第四百十七話
御伽学園戦闘病
第四百十七話「手札」
現れた招き猫、大体の力は把握しているので警戒しながらも攻撃を続ける。ただひたすらに殴り、蹴るのだ。まだまだ足りない、印象付けるにはもう少し時間が必要だ。
この勝負はある段階に踏み入る前にとある印象を植え付けられれば蒼が勝てる。逆に言えばそれが出来なかった時点で負けるだろう。優勢とは言ってもその程度、賭けはもうしない、後は完全に本人の実力に依存した勝負となった。
「やって!」
招き猫、能力ルーレット。昔紫苑を助けたおっさんの能力と同じような事をしてくる。非常に厄介だ、どんな攻撃が飛んで来るかは分からない。だがTISの能力は大体把握しているしこの時の為に何個か対策も準備して来た。やり過ごしながら重い一撃と軽い一撃を繰り返そう。
『妖術』
まずは一撃目、結構大事な場面である。だがどんなのが来ても大体くらう直前で分かるし、準備はしてある。一旦攻撃の手を止め防御に徹する。
「!!」
ヤバイ一撃、絶対に防ぐ。皆が教えてくれた術。
『人術・砂塵王壁』
一発目から來花の八懐骨列だった。何とか砂塵王壁で防ぐことは出来たが一瞬でも遅れていたら致命傷を貰っていた。だがこれだけでは終わらない。防御したならば反撃は必要だ。有利ならばそれを維持するべきだ、少し無茶をしてでも。
だがリイカだってそうしてくる事を理解している。別に時を戻せば良いのでそこまで警戒せずに反撃のために詰めて来る所を迎撃する。
『妖術』
再度招き猫が攻撃を行う。次は何か、少し身構えながらも速度は落とさない。そして超至近距離に来た所で招き猫本体が動き、蒼の足を掴んでぶん投げた。
あまりに強い力、誰の能力か分からない。もしかしたら蒼達が知らない人物の身体強化か何かを使ったのかもしれない。とにかく完璧な受け身を取って反撃に出る。
ただ放り投げられただけで大した痛みは無い。そこに多少の違和感を覚えるが逐一チェックしている余裕は無い。
『妖術』
次放り投げられたりでもしたら体勢を整えられる。まだギリギリ崩れている状態なのでこの妖術はかわすか跳ね返すかして一撃入れないとプランが崩壊してしまう。
「ヤバッ…!」
能力をくらった。そして瞬時に何の能力か知った。本来ならば速度を落とさないといけない、何故ならただのそよ風だけでも体がボロボロになるのだから。
それは砕胡の能力、急所の生成だ。右肩に急所を作られた。このまま走ると右腕が絶対に取れる、このままなら。だが蒼はこれも対策している。幾ら拳が砕胡を相手にすると分かっていても何らかのカバーが必要になった時のために対策は必要なのだ。
「本当に感謝ですね、崎田先生」
右肩にふわりを布をかけた。左手で抑え、急所の部分を隠したまま走り続ける。すると確実にパックリいっているはずなのにも関わら腕が取れる様な動作が見えない。おかしい。
だがその布が人類の作れる物ではない、謂わば神の力に匹敵する物体だと見抜いた瞬間容易に理解できた。どうやらその布を被せている場所は物凄い回復を施されるらしい。それで砕胡の急所作りによる多大な傷も打ち消しているのだ。
ただやはり痛みはしっかりと存在しているようで苦しそうな顔はしている。
「残念だったね!」
それでも距離を詰め切った。本体のリイカに腹パンをかます。あまりにも呆気なく決まった。不自然だ。今までなら反撃か回避を行って来ていた。巻き戻していないとは考えづらい、となると抵抗もせず体で受けるのが最善策だと判断したのだろうか。
そこまでは分からないでも無いが、次の行動があるはずだ。そして気付く、リイカの傍と言う事は招き猫のすぐ側と言う事も。招き猫の妖術は時を巻き戻すごとに変化する、簡単に言うとリセットマラソンが可能なのだ。
こんな至近距離、何を使って来るだろうか。砕胡の急所、八懐骨列、智鷹の銃、はたまた死した仲間の能力だろうか。答えは一つ、重力操作だ。
「私が心の底から仲間だと感じた奴の能力、出来れば蒿里が最適なんだけど正直信頼していないから。ここは佐伯の能力よ」
体が重い。全然動けない。身体強化のおかげで息などは問題ないのだが攻撃など出来るはずもない。それでもマシな方だ。
「これだけで終わると思った?そんなはずがないよね」
『妖術』
今度は避けられない。止まっている状態で受け流せれば良いのだがそんな能力は少ない、それにリイカは能力を厳選出来る。絶対に無理だ。
そして来るのは懐かしい能力、フィッシオ・ラッセルの霊である無数の黒蝶だ。しかも翅が非常に鋭くなる『妖術・狂鋭』を使用した状態だ。
動けない状態で頑張って近付いて来る黒蝶達、どうなるかなど自明の理、じわじわと滲み出て行くような痛みが全身を襲う。留まる事を知らない蝶と痛み、普通の状態なら何てことは無かったが生憎ここは超重力下避ける術など存在していない。
やられた、やはり無謀だった。何でも出来るリイカに挑むなんて。
「悪いわね、あなたの負け、私の勝ち。これで作戦は崩れるはず、残念だったわね」
リイカの少し腹立つ笑顔を前にしながら成す術なくゆっくりと目を閉じ、その場に倒れた。
「おーい…寝てる?」
すると今度は耳元で。
「おーーーい!!」
あまりにうるさいので目が覚めてしまった。周りを見渡すとそこは真っ白な世界、まるでエンマと初めて話した時と同じような空間だ。だが感覚的に理解出来る、別の場所だ。
となるとここは何処なのだろうか、幻覚だろうか。
「…夢?」
やはりそうだろう、何故なら隣には莉子がいる。
「夢じゃないよー現実…いや夢って言っても良いのかな?まぁ走馬灯的な感じかな」
「まぁそっか…僕負けてるもんね」
「いやまだだよ、だって蒼君はまだ死んで無いもん」
「え?」
「ほら」
そう言いながら莉子は蒼の手に触れる。心なしか嬉しそうにペタペタと触っている。だが確かに感覚はある、それが夢か現実か本人に区別はつかないのだが莉子がそう言っているのだ、信じるほかあるまい。
ただどうすれば起きれるのか分からない。
「どうすれば戻れるの?今すぐにでも戻って戦わなくちゃ」
「ちょっとだけ、一緒にいてほしい」
「良いけど…なんで急に」
「だってこれで"終わり"かもしれないから…リイカ強いじゃん、もし万が一にでも負けたりしたらさ、会えないでしょ、もう」
確かにそうだ。それに蒼は今まで気持ちに応えてあげられなかった。仕方無かったと言えばそれまでだが、ずっと謝りたいと思っていた。だがこの様子から見て謝罪は求めていないだろう。恐らく莉子は気持ちだけが欲しいのだ。ずっとずっと知りたかった気持ちだけが。
「ねぇ莉子」
「何?」
「莉子は僕が島に来た頃からずっと、好きでいてくれたの?」
「うん。ずっとだよ、島の事を教えてくれたのは蒼君だもん。皆と知り合えたのも、また別の地獄への道を教えてくれたのも、本当に全部蒼君のおかげ。
待ってたから。当時は悲しかったよ、私の事忘れちゃって変な風になってたから。でもそれもまた一興って感じで割り切る、っていうとちょっと変だけど、受け入れてみたの。そしたら何か凄い嬉しくって、これからも一緒にいよって思った…ってだけだよ」
「そっか、ありがとう。本当に頭が上がらないよ、ずっと助けられてばっかりだったし。結局何もしてあげられなかったし」
「蒼君は気にしなくて良いんだよ、私がしたくてしただけだから……それでも、どうしても何か返したいのなら勝ってよ、絶対。リイカをボコボコにしてさ、他の皆を助けてあげてよ。先に黄泉に行った皆もそう思ってるはず」
「分かった。絶対に勝つよ、だから力を貸して欲しい。僕一人じゃ多分出来ないと思うんだ。死にかけだから」
「何をしたいかは分かってるけど…どうすれば良いの?」
「ただ応援してほしいんだ、"戦闘病"と"覚醒"のために」
「…分かった」
一瞬だけ心配そうな顔をしたが蒼を信じているからそんな顔はやめた。絶対に上手くやってくれるはずだ。そう信じて送り出そう。
「よし、それじゃあ行くよ」
蒼が立ち上がる。莉子も合わせて立ち上がり、頬を両手で持って視線を固定する。
「絶対、勝ってね」
「うん、行って来る」
次の瞬間視界が戻る。それと同時に物凄い速度で後退し体勢を整えた。
「はぁ!?」
絶対に死んでいたはずだ。それなのに生き返った。そんなの有り得ない。
「二回目だね、工場地帯でも同じような感覚だった。死からの救済。この感覚こそ…」
覚醒である。
「僕の勝ちだ、リイカ・カルム」
深緑の炎、真の碧眼。
効果は『覚醒能力』である。一秒後の未来を予測出来る能力、ずっと気になっていた。これと鍛え上げた素のフィジカルがあればリイカさえも打ち倒せるのではないかと。
両者の手札は残り一枚。だがこの時点で勝負は決まっていた。
第四百十七話「手札」




