第四百四話
御伽学園戦闘病
第四百四話「離脱」
大量の霊が襲い掛かる。ハック、パラライズ、ハンド、ファストの四人はライトニングと傀聖の後ろでスタンバイしている。酸素が無いので最低限の動き、最低限の呼吸にせざるを得ないのだ。
二人は剣で対抗しようとするが押し寄せる数が多すぎる。それに先頭にはウロボロス、全ての攻撃を無効化してくる面倒な奴がいる。その後ろにはシヴァが今か今かと待ち構えている。
前大会で戦っているのを見て情報も得ている。シヴァの周囲には近付くだけで八つ裂きになる特殊な霊力が放たれているのでろくに近付けない。だがウロボロスはそれを自身の力で中和しながら進んできている。だが恐らく無効化出来るのはウロボロスのみ、ピッタリ張り付いて来ているシヴァの霊力に触れてしまえば即死だ。
選択肢は逃げる以外に無いように思われるがそれでは駄目だ。他の霊に狩られる。
「どうする傀聖」
「知るかよ、何か凄い術使ってるライトニングが何とかしてくれ」
「私の術はどちらかと言うと強い奴とのタイマン用、そもそも蒼剣でもこれだけの奴らを一掃するのは無理だ」
「でも俺霊に対する特攻とか持ってないぞ、硬貨もあんまり残ってない」
「なら仕方無い…後ろの四人を囮にしてまずはウロボロスとシヴァを潰そう。最悪ウロボロスだけでもやるぞ、あいつがいると話にならない」
「了解」
二人は左右に別れ他の霊が近付けないシヴァウロボロスの二匹をやる事にした。挟むような形で遠距離攻撃を試してみる。傀聖は左手に何も着けていない槍を投げる。
だがシヴァは見向きもせずに周囲の超攻撃空間で切り裂いた。やはり通用しない様だ。ただこれならどうだろう。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
赤い雷が二匹目がけて落ちて来た。だがウロボロスが瞬時に盾になり防がれてしまった。このままでは埒が明かない、というか勝てない。
最強の防御のウロボロスが危ない攻撃を防ぎ、しょうもない攻撃はシヴァの超攻撃空間によって破壊される。どうやっても攻撃手段がない。かと言って本体は干支神と神格三匹が守っている。
その中で唯一意思疎通が出来そうな人神に目を向けても知らんぷりである。仕方が無いが少しイラっとする。
「私達では攻撃する手段がない、一旦引くしか…」
「おいおいおいおいそんな弱気じゃ駄目だろ?サーニャよぉ!!」
「はぁ!?」
ベベロンが愛馬のジョセフに乗ってやって来た。
「智鷹はどうした!」
「この俺が負けると思うか?あんなひよっこに」
すると佐須魔が動き、智鷹の方に行ってしまった。ただ好都合ではある、変な術によるサポートや指示が無いのだ。神格や神話霊は当然自我があるのでここまで沢山いれば内輪揉めが起こってもおかしくない。そう思ったライトニングがまだ戦う意思を見せた瞬間ベベロンによって二人は回収され、そのままファストが他の皆を連れて一時退却を図った。
だが追って来る者も当然いる。酒呑童子がとんでもない速度で追って来る、本当に刀迦と同等の速度だろうか。一番怖いのはそれよりも圧倒的に速いファストのごく僅かな霊力残滓を追って少しも迷わず進んでいる事だ。明らかに直感で走っている、これではどれだけ逃げても意味が無い。
幸い酒呑童子以外はくらいつけておらず、分断は出来ている状況だ。
「ファスト、やるぞ」
満場一致、ベベロンも納得している。
「俺が最初に入れるからライトニング、頼む」
「分かった」
傀聖は両手に槍を創り出し一本に五十円玉を装着した。そしてファストが止まった瞬間に硬貨を着けていない方をぶん投げた。酒呑童子は勢いだけで跳ね除けた。ならばともう一本を投げた。今度は減衰しても何とか命中し軽い傷を付ける事が出来た。
だがその瞬間酒呑童子は激昂し先程よりも凄い形相と速度で追跡を開始した。ただもう逃げない、ここで殺せるのなら殺しておきたい。
「ベベロン!」
「おう」
三発撃った。全て追尾し綺麗に酒呑童子の両目を貫き、一つは口腔をぶち抜いた。苦しそうにする酒呑童子に追撃を入れる。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
赤い雷が酒呑童子に直撃した。先程はシヴァとウロボロスという神話霊の中でも上澄みの奴らによってかき消されてしまったがこの術は凄い威力を有している。
単純に人間にも霊にも効く万能性もあり霊力消費もそこまで多くない。しかもシンプルな効果なので応用もしやすいし発動も早いので咄嗟のサポートも出来てしまう。そして何よりこれを当てた敵には『霊電』が溜まって行く。
[ライトニング]はその刀身から放たれた攻撃や刀身そのものに触れる事によって、体内に霊電と呼ばれる特殊な力が溜まって行く。そしてある一定まで溜まると解放の術を使う事が出来るのだ。数年前、流がまだ来てすぐの頃に起きた襲撃での佐須魔との戦闘、そこで使用した紫電が良い例である。
「あと二回当てれば紫電も撃てる!一回で羽枷もいける!」
「俺の事構わず撃てよ!」
傀聖が突っ込んだ。その判断は大正解である。視界を奪われた酒呑童子は大暴れを始めるだろう。それを阻止するために傀聖が行ったのだ。確実に体に触れながら移動しまくる、そうする事によって錯乱をもたらした。
だが離れたとしったらすぐに大暴れし収集が付かなくなるだろう。それにそろそろシヴァ辺りがすっ飛んでくるかもしれない、一気に決める。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
再度振った赤い雷、傀聖諸共巻き込んだその一撃によって霊電は羽枷を使えるラインまで到達した。
「撃つぞ!」
『解放・羽枷』
これは人外に対して特攻を持っている術、酒呑童子は霊なので人外、しっかりと効く。あとは放っておけば勝手に佐須魔の元に還るはずだ。目も見えていないので霊力放出を無くしてさっさと逃げるが吉である。
だがここまで派手に動いたのでファストの息が限界である。酒呑童子一匹が減ったから霊力濃度が変わるとは思えない。正直この手は取りたくなかった、限界があるかもしれないから。ただ仕方無い、使う。
「シウ!霊力濃度を普段の濃さにする結界を島全体に張れ!!」
次の瞬間結界が張られ、霊力濃度が普段と同じ通りになった。これでようやく息が吸える。だが結界はどのタイミングで壊れるのかなど全く分からない。出来る限り短期決戦で行った方が良いのは事実だ。それにライトニングの服にもそろそろ小さな火が点くやもしれぬ。
「さぁ行くぞ、ファスト行けるか」
「うん、もう大丈夫。掴まって、ベベロンも馬も」
「ジョセフだ。まぁ頼むぜ」
全員がファストに掴まり衝撃に備える。そして足を突き出したその瞬間とんでもない速度を出しある者の所までやって来た。傀聖が不意打ちを仕掛けてみたが凄い反応速度によって防がれた。やはりウロボロスに攻撃を入れるのは不可能と表現しても問題は無いだろう。
そして傍にはまだシヴァがいる。と言っても霊力濃度が濃い時よりは落ち着ているようでウロボロスとは少し距離を取っている。
「んでどっちからやるんだ、ライトニング」
「全員でシヴァの気を引け、ただ死ぬなよ。せめて私がウロボロスをやるまでは」
「一人で行けるか、俺の手助けはいるか」
「いらない。私は一人でもこいつを倒す事が出来る。紫雷を使っている私は強いさ、來花にも勝てるレベルにはな」
「…そりゃ安心だ。じゃあ行くぜお前ら!俺らでシヴァを止める!」
傀聖が先陣を切った。ハンドも手を大量に出して少しでも視界妨害をしようと試みる。ファストもパラライズも出来る限り前に出てライトニングに意識が行かないよう努める。ベベロンはジョセフに乗って走り周りながらどうにかして超攻撃空間を突破する方法が無いか模索している。
充分、ウロボロスはライトニングの方を向いている。
「さぁ行くぞ、お前は負ける。今の内に還れば見逃してやるが…まぁしないだろうな。では行こう」
紫雷のおかげで全ての能力が強化されている。霊電も普段より溜まりやすくなっている。そのおかげで三回紅雷斬を当てるだけで放てる。
ウロボロスにとってライトニングは相性が悪い敵。理由としては全く攻撃をしない完全に防御に徹底した霊であり、避けようとしないからだ。自身の最強の防御に自惚れていると言ってしまっても間違いではない。
なので勝てる。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
当然無効化された。だが触れている。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
またまた無効化される。だがウロボロスは何も疑問に思わずただ死なない事をだけを考えている。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
これで『解放・紫電』まで霊電は溜まった。だがまだだ、紫電の強みはここからなのだ。紫電は対象に流れている霊電を"全て"使って攻撃する術、全てだ。青天井なのだ。
と言っても霊力補給チョコを貰っていないので限度はある、佐須魔との戦いにも備えなくてはいけない。だが紅雷斬は七回程度撃っても問題ない、実に燃費の良い術である。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
四回分、普通の霊ならこれで死ぬが恐らくウロボロスはしぶとく生き残るだろう。残り六回分を全部当てても死ぬか分からない。だがやるしかない、しっかり後六回当てて、そう思っていた時であった。
その場にいる全員に寒気が走る。何かが近付いて来ている理解した。それと同時にライトニングは唱えるしかなくなった。ウロボロスに構っている暇では無いし、ここでウロボロスを殺せなかったら全員殺される、謂わば賭けに出るしかなかった。
『解放・紫電』
ウロボロスから放出される紫の雷、とんでもない激痛と共にウロボロスは何の動作も見せずスッと消えた。どうやら足りたようだ。だがそんな事に喜んでいる暇も無い。
正直シヴァと共闘されたら勝てるビジョンなんて浮かばない。あんな怪物。
皆の視界に入った、人の格好をしている怪物、来やがった。
「何してるのー皆ー!!」
とてもとても楽しそうに微笑みながら走ってくるそいつ、名は災厄、実力はまだまだ不明。だが言える、薫や絵梨花、ライトニングなど能力者の中では最強レベルと同等またはそれ以上の力を有しているとは。
ここでライトニングはとある判断を下した。
「全員逃げろ、あいつは私一人でやる」
一人を除いて拒否しようとしたが傀聖がこれまで以上に焦って逃げ出そうとしている。確かに傀聖ならば災厄の力を知っているはずだ。そしてライトニングを置いて行くと言う事はそれなりにやりあえて、場合によっては勝てるという意思表示なのだろう。
それを瞬時に理解したファストとハックが説明も無しに全員をファストに掴ませ、離脱した。
この判断は正解だったのだろうか、誰にも分からないだろう。少なくともこの決着が付かなくては。
「来るなら来い、二対一でも私はやってやるさ」
ライトニングの服、大きな服を羽織っているのだが遂に火が点いた、まるで足元まで迫っている事を表しているようだ。何とも皮肉であるが気にせず大きく息を吸い剣を構えた。
『解放・雷鳴』
第四百四話「離脱」




