第四百七話
御伽学園戦闘病
第四百七話「第二形態」
檻の役目を果たす武器は常に動き、鉄の音を鳴り響かせている。実に異質、不気味とも言える。だが鑑賞している暇などない。傀聖は手にした佐須魔に見せつける。それには当然見覚えがあった。
刀身はボロボロ、さながら圧倒的な力を感じさせる姿形。それが模倣品だと知りながらもこの空間で傀聖が何をするかなど分かったものじゃない、もしかしたらやって来るかもしれない。
「岬、神殺しの武具の一つ、一時的な神への昇華。お前はこれと神の手助けによってそこまで強くなった。でも俺は神に好かれていないらしい。
だからそこまで完璧には出来ないかもしれないけどよ、百掩内出来るかもしれないぜ」
ニヤッと笑いながら模倣品に霊力を流し込み力を解放する。その瞬間傀聖の体には溢れんばかりの気力が湧いてくる。だがそれおT同時に自身の体が耐えられない事を悟る。だからと言って中止出来る程甘いものでもない。
これは神を殺すために作られたのだ、人智を越えた力に抑制などあっていい筈がない。そして本人もそんな事理解している。なので止めない、何があっても。体が崩壊したとしても。こうでもしないと戦えない、それが佐須魔だ。
「やめた方が良い、死ぬよ」
「やめろって言われてやめる馬鹿が何処にいるんだよ」
体が書き換わって行く感覚がする。自分自身なのに全てに違和感がある。ただ気持ち悪くはない、本当にただ違和感があるのみ、それ以上でもそれ以下でも何でもない。とてもとても不思議な感覚だ。
力を解放してから十秒後、岬は消えた。そして傀聖の体はそこまで大きな変化を見せていないものの霊力放出から解る程強くなっている。
「やるか、どれだけか」
「良いよ、紛い物じゃ届かない世界があるって事教えてあげるよ」
傀聖が次に作り出したのはまたまた見覚えのある剣であった。名を剣、全てを破壊する正真正銘神の力を備える武器の一つである。現在島には絡新婦が来て災厄と戦っているのも感知出来ている。そうなるともしかしたら本物かもしれないと言う疑念が浮かぶ。
もし本物なら百掩内で戦うのは少々好ましくない。破壊の力は佐須魔にも通用するからだ。だが抜け出す方法も無さそうだ、仕方無く佐須魔も対抗策を取ってみる事にした。
『降霊術・神話霊・ウロボロス』
再度ウロボロスを呼び出した。紫電に耐えられなかった時点である程度予測は付いているが一応模倣品なので耐えられるかもしれない。
そして耐えられなかった時の保険は既にある。正直言って佐須魔が負けるビジョンなど思い浮かばない。
「行くぜ」
剣を手にして突っ込んだ。先程とは見違える速度、佐須魔も一瞬目で追えなかった程だ。そしてウロボロスのすぐそこで立ち止まり、思い切り剣を振るった。
力を溜める時間も余裕も無い、どうせ当たったら崩壊して死ぬのだ。それに握っている自分自身でさえも壊れて行くのだから長期戦なんてもってのほか、霊に何か構ってられないのだ。
そしてくらったウロボロスは一瞬にして崩壊した。
「やっぱり駄目か、結構駄目なケース多いね、ウロボロス。まぁいいや」
《殺してくれ》
〈しょうがないなー〉
模倣品の力には模倣品の持ち主を。どちらが勝つかは明白、このまま押し切る。
式神が傀聖に攻撃を仕掛ける。だが傀聖も同じくして攻撃を仕掛けたその瞬間であった。
傀聖と佐須魔の決定的な違い、それは今現在仲間のサポートが受けられるかどうかである。
『パラライズ』
動きが止まる。当然見逃すはずもなく傀聖はぶった切った。式神は一瞬にして崩した。佐須魔の保険は消滅したと言っても間違いではないはずだ。
ならばどうするか、保険なんて甘い選択肢を封じ本気で殺しにかかってくるはずだ。
『呪・封』
試してみたが意味はないようだ。やはりここでは傀聖が常に強者の位置にあるので佐須魔如きでは力を封じる事なんてできないのだ。だが対抗は出来る、完全に力で封じる線に切り替えた。
身体強化をフルで、それでも充分戦えるとは思えるのだがまだまだ強くする。
『降霊・シヴァ』
破壊神の力をその身に宿す。それがどれ程危険でどれ程の工程を省けるだろうか、使わないと言う手は無いに等しい。この力で傀聖を殺す。
一気に距離を詰めてアッパーをかます。傀聖は避けずに剣を振りかざした。佐須魔は攻撃を中断してしっかりとかわした。崩壊は佐須魔であっても防げない、どう足掻いても死んでしまう。
なので一撃もくらってはいけない状況なのだ。そして相手にはサポートが何人もいる、しかも最強の一角ライトニングだっていつでも乱入出来る様構えて待っている。
ここまで追い詰められたのは薫の花月ぶりだろう。だがあの時に比べたら少し物足りない、笑えない。
「やっぱ面白くないや」
今度こそアッパーをかまし一瞬怯んだ所で蹴りをくらわせた、腹部にだ。当然吹っ飛んで剣や斧にぶつかった。当然刃の部分が多少は突き刺さったりして血が出る。これが百掩の強みでもあるのだろう。だが最初に利用されてしまった。
そもそもこんなちゃちな傷佐須魔にとっては痒みとさえ感じないはずだ。閉じ込めているはずがもしや引くに引けない状況に持って行かれた、逆に閉じ込められているのではないかとこの一秒で考えてしまう。それほどまでに佐須魔の攻撃は速く正確で痛かった。
だが傀聖だって覚悟は決めている。負けるなら仕方が無い、割り切るしかないのだ。立ち上がり再度距離を詰める。今度は佐須魔が受ける状況、どうやって来るかと思った次の瞬間こう言った。
『リバーサルキラー』
レイチェル・フェリエンツの能力であった『リバーサルキラー』である。くらわせた相手には勿論即死級の痛みを与え、万が一死ななかった場合にも霊力を段々と減らしていく効果付きである。現在この世にキラータイプと呼ばれる即死級の痛みを起こす念能力は二種類しかない。佐須魔のリバーサルキラーと流のインストキラーだ。
何故二つになったのだろうか、タイプと付くならば前例がそれなりにあり知られていたはずだ。答えとしてはラックが消した。あまりに強い力であるために危険視されラックとサルサによって能力を断たれていったのだ。あくまでも暴力ではなくマモリビトの力を使ってだが。
マモリビトが強すぎるとさえ判断したこの力、戦闘初心者である傀聖がくらってしまったらどうなるだろうか、ひとたまりも無いだろう。
「いやー取り合ってて良かったぜ、兵助様様だな」
次の瞬間ハックのドローンによって佐須魔の口が塞がれた。それに一体何の意味があるのか佐須魔には分からなかった。だがこれはコールドスリープ、即ち死に近しい状況から目を覚ましてすぐにインストキラーを見た兵助だったからこそ感じ取れた特性であった。
突然変異体と話をつけようとしたあの夜、優衣を別部屋に移してでも二人で話したかったのはこの事なのだ。キラータイプの特性、主に放出する時の癖のようなものだ。
術名を口に出してから霊力を放つ。その時エネルギーは何処から発射されているのだろうか、単純に考えれば体全体だ。ただ流のインストキラーはとてもそう思えなかった。まるで口"だけ"から出ている様に感じたのだ。
そして大会が始まるすぐ前、短い期間だったが崎田や薫、他数名の協力によって遂に判明した。キラータイプは術名を口に出すと霊力が口から放出される、と。流や佐須魔は無意識下で発動条件を達成していたのだ。
それは良いのだが一つ疑問が浮かぶ、無理矢理口を塞いで霊力を前に出させなければどうなるかと。それも流で実験した。崎田が作り出した霊力吸収ガーゼを能力発動と同時に噛ませてみる事にした。単純に考えれば霊力は吸収されてガーゼが粉々になるぐらいだろう。
だが予想を遥かに超える出来事が起こってしまった。ガーゼによって吸収されるかと思っていたエネルギーは完全に流に跳ね返り瀕死になったのだ。
元々反動が強い能力ではあるのだがこんな条件でも反動が来ると新しい発見となった。
「悪いがお前は既に俺の手の上だ」
ハックがろくに動かなかった理由もこれである。咄嗟に動かせるのはドローンだけ。だがむやみに接触させるとドローンがギアル製だとバレるかもしれなかった。この時のためだったのだ。とても限定的ではあるが決まったらチャンスが格段に多くなる。何故なら丸ごと跳ね返るのだから。リバーサルキラーは霊力を減らしていく、霊力割合が高い佐須魔にとってそれは致命的だ。
血まみれになって一瞬の狼狽を見せた。次の瞬間二人が動く。硬貨はあと二枚、五十円玉が一枚と十円玉が一枚だ。五十円をセットした槍を放ち、そのまま剣で特攻する。
そしてここでライトニングも動いた。
『紅剣・ライトニング-雷豪』
大会に出ると決めてから作り出した術、これは霊電の蓄積を完全に無くすというデメリットの基次の一撃において全てを超強化するというものとなっている。
二人だけでもない、ファストも最高速度で蹴りをくらわせようとしている。
全員が一瞬、避ける間も与えなかった。それに避けられるはずもないのだ。
『パラライズ』
確実に当てられる、三人の攻撃が一気に当たった。槍が突き刺さり胸部を貫通。その後剣による攻撃で右腕から崩壊が始まる。それだけではなくファストの蹴りが顎にヒットし脳が揺れ再度一瞬の油断が出来る。
その瞬間同時に傀聖とライトニングが斬りかかった。傀聖は左腕、ライトニングは喉元に。
今までの苦戦は何だったのかと言いたくなるほどスピーディーに決まった。このまま殺してしまおうとした次の瞬間の事。
『邪魔だ、退け』
佐須魔の鼻の頂点辺り、小さな球体が浮いていた。
その武具の名は[権威]、神殺しの武器の一種。効果は権威の証明。謂わば言霊の簡易及び強化版である。
逆らう事は出来ない。全員が距離を取った。また追い詰められてしまうのだろうかと思う。だが先程とは違う、見えているのだ勝利の眼差しが。
何故なら先程の攻撃によって佐須魔の第二形態は破壊されたのだから。
第四百七話「第二形態」




