第四十一話
御伽学園戦闘病
第四十一話「決死の抵抗」
呪いは和傘を振り上げ、ラックの首を斬った。ラックは負けを認めて目を瞑り、自分が死ぬのを待った。するとラックのうなじに何かが当たり食い込んで来ている感覚"は"覚えた。だが何秒経っても骨が断ち切れる事はなく、それどころか引き抜かれた、困惑しながら顔を上げると呪いは傘をしまい來花の側に戻っていた。
「は?」
「言っただろう。私は君達を殺す気はないと、だが君は負けた。それで決着だ」
「は?」
「だからそこで神達が来るまでじっとしていてくれ」
「…おい」
ラックは怒りを表に出し眼鏡を外し、怒りで血管が浮く拳で思い切り変曲、握り潰れされた。來花はラックの諦めていないとも、負け犬の抵抗とも感じ取れる高圧的な声に少し呆れながらも聞き返す。
「何だい、その態度は」
「何で殺さなかった?」
「少し前に言っただろう、同じぐらいの年の子が…」
「そんな話してねえんだよ」
「どういう…」
「なんで殺さなかったって聞いてんだよ」
「君は日本語が理解できないのか?」
「ふざけてんじゃねえよおっさん、何で本気の戦闘で相手を殺さなかったと聞いてるんだよ」
「私は本気など…」
「嘘をつくなよ、十分本気の一角出してたじゃねえか」
「…」
「俺に慈悲なんていらねえんだよ。さっさと殺せ」
「だから私は…」
「もういい、お前が死ねよ」
そう言った時にはラックは來花の首を絞めながら持ち上げていた。抵抗するが何故かラックを引き剥がす事が出来ない、理由は不明であった。何だってラックは『呪・封』で身体強化が使えないはずだ、だがラックは間違いなく常人の力ではない強さの握力で首を絞めているのだ。
流石にヤバいと思い自心像に指示を出した。自心像は傘を突き刺したがラックは怯まず恐ろしく鋭い、どこを見られているのか鮮明に分かる程の目線を向けながら來花の首を締め続けた。
來花は声とは言えない様な掠れた声によって発せられる術を使用すると言う力技で対処する事にした。
『呪・コトリバコ-八懐』
そう唱えると來花の服の中から木箱が自発的に飛び出しラックの頭上で止まった。すると箱の中から灰色の煙が現れ、ラックを包み込む。その煙の中の霊力は凄まじいものでその空間の九割後半、下手をしたら十割を占めているかもしれないほどの霊力の強さだ。
そんな煙に包まれたラックは当然息が出来なくなる筈だ。それに加えて先程までの戦闘の傷も相まって流石に立ち上がれないだろうと思って、だが気を抜かずにジッと煙を見つめいつどんな事が起こってもいいように身構えていた。だがその身構えは虚しい事だったと思い知る。
何故なら目の前には満面の薄笑いを浮かべながら確実にみぞおちを狙って拳を突き出したラックがいるんだ。
その瞬間來花は後方に吹っ飛び半身だけ大穴に落ちそうになった。だが痛みに呆然としながらも立て直し浮遊をしながら宙に逃げた。
「何故だ?何故八懐さえ効かぬ…」
「あぁ!?お前は呪いの基礎も出来てねぇのかよ!」
「どういう意味だ」
「呪いが効かない対象って言うのは二つある、一つ目が実力が倍以上の呪使い。もう一つ、これは能力全般に言える事だが霊力が一切無い奴、これだけだ!」
「まさか…いやだが…彼の霊力はそう簡単に無くなる量では…しかもあれ程の力を…」
「調査不足だったな!俺は血流透視っての持ってるんだ、そんでもってその血流透視は驚く程に霊力の消費が激しい。あとフィジカルに関しては俺の実力が半分だ、長年力だけはつけてきたんだ。舐めるな」
「だがさっきまでの戦闘ではそんなに霊力消費は…」
「何言ってんだ?お前のお仲間も同じ事してんじゃねぇか」
「まさか…!神の目隠しのように眼鏡で!」
「大正解だよ。じゃあどうする?お前の十八番の呪いは効かないぞ!」
「馬も虎もいない…ならやる事はただ一つ。殴る」
まるでロケットの様に突撃し腹部を蹴り上げた。ラックはあまりにも速い動きに少し混乱しながらも次の攻撃が来る時のために状況把握を試みるが、体勢を立て直し、顔を上げた時には既に頭上に浮遊していた。そのまま後頭部に踵を振り下ろして来る、ラックは対応出来ずそのまま地面に叩きつけられた。
だが攻撃を止まらずラックの髪の毛を掴み持ち上げ何度も腹を殴りつけた、身体強化が使えないせいで逃げる事も出来ずただもがく事しか出来ない。
「私は能力が使えない状況で神にも勝てるぐらいには強くなった。身体強化も何も使えない君なんかに負けるわけがないだろう。覚えておけ、私はただの能力者では無い、三獄だ」
「黙って…殺せよ!」
「…何故そこまで殺生に拘る」
「拘ってるわけじゃねぇよ、決闘ってのは片方が生きて片方が死ぬ、そうやって出来てんだよ」
「私はそうは思わないがな。そもそも私は決闘などしていない、今しているのは時間稼ぎだ」
「ちなみによ、佐須魔ならもう来てるぜ?」
「なに?」
「上、見てみろよ」
そう言いながら天に向かって指を突き立てた。來花はその指を追って空を見てみる。すると真上には浮遊して手を振りながら楽しそうに笑っている佐須魔がいた。來花はそれを見て呆れながら叫ぶ。
「何故こっちに来ない!」
佐須魔はゆっくりと降下しながら質問に答える。
「ん~?見てて面白いから!」
「…さっさとこの子の記憶を消して他の子の記憶も消してあげてくれ」
「いやーとりあえず僕は記憶消す気はないよ」
「何故だ!!」
「來花復活後の初戦闘だからウォーミングアップ的な意味も込めてさ、戦おうよ」
「…もう良い、話にならないな。じゃあ戦闘が終わったら記憶を消してあげてくれ」
「しっかり勝てたら、ね」
「…早く神達の所に行って記憶を消してくれ」
「あーちなみにまだ神達の戦いは終わってないよ」
「は?」
「ま、いいや!じゃ~ね~」
來花が引き留めようとするが全くと言っていい程聞く気配は無く再び空中に舞ってから、黒い怪物がいる方向へと飛んでいった。來花は佐須魔がいなくなったことを確認してからラックに向かって拳を振り上げ再び何度も何度も殴りつけた。ラックは抵抗できず至る所から血を流し激痛に耐える、遂にラックは動かなくなる。ただ來花の攻撃を受け入れる事しかしなくなった。その頃にはラックの顔は血で塗りたくられ真っ赤になっていた。
「もうやめよう。私もこんな事やりたくないんだ」
「…」
「声も出ないじゃないか。もう止めよう」
ラックを地面にゆっくりと下ろし地面に寝かせ、佐須魔を呼ぶ為に背中を向けた。すると後方から掠れてほぼ聞こえないような声で引き留める。
「待てよ…」
「私はもう君を殴りたくない」
「うるっせぇ…俺はお前の意見は聞いてない…」
ラックはゆっくりと立ち上がった。血が足りなくなってきたのかフラフラとしている、それを見てラックにはもう戦闘できる程の余力は無いと思い放っておいても問題は無いだろうと判断した來花は再び背中を向け歩き出した。だがラックは全速力で距離を詰める、來花もそれに気づき振り向いたが少し遅かった。
「一般人より回復力が高くて得したぜ」
來花の顔に回し蹴りをくらわせた。來花は信じられないほど吹っ飛び数件工場の壁を突き破った。だが一瞬で工場内から飛び出してラックを押さえつけた、來花の鼻からは少し血が垂れて来ている。
「回復力が高かろうが回復させなければいいな」
そう言ってラックのうなじを叩こうとした瞬間だった、來花の服や肌が急に切れた。しかも何箇所も一気に切れた、何が起こったかと思い周囲を確認すると正面に三人の子供が立っていた。
一人は赤ジャージの長髪金髪の背の低い女の子。もう一人は水色の髪をしている短髪のセーラー服を着ている少女?だ。そしてラックが見慣れている少年、[櫻 流]だ。
「おっせぇよバカ共」
「ごめんねラック。色々と会議があって」
「流、来たか」
「誰だよお前」
「三獄の一人[翔馬 來花]だ」
「あっそう。ラックはもう限界だ、僕達だけで勝つよ!」
「はーい」
金髪の少女の名は[コルーニア・スラッグ・ファル]、圧倒的な俊敏さで敵を圧倒する中等部三年生だ。
「分かりました。流先輩!」
もう一人の水色髪の少女は降霊術と念能力を操る中等部二年生、[風間 宗太郎]。
三人が戦闘体勢に入った。なんとか援軍が来るまで耐える事に成功、ラックは力を出し切ったのか死ぬように目を閉じた。
助けに来たのは計五人、内三人が來花の前に立ちはだかった。残り二人の内の一人は死にかけの同級生を助けながら戦い、一人は少年に導かれ見るも無惨に横たわっている少女を見下ろし、ただ立ち尽くす事しか出来なかった。
佐須魔は援軍が来たことで追い詰められている仲間を助ける事などせずただ上空から戦闘を見て楽しむばかりだった。
第四十一話「決死の抵抗」
2023 10/20 改変
2023 10/20 台詞名前消去




