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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百九十一話

御伽学園戦闘病

第三百九十一話「第一形態」


突然として現れた透を見た佐須魔は大体何が起こったのかを把握し、舌打ちをした。そして未だ粘る要石と海斗が邪魔に感じて来た。まだエリと優樹は戦っていないし、遠方ではフレデリックが二人と戦闘しているのが分かる。

雷は霊力放出をOFFにしているようで分からない。嶺緒は単独行動中、佐伯も霊力を感じ取れない。唯一気がかりなのは佐伯であるが、恐らく大丈夫だろう。


「あたしも!!」


「駄目だ。お前はまだ下がってろ」


無理矢理戦闘に参加しようとしたエリを優樹が止める。すぐに透の安否確認を行う。そして訊く、真実なのか。本当に災厄が生まれたのか。


「本当だ…今は俺がいた空間で女と戦っている、とりあえず大丈夫だとは思う。作戦は続行だ」


「…了解。俺も出るぞ」


「頼む。軽く止血してからすぐに出る」


「あぁ」


優樹も前に出た。もう海斗と要石では限界だったのでとても良い判断だろう。佐須魔にとって三人相手とは面倒臭い事、様々な方を中止いなくてはいけないし、何より集中できない。

そうなると必然的に楽しくも無くなるので処理の範疇となってしまう。もう終わらせる、何せつまらないのだから。


『肆式-弐条.両盡耿』


周囲一帯、全体を包み込むような攻撃。ここにいる五人は問答無用で死ぬだろう。透も回復に精一杯で間に合わない。エリの能力は全体攻撃には弱く、自身しか護る事が出来ない。海斗の能力も同じくして意味を成さない。

五人の力だけでは成す術も無く死ぬ。だがここにいるのは五人だけではない、残してくれた意思と力がある。大丈夫だ、しっかりとタイミング良く勝手に動いてくれる。

次の瞬間、島全体の霊力が消滅した。それに伴い霊は全て消滅する。


「なんだ?」


当然両盡耿も発動しないので不思議に思うのも無理はない。だが一瞬にして気付く、結界だ。シウの薙核根が発動したのだ。そして島全体に漂う霊力を全て吸収した。


「一旦引け!」


佐須魔が攻撃できないという事は自分達も攻撃できないのだ。ただし佐須魔には人間離れの身体能力がある。それは自身の努力のみで培った物なので霊力吸収では封じられない。一方要石と優樹と海斗は無防備状態、さっさと後退するべきだ。

三人ともそれぐらい理解しているので背中は見せず、目線も佐須魔に向けたまま下がろうとしたその時だった。要石が物凄い勢いで吹っ飛ばされた。


「体外霊力がいくら無くなろうが、体内霊力が残っていれば能力ぐらい発動出来る。そんな事も分からないのか?」


佐須魔だ。身体強化を積んで殴ったのだ。要石は気絶しているのか意識があるのかも分からない。だがそれでいい、佐須魔はそうは言っているがこれで良いのだ。能力は使わない、いや使えない。

このまま粘る。あと少し、あと数分、佐須魔の相手をして削りながら耐え切るのだ。幸いフレデリックは奮闘しており二人も足止めできている。最高の舞台が出来上がっているのだ、逃がすわけにはいかない。


「お前らは下がってろ、俺がやる」


多少の妥協はあるがここは透がやる。他の者も納得しそれより先に要石の救助が先だと動き始めた。


「一人で来るのか、馬鹿だな」


「馬鹿で結構だ。んじゃ行くぜ」


実は全く馬鹿ではない。ただ佐須魔が憶蝕の詳細を知らないだけなのだ。


「手加減なんてするつもりは無いよ」


身体強化をフルパワーで発動しながらある物を取り出す。


「使えるかな、これ」


智鷹のヘンテコ武具の一つ、名前を[酩酊(レオン・ラウィン)]という。見た目はグローブ、勿論ギアル製である。だが他の武具とは違いとても柔らかい、流石グローブと言わんばかりに柔軟な動きを見せる。

そして基本的に使わない大きな理由、特殊な効果、その内容はとても特殊である。これで触れた相手は次第におかしくなっていく一度目は心の揺らぎ、二度目は霊力操作の大幅なブレ、三度目が血流異常、四度目が錯乱、五度目で死亡。

何故このような事象が発生するのかは教えてくれない、智鷹にしては珍しく秘密を貫き通しているのだ。

もう一つこの武具を使いたがらない理由もある。稀にとんでもない不快感に襲われる事があるからだ。それは装着した時にのみ発生あするのだが、今回は無かった。


「よし、行くぞ」


思い切り殴り掛かった。だが透は横に避けた。


「…?」


表し難い違和感。ひとまず今は攻撃が優先だ。だが何度殴り掛かっても全て避けられる。身体強化はフルで使っているはずだ。それなのに何故だろうか、透も身体強化を使っているのだろう。

避けられてしまうのなら仕方無い、他の方法で距離を詰めるしかないようだ。別に生身だけで突撃するのが手段なわけでもない、佐須魔にはその潤沢な能力があるのだ。使って損は無いだろう。


「じゃあこれだ」


背後、一瞬では理解できないように自身の後ろと透の背後にゲートを生成した。だが透は瞬時に回し蹴りを行う事で逆に佐須魔を攻撃した。あまりに速い動き、拳や水葉など色々とおかしい奴らでないと出ない速度だ。

透からそんな速度が出るとは思っていなかったし、先程までの動きならば対処出来なかったはずだ。そこである思考に辿り着く、恐らく今も成長している。


「今も強くなっている、そういう蟲か」


「まぁな」


「…まぁ潜蟲だろうね。そうなると僕に出来る事は無い、本体であるお前を殺すしか」


「破綻してるぜ?俺を殺す為に潜蟲を殺す必要がある、だが潜蟲を殺す為には俺を殺す必要がある。無理じゃねぇか」


「いや?破綻なんてしていないさ、だってほら、後ろを見なよ」


数分前に感じた霊力、すぐに振り返るとそこには人型の災厄が立っていた。


「は!?」


どうやらロッド(おんな)は負けたらしい。そんな簡単に負ける奴には見えなかったが。とにかく避けようとする。だが災厄の攻撃は速い、本当に速い。刀迦にも劣らないどころか勝っているかもしれない。

そんなの避けられるはずがない。何故なら災厄には一匹だけ憶蝕が寄生しているのだから。


「残念でしたね」


手刀、透の右半身にぶつかった。最大限の回避、意味はあったが意味は無かった。右腕が飛んだ。


「透!!」


エリが突っ込もうとしたが止められる。


「僕もいる事を忘れないで欲しいね」


佐須魔が距離を詰め、殴る。一度目の攻撃、心の揺らぎ。体が破壊された事によって動悸が激しくなり、背筋が凍る。全体に激痛も走るし、もう滅茶苦茶だ。

これ以上攻撃を受けてはいけない。だが誰も止めに入れる状況ではない。すると次の瞬間血だらけでボロボロの雷が佐須魔の喉元に噛みついた。


「何!?」


霊力反応を消していたのでバレなかったのだ。すぐに海斗も動く、災厄の元に突撃する。とても良い判断である。その隙に優樹が助けに入る。要石も気絶していたのだが丁度意識を取り戻し礫で応戦する。

佐須魔は喉元、発動帯を噛み千切られそうになってしまう。この場に伽耶はいない、前回薫に完全破壊された時も伽耶の技術のおかげで治す事が出来たのだ。だが今回伽耶は紀太と共に待機、いないのだ。

破壊されたら能力が使えなくなる。フィジカルだけでも戦えなくはないが薫や絵梨花で絶対に負ける。駄目だ、許さない。


「死ね!!」


『弐式-参条.鏡辿』


雷は避けない。更に更にと歯を突き立てる。異常なまでの意欲、だが顔を見て納得した。笑っている。


「災厄!!」


「自分で何とかしなよ」


このままでは雷より先に発動帯が破壊される。何とか引き剥がそうとするし、殴ってもいるのだが全くと言っていい程離れない。ちじゃらが強すぎる。そう、雷も使用しているのだ、憶蝕を。記憶の大半を消してでもかぶりつき殺そうとしている。猛獣のようなその執念、本当に狂っている。

だがこうでもしないと透が死んでいたのだ、自分が死ぬか恩人であるか透が死ぬか、単純な雷は天秤にかける事も無く決めたのだ。自分が死のうと。それに透はまだ成しえていない、仲直りが出来ていないのだ。これ以上怪我をさせるわけにはいかない。

そしてここのタイミングで雷は目配せをした、対象は少し遠くで潜んでいる嶺緒である。すぐに飛び出し、能力を使う。


「悪いな、雷は諦めろ」


仕方が無いのだ、嶺緒だってこんな事したくない。それでも雷が決めた事なのだから従うのが筋と言うものだ。全員がランダムテレポート、雷と佐須魔だけは対象外である。対象はそこまで広くない範囲、だが場所は島全体。皆が飛んだ。

フレデリックが集める事も無い、知らないのだから。だがそれで良いのだ、透はもう囚われる必要が無いのだから。もうこれ以上、突然変異体(アーツ・ガイル)の仲間達に構わないで欲しい。恩があるのだ、大切な人なのだ。だからこそ最後ぐらい自由にしてやりたい。

ずっとずっと後悔していたのだろう、あいつの事で。死ぬのならせめて、共に。


「クソッ!!役に立たない神モドキが!!」


雷はまだ離れない。これ以上やられるのは本当にマズイ。だがもう内臓はボロボロ、息も出来ていないせいか次第に力は弱くなっていく。そこで一気に叩いた。酩酊(レオン・ラウィン)は既に解除してしまっているので素手で戦うしかない。


「まだ、終わらないよ…」


急に雷が距離を取った。戦闘病のせいで判断力が鈍っているのか、こんな中途半端な所で手放す意味が分からない。雷の戦闘力なんて微々たるもの、不意打ちが出来なくてはほとんどの能力者に勝てないだろう。

それなのにどうしてここで、絶好のチャンスを亡きものにしてしまったのか。理由はすぐに分かる、透だ。少しでも佐須魔を足止めしたいのだろう。攻撃は充分なのだから、もうこれで良い。


「第一形態が破壊されたか…クソがよ、最悪な気分だ」


皆の功績によって第一形態は完全破壊する事が出来た。小夜子の回復術は自身に付与できないので回復は出来ないままである。


「さぁ来なよ、まだまだ…」


だが佐須魔の器は既に溢れていた、怒りによって。我慢なんてするはずもない、戦闘病でもないただのイライラをぶつけたのだ。全TISメンバーがその気配を感じ取り焦る。たった一人、健吾を除いて。

その詠唱、佐須魔の(おう)手。


《潰せ》


届く通知、死の知らせ。


《チーム〈突然変異体〉[研狼 雷] 死亡 > 佐須魔》


待機室で見た。流と薫のみ。うっすらとしか見えなかったが。

言葉になんて出来なかった、ただ口を開け呆然とし絶望。

適うはずがない、あいつには。

その一瞬にして学園側の勝ち目は無に等しい値へと変動した。



第三百九十一話「第一形態」

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