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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百十四話

御伽学園戦闘病

第四百十四話「決別」


次の瞬間佐須魔の右腕がへし折れた。あまりにも速いので佐須魔でさえも感知できず何が起こったのか一瞬理解できなかった。だがこれがファストの全力なのだと知ると心が踊る。

恐らく体が耐え切れず後一回、または既に消滅している。だが神になってからこんなに簡単に骨を折られたのは初めてだ。やはり取締課の能力者は他の奴らと少しだけ毛色が違うように感じる。


「来いよ!もう一撃!」


ベキッと音が鳴る。今度は左腕だ。だが数秒後通知が来る。


《チーム〈能力取締課〉[name ファスト] 死亡 》


「本当にありがとう。あとは私が終わらせよう、行くぞ佐須魔」


「おいで」


剣を握りながら突っ込む。佐須魔は折れた腕で何とか弾く。やはり身体強化は絶大で骨が折れている状態でも普通に戦えている。やはり万全な状態に比べると弱りはするがライトニングの剣を弾けるレベルだ、正直全く問題はない。

だがファストが首などの致命傷に成り得る場所ではなく、わざわざ両手を折った事には意味がある。それはライトニングの攻撃を弾かせるためだ。

ライトニングの霊力生成は少し特殊である。普通ならば体内で"体力"が生成され、その体力が霊力不足時に能力発動帯を通る事で"霊力"へと変換され体内を循環する。それ故体力と霊力が一定量に満ちると気絶状態から戻ったりするのだがライトニングは違う。

体力が生成された後霊力不足状態でも能力発動帯を通過した体力は"霊電"へと変化する。常にライトニングの体内で発電されているので霊力回復が遅いのだ。

ファストだけではなく傀聖も含めた能力取締課の者はそれを知っていたので戦闘中に紫電分の霊力を練り切り、発動するのは不可能だと予測した。ならば霊電をただひたすらに佐須魔の体内に流し込む段階とするべきだと判断したのだ。


「それは信頼と捉えて良いのかな、ここで死ぬ覚悟を決め皆を踏み台にした君だけが生き残る道、善意何だろうけど…それはライトニング、君にとって望む結果なのかい」


剣と体の攻防を繰り返しながら佐須魔が訊ねた。


「そうだな、私自身が望んでいるかと言うと首を横に振るだろう。だが私の勝手な判断だ大会に出場し、死なせてしまった。そんな部下から渡された地獄行きの切符、乗車するかしないか、お前だったらどうする」


「まぁ、そうだよね」


納得した佐須魔は攻撃を続ける。異常なまでの体力生成によって腕は治りつつある、回復術なんて使わなくても何とかなってしまうようだ。それを見たライトニングは畳みかける事にした。

霊力は使わない、地形と力、そして協力だけで戦う。


「ベベロン!」


「おう!!」


名を呼ぶと馬に乗ったおっさんが森から駆けて来る。今まで何をしていたのか、それはとある物を採取していた。傀聖を引き入れる際に智鷹が遠距離射撃を行った。その時の弾丸だ。

智鷹の弾が消滅しない事が前提なのだがそこに確証はなかった。ただ残っていれば有利に事を進められる、そう考えたパラライズがコッソリ耳打ちで指示を出した。そして今更帰って来た。全員死んでしまったしルフテッドと絡新婦、そしてもう一人もそろそろ限界のはずだ。

拾って来た智鷹の弾をライフルに詰め、軽く狙いを定めてから引き金を引いた。


「智鷹の…」


気付いた頃には既に遅い。佐須魔の頭を弾丸が貫いた。智鷹とベベロンの弾丸、違う点は一つ、霊力で生成されたかそうでないかだ。智鷹は銃を生成し、撃つ能力。それには弾丸もセットで付いており何の準備をしなくても瞬時に銃が撃てるのだ。だがベベロンは違う。ベベロンの能力はあくまでも銃が絶対に当たるだけ、それ即ち銃や弾丸はごく普通の物、霊力なんて籠められていない。

佐須魔には普通の弾丸など大したダメージが出ないが能力での弾丸、霊力での攻撃となれば話は変わる。どれ程までに跳ね上がるかはその時の霊力操作によるとしか言えないのだが少なくともこの時は完全に無警戒、それよりもライトニングの剣からの霊電を少しでも跳ね除けるため腕以外の場所に霊力を流していた。

そうなると必然的に頭部の霊力は多くなる。霊力での攻撃は霊力が多い相手に少しだけ効きやすい。それは霊か実在する者かの違い程度のふり幅であるが佐須魔の場合は桁が違う、少しのミスでも致命傷になるのだ。

そう、たった一撃の銃弾でさえも。


「…」


沈黙、まるで世界が止まったようだった。穴からは血が、そしてグラグラと揺れてから倒れそうになった。だがそれでも倒れる事は無い。


「…痛いな…本当に…」


術などは使っていないはずだ。ただ神としての底力、ここまで完璧な一撃もそうそう無いだろう。それなのに立っている、言葉を話している。脳を貫いたはずだ、気絶はしなくとも少しぐらい活動を停止しても良いだろう。

それなのに少し息を整えただけで当たり前のように顔を上げ話している。頭以外から血を流す事も無く。背筋が凍った、やはり人ではない何かになってしまったのだろう。再確認というものだ。


「負けたな…」


「まぁしょうがねぇか、神相手は俺も初めてだったからな…」


死を覚悟する。佐須魔が最後の一撃をベベロンに撃ち込む。ただの全力殴りだ。だが威力は桁違い、ベベロンなんて一瞬にして粉々になり黄泉へと帰って行った。

同じ攻撃をされたら魂が残るかさえも分からない。それだけは阻止するべきである、皆が信頼して繋いだ命、最後の使命はここで果たすことは出来ないのだから。


「来いよ」


佐須魔は距離を詰めようと足を踏み出した。その瞬間だった、鉄の音が鳴り響く。カーンカーンと、甲高く聞き覚えのある音。そして佐須魔の足を掴む青年。


「行かせ…ねぇよ!」


物凄い剣幕で佐須魔の足を掴み逃がさんとしている。百掩を再度展開し神へと昇華する事で凄まじい力を得た。瀕死状態だろうと関係ない、何としてでも、魂を投げうってでもライトニングは死なせない。それが恩、最後に残った者の定めだ。


「やめろ傀聖!」


「良いから早く…リタイア!!」


「駄目だ!私はまだ…」


「あんたが死んだら俺は報われないんだよ!早くしろ!!俺のために!!」


それがどれ程勇気のいる発言だっただろうか、一番大切であろう自分の魂さえも踏み出しにさせて唯一信頼している人物を押し上げる。それがどれ程悲しい事だっただろう、ライトニングには想像なぞ出来ない。

ただ出来るのは一つ、腕時計を操作し、リタイアボタンを押すだけだ。


「それで良いんだ……最後まで感謝しかない…ありがとな…」


聞きたくも無かった遺言を耳に、ライトニングは薫のゲートで回収された。


《チーム〈能力取締課〉[name ライトニング] リタイア 》


だがまだ終わっていない。本当に最後、傀聖が生きている。


「どうする傀聖、温情でもかけてあげようか」


「いるかよ…そんなゴミ」


「そっか。じゃあ死ね」


拳を振り上げた。傀聖も死を受け入れて、ただ目を瞑った。


《チーム〈能力取締課〉[松雷 傀聖] 死亡 > 佐須魔》


《チーム〈能力取締課〉 の 残り人数が 0 となったため 第四戦 能力取締課 VS TIS の戦闘を 終了します》


《勝者 〈TIS〉》


本番の一回戦、第五形態まで削るという上場の成果であった。布石もある。とれも良い結果と言えるだろう。だが回収されたライトニングの顔は疲れ切っていた。左眼に眼帯を付け、心を落ち着かせる。

今まで共に過ごして来た仲間が全員いなくなってしまった。そう考えると悲しいは悲しいのだがそれ以上に果てしない虚無感が襲う。


「大丈夫かよ、ライトニング」


「まぁ大丈夫だ、心配は無用だ。それよりも絡新婦やらの回収は…」


「気にせんで良い。私達は勝手に帰って来る」


するとそこには傷だらけの絡新婦とルフテッド、そして一人の男が立っていた。兆波はそいつを見て驚いた顔をしながら叫ぶ。


(ひい)じいちゃん!」


「おう!元気にしてるか凪斗!」


[兆波 正円]、能力者戦争時代[佐嘉 正義]の仲間としてアイト・テレスタシアら一行と戦闘した人物だ。薫はずっと気になっていた事を訊いておく。


「お前らがいるって事は佐嘉は俺らの仲間って事で良いんだよな?」


「そうだな。私達は佐嘉に命令されてここまで来た。ベベロンは一足先に帰ってしまったようだが…まぁお前ら教師の時に協力しよう」


「そうか…んでもあいつも同じ事言ってるぜ?」


部屋の隅、一人のおっさんに指を差した。そこにいるのは[サルサ・リベッチオ]である。


「…久しぶりだな」


「そうだな、ルフテッド」


「…うっす…」


「お前もだな、正円」


「まぁ顔ぐらいは知ってるだろうけど、なんでそんなに気まずそうなんだよ」


「俺はアイトの味方だった。戦後俺達がした事を黄泉で見ていたのならそんな反応にもなる。何らおかしい事ではない。それに戦争の時に一度だけ顔を合わせているしな」


「まぁ老兵の再開は置いておこう。薫、次はお前らの生徒だろう?見送りの言葉とかいらないのか」


「ライトニングよぉ…あいつらに必要だと思うか?」


「それもそうか…では少し話がある、来い」


「ん、分かった。行くか」


二人は部屋を出て行った。



一方旧生徒会待機室では少しだけピリついた空気が流れていた。特に拳がヤバイ、今までに無いぐらいにキレている。


「おいおいちょっとは肩の力抜けよ」


「須野昌…許せねぇだろ、俺は英二郎にもムカついてんだ……魂を喰いやがった砕胡なんてぶっ殺すに決まってだろ」


「まぁ気持ちは分かるけどここでカリカリしても何の意味もねぇだろ?」


「須野昌の言う通りだぞ拳よぉ。あ、あと香奈美水葉、ちょっと来い」


菊が二人を連れて部屋を出て行った。


「レアリー、どこ行くか分かる?」


蒼が訊ねた。


「はい。ですが三人にしてあげてください」


「そっか。というかレアリーも行くの?サポート系だと危ないよ?」


「ご心配には及びません、私だって皆さんの仲間ですから。喰われてしまった時は迷惑をかけました。その時の恩を返せていません、ですのでしっかりと戦い、サポートに徹します」


「そっか。頑張ろうね」


「まぁ頑張るって言っても相手が相手だしなぁ…」


「康太、そんな弱気な事言ってても何も始まらないだろ?僕らは強いんだ。しっかりと目的を果たそう」


「分かってる。にしても変わったよな、蒼」


「そうかな…というよりも戻ったが近いかな。外で暮らしてた時はこうだったし」


「そういやそうだったな……にしても莉子がいないと結構不便だな…やっぱサポート系の能力って大事なんだよなぁ」


「そうだな、でも莉子は僕の中にいるから、その内力ぐらい貸してくれるよ。貸してくれなくても僕は莉子の事が好きだし、見ていてくれるだけでも満足だよ」


とても嬉しそうに微笑みながら心臓の辺りを手で触れた。


「良いねー、そう言うの」


「椎奈…からかわないでよ」


「ごめんごめん。とりあえず私は最後に桃季ちゃんとエリちゃんの所行って来るから。香奈美が来たら伝えておいて」


「分かった。行ってらっしゃい」


蒼は二人の事を良く知っているので心配ではあるが何を言って良いか分からない。そんな中椎奈は一瞬で信頼関係を築いた、流石と言わざるを得ない。


「ちゃんとウォーミングアップしとけよ」


光輝の一声で皆が軽く準備運動を始めた。

エスケープと揉めていた頃に比べると大変強くなったし信頼関係も深くなった。あとは力を発揮するだけだ。少しだけ空気が安定していた。

だが菊と姫乃の二人の空間、空き部屋で話している。菊の一言により二人の関係に亀裂が入りそうになっていた。


「父親が違う、謂わば種違い。だからお前らは本当の姉妹じゃない」



第四百十四話「決別」

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