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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百九十九話

御伽学園戦闘病

第三百九十九話「交渉」


ファストによって移動した場所、そこはある人物のすぐ側であった。まずはこいつを何とかしてから佐須魔に攻撃を仕掛けるのだ。何だかんだ言いつつも精鋭の五人、比較的戦闘初心者一人ぐらいあっという間に黙らせる事が出来るはずだ。

ゆっくりと移動し、目視出来る範囲にまでやって来た。ゆっくりとゆっくりと近付こうとしたその瞬間、対象が唐突として振り返り、五百円玉の着いた槍をぶん投げて来た。


「私がやります!」


瞬時にハンドの手でガードする事によって何とか防げたが貫通ギリギリ、危なかった。

五人はすぐに散らばり、包囲陣形を取った。


「何で五人なんだよ…面倒だな」


松雷 傀聖、色々と謎な人物である。だがハンドのとある提案を受け入れ戦闘を持ち掛けた。


「まずは言っておこう、我々は君の敵ではないと」


「…は?馬鹿じゃねぇの、流石に冗談キツイだろ」


「そう思うのも無理はない。だが私は君の事を知らないし、君も私達の事を良く知らないはずだ。だからこそ本心を伝えたまでだ」


「…馬鹿に付き合ってる程時間も余裕も無いんだ、行くぜ」


話を聞く気は無い様子、仕方が無いので力でねじ伏せるしかない。だが話し合いがしたいのでそこまで時間はかけられない、最速の刀迦やゲートの佐須魔が来るとしても精々三分はライトニングへの警戒心のおかげで手を出してこないはずだ。

ただ考えてみればたった百八十秒、大した時間でも無い。焦らず、だが急ぎ、冷静に。飛び出す。

先陣を切ったのは当然ライトニングである。剣を振り上げ、斬りかかる。


「そんぐらい俺でも対応出来る」


傀聖は剣を作り上げ、鍔迫り合いのような状態へと持ち込む。だがそれを許さない者がいた。


『パラライズ』


傀聖の動きが止まる。その隙にハンドの手で掴み、ライトニングが再度斬りかかる。

そんな中でも対抗はしようとする。パラライズの能力はあくまで体が動かなくなるだけ、能力自体を使う事はそう難しくない。多少の犠牲を払ってでも抜け出そうと、ポケットに入っている百円玉を爆発させようとする。

ただそれを察知したファストがそこそこの速度で突っ込み首を蹴り上げた。伸びたような動作を見せたが瞬時に意識を取り戻し、まだ爆発を起こそうとする。


「無駄だ!!」


ライトニングが手ごと斬ろうとした瞬間、ライトニングの剣より先に手が真っ二つになり、再び鍔迫り合いへと持ち込まれる。傀聖が動いたのだ。


「何で手加減してるんだよ。明らかに効果時間短すぎだろ」


そう疑問を投げかけながらもライトニングに連撃を叩き込む。ただ佐須魔や薫、何なら刀迦とも一戦交え良い勝負をした事のあるライトニングは全く動じず軽くいなしている。

あまりに雑な態度に苛立ちを覚えた傀聖は左手に薙刀(なぎなた)を創造した。ライトニングもほんの一瞬だけ本気の眼になったがハンドの手が左右から突っ込む事で本格的な戦闘を阻止した。


「ライトニングさん!」


「あぁ分かっている!」


どうせまた手は振りほどかれる、ただその動作を起こしたならば隙は生まれるはずだ。そこを突けなかったとしても取締課側のペースに持って行く事が大事なのだ。出来る限り傷を負わせずにこの勝負を終わらせたい、それが五人の本音なのだから。


「舐めんな!!」


ただし傀聖は違う、どうせ回復してもらえるのだから自身の体などどうなっても良いと考え、自爆を起こそうとする。ファストが同じ様にして止めに入ろうとするのだが、まるでそれを狙っていたかのようにして口元に小さなナイフを創り出し、咥えた。

少し後方側の側面から近付いているファストにはそれが認識出来ず、向き直した傀聖がほくそ笑みながらナイフを発射したのだけが確認出来た。

ファストは速い、それ故に急に止まるのは困難、回避なんてもってのほかである。だがそんな馬鹿な戦闘下手を助ける係もいる。ハックがナイフを人差し指と中指で挟み、キャッチした。

感謝する間もなく速度を上げ、思い切り顔面に跳び蹴りをかます。速度のおかげで物凄い力になっており、正直なって欲しく無い鈍い音がなった。


「下がれ!!」


ライトニングは微かに動いた傀聖の手元を見てそう指示を出すが少し遅い。ファストはまだ蹴りの動作で次の行動に出れない。一方傀聖は右手の剣で手を跳ね除け、左手の槍をファスト目がけてぶん投げた。そう距離も無いので外す訳も無いし避けられもしない。ハンドの手も間に合わずハックでは自身の体を犠牲にするだけ。パラライズでは意味を成さないしライトニングでは予備動作全般が遅すぎる。

間に合わない、ファストがくらいしか道はない、誰もがそう思ったそんな時であった。鉄の弾丸が槍を弾いた。何が起こったのかは理解できないがすぐさま体勢を整える。

傀聖は舌打ちをしており取締課の皆と同じく智鷹が応戦してミスをし、結果として邪魔をしたのではないかと考えていた。だが次の一発でその予想は間違いだと気付かされる。

ライトニングがいる方から弾は飛んできていたのだが、次弾が確実に傀聖を狙っている角度であった。それに気付いたファストが落ちた傀聖の槍で弾を防ぎ、何とか防御した。

とてもヘンテコな構図だが先程の失態を取り返すどころかおつりが来るレベルの事をしてくれた。


「まだ来るかもしれない!傀聖を守れ!」


ライトニングが指示を出したがそれ以降次の弾は飛んでこなかった。明らかに智鷹ではない何者かが遠距離スナイプを決めようとしているようだ。

諦めたか機会を窺っているかは不明であるが時間も無い。警戒体制は解き再度傀聖に攻撃を仕掛ける。

数秒だけ護り、すぐに戦闘に戻る。当事者目線では意味の分からない行動に困惑する。


「はぁ!?どう言う事だよ、何で一瞬だけ護るんだよ!!」


「それは君が抵抗しようとするからだ!!武器をしまい両手を広げ、そのまま挙げるのなら私達も攻撃はやめよう!約束する、これは本当だ!!」


信じられるはずがない。ここまで本気で戦闘をしている相手にいきなりそんな事を言われても信じられないのは当たり前、何らおかしい反応ではない。それに傀聖はTISの中でも際立って生存意欲が高い。佐須魔のように絶対的な力があるからこその自動的な欲では無く、自身の意思から来るものだ。

それは初めて会ったハンドが肌で感じていたしだからこそ今こうしてヘンテコ戦闘を繰り広げているのだ。どうか話を聞いてほしい、だが容易くいかないのも理解している。

取締課も所詮力を持つ者達、最終的には力を使って抑え込もうとするのだ。そして力を持つ傀聖はそれに対抗する。全く何もおかしくない構図、だがそれは両者が求めた形では無かった。TIS、能力取締課、その集団の中で生き抜く能力者として一番最初に決意した事ではない。ただ引くに引けない、互いの生死とプライドを懸けている、止まる事など誰一人として許されていないのだ。


『パラライズ』


不規則で不安定な妨害。最初はリソースを割き対処出来ていてもライトニング、ファスト、ハンドの猛攻を流し続けていれば次第に意識できなくなるのも当然である。パラライズはそこを狙って能力を使用している。


「行けます!」


「よくやった!」


今度こそはと斬りかかった次の瞬間、背中から胸部にかけて一つのライフル弾が貫いた。全員がサポートをしようと傀聖そっちのけで弾が飛んで来た方向を向いたが音沙汰がない。

ただ分かる事がある。先に撃って来た狙撃手は動いている槍を見事に撃ち落とした、それほどの人物が撃った弾が傀聖に向かっていたのだから学園(こちら)側と判断して良いはずだ。

一方今飛んで来た弾は綺麗にライトニングを貫いた。同じ狙撃手がミスをしたとも考えられるがそれは甘えた考えに違い無い、正常な思考ならば今度は智鷹又はTIS側の別狙撃手が撃ったと考えるべきだ。

そして相手は凄腕のはずだ、何故なら戦闘中とはいえども発砲音が誰も聞こえなかった。それ即ち相当な距離を取っているはずで、完全に射線が通る場所を見つけ待機し、完璧なタイミングで偏差も考えて放ったのだ。ただ者では無い。なので警戒は必要である。

だが数秒後、大分遠くの方からいななく馬の鳴き声と謎のおじさんの怒りを体現した叫び声、そして何発も連続で放たれるライフルの音がした。


「…!」


ライトニングは気付いたようだ。そして皆に言う。


「狙撃は構うな!絶対に大丈夫だ!!」


信じよう。


「そして傀聖、本当に話を聞いてほしい。今もそうだが私達は君が来ない限り攻撃をしたくない。どうかお願いだ、この通り」


何とこんな時に限って頭を下げて頼み込んだ。下手したら心臓を貫いているいるかもしれないのに止血も確認も行わず、ただ深々と頭を下げている。

常人の発想ではない。もしそれがアドレナリンの過剰放出による一時的な感情に動かされたものだとしても面白い。それに傀聖も急に動いたせいで疲れた。

一旦休憩も取りたいし、上手く扱えば不意打ちも出来るかもしれない。そう考え武器はしまわないと言う口約束の元話をすると提案する。


「本当か!?」


ライトニングは大変驚いているが嬉しそうだ。


「まぁでも武器は出したままだからな、護身は常に必要だ」


「それでも構わないさ。それよりも場所を変えよう、少し派手にやり過ぎた」


「…待て、もう一つ条件を提示したい」


「良いぞ」


「佐須魔に『阿吽』でこの事を伝えたい」


四人はすぐに否定し、ライトニングにも交渉は諦めようと説得したがまるで聞いていないように見える。ただ二人は眼を見合っている。そしてその真意に勘付いたライトニングは納得したように頷いた。


「あんがとよ」


このままではされるがまま、一網打尽にされかねないと判断したハンドが少し乱暴にでも止めに入ろうとする。


「ハンド、いや四人だ。松雷 傀聖に手を出すな」


逆らえない。渋々手を止めた。

そして傀聖が『阿吽』を使って佐須魔と数秒の会話を行った後、戦闘した場所とは少し離れた個所で楽な体勢を取る。ただしライトニングと傀聖だけだが。他の四人は幾ら作戦とは言っても行き過ぎだと感じておりライトニングへの小さな猜疑心が芽生えつつあった。


「さて…これでようやく話せるな。ベベロンもそう長くは持たないだろう。早めに話を済ませたい。だからこそ私は単刀直入に訊こう」


一息つき、目を見ながら言い放つ。


「松雷 傀聖、君を私達能力取締課へ迎えたい」


それはまるで悪魔の囁きのようだった。



第三百九十九話「交渉」

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