第四百十二話
御伽学園戦闘病
第四百十二話「目覚め」
傀聖はたった一本だけ剣を創り佐須魔向かって走り出した。ボロボロで力も足りない、サポートもMK-Ⅱしか出来ない、そんな絶望的状況にも関わらずとても勇敢に立ち向かっている。
ハックは何と起こそうとっしながらその姿を見て少し感心してしまう。どう考えてもこのままではシヴァか佐須魔に殺される。それは本人も理解しているだろう。だが仲間が動ける状態になるまで時間を稼ぐ、ろくに攻撃方法が残っていない自分に出来るのはそれぐらいだと言う事も理解しているのだ。
「百掩内なら俺だって…」
「無理だよ、君は何処まで行っても紛いものだ。僕は違う、本物の神なのさ。諦めた方が良い、間違えて魂まで破壊しちゃうかもしれない」
「だからってこんな中途半端な場所で終われってか?俺はまだまだいけるぜ」
「まぁそれが最終的な決断って事だね。なら捻じ伏せるだけだね。シヴァ、やってくれ。全員魂まで破壊して良いよ」
次の瞬間動いていなかったシヴァが動き出した。ゆっくりと近付いて来る。まずは傀聖から潰そうとしている。誰も助けに入れない。傀聖は佐須魔とシヴァ両方の攻撃を避けなくてはいけないのだ。万全な状態であったら可能かもしれない。だが今は違う、式神の攻撃によって体はボロボロ、五体満足で生きているだけでも奇跡に近いのだ。到底一人で捌ききれる戦況ではない。
かと言ってMK-Ⅱはシヴァの超攻撃空間に入ってしまった時点で破壊されて使い物にならなくなってしまう。ハックは人工心臓のコピーで何度でも生き返れるのだが傀聖に言われた通り起こす事に専念したい。
「ねぇ傀聖最後に聞かせてくれ、何で君は僕らを裏切ったんだ」
「勘違いも良い所だな。俺は裏切ったんじゃねぇよ、最初からお前らの味方じゃないだけだ」
「そっか、悲しいね」
シヴァが突撃する。傀聖は完全には避けられず左肩が超攻撃空間に触れ崩壊した。今まで感じた事の無い痛み、だがそれ以上に集中力が上がっている気がする。もしかしたらゾーンにでも入ってしまったのかもしれない。
いや違う、正体に気付くにはそこまで時間がかからなかった。百掩を覆うようにして結界が張られている。
『雑音が耳に入らないようにした、行け』
シウの声だ。
「助かる」
だが少しずつまぶたが重くなっていく感覚がする。何故だか眠くなってきている。
「限界なんだろ。もう終わらせよう」
『肆式-弐条.両盡耿』
他の全員を含めている両盡耿、どうすれば良いか考えた結果MK-Ⅱに指示を出した。
「全員連れて出ろ!!」
MK-Ⅱは今出る最速で皆を掴み百掩から飛び出した。だが傀聖は出れない。百掩の発動者は解除しなくては範囲外には行けないのだ。ただ解除してしまうと佐須魔とシヴァを自由にする事になり傀聖の神化も解けてしまう。
本気で殺しに来ている佐須魔にそんな好機を与えてしまったら本当に一瞬で全滅だ。なので傀聖は自分自身の体と命を失う覚悟で百掩内に留まったのだ。
「一旦賭けようぜ、佐須魔」
「まぁ良いよ」
光に包まれる。数秒後光が明ける。そこにいたのは両手両膝を地面につけて倒れ込む傀聖と何も無かったかのようにして立ち尽くす佐須魔の姿だった。
賭けには勝った。生き残れば良いのだ。百掩も死ぬまで解除するつもりは無い。今ならそれが出来る気がする。本来ならばここまで体力と霊力が無くなれば術なんて使えない筈である。これもシウの結界のおかげだ。
「本当にしぶといね、もう良いよ。シヴァやって」
突撃、超攻撃空間による完全なる破壊。体が動かない、避ける術が無い。死ぬ。
「任せますよ、三人を」
体が引っ張られ、放り投げられた。視界に入ったのはフラフラになりながらも何とか庇ったハンドの姿だった。
「あ…」
そんな声しか出ない。
次の瞬間ハンドは超攻撃空間に入り、粉々になって消えた。
《チーム〈能力取締課〉[name ハンド] 死亡 > 佐須魔》
「ハンド!!!」
ハックは未だ起きない二人を置いて百掩内に飛び込もうとする。だがMK-Ⅱがそれを阻止し、代わりに入った。
「…もう…指示も出せねぇぞ…」
MK-Ⅱはコクリと頷いてから剣を一本傀聖に渡す。もう創躁術を使っている余裕は無いと判断したのだろう、正解だ。
そしてMK-Ⅱは傀聖を庇うようにして戦い始めた。学習を重ね俊敏かつ惑わせる動き、本当に人のようだ。ここまで優秀な機械を作れるハックは恐ろしい。だがそんなハックは今冷静ではない。いつ飛び出して死んでしまうか分からない、傀聖はそれを止めなくてはいけない。戦えないのだからそれぐらいはする。
「死んでくれ」
『壱式-壱条.筅』
対象はMK-Ⅱ、このままでは破壊されてしまう。だが回復した霊力は精々武器を一個作れる程度、十円玉さえ爆破出来ない。ハックも何をしても間に合わない。ベベロンもルフテッドも絡新婦もいない。
何とかして阻止しなくてはいけないのに何も思いつかない。体が止まりそうになったその時であった。
『投げて!!』
それは桃季の声だった。傀聖はその言葉に引っ張られるかのように槍を創り出し、佐須魔の首元目がけて投げた。だが普通の投擲では間に合わないし威力も足りない。そもそも弾かれておしまいだ。だが桃季が『阿吽』を使ってまで命令した理由がここにある。
小さな爆発、槍の速度格段に向上させた。佐須魔は予想もしていなかった。槍は喉元を貫き、発動帯を少し引き裂いた。第六形態破壊とまでは行かなかったが筅の発動を止められた。
「透か」
これが透の残した術。今起こった爆発の正体は烙花蟲の霊力放出を応用しただけ。発動権や操作は全て神龍宮 桃季に委ねられている。桃季がそれを自覚したのは数秒前だった。
何としてでも一人残したかった理由はこれだ。現在島全体に向けて桃季は潜蟲を除く全ての寄生虫を呼び出し、動かし、寄生させる事が出来る。だがその分霊力消費が凄まじい。
ただそれをカバー出来る人物がいる。[多々良 椎奈]である。バックラーの能力は霊力の付与、ほぼほぼ霊である椎奈は常人より霊力を生成する速度が速い。なので供給は問題ないのだ。
「これがあの独術の正体か…結構面倒だね、シウと良いサポートに徹して来る……でもさ、傀聖はもう武器を創れない。その機械だって次の筅は避けられないだろ?」
「あぁ…そうだな…」
「ならもう一回撃てば、僕は勝てる」
『壱式-壱条.筅』
再度MK-Ⅱに向けての筅、今度阻止する手段はない。ただしそれは無傷で阻止する手段が無いと言う事、身を挺するのなら幾らでもやり方はあるのだ。
「まぁ、いいか」
筅による攻撃が始まりそうになったその時、傀聖はMK-Ⅱを突き飛ばし自分が対象となった。佐須魔は止めない、傀聖に向けてでも嬉しいからだ。
そして周り、切り裂いていく。痛みすら感じない。ただただ眠い。もう目を開いているのも困難だ。ゆっくりと目を閉じたその瞬間倒れた。
百掩が解かれ佐須魔が自由になった。
「…嘘だろ…」
ハックは絶望する。もう無理だ。MK-Ⅱだけで佐須魔とシヴァを相手出来る訳が無い、製作者であるハックがそう思っているのだからそうなるだろう。
打つ手はない。完全に抑え込まれた。だが第五形態まで削ったのだ、充分仕事はしただろう。それにここで死ぬ覚悟は出来ている。文句は無い。皆頑張ったのだ、もう終わっても良いだろう。
諦めて降伏しようとしたその時だった。
目を覚ます。
「ようやく、解除か。すまない、ようやく霊力生成が追いついた。終わらせようハック、ファスト。ハンドとパラライズ、それに傀聖が繋いでくれたんだ。何もせず終わる事だけは私が許さないぞ」
「うん。早くして、ハック」
「…あぁ。しょうがねぇな」
三人が立ち上がる。ようやく目を覚ました。傀聖は何とか仕事を終えたのだ、時間を稼ぐことに成功した。
起き上がったのだ、リミッターを外した最強の一人が。
第四百十二話「目覚め」




