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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百九十五話

御伽学園戦闘病

第三百九十五話「掃討」


隕石を破壊した刀迦はまず地面に着地し、佐須魔が来るのを待つ。


「ナイス」


「良いから次の指示」


「そうだね…どうやら変な術を使われたみたいだし、もう終わらせようか。要石、海斗、優樹、嶺緒、エリの五人を殺して来てくれ。透とフレデリックは駄目だよ、聞かなくちゃいけない事があるからね」


「了解」


刀迦が走り出した。もう任せておけば終わるだろう。後は向かってきているフレデリックと戦闘しある情報を抜き出す、その後生きているであろう透から突然変異体(アーツ・ガイル)の全容を抜き取って終わりだ。

他の五人にはもう興味は無い。透本人から聞き出せば良いので嶺緒自体には大した興味も無いのだ、怜雄の子孫ではあるがそもそもアンスロとしての怜雄は絶対に姿を見せないだろうし、蟲毒王としての怜雄もTIS(こちら)の味方なのだ気にする必要が無い。

他の四人は言わずもがなただ邪魔なだけだ、生かす必要もない。


「さて、ちょっとだけお話をしようか、佐伯」


「…その前に回復をお願いしたいです」


ケロっとした顔で仰向けになっているのだが実際は骨がグチャグチャになっている、誰も受け止めてくれなかったので当たり前だ。佐須魔はさっさと回復をしてから適当な場所にゲートを生成し椅子を取り出す。対面するようにして設置し、座った。佐伯も座る。


「何を話すんですか、僕が知っている事はとっくのとうに話しているはずでしょう。情報も流しましたし、試験にも合格しました」


「そうカリカリしないでくれよ、もう加入はしているよ。聞きたいのは学園の事じゃない、君の事さ。僕は情報屋や戦闘の面での君は認めたし、加入の是非を変更はしないだろう。だけどまだまだ強者と戦っていく中で一定の信頼は必須だ」


「そう言う事ですか。なら最初からそう言ってください」


強い態度に一瞬イラっとしたが気にしない。


「それで、何を話せば良いんですか?具体的に」


「君はどうして突然変異体(アーツ・ガイル)になったのか、そしてどうやって突然変異体(アーツ・ガイル)に所属したんだい?」


突然変異体(アーツ・ガイル)になった方法は分かりません。透が誰にも話さなかったので。

そして所属した理由、当時は別に力を追い求めてもいなかったし単純に豪邸に住めると聞いて飛びつきました。その後他の突然変異体(アーツ・ガイル)メンバーとも仲を深めましたよ。

戦闘はしないとの話だったので練習などはしていませんでしたが…」


「なら学園側にスカウトされてから鍛えだしたって事?」


「いえ、僕とフレデリック、透の三人だけは違いました。まずフレデリックは知っての通り超古株の能力者です。何かあった場合率先して戦う事になっていたので鍛えていました。透も同じく戦闘もするし、自身の能力への解像度を高めたいと言っていつも一人で様々な訓練を行っていたのを憶えています。

僕はヒッソリ、週に三回程ですが……加入して半年が経った頃です。力が欲しくなりました。何故だかは到底理解できませんでしたが、今なら解ります。戦闘病でしょう。ですがあまりに些細なレベルだったので誰も気付けなかったのです。

結果として僕は高い練度での活用を身に付けました。未だに重力低下は難しいですが、重力増加で言えば相当な正確性を持った勝負が出来るでしょう」


「うん、そこに関しては認めているさ。じゃあ次の質問だ。君の戦闘病はどれぐらい進行している?抑えられない時はあったりするかい?」


「どれぐらい…難しいですね。霊力などと違って指標は無いですし…ただ抑えられない時は存在していませんよ。まだ進行度は低いですし、効力も感じられない程度ですから」


「そうかい、まぁ何かあったら阿吽でよろしく。次、裏切って様々な情報を"砕胡"に流している時どんな気持ちだった?」


「特に何も、面倒な作業だなとしか思いませんでしたよ。目を盗んで報告しなくてはいけなかったのでそこは特に」


「面白いねぇ。じゃあTISに対して何か思う事はあるかい?」


「質問で返すようになってしまい恐縮ですが、何故あなた達はこんな場所で戦っているんですか?不意打ちはせずともこんな堂々正面からぶつからない方がやりやすいでしょう?」


「君はまだ知らない様だ、僕らの目的を」


「いえ知っています。革命でしょう、平和のための」


「それだけじゃない。枕詞が抜けている。常に正義として、だ。僕らが思う正義、それは不意打ちをしたりなんてしない。正々堂々と戦い、相手を屠る。それが僕らTISなのさ」


「…良いですね、まぁ評価が変わることは無いですけど」


「なんか調子乗ってないー?」


「いえ、別に」


「まぁいいや、砕胡とかの方が面倒だし。それじゃあこれぐらいにしようか、大体分かったよ。とりあえず行こう、もう一回挨拶しておいた方が良い」


「そうですね、同意します」


「じゃあ立って、行くよ中央」


現在ほぼ全ての重要幹部が中央に集まっている。加入する佐伯は一旦そこに向かい挨拶をするのだ。大分前、急襲作戦時に叉儺と対峙し話し合い、遣いとして契約した時から既に顔や情報は知られていたが、正式に加入するのだから挨拶は必要だ。

あとは取締課、旧生徒会、教師、エスケープのみ。ただし全チームに化物がおり、全員厄介だ。下準備は終わったようだがそれはTISも同じ。ようやくウォーミングアップが終了した。

あとは殺すだけなのだから。


「もう一度だけ言っておこう。正式加入おめでとう、大和田 佐伯」


大和田 佐伯は反旗を翻した。



一方その頃刀迦は島全体を駆け回っていた。まずは一番近くにいた奴を殺す。刀を抜きながらすれ違った。


「は?」


優樹、霊力感知を行いギリギリで探知出来た刀迦の霊力。だが対処なんてする間もなく首が跳ぶ。鋭い刃、速すぎる足、完璧な身のこなし、おまけに極限まで下げた霊力放出。避けられるはずがないのだ。身体能力だけで言えば佐須魔とも並ぶ拳でさえも対処は難しいレベル。

そんな相手を優樹が何か出来るはずがないだろう。精々憶えた知識で傷を浅くしようと奮闘する程度、だが首が飛んだらそんなもの何の意味も持たない事は明白である。


「一人目」


《チーム〈突然変異体〉[関 優樹] 死亡 > 神兎 刀迦》


まだ終わらない。次に近いのは要石だ。全力で進む通知が来た要石は瞬時に何が起こっているのかを理解し、出来る限りの全力を使って岩でバリアを生成しようとする。だがかかる時間は十秒程、刀迦が要石の元まで走る時間は約七秒、間に合わない。

それは要石本人もふわっと理解しており、他の対策も作る。急いで首元、頼み綱である能力発動帯だけは護ろうと絶対に壊れない岩を喉元に装着した。他の部位にも着けたいのだが如何せん霊力が足りない。

たった首元だけでも消費霊力は200に等しい、全身にくっ付けるのは無理があるしもう間に合わない。感知をすると同時タイミング、刀迦が首を跳ねようと刀を振るった。


「…」


跳ね返されたが表情一つ変えず心臓に刀を突き刺した。だが要石もここでは終わらない。既に隕石に使ったせいで霊力は空、出来る事は丁度良いタイミングで生成された岩の壁に閉じ込める事だ。

だが刀迦は迷わない。どんなタイミングであろうと自身に少しでも不利益があると判断すると一歩先の手を使用する。


『降霊術・神話霊・干支兎』


刀を抜く。すると干支兎がそこに突っ込んだ、生良とは違いたった一匹しか出てこないがその分力が集中している。心臓が噛み千切られ、他の内臓も潰れて行く。回復蟲で間に合う速度では無いし、他の蟲も何の意味も成さないだろう。死ぬのは確定した。

だがせめて一矢報いてやらなくては気が済まない。干支兎から吸収したほんの僅かな霊力だけで起こす、新たな蟲。


「やって、砕蟲(さいちゅう)


次の瞬間要石の体を基にした大爆発が起こった。刀迦は引こうとしたがあまりの速度に完全には避けられず、左手を火傷してしまった。だが問題はない、完全に死んだ事を確認してから進もうとしたのだがまだ終わらない。

砕蟲の本領発揮はここからだ。砕蟲は半ば要石専用に作られた蟲。効果は対象の肉体を使って大爆発を起こし、くらった者全員にある効果を付与する。

今まで溜め込んで来た"呪"の解放である。呪、何故呪はそう名付けられたのか、天仁 凱は生み出してすぐ名前を決められなかった。だが実験で殺した人物からあるものが検出され『呪』と名を与えた。その放出されたものとは霊力である。呪は一度でもくらうと発動帯にじわじわと発動者の霊力が蓄積していく。それが何かの術に使えたりした訳では無いし、戦術に組み込める量でも無かったので気にしていなかった。だがその執念のような霊力を見て浮かんできた名だったのだ。

そして砕蟲は発動者、爆発した人物に呪の(れいりょく)が残っていれば追加で効果を与えられる。要石は佐須魔にもかかっている年齢を止める呪を小さな頃にかけられているので溜まりに溜まった(れいりょく)で今、発動する。


「ウザ…」


ふと呟いてしまう。それも当然だ。刀迦の左腕は動かなくなったのだから。硬直する、筋肉が。別に掃討には腕一本で充分なのだが、これからの本気勝負で支障が出るに違い無い。特にライトニング、水葉などの刀剣使いは弟子に任せられない。


「まぁ後でいっか」


ひとまず後々皆で考える事にして進む。


《チーム〈突然変異体〉[天谷 要石] 死亡 > 神兎 刀迦》


次に向かうは海斗の元である。だがエリの次に注意しなくてはいけない人物でもある。折衷案、丁度半分になってしまう。もしかしたら耐えられて要石のように手痛い反撃をもらってしまうかもしれない。先程のような失態は二度もするなど師匠として情けない、プライドが許さないので嫌だ。

なので全力で向かう。容赦はしない、確実に一撃で終わらせる。だが海斗も流石に対策を始めているだろう。そんな相手を一撃で殺す技術、これで充分だ。


『降霊・刀・干支兎』


刀を握りしめ、すれ違う。


「残念ですが、僕の能力ならば…」


だがそれでも、首は跳んだ。去り際の一言。


「死と死の中間は、ただの死だよ」


圧倒的な力、反撃や遺言の間もない。ただただ殺められる、格が違うのだ。挑む事こそが間違いであると気付けなかった所が海斗の敗因である。


《チーム〈突然変異体〉[高辰 海斗] 死亡 > 神兎 刀迦》


続いてエリの元へ向かう。だがすぐ傍に透の霊力も感じるので注意して行くべきだ。それにエリは気付かれたまま勝負すると正直分が悪い。幾ら体が頑丈だと言っても何度も自身の攻撃を受けていたら死ぬ。

だがそんなエリにも弱点はある。透に加勢されるのが一番マズいので速攻だ。正面から唯刀をぶん投げる。真横にある木に刺さり、倒れた。


「気を付けて!!」


エリは馬鹿なので刀が飛んで来た正面しか気にしていない。そこを突くのだ。背後から白兵戦を仕掛ける。エリの弱点、それは知覚している攻撃しか跳ね返せない。

全くの不意打ちなどはどれだけ全力で正確に能力を発動していようが関係ない。くらうのだ。


「終わり」


背後から心臓を貫こうとしたその時、エリが突き飛ばされた。そして透の首を貫いた。


「透!!」


殺すなと言われていたはずだが、來花ではなく佐須魔の命なのでそこまで重く捉えない。どうせこの程度では死なないはずだ、回復蟲でも使って来るだろう。

そう思い放っておくことにした。エリの方を向いて足を踏み出そうとしたその時、透が口を開く。


「逃げろよ…ガキ!!」


言わない、透はエリの事をガキなんて絶対に言わない。知っているのだ、当時葉金邸を襲撃したのだから。そんな透がガキと呼んでいる。それに近くには死んだ健吾が寝転がっている。

刀迦の勘の良さが裏目に出る。記憶を消しているのだと理解した。佐須魔から本当に軽く雷の事を聞いていた。そこで繋がったのだ、点と点が。

恐らく何かを代償にして強くなっているのだろうがそれが分からない。命というアバウトな物では無い何かを犠牲にしているはずなのに、何故だか分からない。それもそのはず、表面的な物ではなかったのだ。記憶という人間の中で一番重要な物を捨てて戦った。あの言い方からして記憶の消去は大分進んでいるはずだ。

言葉を喋れているのも幸運、早くしないと透から吐かせる事が出来なくなってしまう。いやもしかしたらもう突然変異体(アーツ・ガイル)の詳細も消えているかもしれない。


「…」


黙って決めた。優先するのは透だ。首根っこを掴み、走り出す。中央、佐須魔の元へ。


「透!!」


エリは追いかけようとするが間に合わない。どこまでも助けられている。

三人が殺された。優樹、要石、海斗だ。その間実に五十二秒、あまりに早い速度で人が死んだ。エリだってろくに認識出来ていない。そんな状態、怖い。全てが怖くなって来るし、涙も出てくる。

唯一気を紛らわせることが出来た透の安否確認さえも奪われた。この短時間でエリの元から何個の支えが奪われたのだろか。それは本人にも分からない。

ただ一つ言える事がある。エリの心は、寸前へと迫っていた。崩壊の、寸前へと。



第三百九十五話「掃討」

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