第四話
御伽学園戦闘病
第四話「声」
三十分は歩いただろうか、どこへ向かっているのかと聞くとラックはあそこだと少し遠くににある山を指差した。その山は非常に高く頂上とまで行くと酸素も相当薄くなっているだろう。
ラックはそれに続いてあの山のほぼ頂上まで行くと言い足を止めずに歩く、素戔嗚が恐る恐る質問をする
「まさかあそこに泊まるって事は…」
「そうだ、あそこに泊まる。あそこなら追手が来るのも遅いだろう、それで流を少しでも鍛えてちょっとでも戦える様にしてから山を降りて生徒会をぶっ潰しに行く」
素戔嗚は露骨に嫌な顔をして流達と話をしようと振り向き蒿里がいない事に気付きどこに行ったのかラックに問うと買い出しに行ってもらっているらしい、後で集合するとのことだ。
ラックはここで集合すると言って一度立ち止まり切り株に腰掛ける、そこは山の麓の森林だった。そこから山を見上げてみると思っている以上に高く登れるのかと少し不安になりつつ蒿里を待つ事になった。流はこの山を下って買い物をして再び登るなんて買い出し当番にはなりたくないとつくづく思うのだった。
十五分ほど待っていると蒿里が買い物袋を持ちながら手を振って走って来る。
「ごめんごめん、遅れたー」
「大丈夫だ、何買って来たか見せてくれ」
ラックは買い物袋を受け取り中身を見る、その顔といえばもう呆れに近い笑いだった。そして買い物担当は何かあった時に戦えないニアと蒿里以外にすると言う。蒿里はなんで自分が外されたのかを聞くと買い物袋をおもむろに見せつける、買い物袋の中は走っていたせいかグチャグチャで卵も割れまくっていた。蒿里はそれを見てふざけた感じで謝りラックは少しキレそうになっていた。
「まぁいい、今日は小屋を探す。この山には確か小屋があったはずだからな」
切り株から立ち上がりすぐに山登りを再開する、座っていた他のメンバーもそれに続き歩きはじめた。山を登り始めて一時間ぐらい経っただろう。ニアが「もう限界」と言いながら足を止めた。
男子がおぶると蒿里にすぐセクハラと言われるので蒿里がおぶることになる、蒿里はニアをおぶり歩き始めた。流はラックが息切れ一つ起こしていない事に気付き聞いてみると「体力ないとこの能力は使えねぇからな」と現状では理解できない答えが飛んでくる、そしてラックの能力は聞いた事ないと思い聞いてみると「バレてたら意味が無い能力だから言わない」と言ってはぐらかされそのまま歩き続けた。
更に数分歩いた頃ラックが休憩をしないかと持ちかける、皆賛成し足を止めた。ラックはそこそこなサイズのバックから折りたたみ式の椅子を人数分取り出し立てた。
「これに座れ、三十分ほど休憩だ。好きにしていろ」
全員椅子に座って休憩を取り始めた。素戔嗚は刀の手入れを始め蒿里は水を飲みニアはただ座っている。流は素戔嗚の刀をまじまじと見て素戔嗚と刀の話で花を咲かせた。
少し声が大きくなると蒿里が「小さい声で話して」とニアの方を指差しながら言う、ニアを見てみると疲労からか昨日の睡眠時間が短かったからか椅子に座ったまま寝ていた。
皆ニアに気遣いあまり大きな音や声を出さずに三十分休憩をした。そろそろ行くか、とラックは立ち上がり自分の椅子を畳んだ。他のメンバーの椅子も畳みバッグへとしまい歩き始めた、蒿里は休憩前と同じくニアをおぶって歩く。だんだん空気が薄くなり苦しくなってきた時だった
「あったぞ」
その言葉を聞いた喋る気力もない流はやっと休めると内心ガッツポーズをしていた。小屋に着く時点で外はもう暗い。小屋の中は結構広く暖炉もあった、この部屋ならまぁまぁ快適に過ごせそうだ。
「今日は見張りはいらん、もう寝る」
荷物を置いたラックはそう言って速攻で床に倒れ込み寝始めた。素戔嗚と蒿里も疲れたと言って眠る。皆疲れていたのですぐに眠る事が出来た、だが流だけはなぜか寝ることができなかった。夜中の一時になった頃ニアが目を覚ます。
辺りを見渡すニアに
「みんな寝ちゃったから静かにね」
と小さな声で言う。ニアは頷くと共に少しぼーっとしてから話があるから外に出てくれないかと立ち上がる、流は何の話だろうと思いながらも頷き二人で小屋の外へ出た。ニアは少しだけ歩いてからチョコンと座った、流もニアの近くに座る。
「流さんは兵助さんのこと知らないですよね。」
「うん…正直話についていけてない」
「そうですよね。じゃあ時間もあるので話しますね」
「よろしく」
「まず兵助さんは私たちエスケープチームの元メンバーだったんです。ですが数時間前に言った通り三年半前に死んでしまったんですよ…死んでしまった理由は…いやまず大会のことを話しますね。
大会っていうのは能力者達が集まりトーナメント制で戦いをする事です。四年に一回開催されて優勝チームには理事長さんが叶えられる事ならなんでも叶えるという報酬があります。
一回前の大会に兵助さんと礁蔽さん蒿里さん素戔嗚さんの四人で出場したんです。そして苦戦しながらも決勝戦まで勝ち上がりました。ですが決勝で戦ったチームは今までの戦闘で疲労が蓄積していた兵助さんを集中狙いして殺しました。
そして三人はヒーラーがいないと勝てないと思い降参。理事長さんはお金持ちでこの島、そして大会の開催場所の島を所有している人です。ただ能力者を集めて殺し合いをさせて嘲笑うとかそういう事をする人ではないんです。
御伽学園に能力者の子供を入学させているのは理事長さんの娘さんが能力者というだけで殺されてしまったかららしいです。
話を戻しますね、そして優勝チームは最強格の霊の一体を貰うという報酬を受け取りました。そしてなぜ兵助さんを探し始めたのかと言うと、半年後に大会があるからです。大会までに紫苑さんと礁蔽さんを復活させなければ戦力が足りない…多分これが理由です。
私は加入してそんなに時間が経っていないのでわかりませんが前大会までは四人一組で出るという感じだったそうです。その頃私はまだチームに所属していなくて大会の映像を見て加入しようと決めた頃でした。
ですが今は最低でも六か七人、最大で八か九人チームを組まなくちゃいけないらしくて現在私たちエスケープチームは私、紫苑さん、礁蔽さん、蒿里さん、素戔嗚さん、ラックさん、そして流さんの六人で構成されています。大会自体は出る事が出来ますがこの編成で勝てるかと言われれば無理でしょう、ヒーラーがいないですからね。それに紫苑さん、礁蔽さんが今のままだと出場できず実質的にチームメンバーは四人になり大会に出場できません・だからあの傷を治せる兵助さんを探していると言った感じです。」
流は絶対の兵助を探し出そうと約束を交わした。ニアも約束をしてそろそろ寝ますと言って小屋に帰る、流も一緒に帰り二人は就寝する。
明日からは流の訓練が始まる。どこまで成長するかは分からないがとりあえず厳しい事になるのは間違い無いだろう、流は気を引き締めながら目を閉じた
翌朝目を覚ました流は皆に挨拶をする。ラックは流がしっかり目を覚ましてしっかり話を聞ける状態になると早速何をするかの説明を始める
「まずニアは体が弱いから薄い空気に慣れる事。素戔嗚は犬神との連携技の練習と流との訓練。蒿里は俺と一緒に医療の勉強だ、追手が来て怪我した時用に覚えてもらわなきゃな。最後に流、お前は素戔嗚に体術を少しでも鍛えてもらえ。お前の能力は代償が大きすぎていざという時にしか使えない、ただそれだけだとまともな戦力して扱えないからインストキラー以外でも戦える様にする」
「分かった!というかラックって加入して一ヶ月とは思えない程信頼できる何かがあるなー」
その蒿里の一言に流は驚く。ラックはさっさと始めろと開始を促す、ただ流には話があると残るよう忠告した。皆返事をしてさっさと外に出ていく。部屋に残ったラックは椅子に座ってから話を始める。
最初は軽い質問だった。記憶の事やインストキラーの事、何個か質問に答えると少し考え込んだ後何かに納得した様に次の話を始めた。
「本題に移ろう。話したい事ってのは島のことだ」
「島?」
「あぁ。まずここは太平洋の真ん中にある島、所有者は…」
「理事長でしょ」
「知っているのか?」
「うん。昨日ニアに聞いたんだ」
「そうか、じゃあある程度は省いても大丈夫だそうだな」
「大会、理事長、兵助さんの事を聞いた」
「わかった。まず俺はこの島の名前を知らない。なんせここに来てから二ヶ月ぐらいしか経っていないのに加え興味がない。
だが孤島にしては大きい、大体琵琶湖の無い滋賀県ぐらいの大きさだ。そしてこの島は脱走が不可能、沖には網目が非常に細かく切ることの出来ない程頑丈かつ高い網の様な物が設置されている。まぁ外は能力者が迫害されるってのもあるから理事長が意図的に出さない様にしてんだ。
そして大会は別の島で行われる。その島は直径10kmの円型の人工島、この大会のためだけに全世界で協力して作ったんだってよ。こんな感じだ、質問はあるか」
流はこのチームが優勝した場合何を願うのかを聞く、ラックはこの『島から出て普通の生活を送る』と答えた。流はいい願いだ、絶対に叶えようとラックに言う。
ラックは「そうだな」と珍しく微笑む、流は笑っているのを初めて見たと言うと恥ずかしそうにしながら「さっさと行け」と外に追い出された。
「じゃあ行ってくる」
流は小屋から飛び出しそのまま素戔嗚の所へと向かった。素戔嗚はポチと話し合っていた、どうやら連携技の会議をしているらしい。流が来た事に気づいた素戔嗚はポチに還って来る様に命じた。ポチも言われた通りの従い素戔嗚の中に入っていった。
さてやろうと素戔嗚は立ち上がる。今日は流の実力を測るらしい、流はどうやって実力を測るのかと訊ねると素戔嗚は戦闘体制を取りながら言う
「我と殴り合う、それだけだ」
自分では勝てないのは分かっている流は怪我の心配をすると軽い怪我なら蒿里とラックが治してくれる、と安心させる。流は唸りながら渋々戦闘体制を取った、素戔嗚は声を上げてから踏み出す。そして目にも止まらぬ速さで流の腹を殴る、流は受け身も取れず一瞬にして敗北した。流の体は衝撃に耐えきれず気を失った。
数時間してから目を覚ます、流はソファの上に横たわっていた。流が起きた事に気付いた素戔嗚が寄って来る、そして謝罪の言葉と共にコップ一杯の水を差し出して来た。
飲み干すと外からニアのご飯が完成したとの声が聞こえて来る。小屋にいたメンバーはみんなウキウキで外に出る、ニアの前にある鍋にはシチューが入っていた。それを見た蒿里は更に機嫌が良くなった。
ニアは大きな紙皿にご飯を乗せその上にシチューを被せ差し出す、ラックは椅子を出しシチューを受け取って食べ始めた。他のメンバーも受け取りそれぞれ食べ進める、皆昨日の疲れが取りきれておらず未だに少し疲れていたのもあり特に会話はなく食べ終わる。
食べ終わるとニアは片付けを始めた、ラックも今日の監視役は俺がやるから早く寝ろという言葉にニア以外の三人は眠かったので小屋に戻って就寝した。
翌朝ニアの声を聞き目を覚ます。目を凝らし挨拶をしてから周りを見てみるとニア以外の三人は小屋内にはいなかった、聞いてみると全員朝の六時までには起床して鍛えているらしい。
ニアは今起きたらしく今日は朝ごはんがないですが欲しいですかと聞いて来るが流は大丈夫だと断り小屋の外に出て素戔嗚の所まで走って行く。
挨拶を終え今日は何をするかを聞いてみると今日は体力を付けるからまず走る。大会の島にも高度が高い場所がある為薄い空気になれる、というのも兼ねているらしい。昼食までには帰って来ると伝えて流は走り出した。
休憩を入れつつ正午まで走りチャイムが鳴ると小屋まで戻る、小屋にはラック以外の全員が戻って来ていた。ラックはどこに行ったのかを聞くと買い出しに行っているとの事だ。先にご飯を食べる事になり昨日の残りのシチューを食べた。
「酸素薄いのにも少しずつ慣れてきましたけど、結構苦しいですね」
「まぁニアは我らより二歳下だからな。体も未発達なんだ、ゆっくり慣れてけ」
「そうなの!?」
「御伽学園は中高一貫でニアは中等部の二年生だ」
学園の事で花を咲かせていると小屋の扉が勢い良く開く、そして扉の前には息を切らして焦っているラックがいた。何があったのか聞くと生徒会が動き出したと小耳に挟んだらしい。もうここがバレるのも時間の問題なので短期間で流を使える程度にしなくてはいけないと素戔嗚の方を向いて言う。素戔嗚は頷き流の方を見る、流は嫌そうな顔をしている
「とりあえず俺は早く寝る、今日の見張りは蒿里でいいか?」
ラックの提案を蒿里は了承し見張りは蒿里になった。
ラックは早めに就寝する事にする、ニアと素戔嗚と流も明日に備える為早めに寝る事にした。
小鳥のさえずりで目を覚ます、時刻は五時半だったが小屋にはラックの姿はなかった。小屋の外に出てみるとまだ暗い。そして少し遠くでラックが体術の訓練をしていた、少し眺めていると流に気付き近づいてくる。挨拶をして凄い褒めてみると
「ありがとよ。俺が降霊術士とかバックラーには勝つためには本体を攻撃するしかないからな、見えないから体術を磨いてるんだよ」
流はバックラーという能力を初めて聞いたので?を浮かべる。ラックはバックラーの説明を流にする。
「降霊術と似ているんだが固定で人の霊、そして霊一人一人に能力がある。それだけの能力だ」
流は説明してくれたことに感謝してから昨日素戔嗚に言われたので、と走り出した。少しずつだがこの酸素濃度でも安定して走れるようになって来ている。
走っていると視界の端で何かがもがいていることに気付く。近付いて見てみると墜落しているスズメだった、スズメは口から血を流し苦しんでいる。流はそのスズメをそっと持ち上げ、できるだけ揺れないようにラックのところへと向かった。小屋の前まで戻るとラックがスズメの血で汚れた流の手を見て駆け寄る。
「どうしたんだその手」
流が血まみれのスズメを見せるとラックは状態を確認してから手遅れだと言う、流はどうにか出来ないかと聞くがラックは無理だと答えを変えない。ラックは最後に薄くない空気でも吸わせてやれと下を見る。流は「そうするよ」と一度下山した。
下山してからスズメを見てみると既に息をしていない。流は柔らかい箇所の土を掘り起こしスズメを埋めた。そして手を合わせた後、生徒会の奴らが近くにいる可能性もあるのですぐに登った。
ラックが待っていたので埋めて来たと言うとラックはそろそろ飯になるだろうから手を洗ってこいと小屋に押し込んだ。
手を洗うため小屋に入ると既に皆起きていてニアは朝食を作っていた。流の手を見たニアは心配したが経緯を説明すると納得し血を洗ってからご飯になるのでラックを呼んできてと頼まれる。流は血を洗いながしてから小屋を出てラックを呼び、美味しい朝ごはんを食べた。
そして食後の休憩時間に全員で雑談をしていると
『ぶっ潰れろ』
と大きな男の声が聞こえる、皆その声を聞いた瞬間に戦闘体制に入った。そして次の瞬間小屋が崩れる、そして外には凄まじい殺気を放つ学制服の男がいた
ニア・フェリエンツ
能力/念能力
半径3mの物質物体に無造作に、近くにいるものの体感、能力、良いこと、悪いこと、をつけることができる『広域化』
強さ/サポート系のため不明
第四話「声」
2023 4/6 改変
2023 5/22 台詞名前消去