思うんだ。教えないけどね」
「…どう言う事」
「分からせるさ、その体に刻み込んでやる」
蒼は一気に距離を詰めた。
『妖術』
だが招き猫の反撃が来る。何の能力が来るか、だが問題など存在していない。どうやら八懐骨列のようだ。ならば砂塵王壁で簡単に防げる。
『人術・砂塵王壁』
「無理ね」
一度使ったやり方なので容易く対処されても何も思わない。だが次の攻撃は欠かさない。
『妖術』
今度は絶対に分からないだろう。紫苑を助けたおっさんの能力、ガチャをしてからのガチャ、簡単には想像出来ないし対処も難しい。恐らくこれは決まる。
そう思いながら一旦距離を取った。だが蒼はその行動に違和感を覚え瞬時に速度を上げ、一瞬だけ攻撃を捨てて移動に専念した。リイカのすぐそこ、だが攻撃はしない。もっと離れなくてはいけないからだ。
招き猫が放つ力は『肆式-弐条.両盡耿』だ。リイカは何故気付かれたのか理解出来ず困惑する。
「だから無駄だよ」
移動の必要が無い範囲まで行った所で攻撃を行う。リイカは避ける手立てが無く何とか最大限ダメージを抑えながらくらった。だが覚醒前に比べるとやはり弱い、幾ら素の身体能力を鍛えようとも能力による強化がある方が強いに決まっている。
ただそれでも相当痛むし、幸い腹部だったから良いが喉や顔面にはくらいたくない威力だ。
「そんな攻撃で私を殺せると思わないで、私だって強いんだから」
そう言いながら全力で逃げる。今はとにかく逃げる。招き猫の攻撃が範囲に入るまで、何度も、何度も。そして丁度良い所まで引き込めたので発動する。
『妖術』
「これで!」
今回は譽だ。
招き猫は瞬時に蒼の元に移動し、思い切り殴ろうとする。だが蒼はまるで分かっていたかのような動きを見せる。完全ノールックで招き猫を蹴り飛ばした。
攻撃は失敗。やはりおかしい、絶対に何か仕掛けがあるはずだ。精々一秒後しか見れないのに身体強化無しでそんな化物じみた反応が出来るはずがない。
「じゃあ次!」
『妖術』
まずは起点、砕胡の能力からだ。
「無駄だって言っているよ」
崎田から貰った布を左腕の関節に被せる。すると急所は見事にそこに生成された。
「なんで!!」
完全に治癒、起点すら作り得ない。このままでは押し切られる、そもそもこちらの攻撃が一度や二度しか通っていない。それ以外は全て読まれ、反撃され、無に帰している。
この時ほんの少しリイカの脳内に敗北という二文字が浮かんだ。だがすぐに振り払い、次の行動に出る。まだまだやれることは多い、それに何度も巻き戻して行動を少しずつ変えて行けば隙は出来るはずだ。
そう思っていた。
「……なんで…」
一瞬にして絶望に染まる。
「当たり前だよ、隙なんて作らないさ。どれだけ鍛え上げられたと思ってるんだ」
全教師に扱かれまくった結果どうして隙が出来るのか完全に感覚で理解している。本来ならばその感覚だけで隙を無くすのは不可能だが現在は覚醒、しかもちゃんとした碧眼状態、謂わば限界突破に近しい状態故にそれを可能としている。
無法も無法、インチキだ。だがそんな事を考えていても何も変わらない、現状を変えることが出来るのは自分自身の力のみ。奮闘する他あるまい。
「でもあんたは知らない、私の能力の怖さを!」
リイカは狂気に浸かっている。常に周囲や仲間を警戒し、巻き戻せと言われたり自分で巻き戻した方が良いと判断したら能力を使い良く似た時間を過ごす。それが一日に何十回、多い日には百回単位で行っている。
それはTISが創設され所属してから毎日だった。「頭がおかしくならない方が頭がおかしい」と來花に言わせる程の狂気、常に潜みいつ顔を出そうか窺っている。
作った顔が崩れるのはいつだろうか、限界が来た時だろうか、死ぬ直前か死ぬ時か、それとも永遠に封じられたままか。少なくとも佐須魔はこう考えている、「リイカは早い段階で死ぬよ」と。
「知ってるさ。とても知ってる。だからこそ僕が来たのさ、莉子と一緒に」
迷いの無い碧い眼。
「君はおかしい、根本的な何かが狂っている。だけど当たり前なんだよ、何度も何度も同じ時間を繰り返し、何の成果も得られなかっただろうし何度も仲間が無意味な死を見て、回避してきた。だがそんな助けられる力は惨いよ、何せ仲間を助けられなかった時の無力感が人の数十倍だからね。
僕も分かるのさ。莉子だけじゃない、仕事を教えて毎日楽しく過ごした生徒会の皆が死んだ。今でも爆発しそうな怒りを抱えて戦っている。
でもこれも全て、君のせいだろ」
全くもってその通り、リイカが時を巻き戻し何度も小さな調整を重ねた結果なのだ。
「そうよ。もうこの数時間で万は能力を使ったわ。でも何も思わないわ、だってこのまま行けばあんたを殺して、革命の火が灯るから」
ほんの少しだけ狂気が覗いた気がした。今にも卒倒しそうになる程強い。今までに無いレベルだ。
「僕は君に対して可哀想だという感情しか抱いていない。だから終わらせる、ここで。復讐の意も込めて」
動き出す。もう戦闘は終わる、互いの第六感がそう嘆いているからだ。両者の体は限界に近しい、蒼は既に霊力が足りない。ラックの血流透視と同じで蒼の『覚醒能力』は霊力を常に使用する。オンオフの切り替えが出来ないのだ。
それ即ち短期戦以外受け付けないと言う事。それなのに何度も何度も無駄話を行いう時間を消費している。これがどれだけ愚かな行為なのか理解はしている。だがこの可哀想で哀れな能力者の命を断つのにコミュニケーションも無しに戦うなんて不敬も良い所。憶測ではあるが恐らくリイカは少しだけ学園のためになる調整も行っていたはずだ。
それは弟であるタルベのためだろう。リイカの加入目的は今後最強勢力になると見込んだTISがタルベに手を出さないと約束させるため、知っているのだ、レアリーが教えてくれた、蒼にだけ。
「来なさいよ!!」
『妖術』
今出せる最大火力、一気に放出する。
『人術・砂塵王壁』
やはり防がれる。
「なら!!」
『妖術』
原、というよりも原が取り込んだ霧の能力。身体の改造、リイカに適用する。体を超絶頑丈にした。これなら蒼の攻撃は無効化出来るはずだ。そう考えドンと構えていたが蒼は急にターゲットを変えて招き猫を叩き潰した。
全く考慮していなかった行動故に巻き戻しが一瞬だけ遅れる。だが今度は大丈夫だ、突っ込んで来るが招き猫は避けようとする。だが予備動作を見せた瞬間後ろに回り込んで叩き潰した。
「ちょっと!」
再度巻き戻すが少し先、ほんの少しずつ近付いている。
「勝った」
蒼の一言。
「避けて!!」
招き猫は完璧に回避した。だがそもそも蒼は招き猫の所にはおらず、リイカの傍まで近付いていた。だが頑丈になっているので効かないはずだ。
「簡単だよ、そんなの」
そう言って地面を殴った。土が跳ね上がり視界が塞がれる。だがこれはチャンスなのだ、敵の位置が見えないのは蒼も同じはず、今招き猫の攻撃を行えば絶対にくらう。
『妖術』
だが反応は無い。
「もう遅いよ」
土が全て地面に落ち、視界がクリアになった。そして招き猫が瞬殺された事に気付く。
「クソ!!」
すぐに戻す。だがそこは土で視界を奪われている所。でも問題は無い、今度は招き猫に回避させつつ逃げるか攻撃を行えば良いのだ。叫ぶ。
「避けなさい!!」
だが次の瞬間土のカーテンから拳が現れ、リイカの顔面をぶん殴った。
とんでもない激痛、瞬時に時を戻したがそこは既に拳を突き出している所。それでも、それでも回避は出来る。体を捻じるようにして回避を行った。
「その能力は先に進む事が出来ない」
その行動は分かっている。何故なら蒼は全てを見ているのだから。一秒先、それは巻き戻しをも含めた一秒先、全て見えている。全て理解している。たった一秒だが蒼にかかれば充分過ぎる準備時間。
見て、予測し、動く。たったそれだけで良い。リイカはそれで死ぬ。何故なら巻き戻す事しか出来ないのだから。最初から優勢でなければ負けは決まっていた。ただひたすらに攻撃を繰り返し印象を植え付け焦らせる。
そうすれば考えが及ばないはずだ。巻き戻しは未来視に絶対に勝てないと。
足を掬い、転んだところを蹴り上げる。だがまた巻き戻す。今度は既に拳を突き出して当たる寸前、リイカは避け、追撃の掬いも避けた。
だが蒼は見ているので既に次の手を打っている。土のカーテンに突っ込んだ。そして左手でフックを行った。
「どうだ」
巻き戻し、戻った。だが一秒前に巻き戻される前それを見ているので分かっている。同じ動き、避けられるのなら行動を追加するだけ。
至近距離で頭突き。巻き戻される。既に二撃目の蹴りも終わっている段階。
「あ…」
そこでようやくリイカは悟った。既に詰んでいると。そこで理解したのだ、未来視には勝てないと。どれだけ頑張っても全て見透かされている。
そして潤沢な対策と知恵によって何をしても勝てないのだと。初めてだった、全ての巻き戻しが意味を成さず、何度もリテイクを行うのは。
初めてだったのだ。だから足掻いた、分かっていなかった、負けだと。
「まだ!!」
それでも諦めない。絶対に隙は出来る、絶対に、絶対に。足掻き足掻き足掻き続ければ何とかなる。そんな甘い思考は一つの拳によって砕かれた、頭蓋骨と同時に。
とんでもない衝撃、意識を保てない、生命活動も保てない。死ぬ、死んでしまう。巻き戻せない、余裕がない。ただゆっくりと倒れて行く感覚、この一瞬で何回も絶望して希望を見た。だがその希望は全て打ち砕かれてしまった。
「そうだね……お疲れ様、かな」
完全に倒れ、リイカは死んだ。
《チーム〈TIS〉[リイカ・カルム] 死亡 > 和也 蒼》
これによってTISの最大の保険は無くなった。
「ありがとうね、莉子。行こう、皆。ここからだ」
血に塗れた拳を握りしめ、進む。
仇は取った。脅威も潰した。この『覚醒能力』が無ければ学園側に希望は無かっただろう。だが完璧な使い方と事前準備、覚悟によってそれは成し遂げられた。
始まる、侵攻だ。
第四百十八話「過去と未来」




