第四百六話
御伽学園戦闘病
第四百六話「発動」
ライトニングは驚く皆と合流し事情を話した。絡新婦が災厄を足止めしてくれるので今の内に好きな事が出来る。佐須魔は恐らく戻ってきている。
「というかベベロンは本当に智鷹をやったのか」
「やったぜ、頭を一発ぶち抜いてやった」
「殺したのか?」
「多分佐須魔の回復が間に合うと思う、だからまた出て来た時はもっかい潰してやるだけだ」
「頼もしいな。ひとまずルフテッドは來花と戦っているようだ。その内刀迦も合流しそうだな…早めに私達の仕事を終わらせるとしよう。幸いシヴァはいない、厄介なウロボロスもやっている。
他にも霊はいるが…対処出来ない程でも無い。行けるぞ」
「あの…少し良いですか……」
「どうしたハンド」
「ちょっと見て欲しいんです……これ…」
そう言いながらハンドは手を一体出した。パッと見変な所は分からないのだが、ハンドが指を差した部分のみ肌色のように変化していた。ハンドの手は汚い白のはず、何故肌色になんかなっているのだろう。不思議だが理由は分からない。
ただ本人は何か言いたげな様子である。それを察したハックが追及する。
「何か分かってんじゃねぇの?お前自身は」
「…私の能力は能力取締課に入る前変化したとは知っているはずです…記憶が無い内に変化したんですよ……そしてその前、皆さんには伝えないよう薫さんと翔子さんに頼んでいたのですがここで言います、私の元の能力はナメクジの降霊術なんですよ……そして見てください、この模様…」
言われてみると黒い縦長の線のような模様が微かに見える。
「それにこの手、塩水やら塩が苦手なんですよ……薄々気付いてはいたのですが憶測でしかありませんし…でも流石に……もしかしたらこの手はナメクジなんじゃ…って…」
「ふむ…一応突然変異体ではないとは聞いていたのだが……となるとどうやって変化したのだ?」
「私にもさっぱり…起きた頃には変化してたようなので…」
「まぁ良いか、一旦他の変化点があったら速やかに教えてくれ。とりあえず戦闘に支障は無いんだろう?」
「はい、全く」
「それなら大丈夫だ。行こう、一度逃げてしまったからな。今度こそ終わらせる、もう後は無いぞ」
ファストに掴まり不意打ちを狙う。
次の瞬間皆の姿が消え、佐須魔の元へ到着した。やはり霊はシヴァとウロボロス以外健在、しかも全員気配に気付きやがった。それを理解したライトニングが唱える。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
安全な距離を取るために一回、これは仕方が無いと割り切るしかない。現に狙い通り雷にビビった霊達は即行襲い掛かることは無い。佐須魔はベベロンの方を見て嫌な視線を送っている。
「そんな顔すんなって佐須魔よぉ、別に生きてんだろ、良いじゃねぇか生きてんなら」
「そう言う話じゃねぇんだよおっさん、まぁお前には一生分からないと思うから言わないけどな。それで何だい?逃げ出したのにまた来たのか」
「当たり前だ。私達はお前に出来うる限りのダメージを与えるのが役目、一度は逃げ出したがもう逃げないさ」
「あっそ。じゃあ死んで」
ホルスとバステトが飛び掛かる。だがファストが拳を最高速度で無理矢理ぶつける事によって生じるとんでもないパワーにより二匹は死んだ。
物凄い威力を誇るこの戦法、ファストの体に異常なまでの負荷がかかる事を除けば最強なのだ。ただその負荷がマズイ。速度を出し過ぎると体が崩壊していくので要注意なのだ。
「一旦休んでください!」
ハンドが大量の手を流す事でファストを安全に下がらせる。そしてその大群に紛れながら傀聖とライトニングは佐須魔へと近付こうとする。
「やれ、人神」
「はいはい」
『肆式-弐条.両盡耿』
佐須魔では発動しなかった両盡耿、だが人神ならば発動する。しかも対策は間に合わない。
そもそもどうやって佐須魔の両盡耿を封じていたか、それは簡単シウの結界である。取締課がこの島に来るとほぼ同時タイミング、シウからの『阿吽』が全員に向けて発進された。
『意識はある、いや意識だけはある。でも動けない状態だ。一応伝えておくが薙核根にも弱点はある、生前よりも自由度が下がった。あまりに強すぎる結界は作れない。ただ何重にも出来るのは同じだから何かあれば言ってくれ。薙核根の範囲内なら囁き声でも聞き取って展開出来る。それじゃあ頑張れよ、お前ら』
と。
そして佐須魔の術式を封じる結界を作らせていた。最初は佐須魔の攻撃全てを封じたかったのだが佐須魔が神と成っている事も含めてそれは無理だと言われてしまった。なので術式封じだけで限界だったのだ。
ただ当人もそれを察していたのか人神こと初代ロッドに使わせた。創生者であるロッドに。
「マズイ!二人共!」
「ハンドさん、手は出したまま!」
パラライズが飛び込み、光が溢れ出しそうな所で唱えた。
『パラライズ』
その瞬間霊や手、それだけではなく両盡耿さえも動きを止めた。
「霊力に能力を使いました!今の内に早く!!」
パラライズの能力は確かに強い。ただしその分代償も存在しており霊力や体力など目に見えず操作が難しいものを止めるのは至難の技かつとてもとても代償が大きい。現にパラライズは吐血している。
すぐにハンドが状態を確認するがいたって正常、ただ血を吐いただけだ。少しおかしいと感じながらも前に出ている二人が何とかするのを待つしかない。
「助かったぞ、パラライズ」
手の軍団の中から佐須魔の気配を感じ取った。そしてそこに向かって放つ。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
一発目、恐らく当たったであろう。佐須魔は体の半分、いや七割程度は霊力になっている。なのでパラライズのおかげで移動が困難になっているはずだ。
「まだ行くぞ」
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
二度目。これで羽枷は使える。佐須魔は人外なので通用するが、出来ればあと一発当てて紫電を放ちたい。正直佐須魔がこれでやれるとは思っていない。それにそろそろパラライズが解ける頃だ。一旦傀聖と共に両盡耿の範囲外へと飛び出した。
するとその瞬間パラライズが解け、光で包まれた。
「危ねぇな」
「そうだな」
「とりあえず俺五百円付けて槍撃つぞ」
「分かった。付いて行く」
手は出続けている。そこに傀聖が道を作り、ライトニングが付いて行くのだ。
「行くぞ、せーのっ!」
槍を作り五百円玉を作り、放った。ライトニングは剣を構えながら突っ込んでいく。無数の手を掻き分けて佐須魔を捉えた瞬間ファストが後押しをして最高速度で突っ込んだ。そしてライトニングの攻撃を妨げないようベベロンが二発撃ち少しでも手助けを行う。
最高の状態での一撃、佐須魔はかわさなかった。そして霊電は充分、準備は出来ている。まずは第二形態の破壊から、やるしかない。避けなかった事に大きな意味があったとしてもここで止まるわけにはいかない。
『解放・紫電』
バチバチと体の中から紫の電流が溢れ出す。紫雷を使っている状態での紫電、最強火力。佐須魔であっても耐える事など出来ないだろう。だがそんな中佐須魔は霊達にある指示を出した。
「こいつらに使う程の価値は無い。戻って来い、全員。ロッドは封包翠嵌で僕の術式を封じてる結界を喰ってからだ」
「はいはい」
『弐式-弐条.封包翠嵌』
結界は喰われた。そうなると佐須魔は術式を撃つことが出来る。ただこんな絶体絶命の状況をどう切り抜けるのだろうか、分からない。
だが分からなくて当然、文献だって既に処分してある術なのだから。
『零式-弐条』
零式に名は無い。何故ならそれはまさしく神の力、当時ニンゲンのロッドが名づけるなど言語道断、あってはならない事なのだから。
そして弐条、この術の効果は簡単、全ての攻撃を無条件で無効化する。と言うよりも体内の霊力を全て消滅させ、同じ分だけ復活させる事が出来るのだ。術は霊力が無い相手には基本通じない。なので無効化される。当然、紫電もだ。
紫の電流が消滅した。
「なに…」
ベベロンの弾は軽く弾かれてしまう。
そして不幸な事にライトニングは佐須魔のすぐそこ、魔の手が届く距離である。ファストは続々と現れる手によって視界が確保できず助けに入れない。パラライズも未だ反動のせいで使えない。ハックもこんな状況だと何も出来ない。
本当にマズイ、殺される。
「こういう無茶してでも、俺は一緒に戦うって決めたんだぜ?」
鶴の一声、鳴り響く鉄の音。カーンカーンと甲高い、ぶつかり合う音。本能の危機。佐須魔はライトニングから視線を外した。
「まぁちょっと早いかもしれないけどな、誰も文句は言わないだろ?なぁ、佐須魔」
「へー、これが」
この一体を包み込む武器の数々。剣、斧、弓、槍、盾、薙刀、それだけではない沢山の武器がまるで鳥かごのようにして閉じ込めている。
「言っとくがここでは俺がルールだぜ」
『百掩』
百以上の武器で覆い隠す。
その鳥かごは常に、傀聖の敵へと牙を向く。
これこそがTISの誰にも教えてない、奥の手である。
第四百六話「発動」




