表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
411/556

第四百十話

御伽学園戦闘病

第四百十話「ナメクジ」


「さぁ行きますよ」


ハンドは感覚で理解していた、既に能力は元に戻っていると。ナメクジの降霊術、一見弱く見えるはずだ。だがそれはハンドが何のサポートも出来ない場合である。外の世界で隠密能力者として暮らしている頃から訓練は積んでいた、親にも秘密で。やはり自分自身を守れるのは最終的に力以外有り得ないと考えていたからだ。

ただ能力が変化してしまい使いどころが無かったこの術、ここでなら。


『降霊術・唱・虫』


たった一匹のナメクジ、サイズも普通のものに比べるとデカい程度、精々手の平に収まるぐらいだ。正直気持ち悪いが問題はそこでは無く耐久性にある。

このナメクジは耐久力が終わっており軽く踏まれる程度でも死んでしまう。当然妖術なんてどれも耐えられない。なので(ハンド)は開発した、こんな雑魚でも戦えるようになる術を。


『妖術・魚拓(ぎょたく)


これは今までの誰もが作れなかった効果を持っている。状態の保存、謂わば対象のみの巻き戻しが可能なのだ。そして保存されるのは状態のみ、位置は変わったりしない。

簡単に言えばこれを何度も発動しておけば絶対に死なないのだ。


「今まで誰にも教えてきませんでした。それもこの時のためです」


「…ふーん、状態の保存、良いねそれ。僕も使いたい。でも何か変だね、良く分からない霊力の流し方だ」


「私も知りませんよ、適当にやってたら作れただけですから」


「そっか。まぁいいや、なら用は無いね」


『降霊術・神話霊・シヴァ』


既にシヴァの降霊は解いてある。ここから負けることは無いはずなので霊力消費を抑えたいのだ。


「…行きなさい」


ナメクジが特攻を仕掛ける。このナメクジは耐久性やサイズに難があるものの力や速度だけならそこまで問題ではない、充分に戦える一般的な上霊だ。

だが攻撃性は非常に低くシヴァを倒すなんて不可能に近い。他の皆が起きるまでの繋ぎでも良い、とにかく時間を稼ぎたい。そのためには強すぎず弱すぎない攻撃を繰り返し警戒を継続させるべきだ。

ナメクジがシヴァのすぐそこ、超攻撃空間のすぐそこまで近付いた瞬間に唱える。


『妖術・反射』


正直反射でも上反射でも対して変わらないのでどちらでも良いが跳ね返ったエネルギーが佐須魔に当たればラッキーなので反射にした。そしてそれだけではない、既にナメクジではない時代に一人の少年が作り出した術でさえもここで完全にコピーし使用する。


『妖術・旋甲』


ハンドが記憶も無く常識も変わった世界で生き残り、能力取締課に入れた理由は適応力がずば抜けて高いからだ。目が覚めてすぐに困惑でパニックになり事件を起こすでもなく薫と翔子の話を冗談だと聞き流さずしっかりと頭に入れ、その後求人ポスター見てからたった一日で街中を練り歩き現代に適当した。

それは(ハンド)自身の特性であり強みでもある。今まで発揮してこなかった理由は単純に使える場面が無かったからだ。だがナメクジに戻った以上妖術が使用可能になった。術の中でも術式に次いで汎用性や拡張性が高い現代の妖術に対して適応せず古臭い型落ち術ばかり使っていては勝てないと一瞬にして理解したのだ。


「凄い才能だね」


呟く佐須魔は突っ込んだナメクジによる超攻撃空間の反射を全てかわし反撃の手を打つ。戻って行くナメクジに攻撃を試みる。


『妖術・遠天』


シヴァではなく佐須魔自身からだ。指さきから飛び出したエネルギーは反射が切れたナメクジに確実に当たり、当の虫ははじけ飛んだように見えた。だが次の瞬間元気ピンピンの状態へと戻りハンドの元へ戻った。


「これじゃあ無駄だね、なら本体だね」


『玖什玖式-壱条.閃閃』


遠天と同じ様に指先から稲妻が飛んだ。今度はハンド本体に向けてだ。


「そんなのが通用するのならば私はとうのとっくに死んでいます」


『人術・砂塵王壁(さじんのおうへき)


「生徒会の皆さんが作り出した術、あの"伽藍経典 八懐骨列"さえも凌ぐ砂の壁ならばそんなものへでもありません」


その言葉通り弾かれた。まさか砂塵王壁(さじんのおうへき)まで使えるとは思ってもみなかった。想像以上に才能がある。TISに所属していたら全員集合している中でも蒿里に並ぶ人材になっただろう。本当に勿体ないと思うと同時に少しだけ楽しめそうだと能動的に思った。


「それにしても凄いね、隻眼とかでも一瞬普通の赤眼挟まなきゃいけないのに、最初からちゃんとした碧眼って」


「覚醒してるんですね、私。正直関係無いです、自分で言うのは少々はばかられますがこの実力は完全に私の実力と才能によるものですから」


「そうだね、僕もそう思うよ。君は普通に天才だ。ただ所属する組織を間違えたんだ。能力取締課じゃなくて僕らTISに来ていれば今頃蒿里に並ぶ無数の手札を持つ強者になれていただろうに…」


「違いますね。私の強さの根本は"彼"です。彼はあなたがたに味方をしない、サルサ・リベッチオがそれを証明している」


「…へぇ、ラックに助けられてたんだ。やっぱあいつ何処にでもいるね、他にも数人関わってるらしいし。正直どんな事を話したのかとか何を貰ったのかとか聞きたい所だけど…時間も無いし答えてくれないだろうね。君達は無駄に頑固だから。

とりあえずラックと関わっていた、それだけ分かれば充分さ。ありがとうね、情報をくれて。せめて安らかに黄泉に行ってくれ。あっちは悪い所じゃない」


参式(さんしき)-壱条(いちじょう).騎弦星己(きげんせいき)


三匹の霊がハンドを中心にして三角形を作るように囲む。人神、猫神、虫神だ。そして三人を基として脱出不可能な空間を作り出した。

まだ終わらない。参式はこれがあってこそ参式と呼べる。


参式(さんしき)-弐条(にじょう).研仙鳥碧(けんさんちょうへき)


空から山が振って来る。空間を綺麗に埋め尽くす形をした山が垂直に、ハンドや周りに倒れている他の皆をまとめて押しつぶすように。前大会でこれを使われた礁蔽はポケット南京錠で抜け出したがハンドにそう言った手はない。

パラライズは既に死んでしまった。ライトニングも今起きた所で大した力は残っていない。傀聖も十円玉一枚しか持っていない。ハックとファストは起きても何も出来ないだろう。

結局はハンド一人で何とかしなくてはいけない状況。まるで走馬灯のように戦闘の報告書、謂わば戦闘詳報の文面が映像のように流れどの術を使えば良いのか探そうとしている。

そこで一つだけ有効かもしれない術を思い出した。上手く使えるかは分からない。既に手に変化してから生み出された妖術だ。だがこれがいけるのなら皆を助けられる。警戒度は引き上げられ更に強い術を放たれるやもしれぬがここで全滅よりは幾分もマシだ。


『妖術・戦嵐傷風』


これで山を吹っ飛ばすなんて馬鹿な事はしない。中心は一番軽そうな虫神だ。賭けになる、結界を作り出している三匹の位置がズレた場合既に生成された山のサイズは変化するのか、そして結界はどう変化するのか。

少なくとも取締課の情報には書いていなかった。菊も良く知らないらしい。なので恐怖は凄まじい。四人を抱えるのは大変苦しいが一瞬で明けた嵐、虫神がいた場所に飛び込んだ。

失敗だったら阻まれて死、成功だったらそのまま飛び出せる。


「あちゃー…これ俺来る意味無かった感じか?」


一瞬だけ男の声が聞こえたような気がするが途轍もない衝撃と爆音でかき消された。そして生きている。全員無傷だ。何ならハックは爆音で目を覚ました。


「良かった…本当に危なかった…」


どうやら賭け自体には勝ったらしい。だが次の瞬間、顔を上げたそこには刀迦が立っていた。見下すようにして柄に手をかけている。死を悟った。


「何をしている。お前の相手は私だぞ、神兎 刀迦」


すると森の方からルフテッドが出て来た。


「來花は」


「どうなったんだろうな」


含みを持った言い方、刀迦は瞬時にルフテッドの方に斬りかかりそのまま姿を消した。何故刀迦がここまで来たのかは分からないがとりあえず助かった。

立ち上がり、ハック以外を少し離れた所に寝かせておく。二人ならば時間を稼ぐことは簡単、しかもハックだ。ここに来て一番嬉しい人物でもある。

力だけならばライトニングか傀聖が適しているが絆は段違いである。創設時の三人は本当に様々な苦難を共にしてきた。勿論戦闘面でも。それ故に連携は何の合図を出さなくとも可能であるため力が足りなくてもそこまで問題は無いのだ。


「もう一人起きたか。まぁいいや。戻ってこい、三匹」


神格三匹は還って行った。


「パラライズは死にました、そして私が喰いました。思い出したんです、彼は私が願って神に作らせたアンスロモドキ…」


「でも仲間だろ」


「台詞を取らないでください。確かに仲間です。私は彼を守れなかったことをとても悔いている。ですが恐らく私達はここで死ぬでしょう。ですのでどうかあなただけでも黄泉に送り、他の皆さんに繋ぎたいのです」


「良いな。復讐は何も生まねぇぞ」


「えぇ、私達ならば良く知っていますね。私達、三人ならば」


ハックは少しだけ嬉しそうに肘で小突いてからパソコンに目を移す。その間ハンドは徹底的に守護を行う。パラライズがいない以上こうするしかないのだ。

だが佐須魔は攻撃しなかった。それよりも一瞬だけ聞こえた男の声にどうしても意識が持って行かれていた。仕方のない事である、何故ならそれは記憶の刷り込まれた短剣を使用している際に聞いた声であったから。


「よっしゃ行くぜ、ハンド」


「えぇ、全力で護りますよ、あなたの事」


「それじゃ頼んだ」


ハンドがエンターキーを押したその瞬間、傀聖を除く能力取締課全員の"邪魔(ストッパー)"が解除された。



第四百十話「ナメクジ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ