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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百八十九話

御伽学園戦闘病

第三百八十九話「爆誕」


「サメか、しかも半霊、面白い奴だな」


「光栄だ。だが俺の仕事は君を倒す事にある。別に妻も恨みがあるわけではないのだろうが、人神という立場故仕方が無い事だと割り切ってもらおう。では行くぞ」


「来い」


砂餠鮫(サヘイコウ)が地面を泳ぎ突撃する。透はそれに合わせるようにして地面を殴ろうとした。だがその動作を見た砂餠鮫は一瞬にして地面に沈んで行った。

その時どうやって地面を泳いでいるのか理解する。半霊は物をすり抜けられる。なので砂餠鮫は常に中途半端に地面をすり抜ける事でまるで地面を泳いでいる風に見せているのだ。

だがそれが分かった所でどうにもならない、何故なら半霊は霊からの攻撃で無ければくらわないのだ。生憎透は霊を持っていないし、呼び出したり他の手段での攻撃も出来ない。

砂餠鮫への攻撃は物理的に不可能。従って攻撃手段は本体への攻撃のみである。


「まぁキツイな。勝てないかって言われたら話は変わるがな」


「あら、そんなに油断しながら戯言をはいてて大丈夫なの?」


次の瞬間足元から砂餠鮫が飛び出してきた。透は冷静にジャンプし、蟲を放り投げる。全く意味の無い行動には見えるのだがその目的は攻撃ではないのだ。

完全に霊への理解度の問題。いや違う、ロッドだってこれぐらい知っている。透より古い時代の研究者というだけだ。問題はこんな事をされたのが初めてだった事にある。この男には隙を与えてはいけないと自覚していたはずだ。それなのに見せてしまった。


「まぁ残念だったな」


砂餠鮫は噛みつこうとしていたのだが、透に"踏まれ"た事で怯み成功しなかった。だがおかしい、半霊には触れられないはずだ。どうやって触れたのか、答えは簡単。霊力の割合を変えたのだ。

烙花蟲を投げ霊力を吸わせる事で砂餠鮫の中の霊力:体力の割合を無理矢理変化させ、実体として認識されるまで霊力を減らしたのだ。

半霊とは普通の霊よりも霊力割合が高い者を指している。元々霊は多数の霊力と僅かな体力で構成されているのだがそんな少数の体力が更に少なくなることで霊力とほぼ同化する事が出来る。かつての最強が一人[佐嘉 正義]もここからヒントを得て霊力と同化する術を編み出した。

だがそんな霊力を吸われ、普通の霊と同じ割合にされたらどうなるだろうか、触れられる。ただしここが面倒なポイントで、触れられるようになったとしても攻撃は無効化される。もっともっと霊力を減らしたら変わるのかもしれないが今の技術ではそれは不可能である。


「次は俺の番だ」


ロッドの元まで駆け寄り、触れる。


『漆什…』


衝刃を撃とうとしたのだが間に合わない。その前に口を塞がれ、寄生された。明らかな異常性、脳の中を這いずるような痛み。すぐに砂餠鮫が助けに入ろうとしたが再度烙花蟲が周囲に現れて割合を変えさせられた。迂闊には近付けず停滞するしか無い。

ロッドも弱くはないのでしっかりと後ろに下がって逃げようとしたのだが、透の身体能力は徐々に上がっているので普通に追いつけてしまう。


「させない!!」


砂餠鮫が止めに入る。だが霊力の補充が済んでおらず触れる事が出来る状態である。そのため普通に押し出すようにして突き放そうとしたのだが、何としてでも止めようという強い意思が垣間見える飛びつきによって逆に動きを止められた。

その瞬間ロッドは楽しそうに唱える。


『壱式-壱条.(ささら)


鈴の音が鳴ると同時にのれんの様な紙が透を包み込む。そして再度鈴が鳴った瞬間、その紙達が回転し出した。それに伴う激痛。だがこれだけではない、筅にはとある必中攻撃がある。

その必中攻撃とは切断、対象をまるでバラバラ殺人の被害者のようにしてしまうのだ。一度菊が佐須魔に使っていたがその時は佐須魔の復活で乗り切っていた。ただ透には復活なんて出来ない。なのでここで何としてでも逃げ出さなくては死ぬ。


「駄目か!」


烙花蟲の霊力吸引でも意味は無く、紙に触れた蟲が切り刻まれた。対処法はある。あるのだがあまりにもリスキーなのだ。だがそれでもここでそれを使わなくなば死ぬ、本末転倒というものだ。

考える必要も無い。憶蝕の進行を早めた。どの記憶が持って行かれるかのギャンブル、その代わりに一時的な身体能力の超強化、これならば耐えられるだろう。


「流石に私の勝ちかしらねぇ…」


筅が終了し、現れた透に驚愕する。全くの無傷。やはり体内の霊力を無くす方法を知っているのかもしれない、警戒しつつも高揚が止まらない。久しぶりにこんな面白い相手とタイマン出来ているのだ、仕方の無い衝動性である。

だが当人は少しおかしかった。


「…?」


変な物を見る様な目を向けているのだ。先程の戦闘に熱中しているモノとは全く違う、特に強い意思も感じられない眼。違和感を覚え少しだけ質問する。


「どうしたの?そっちからでもいいわよ」


「…いやお前誰だよ」


その時察しの良いロッドは勘付いた。記憶を代償にパワーアップしているのだと。少々残酷ではあるがひたすらに攻撃をしていれば記憶が完全に消えて絶対に勝てるのではないだろうか。

別に難しい事でも無いし、再現性も充分、いける。

一方透は連れてこられた所までは記憶にあるし、何者かと戦闘していたのも憶えているので恐らく目の前に立っている(ロッド)が敵なのだろうという事は瞬時に理解し戦闘体勢に入った。

だがこの人物がどんな事をしてくるのか、簡単に言うとハールズソンラー・ロッドの情報が完全に喰われてしまった。最悪と言っても良いタイミング、戦闘中の敵の情報を完全に失っているのだ。

流石の透でもこの戦闘は厳しい、別に思考や性格が変わったわけでも無いので冷静に判断していく。ちなみに砂餠鮫や黑焦狐などの奉霊は別の存在なので記憶から消されていない。頭の中では『~に仕えている霊』のように曖昧な情報しか残っていないが。


「まぁとにかく、お前は敵か」


「好きにしない。先に一撃あげるわ」


舐め切った態度。ただしロッドにはそれほどの余裕があるのだ、極度の戦闘病患者にしてはそこそこ妥当な判断ではある。


「んじゃ行くぜ、一撃」


憶蝕の進行は最初と同じレベル。既に一時的な超強化は無くなっているのでそこそこ強いレベルである。それでも無防備な相手に一撃入れられるのなら充分すぎる力である。

そのためロッドもしっかりと対策している。そもそも二百年以上生きて来た戦闘馬鹿(のてんさい)が容易に一撃を渡すわけが無い。無防備がどれ程に危ないものかしっかり理解しているのだ。

相手が霊だと知らない透は蟲を忍び込ませようとしたのだが、触れた瞬間に唱えられた。


『妖術・上反射』


全ての攻撃が跳ね返る。激痛と変換され、軽く吹っ飛ばされた。そこで相手がただの人間ではない、零式によって起こされた者か神へ昇華した何者、または霊だと言う事が理解出来た。

そしてバックラーは喋らないので霊の場合降霊術で呼び出される霊だ。だがこの霊は鮫の霊を扱っている。文献、ロッドの文字は全て抜け落ちているが分かる。こいつは奉霊を扱う者、今でいう人神なのだ。


「…霊相手はキツイな、結構」


想像よりも早く気付かれた。だが透はどんな術を使って来るかまでは分からないはずだ。術式はまだ微かな可能性が残っているが、妖術などは絶対に知らない。

しかもここは一対一の空間、滅多な事が無ければ他の人物に見られることは無いだろう。ロッドは佐須魔の霊として一応仕えているのだが別に仲間意識などは一切無い。なので知らせている事より知られたくない事の割合の方が高いため佐須魔の元での戦闘を好まない。

だがここは違う、思う存分暴れても何の文句も言われないし、むしろ歓迎される。久しぶりにハッスル出来るのだ。高揚すると共に唱える。


『妖術・万鋼(ばんこう)


それはロッドが作り出した妖術の一つ、元は翼焔鴉(よくえんがらす)という鴉の奉霊のための術だった。だが効果が普通に強かったため改造して他の霊でも、人神になったロッドでも使用できるようになった。

詳細はというと対象の霊力を無理矢理引き出し、鋼鉄のように硬くする。謂わば防御系だ。とても単純かつ非常に使う安い。何故かと言うと霊力は対象に引っ張られる故に正面に生成したのなら解除しないか倒されたりしない限り常に同じ距離感を保ちながら盾も移動するのだ。

そして非常に硬いと言う事は思い切り振り向いたりしてそれが敵に当たれば普通に攻撃にもなる。少し考えるだけでも様々な使い方が思い浮かぶ。

反射系と違う点は一つ、跳ね返らない。まるで劣化のようにも感じるがそんな事は無い。ロッドだって考えて設計している。その盾は完全に霊力で生成されているのだが、他の霊力だけの攻撃を完全に"吸収"する事が出来るのだ。

なので透の蟲などで攻撃した場合その分の霊力をロッドの原動力として変換出来るという優れもの。本当に場面を選べば相手を完封可能な性能を持つ盾というわけだ。


「んだそれ」


当然透は知らないのだ困惑し後ろに下がった。すると完全回復した砂餠鮫が突撃して来た。


「通用しないぜ、いい加減パターンってもんを…」


主に砂餠鮫を見ていたのだが、視界の端でロッドがクルリと回転しながら近付いてきたのが見えた。何の意味があるのか分からず砂餠鮫から目を放さずに周囲を確認しようとしたその時、フルスイングで万鋼がぶつかった。

頭蓋を砕き、物凄い勢いで吹っ飛ばした。ついでに砂餠鮫が首元にかぶりつく。


「終わりだな、青年」


脳震盪によって気絶してしまったので何も聞こえていない。そのまま喉元を食いちぎって殺そうと思ったのだが、緊急事態が発生した。


「砂餠鮫!!」


砂餠鮫は透を掴んだまま瞬時に地面に半分潜り、回避した。何を回避したのか、表すならば攻撃性のある霊力だ。


「あらま、避けられてしまったか……僕のようなエリートがやらかすとはねぇ…」


普段ならば良い雰囲気の霊は虜のしようともくろむロッドだが今回ばかりはそうはいかない。殺意を剥き出しにしながら透を自身の背後に寝かせ、護るような体勢を取った。


「落ち着きなさいよ、砂餠鮫」


「分かっている」


「おやおや…これは失敬、貴女のような女性を無視するとは何たる失態っ…自分が恥ずかしい…」


とてもとても白々しい、全てが嘘の言葉なのだろうと伝わってくる。それでも今までに無い緊張感が張り詰めている。


「珍しいじゃない。私はマモリビトの働きのおかげで二体しか見た事無かったけど…片方はデカい化け猫でもう片方は狐だったわよ?初めてなんじゃない、ニンゲンって」


するとそいつは姿を変える。龍になった。


「そんなそんな、貴女に合わせてあげたんですよ?少しは感謝したらどうでしょうか…あぁ無理ですか、何せあなたはアバズレビッチですものねぇ」


嘲笑う時が一番楽しそうだ。


「別に否定はしないけど、あんたみたいなクソに言われると腹立たしいわね」


「失敬失敬。僕が上位存在過ぎて勝手に見下してしまいました…何と呼べば良いでしょうか、お嬢さん」


「あんたに姫とか名前呼ばれるぐらいなら、佐須魔に献身的に仕えていた方が百倍マシよ」


「…やはりおバカさんなのですね、僕こと災厄は既に"協力体制"ですよ?」


ロッドの目の色が一瞬にして変わった。本気で戦う、そして透を護り抜く。これで佐須魔から罰を受けようが構わない。このままこいつを放置していたら大事な菊やニア、アリスにまで無意味な被害が及ぶ。それは許せない。


「少し本気で行くわよ砂餠鮫、他の奴も呼び出すから耐えなさい」


「了解です。この身を挺してでも、護り切ります」


「駄目よ、生き残りなさい。あなたは私の大事な(だんな)。それを忘れないで」


砂餠鮫は心なしか嬉しそうに返事をした。


「分かりました」


皆は忘れていた。神と化した佐須魔のせいで、いや違う。これはマモリビトであるラック・ツルユの責任なのだ。ずっと放置して誰にも伝えなかったのが悪い。しかもこうやってサルサが感知出来ない場所に侵入させてしまってもいる。

知っていたはずだ、ラック(アイト)ならば。災厄の恐ろしさと言うものを。そして知っていたはずだ、災厄は百年周期で生まれ、都度先代の力を吸収している事を。知っていたはずだ、これ以上強い災厄を生み出させると仲間が最大の危機に晒される事を。

それは間違いである。



「出たよ、ラック」


「分かってる。んじゃあいつらにも伝えてくれよ、力貸せってな」


「うん。ちゃんと仕事を全うしよう。さぁ、始めだ」


「行くぜ、三人(おまえら)。力を貸してくれよ、甲作」



第三百八十九話「爆誕」

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