第四百五話
御伽学園戦闘病
第四百五話「到来」
紅雷斬を撃てるのは最大でも三十回程、だが解放も含めればそう多くは無いしその大半を佐須魔に回したい。そもそも災厄はマモリビトあってこそ勝てる者だろう、単純なニンゲン一人では殺す事は難しい。
だからこその『解放・雷鳴』である。この術の効果は簡単、速度が上がる。元々ライトニングは鍛えているので速い方ではあるのだがこの二匹と戦うとなると遅いレベル、テコ入れが必須だ。
「でも残念、僕は一対一が好きなんだ。戻りなよ、シヴァ」
災厄が圧をかけながらシヴァの方を見た。恐らく実力では負けていないはずだがやはり霊と言う立ち位置故佐須魔と仲の良い災厄に逆らえないのだろう。少し残念そうにしながらも去って行った。
とてもとても嬉しいのだが不思議だ。まるで災厄にも戦闘病があるように感じる。この行動は幾ら戦闘が好きで、悪の権化のような奴でも変だ。
災厄は先代が生まれてからの百年間での悪い事象によって実力が変化していく。戦闘病伝染事件からTIS、そして極めつけにはTISと学園の対立による戦闘病患者の増加。それに伴い災厄にも戦闘病というステータスが追加されてしまったのかもしれない。
一応『阿吽』で待機中の皆にもその事を伝えてから動く。
「墓穴を掘ったな、災厄」
「いいや?だって僕は勝てるから問題ない。それより君は心配した方が良いんじゃないか?もし僕が今動いたら油断している君は八つ裂きにされているよ」
「いや、ハッタリだな。お前は様々な生物に変化できるようだがそれは大して強く無い。予想の域を出ないが人型が一番強いのだろう?だったらお前に八つ裂きにする力は無い。精々殴殺だろう」
「面白く無い奴だね、もっと楽しんで行こう」
「生憎私は戦闘病ではないのでな、戦闘という行為による楽しさは理解出来ない。あくまで自分が信じる正義のため、罪を償うために戦っている」
「やっぱ面白く無いね。TISに戻れば楽になれるのに」
その一言、災厄が悪意を持って放ったわけでは無い。ただふと思っただけだ。ただライトニングにとっては最大の侮辱であり、仲間を馬鹿にされたり自分自身を馬鹿にされたりするよりも嫌な事なのだ。
それでも冷静に反論はしない。相手に嫌な事を悟られここぞというタイミングで利用され逆転されるかもしれない。今は落ち着いて弱点を悟らせないよう攻撃を始める。
一気に距離を詰め切り上げた。
「駄目だよそんなのじゃ、遅い」
だが災厄は当たり前のようにして避ける。
「そんな事私だって分かっている。だが何処かで当たるはずだと信じて探るんだよ。それが単純な実力で負けている者が出来る唯一の戦闘法だからな」
「そっか、じゃあ次は僕だ」
即座に反撃のパンチを繰り出した。ライトニングの腹を物凄い勢いで殴る。鈍い音がなりとても痛い。恐らく肋骨が何箇所か粉砕された。だがまだまだ、こんな所で止まるようでは仲間を安全な位置に逃がす事が出来ない。
この身が果ててでも通すわけには行かない。
「そんなものか、災厄とは。マモリビトですらない私でも勝てそうだな」
「何言ってんだい、マモリビトはもういない、先代がやってくれた。だから僕は自由なのさ、完全自由!ずっと機嫌が良いんだ。だから手加減しているとも分からなかった?」
「分かっている。だがこうでもしないとお前は私への興味が薄れるだろう」
「…良く考えてるじゃないか。思っていた以上に頭が良いようだね」
「一応課長だからな、これぐらいは出来る。これでも薫や絵梨花に並ぶ最強だからな」
「良いね、馬鹿らしくて。最強を名乗って、恥ずかしくないの?本当の最強である僕がいるのに」
「話にならん、行くぞ」
再度距離を詰め叩き斬る。先程までは雷鳴の速度増加を使っていなかった。だが今回は違う、加速させたので斬る事が出来た。はずだ。確かに手応えはあったし血も出た様に感じた。
だが視界に映る災厄には傷一つ無いし瞬時に[ライトニング]の刀身を確認したが血が付いていない。理解出来ない。しかもおかしい、位置が戻っている。数秒前に。
「まさか!」
その反応を見せると災厄は大変驚いている。
「へぇ"分かる"んだ」
「…どういう仕組みなのか分からないが、分かるらしい。これでは堂々巡りだが…どうする災厄よ」
「どうするも何も無い。僕も"分かる"んだ、あのニンゲンが良いと思うまでやり合うだけさ。最もその良いと思う結果は君がここで死ぬ事だろうがね」
「それは残念、この世はこれ以上進まないと言う認識で良いようだな」
「それも一興、永遠にやり合えると言う事じゃないか」
「言っただろう?私は戦闘病ではないと」
「そっか、でも僕に付き合ってくれよ。そしてここで死ぬか永久にループするかを選んでくれ」
「あぁ、そうさせてもらおう」
一気に斬りかかる。災厄も余裕があると知り適当な動きで様子を見ている。
「これで…」
『解放…』
次の瞬間、先程戻った位置に再度戻っている。そして一瞬抜けた霊力さえも戻っている。確定だ、リイカが時を巻き戻している。それが別の場所での戦闘か何かによるものなのか、ライトニングと災厄の戦いのためか、霊力反応が無いので分からない。
だが選択肢はリイカを探し出し殺す、災厄に殺される、このどちらかしかない。そして前者は極めて困難、何なら不可能だろう。となると一つ、災厄に殺されるしか道はない。
他の仲間が感知出来ているかは分からない。もしかしたら雷鳴のおかげで知覚出来ているのかもしれない。それか他の全員も知覚できるような新しい発動方法を覚えたのかもしれない。
とにかく不明かつ不利な点が多すぎる。このままでは何も出来ず死んで終わり。かと言ってこのまま戦い続たら体は疲弊せずとも心がおかしくなり絶対に大きな隙が出来る。
正に八方塞がり、進む道が死しかない。
「リイカは佐須魔か刀迦辺りが護衛しているだろうな…そうなるとファストでも厳しいか…どうやら本当にループするしかなさそうだぞ、災厄」
「僕はもうそう言っただろ、それかもうおかしくなったかい?」
「馬鹿にするな。お前の頭を心配して言ってやっただけだ」
「ありがとうね、余計なお世話だよ」
「……戦う前に何個か訊きたい事がある」
「良いよ、僕も鬼じゃないからね、話ぐらいは聞いてあげるよ」
「お前を殺せるのはマモリビトだけなんだろ?」
「まぁそうだね、それぐらいの力がないと無理って意味だけど」
「そうか。ならばマモリビトが作り出した武具などはどうなんだ」
「武具…どうだろうね、知らないよ。でも効くんじゃない?まだニンゲンだったアイト・テレスタシアのbrilliantは先代に有効だったし」
「そうか。良い情報だ。では最後に一つ、お前は霊を感知出来ない様だな」
直後災厄の体が右と左で真っ二つになった。そして時は戻らない。
「間抜けじゃのぅ、本当に。だが良かった、この場にレイチェルがいなくて。あいつはうるさいからな、バレてしまう。この私が」
そこには燦然を手にした人状態の絡新婦の姿があった。
「佐嘉が味方をするなら私もお主らの味方だ、気にするなサーニャ・ロゼリア」
「助かる。だが私は[name ライトニング]だ」
「そうか。ではやるぞ」
「まて、剣はどうした。お前が回収したと聞いていたが」
「双子鬼に回収された。まぁ神の武器だから仕方が無い。気にする事ではない。行くぞ」
蜘蛛の姿に戻り、一気に襲い掛かる。災厄は瞬時に龍の姿になる事で一名を取り留めた。
「駄目だ、このままでは攻撃できない…時が戻される!」
「心配はいらん。既に対策しておる」
「どういう…」
「子供達でリイカの喉を詰まらせた。今頃気絶しておる。ただ起きるのも時間の問題、さっさと決めるかお主は行け。やる事があるのだろ」
「…任せても良いか、絡新婦」
「大丈夫じゃ。それに"良い男"の気配がしておるしな」
「本当か!?なら私は行かせてもらう。頑張ってくれ!」
「あぁ、行ってこい」
ライトニングは走り去って行った。災厄はそれを追いかけようとしたが絡新婦が唱える。
「brilliant」
その瞬間光が満ち満ちて行く。そこで絡新婦はある事に気付く、災厄には全く効いていない。発動した絡新婦は滅茶苦茶痛いのを耐えていると言うのに。
明らかに先代とは格が違う。そこで絡新婦はある選択を取る事にした。最初は考えてもいなかったが効かないのならやるしかない。再度呼び出す事になって本当に申し訳無く思うのだが、仕方が無いだろう。絡新婦の元に来てしまったのだから。
「悪いなレイチェル」
《降りてこい、レイチェル》
〈もー!しょうがないなー!!〉
「さぁ行くぞ、あやつが来るまでの時間稼ぎでも良い」
〈おっけー!行っくぞー!!〉
元気一杯、レイチェル・フェリエンツ到来。
第四百五話「到来」




