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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
401/556

第四百話

御伽学園戦闘病

第四百話「正の義」


「俺をお前らの味方にって事か…?」


あまりにも予想外の提案、四人の方も見てみたが誰一人として否定などしない。どうやら現実のようだ。傀聖は軽く頭を抱え、大きな大きな溜息をついた。

そして一旦顔を上げ、複雑な感情が現れた表情のまま訊ねる。


「俺の経歴、消されてるとは思うが当時お前らは全員取締課だったはずだ。それなら分かるだろ…知って尚俺を勧誘しようっていうのか?」


「そうだ」


ライトニングは即答した。傀聖は失笑し、場を離れようとする。だがその行動を妨げる一言がパラライズから放たれた。


「当時の現場検証は僕が行いました。とある街全域での大規模な能力者同士の争い、被害の大きさから見て複数犯とも考えられとても慎重に捜査を進めました。そこで僕は誰にも言わなかったし、報告書にも記さなかった事実があります……僕はあまり状況把握が得意では無いです、それでも数週間かけて当時の状況を小さな模型で再現した結果分かったんです。

あの時ライトニングさんじゃなくても、何なら瞬発的な戦闘能力が最も低いハックさんでも良かったんです。あそこに立ち合い、少しでも加勢していれば…あなたの友人は死ななかった」


傀聖が反応を示し、動きを止めた。背を向けたまま恨みつらみを吐き出す。


「そうさ、お前ら取締課がしっかり仕事をしていれば俺の数少ない本当の友達は死ななかった、智鷹に殺されなかった。それも今となっては受け入れ力の糧にさせてもらった。後悔はしていない、歓喜もしていない。ただお前ら無能集団に対する恨みだけは…いつどこでどんな幸福を感じても消える事は無かったよ」


前大会が起こる年、その夏その出来事は起こった。唐突として起こったTISによる一家殺人未遂、両親は殺される結果となったが少年だけは生き残っていた。

だが隠密能力者である事は発覚してしまったし、状況も状況だった。ちゃんと考えれば傀聖に非などないのだ。ただ警察署の壁を破壊、逃亡。

その後友人と接触し助けを受けたが南那嘴 智鷹によって友人を殺められた。怒りにまみれた傀聖はそのまま智鷹と戦闘を起こし最終的には勝利を収めたのだ。


「それにパラライズが言う通りだ。あの時誰か一人でもその場にいて、せめて戦闘がを終わってから俺を回収していれば佐須魔に勧誘される事も無かった。

周囲は燦然としていたが幸い姿は見られていなかった。だから佐須魔と智鷹と一緒に待った。それでもお前らは到着しなかった。能力取締課?笑わせんなよ、現場に駆け付けない無能にそんな大層な名前と目標を掲げる権利なんて無いんだよ。

…ここでは殺さない、今一度考えるんだな。その態度が俺にとって相応しいものなのか」


完全に見切りをつけて去ろうとしたその時、ライトニングが呟くようにしてこう言った。


「嫌な事から目を逸らし逃げる。まるで私達と同じだな」


その自分自身に投げかけたような言葉はしっかりと傀聖の心にも突き刺さっていた。怒り心頭、振り返ると同時に槍をぶん投げてやろうかと思ったが自分で言ったはずだ、ここでは殺さないと。

心を落ち着かせ舌打ちだけを残して足を突き出した。


「あの時お前の元へ行かないよう指示を出したのはこの私、name ライトニングだ」


「…は?」


信じられない、そう言った顔でまたもや振り返る。


「だが君を見捨てたかった訳では無い。ただ私の使命に従い、仕事をしただけだ」


「だからそれが…俺ら能力者を取り締まって、最終的に助ける事だろうが!!」


近付いて胸ぐらを掴む。だがライトニングは何の抵抗もせず当時の事を話し出す。


「当時TISの動きは少なかった。その分能力の情報収集や学園の手助けを行っていたんだ。だからたった一人の少年の被害程度見過ごし、少しぐらい遅れても良いだろうと判断を下した。

結果として私達能力取締課含め学園側の能力者は大した被害も無く今大会に繋がった。間違った選択と言えるか?否、言えない。これが正解なのさ、現実を見ろ松雷 傀聖。これは甘っちょろい馴れ合いでも、子供の喧嘩でも無い。全てを懸けた戦闘、殺し合いなのさ。

だからこそ君ももう少し大人に…」


次の瞬間、耐え切れなくなった傀聖がライトニングの頬を全力でぶん殴った。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で叫ぶ、溜め込むしかなかった気持ちを。


「良い訳ねぇだろ!?お前はこれで大勢が救える、そう言うのかもしれないけどな、俺としては最悪なんだよ!!家族も、友達も、何もかもを失った!!与えられたのはTISの監視下、しかも最終的には半強制的な加入、赤の他人なんてクソ程どうでも良い!!

俺が聞きたいのは、なんであの時勇敢に散った三人と、馬鹿二人を助けなかったんだって言いたいんだよ!!!」


もう一度、恨みを籠めて拳を振り上げた。だが向き直したライトニングの真っ直ぐで、だがうねっているような眼の奥を見て手を降ろした。弱い力で胸ぐらを掴みながら、まだまだ溢れ出しそうな怒りを何とかして落ち着けようとする。

ライトニングは今にも俯きそうな傀聖の顎を片手で支え、しっかりと眼と眼を合わせて口を開く。先程とは違う優しい声でだ。


「それが聞きたかった。やはり君は何も間違っていない、TISにいるべきではないんだ。先程の私の発言は真意でもあり真意ではない。私は確かに百人の他人か友人一人、どちらかを救えるかと訊かれたら迷わず後者を殺すだろう。それはTIS時代に殺した者達への贖罪であり、私自身への枷でもある。

同じタイミングで脱退した英二郎は自身のやりたい事を成し遂げ死んだ。紀太は愛している者とかけがえのない日常を送っている。アリスは自身に足りない物を無意識下で探し、更なる探求を欲している。譽は抜けなかった毒素を利用し自分の信じる正義へと足を進めた。

全員間違ってなどいない、否定なんて出来るはずもない。だが私には私のやり方がある。私は幸福を捨て無能力者のためにこの身を捧げようと誓った……はずだった。だが今となってはここにいる仲間達が好きでたまらない。本来忌むべき力をチラつかせ守って来た。

変われないんだ、人はそう簡単にはな。そんな屑である私に分かる事がある。お前は間違ってる。TISにいるべきではないんだよ、来い。復讐もしたくない、強くなりたいわけでもない、ただ従って生きたいだけ。

そんな何も考えていない私達以下の脳無しに成り下がるぐらいならばこの馬鹿な女に従い、無能力者(ごしゅじんさま)が望まない、だが私以外の誰もが幸せになれる世界を作ってくれ。

勿論、ここの四人と一緒にだ」


これを聞きたくなかったからさっさと逃げようと思ったのだ。結局上手く手懐けられたのだろう。だが、だがそれでも知っていた感情を呼び覚ましてくれた。

佐須魔と言う恐怖から逃れるために嫌々突き従い、人を殺した。間違った選択では無いと信じたい。ただこのまま死ぬのも嫌なのだ。親が友がこんな姿を望むだろうか、良く考えるのだ。今の傀聖は、誰もが味方であり敵なのだ。


「……俺さ、憧れてたんだ。あんたらみたいにギラギラした正義を名乗り力を行使する奴らに。それは皮下で渦巻く差別意識を肌で感じ取っていたからかもしれないけど…それでも本当に憧れてた。それに知ってた、数を優先する集団だって。

でもな…信じたくなかった。俺は見捨てられたんだって、もう誰にも必要とされてないんだって」


事件が起こった当初傀聖はまだ中学生程だった。そんな子供が数日にして全てを破壊され、そんな破壊された奴らの仲間になるしかなかった。恐らく纏っていたのだろう、自分ではない自分を。流と同じ様に。ただ本質的には全く異なる、ただただ心の防衛から来るものであるが。


「俺はあんたらが嫌いだ、その気持ちが変わる事は無いと思う。でも多分、来たんだ。ずっとずっと不思議に思ってた。死んだ友達はずっと俺の事を思ってくれてた。自分の生活に余裕があったわけでもないのにその気を一切見せず能力者だと知って尚助けてくれた。

知りたかった、どんな事を思っていたのか。分かった気がする。多分俺の事を大切に思ってくれていたんだ。無能力者の友人じゃなくて、松雷 傀聖として。

でも俺は返せてない。あいつの気持ちを受け取ったまま、何もしてない。むしろ悲しませるような事しかしてない……多分あいつがここにいるか、霊にでもなってたら俺にこう言うと思う。「着いて行くんだ!傀聖!」ってな。あいつも望むと思う、この世の誰もが目にした事のない、真の平和ってやつを。そういう綺麗事が好きな奴だったからな……

だからよ、背中なんて押してくれなくっていい」


ライトニングから手を放し、一歩分の距離を取った。


「引いてくれよ、曖昧で未知でアホな俺の手を」


前に出す事もはばかられる。だがライトニングはその言葉を耳に入れると同時に手を取った。そしてそのまま両肩に手を回し、がっしりと掴む。


「来い傀聖。今お前が本当のお前ならば、私はお前が欲しい」


「あぁ良いぜ、何人にも救われた命だ。多分全員平和を望む馬鹿だった。だから協力してやるよ、あくまで平和のため、俺の周りで死んでいった奴らのためだけどな」


「それで良いさ。行こう。準備は整った」


松雷 傀聖、五人の落とし物を拾ってようやく場は整った。この事を佐須魔が知っていて傀聖がそそのかされたとしても問題は無いだろう。捻くれた雰囲気が消えた単純な優等生と言わんばかりの面持ちと眼差し、この子は強い。それが皆に伝わっている。

その雰囲気は伝染し少し残っていた恐怖を打ち消し、勇気付けた。再認識したのだ。我々は正義だと。そうでもしなければ頭がおかしくなってしまいそうな心の弱い集まりである。

だが皆で支え合い、時には蹴落としあい、やって来たのだ。長らく忘れていた感情だった。何だかノスタルジックな気持ちである。これから死を交えた戦闘を行うと言うのに。


「最後に一度だけ皆の本心が聞きたい。元TISで、今の使命も贖罪謂わば自分のため、様々な人を利用して裏切って来た。そんな私を信頼し、背中を預けてくれるか」


「僕は行きますよ!ライトニングさんのおかげで生かされた命、そんな事抜きにしても僕は付いて行きたいと思っているので!」


「私もですよ、課長(ライトニング)


「俺もだ。何だかんだ楽しかったし良い奴らだったしな、全員」


「私も。最後の最後まで付き合うよ」


「傀聖は、どうだ」


「もっかい聞かないでくれよ、当然行くさ。お前らが守ってくれるってなら佐須魔も怖くねぇよ。ま、多少不信感が残ってても仕方無いって割り切ってくれよ」


「ありがとう、皆。ここで私の命は終わり、皆の命も断たれるであろう。怖いはずだ。だが私は怖くない。償いは終わりを迎える。辛く苦しくもあったが、楽しかった。正に苦楽を共にした四人と、エゴで死んでもらう一人。

本当に沢山の人を殺した私がこんな良い奴らを部下に持てて良かったのか、今も考えている。だがもう足は止まらないさ、行こう。全員で」


なびく長髪、気高い背中、(たぎ)る闘志。

name ライトニング、name パラライズ、name ハンド、name ファスト、name ハック、松雷 傀聖の六人による能力取締課は動き出す。死に、繋ぐために。



第四百話「正の義」

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