第四百十三話
御伽学園戦闘病
第四百十三話「迎え」
MK-Ⅱを含めて四人、佐須魔は飽きて来たので終わらせるつもりだ。そしてライトニングもここで終わらせるつもりである。取締課側は全員限界、今から所謂長期戦を行う事すら出来ないだろう。
だが短期決戦程度なら可能である。リミッターが解放されたと言う事は霊力生成速度も上がっている、それ即ちライトニングの術がまだ数回使える。どれを使うかは状況次第と言うしかないがやり方は無限に近しいだろう。
「佐須魔、良いのか?」
「何の事」
「他の霊を出さなくて良いのか」
「あーごめんごめん。シヴァ、もう良いよ」
シヴァは還った。
「最後の離反者だ。英二郎は絵梨花がやってくれたから君は僕が直接葬るよ」
「ありがたいな、笑えもしない冗談で場を和ませてくれるとは、お前らしくないじゃないか」
「僕は冗談なんて言わない。だからこれも真意だ、分からないんだよ、なんであの時TISを離れた?」
ライトニングは剣を一度降ろし、他の者も軽く制止してから最後の対話へと踏み込んだ。
「私は昔のTISが好きだった。ただただ能力者の自由を追い求め、己を犠牲にしてでも進み続けるお前らが好きだった……だが崩壊寸前、丁度変わり出した頃だったろう?その時気付いた、私は"能力者の自由への行動"ではなく"TISとしての行動"が好きだったと。
それは正義を掲げ活動するお前らといる者の思考ではない、少し前からそう思っていたのさ。ただ偶然機会が巡って来た、それだけの事だ」
佐須魔は少しだけ顔をしかめてから訊ねる。
「違うだろ。僕はそれでも良いと言ったはずだ。それでもお前は離れた、別の理由があるんだろ」
「……本心を伝えて良いか、佐須魔。それはお前を傷付ける言葉となるだろう、私はお前を尊敬している、現在進行形でな。だから確認させてくれ」
「尊敬しているのなら答えは分かっているはずだろ、言え」
「天秤にかけたんだ。佐須魔と管凪 礁蔽率いる"四人の"エスケープチームを。スパイであった蒿里素戔嗚を除いた礁蔽兵助の二人、二回前の大会で見せた戦いぶりを見て私は揺らいだ。
薫や絵梨花もいる、恐らく学園の能力者はTISに匹敵する存在になるだろうと。そして様々なパターンを考えて学園に付くべきだと判断を下した」
「…それも贖罪のためか」
「違う」
「なら何故!!」
「マモリビト、アイト・テレスタシアのためだ。ベベロン・ロゼリア、私の祖先である銃使い。短剣に秘められた記憶を見た私は何彼がアイトに牙を向き佐嘉についたのか理解出来なかった。
だが本人、当時は既にラック・ツルユだったな、あいつと会って全てを理解した。マモリビトなんて関係無い、あの能力者は怖い。本能から感じる恐怖がある。誰に似ているのかは分からないがな。
だから私は従った。そして一年間学園で最低限の知識を付けて不束者ながら能力取締課の課長として就任した。それ以上でもないし
それ以下でもない。
これが私の全てなんだよ、佐須魔。失望しただろう?確かに私が強い、これは誰に授かった力でも無い。そもそも私は能力者ではないからな、TISを抜けた後の英二郎と同じ、この剣の使用権を手にしているだけ…正直お前に元仲間と言われるのは心が苦しくなる」
「理解出来ないな…僕は無能力者だろうが何だろうが離れてほしくなかったよ……本当にね」
「本当に申し訳なく思う。だが私は私だ。今信じる道を進む」
「うんうん、それが似合ってるよ~」
「智鷹…」
パラライズを狙撃した智鷹、いつの間にか視界に入るレベルまで近付いていた。
「全部聞いていたよ~まぁそういう奴だとは思ってたから良いけどさ、本当変わらないね」
「まぁな、成長しない人間なのさ」
「違う、それが|name ライトニング(サーニャ)の最高到達点なんだよ。僕はそれで良いと思うよ~、だからここで死んでもらう。今のTISがは仲間すら殺す覚悟さ」
「何度言えば良い、サーニャではなくname ライトニングだ。そして最後に感謝させてもらう。智鷹、ありがとう。死んでくれ」
距離を詰め振りかざす。
「駄目だよ」
佐須魔が間に入り智鷹を逃がした。再度一体四の状況となる。
「百の信頼度の内二ぐらい下がったわ」
「それは結構、それよりもMK-Ⅱをちゃんと動かせよハック。ファストも行くぞ!」
「了解」
ファストも一気に攻撃を仕掛ける。MK-Ⅱもそれに合わせ猛攻を始めた。佐須魔は武具も何も使わず形態破壊のせいで大幅に弱くなった身体強化と効果が謎のバックラーの降霊だけで戦っている。
だがやはり神、全然攻撃が効いている様に感じない。ライトニングの剣もほぼほぼ弾かれる様な手応えであり、MK-Ⅱは剣ではなく拳でないと攻撃が間に合わない、ファストも崩壊しない最大速度で蹴ったり殴ったりしているのだが効いているとは思えない。
「埒明かない、どうするのライトニング」
「いやこのままで良い。少しずつで良いんだ、削って行こう」
「…?まぁ分かった。行くよMK-Ⅱ」
今度はハックのドローン含めた攻撃を行う。先程までの術と霊のぶつかり合いからは考えられない程簡素な戦闘だ。だがこれがライトニング含めた残りの取締課の能力者を殺すには最適なのだ。
前提としてMK-Ⅱは未知数なのであまり強い術などを使って学習されては困る。それにファストが起きたせいで範囲攻撃も大体避けられる。簡単な術はライトニングによって無効化される。シヴァなどの強い霊は元仲間を殺すには場違いである。
武具系もここで壊されたりすると後の薫との戦いで絶対に響いて来る。なので壊させる機会をも与えない。なので佐須魔のフィジカルだけで押すのが一番良いのだ。
それに未だリイカの巻き戻しが起こっていないのでこれで良いのだろう。
「押すぞ!!」
ライトニングの掛け声で三人と三つのドローンが同時タイミングで別方向から攻撃を仕掛けた。
「…あぁ、そう言う事」
佐須魔はそこでとある事に気付く。MK-Ⅱの動きの減速だ。気にならない程度ではあったものの先程から段々とMK-Ⅱの速度が落ちている。何らかの要因があるのだと意識の端で考えていたが理解した。ハックの心を見てみたのだ。
まずはMK-Ⅱから潰す事にした。三人の猛攻をかわす事自体はそう難しくない。問題は反撃だ。全員ただひたすらに軽い攻撃を暇なく撃ち込んで来る、なのでハックに近付くのが難しい。
だからと言って高度な術を使って失敗でもしたらMK-Ⅱに手も足も出なくなってしまう。なので低級の術を上手く活用して道を切り開く。
『妖術・水弾』
今となっては遠天の完全劣化となってしまった水弾、だがそれを活用する。遠天と水弾の決定的な違いはやはり水か霊力かにあるだろう。普通ならば大した違いではなく、少し注意すれば何の問題も無い。
だがそれは今まで多数の経験を積み、感覚だけで意識を割かずそれが出来る能力者に限る。こんな術を使ってくるとハックは想定していないのでMK-Ⅱに覚えさせていない。機械に水は効く、それがMK-Ⅱにも効くかは分からないが試す価値はあるし仮に失敗しても恐らく上手く事は運ばれる。
「避けろMK-Ⅱ!!」
ハックが叫んだが遅い、小さな水弾はMK-Ⅱの胸部装甲を一枚貫いた。だがそれだけではない、装甲の下に引いていた神経の回路が一瞬でぶっ壊れた。
壊れただけなら動けるし問題にするほどでもない。だがいけないのは装甲が破壊された事にある。MK-Ⅱの装甲は外部の方が堅く、内部が脆い。佐須魔がそれに気付くのは時間の問題、バレたら一巻の終わりだ。
「一旦下がれ!」
MK-Ⅱが下がろうとしたその瞬間、佐須魔はゲートを使用してハックの背後に回った。本人も意識では分かっていたが体が追いつかない。ただ人工心臓があるので何とかなるだろうと思っていた。
『弐式-弐条.封包翠嵌』
「真波の機械を止める方法はたった一つ、封包翠嵌だけだ」
機械は能力で作られた術そのもの、普通に考えれば封包翠嵌は効いてしまうだろう。人工心臓が止まれば当然死ぬ。
死ぬだけなら良い、だがMK-Ⅱはハックと心臓を共有しておりハックが死ねばMK-Ⅱも停止する。砕胡と神のように離れられない鎖を繋ぐことによって人間に極限まで近付いた知性を持たせられたのだ。
なのでここで二人分の戦力を失う事になる。それにハックが死ねばリミッターを解除したままになってしまう、それは何らかの方法で生き残り今後の世界で生きていくには不便過ぎる。
「ファスト!」
「分かってる!」
ファストの速度ならば間に合うだろう。そう思っていた。だがここで発動する、見せた事のない術式。
『弐式-壱条.嶽時奔泡』
この術は発動者の付近数メートル範囲内にいる者一人にのみ指定して発動出来る。対象の時間の流れを五分の一まで下げるというものだ。
今まで使わなかった理由はファストが厄介になる時が来るだろうと思っていたからである。この術があればいざと言う時にファストの動きを遅くする事が出来る。出来れば翔子の能力がそのまま欲しかったが薫がいるせいで叶わなかった。だがこの術でも充分過ぎる効力を発揮する。
ライトニングのどの術でも間に合わないし、MK-Ⅱも間に合わない、ファストは遅くされているとなれば身を守れる手段など無である。
「悪いね」
ハックの心臓を押し出すようにして拳を突き出した。そして剥き出しになった人工心臓をカワセミが飲み込み、消えて行った。人工心臓の無くなったハックの生命維持時間は精々三十秒あるかどうか。
だがどうやっても助ける方法はない。どうにかしてリタイアさせれば兵助かタルベまたは両者が助けてくれるかもしれないがそんな余裕が存在しているはずもない。
見捨てるしかない。
「すまないハック!また会おう!」
「…うっす……」
そのままハックは仰向けになって倒れた。MK-Ⅱの動きはドンドン遅くなり次第には完全に動かなくなった。そしてその時告げられる残り二人の通知。
《チーム〈能力取締課〉[name ハック] 死亡 > 佐須魔》
ライトニングはほんの一瞬考えた後ファストに最後の質問をした。
「お前は、黄泉に行きたいか?」
ファストは理解した。
「いえ、面倒なので。私はここで本気を出し、崩壊して完全死にます」
限界を超える。一回、または二回攻撃出来れば結構。そのレベルで体に負担がかかる、顔のヒビも昔誤って速度を出し過ぎた時に出来たものである。
当時は怖かったが今となれば怖くなど無い。むしろ誇らしい、name ライトニングという人物のために死ねるのならば。
「それじゃあ、さよなら」
佐須魔の右手から鈍い音が鳴った。
第四百十三話「迎え」




