第三百九十四話
御伽学園戦闘病
第三百九十四話「散布」
「フレデリック!!フレデリック!!!」
近くで戦っている三人、フレデリック、來花、刀迦。フレデリックの身体能力は凄まじく、二人の猛攻をも完全にいなしている。物凄い技術だ。
だがエリの姿を見た時一瞬の躊躇いを生んだ。刀迦がそのチャンスを逃すはずもなく、強く強く刀を握りながら思い切り振り下ろした。
「逃げなさい!!」
そう叫びながら残っている片腕で何とか刀を跳ね除けた。だがエリはそんなつもりが無いらしい、どうしても加勢したいらしく突っ込んでいく。
当然この二人と戦って何かが出来る程エリは強くない。まだ他の重要幹部と一対一を仕掛けた方が勝機があるレベル、無駄死にするだけ。
「來花、私がやる」
「あぁ」
刀迦がフレデリックからターゲットを変更し、エリを狙い出した。
「エリお嬢様!!」
「大丈夫だって!!」
すぐに能力を発動し、ダメージを刀迦に送る。そのため攻撃は出来ない、そう思われていた。次の瞬間刀迦は普通に攻撃を行う。当然くらわず跳ね返される。
それでも攻撃は止めない。明らかに何らかの確信があっての攻撃だろう、フレデリックは転移で助けに入ろうとする來花の攻撃が的確で、弾かないとエリにぶつかるように仕向けている。なので來花を相手にしないとエリの負担が大きすぎる。
だが天秤にかけた結果エリを助けに行く方が良いと判断した。すぐさま能力を発動しエリを回収、そして出来る限り遠くに飛んだ。
「危ないですから来ないでください、あの二人は私で充分ですから」
「違う!!見て!!」
真上を指差す。言われるがまま見上げてみると夜空から大きな大きな隕石が振って来ている。作戦内容は知っていた。雷が死んだ事も通知されていたがいつの間にかここまで追い詰められていたとは知らなかった。もう作戦も終盤、二人と戦っている暇は無い。
「分かりました。安全な場所で待機しましょう」
「いや駄目!!透の所いかなきゃ!!」
「何故でしょうか?」
「健吾と戦ってる!多分ボロボロだから早く行ってあげなきゃ唱えられない!」
「…分かりました。確かに透さんが必要不可欠ですからね、掴まってください」
エリを連れて透の元へ転移する。霊力感知で探しながら三回ほど飛んで捜索し感じ取った。急いでそこに走り、到着する。隕石は既に相当近くまで振って来ている。
だがそれよりも衝撃的だった。健吾は既に目を閉じ、透も瀕死で寝転がっている。そしてそのすぐ傍に佐伯が見下ろして立っている。何の処置もせずに、まだ目は空いているというのに。
「何してるの佐伯!!」
エリが急いで駆け寄ろうとするがフレデリックが止めた。
「佐伯さん」
「僕はあなた達を敵だとは思っていません。だから攻撃はしないです。あくまで僕は力が欲しかっただけだ。いい加減飽きたんですよ、常に弱者の側にいるのは。
必要なのは力、そして革命です」
その眼に以前のような迷いは無い。
「そうですか…残念ですね。私は佐助や旧友との約束を果たす為、TISと戦わなくてはいけないのですが」
宣言、だが佐伯は動じない。
「僕が広域化を何重にもして発動し、重力を最大まで増やせばあなたでも動けなくなる。僕は当然効力を受けないように発動します。エリなんて死にますよ、圧で」
確かにその通りだ。現在フレデリックがするべき事は透とエリを死守する事、佐伯が手を出してこないのならばわざわざ攻撃を仕掛け逆上させる意味も無いのかもしれない。
ただフレデリックにだって私情はある。大昔、数十年前の戦闘病伝染事件よりも前、佐助やフレデリックがまだ中学生だった頃だ。当時は日本に住んでいたフレデリックは佐助や他の能力者と仲を深めていた。
とある事件によって二人以外は死に、魂は平山 佐助に納められた。結果として生まれたのが円座教室、佐助のもう一つの能力なのだ。その時魂は喰わずとも誓った事がある。
「私の本当の目的は能力者に永劫の平和をもたらす事。ですがそれは叶わないと知っています。なので一時の平穏でも良い、少しでも平和に暮らせる者が増えてくれるのなら、私はそれでいい。
そのためには学園の皆の手助けを行いあなた方TISを撲滅する必要がある」
「だから僕が重力を…」
「エリお嬢様、どうか私をお許しください。そして申し訳ありませんでした、お嬢様のご両親を護れずに。ですがこの命、あのお二人の子である貴女のために使わせてもらいます」
「え?」
「お嬢様は透さんと共に作戦を遂行してください。どうか、生き延びてくださいね」
エリの頭にポンっと手を置き、向き直す。
「面倒な爺さんだ」
「さぁ行きますよ佐伯さん。私の本気を、見せるとしましょう」
今まで温存してきた力、ずっとずっと仲間のためにと使わなかった力。ここで放つ。フレデリックの口角は普段よりも少しだけ上がっている。そして身体能力は何倍にもなっている。
捉える間もなく距離を詰め、能力を発動した。二人が飛ばされたのは隕石の上、酸素も薄いしとてもじゃないが生きていられる空間じゃない。
「こんな事をしたらお前も!!」
能力を発動しようとしたが冷静に言葉を返す。
「発動したら隕石の落下は早まり、TISの方々を殺す事となりますよ。まだ佐須魔や刀迦などは来ていません。佐伯さんが重力を強くする事でどうなるか、少し考えれば分かるはずですよ」
出来ない。能力を使って戦えない。するとどうだろう、生身の佐伯と戦うのは戦闘病で強化されているフィジカルエリートのフレデリック・ワーナーだ。勝てる見込みなどあるだろうか、いや無い。勝てるわけもない。
「ねぇおじいさん、なんで僕がいる事を忘れているんだい?この災厄である僕がいるという事を」
佐須魔は降って来る隕石を見てどうするべきか考える。与えられた選択は一つ、破壊するしかない。あの大きさ、衝突したらただでは済まない、だからと言って島から離れても一分経ったら失格、権威が示せない。
なので破壊するしかないのだ。どうやら他のメンバーも一斉に動き出した様なので佐須魔も空を飛んで様子を見に行く事にした。隕石の上ではフレデリックに向かって佐伯と災厄が勝負を仕掛けているのが見えた。放っておいても大丈夫そうだ。
次に破壊方法だ。あれは十中八九要石の能力で作り出された岩のはずだ。それならば霊力攻撃で破壊できるはず、ひとまずは消滅を試みる。
『弐式-弐条.封包翠嵌』
現れたカワセミは隕石を軽く見つめた後、何もせずに天に帰って行った。どうやら封包翠嵌では駄目らしい。となれば直接攻撃しかない。
まずは霊力での攻撃。
『降霊術・唱・人神』
ロッドに指示を出す。
「今度はちゃんとやれよ」
大変不機嫌なロッドは指示を無視しようとするが、佐須魔の圧に負けて一応仕事をする。
『漆什弐式-伍条.衝刃』
だが無傷、傷一つつかなかった。
「駄目、衝刃が全く効かない時点で私に出来ることは無い。還る」
ロッドは戻ってしまった。とてもワガママだがそれでも良い情報を落としてくれた。どうやら霊力攻撃は効かないらしい、何らかの要因によって物理攻撃しか効かないらしい。
ならばと身体強化をフルで使用して殴り掛かった。すると手応え自体はあったが、全く崩壊の予兆は見えない。そろそろ細切れにしないと地面に衝突する。
他の皆は気付きそれぞれ動き出しているので攻撃を避ける事は出来るだろう。だが真っ平になったら絵梨花の攻撃がヤバ過ぎる、絶対に駄目だ。ここで隕石を破壊し障害物は大量に残しておく。
「佐須魔」
刀迦が跳んで来た。すぐにゲートで適当な丸太を持って来て足場を作ってやる。
「どうするの」
「破壊する。一刀両断出来る?」
「いける」
「じゃあ半分頼める?」
「うん」
「注意してね、物理攻撃じゃないと通らない」
「了解。行くよ」
激戦を繰り広げている隕石に飛び乗り、三人には見向きもせず刀を振り上げ、隕石を斬った。綺麗に半分に分かれた。佐須魔が半分、刀迦がもう半分を担当する。
佐須魔は全力のパンチで粉々にした。刀迦はどでかい岩の上を走り抜けながら斬りつけて行く。佐須魔よりは遅かったが、全然大丈夫なレベルだ。
隕石は粉々になり、消滅した。落下する三人、フレデリックだけは転移で逃げ出した。
向かう先はエリの元である。
「破壊されたよ!!??」
「そうですね。ですがこれで大丈夫です。透さん、出来ますか?」
返答はない。だがゆっくりと立ち上がった。エリが持っていた回復蟲で何とかなったようだ。
「それでは『阿吽』で皆様に呼びかけます。すぐにでも唱えられるよう準備をしておいてください」
「了解!!」
今からする事、それは最後の下準備である。結界だけでは足りない。具体的に言うと個人に対応出来ない。結界は大きな範囲を一気に包み込んでしまうので各個人用の結界を張っていると何らかのトラブルが起こるのが目に見えている。なのでそれの対策、謂わば二重にするのだ。負担を結界だけにかけさせない、蟲も動かす。
『さぁ行きますよ』
フレデリックの掛け声と共に生存している突然変異体全員が唱える。
『独術・纏蟲』
これで下準備は終わった。あとは出来る限り戦闘をするだけだ。フレデリックもその場を離れた。残ったのは透とエリのみ。段々と正常な思考が回せるようになって来た透にエリが声をかける。
「大丈夫?」
だが返答はあまりにも惨いものであった。これが最後の言葉になるなんて、予想もしていなかっただろう。したくもなかった。考える最悪を叩き出したのだ。
「お前、誰だよ」
第三百九十四話「散布」




