第三十九話
御伽学園戦闘病
第三十九話「快感と優越感」
ん…?ここは…
目をつんざく様な白い世界、辺り一体は何もなくただ白い空気に包まれている。その空気は時々色を変え、はたまた形を変え、様々な変化が目まぐるしく起こる世界に少し恐怖を覚えた。すると頭の中に直接声が響いてくる。
あらま…負けちゃったか
「誰ですか」と声を出そうと口を開いたが喉からは何も発せられなかった。謎の現象に戸惑っていると再び脳内に直接声が響いてくる。
ここは目と耳以外何も機能しないから声は出せないんだ。だから心の中で返事をしてくれ、そうすれば僕は理解できる
(分かりました…それで…ここは?)
うーん難しいんだけど…僕の空間?
(よくわかりません)
まぁ分かる訳無いよ。気にする事じゃ無い
(…はぁ…あとあなたは誰ですか)
『エンマ』って読んでくれ。君と僕は一方的だったけど結構関わってたんだよ
(そうですか)
じゃあ聞きたいんだけどなんで負けたと思う
(あの赤髪男の地雷を踏んでしまったからですかね)
うーん…僕達はあんまりアドバイスしない事にしてるんだけど君はお気に入りだからアドバイスをしてあげよう。
(お願いします)
君が負けた理由は実に簡単、そしてたった一つ『力が足りなかった』
(それは…実感していました)
分かっていたなら結構、じゃあ次どうすれば勝てる
(あいつを圧倒する…力)
正解。じゃあどうすれば力は手に入る
(地道に訓練して…)
違う。訓練は時間がかかる。今君が欲しい力は“一瞬”にして手に入れることが出来る大きな力だ
(一瞬…)
思いつかないかい?
(はい)
…そうかぁ…じゃあお預けだ
(お預け?)
まぁ気にするな。でも僕のお気に入りだし…じゃあ今回は生き返らせるのと十分だけ特別な力を使えるようにしてあげよう。
(特別な力…?)
多分使う時に本能的に分かるから気にしないでいい
(分かりました)
じゃあ今から戻すからね。気をつけてね、いってらっしゃい
(はい。行って来ます)
すると視界が一気に暗転し現実世界へと引き戻された。
神は來花の方に向かおうと歩き始めた時だった、懐に入れた蒼の手が何か蠢いている様に感じ何か直感的なものを感じ勢いよく手を放り投げた。すると急激に空中で繊維が手に集まり蒼の体を一瞬にして形成した。
「うわきも!」
「須野昌は何処だ」
今までとは少し雰囲気が変わった蒼を見て神も少しだけ口調を変えた。
「怪物が喰った」
「あの黒いのか?」
「うん」
「そうか…じゃあ回復させる事は出来るか?」
「できな…くはない。でもやりたく無い!俺の霊力沢山使うから」
「じゃあ俺が勝ったら無条件で回復させろ」
「嫌だ」
「そうか。じゃあ回復させたいと思わせてやるよ」
そう言うと蒼は力を解放した。すると何か違和感だ、直ぐにその答えを理解した。その正体はエンマが言っていた力だ。蒼は神に向かって走り込んだ、神は突っ込んでくる蒼を見て馬鹿にする笑いをしながら唱える。
『呪・自心像』
先程と同じ怪物が蒼の足元から口を開け飛び出してくる。だが蒼はそれを予測していたかの様にヒョイと攻撃を避け再び神に向かって突っ込む。神は上下左右全ての方向から怪物を出し、蒼を喰わせようとする。全ての怪物がぶつかり合い勝ったと確信したその瞬間だった、蒼は凄まじい速さで神の首に回し蹴りをくらわせた。
数メートル吹っ飛んだ神が慌てる様に恐れる様に喚く。
「なんで!?なんで!?」
「黙れ。さっさと須野昌を回復させろ、そうすれば命は取らない」
「うるさい!じゃあ俺も!『呪・ふ…』」
言い終わる前に蒼が顎を蹴り上げた。完全に言ったわけではない、中途半端な呪だ。中途半端な呪いというのは自分に跳ね返ってくる事が多い、神は例に漏れず一時的に自分の持っている呪を半数使えなくなった。
「くそっ!」
「なぁその目にしている目隠し用の紙はなんなんだ」
「教えてほしいか?」
「興味はある」
「ストッパーみたいなもん、お前らの仲間の水色髪の奴と同じ。あいつのメガネにレンズは入っているけどズームされないのと同じ、なんでかってあいつは肉眼で何か見ると血流透視を嫌でも使っちゃうから眼鏡で発生を防いでる、それと同じ。勝手に発動する力を抑えてる」
「そうか、じゃあ二度とその力とやらは使わないで済むな」
「は?」
「終わらせる」
神の首元を絶え間なく蹴りまくった。神は怒った様子で蒼の事を睨んだ後『呪・自心像』を使おうとしたが蒼に顔面を蹴られ詠唱が中断されてしまった、中断された呪は神に跳ね返り苦しみ出した。苦しんでいる神に向かって何度も何度も蹴ったり殴ったりを繰り返す。次第に神は血を流し始めた。
「なんっ…でっ…!」
「こりゃいい力だ」
「なんで急に強くなってんだよぉ!」
「エンマってやつに力を貸して貰ってる」
「はぁ!?ずるいずるいずるい!じゃあ俺も使う!」
そう駄々をこねながら目隠しを外した。本来目が二つある位置に中央部に一つ目があり、その目は惹き込まれる様な色をしていて蒼も少し見惚れていた。すぐにハッと正気を取り戻しし後ろに引いて体勢を立て直した。
後に攻撃するために足を踏み込んだ瞬間黒い怪物が目の前に現れた。蒼は再び後ろに引き避けたが後ろは工場で次は後ろには逃げられなくなった、前方からは怪物が突進してきて右側に避けようとそちらを見てみると右手からも左手からも怪物が迫って来て上にしか避ける事が出来ず誘導にしか感じられないがジャンプして攻撃を避けた。
だが怪物達はぶつかり合わず怪物を踏み台にし、ジャンプした蒼を死ぬ気で追いかけてきた。蒼は空中でろくに移動できず左足のふくらはぎを少し削り取られてしまった。少し顔をしかめたが直ぐに追撃が来ない位置に落下し追いかけてくる怪物達の攻撃を交わしながら神の正面まで走り込むとアッパーをかました、神は蒼を掴み叫ぶ。
『呪・蚕』
すると蒼は苦しそうに口と鼻から白いサラサラとした液体を吐き出した。怪物達は走り続ける、後ろには引けず右に避けた。そして少し息を整えてから再び神に向かって走り出したがその場から動く事が出来ない、原因を突き止める為足元を確認してみると既に負傷している左足を地面から出てきた小さい怪物に噛みつかれている事に気付いた。このままではやばいと思ったが振り解くことは出来ず後ろから迫ってくる怪物達の口へと取り込まれていった。
「ふー…終わったー」
「何が終わったって?」
神は凄い勢いで後ろを振り向いたが遅く、今までのどの蹴りよりも力強い蹴りで神の脇腹を蹴った、神はありえない速さで吹き飛び工場に打ち付けられ動かなくなった。怪物達も消失し蒼は勝ちを確信しゆっくりと歩いて近寄る、残り数メートルになったところで神が枯れた声で質問をしてきた。
「その…力って…なんだ…」
「もうお前の負けだから教えてやる『一秒先の世界を見ることが出来る』これだけだ」
「…」
「あまりにも強くて言葉が出ないか?」
「いいや?俺の勝ちを確信したんだよ」
「なっ!…」
『呪・封』
『呪・自心像』
「いやーやっと反動が治ったよ」
蒼は『予見』も元の身体強化も使う事が出来ず黒い怪物が迫ってくるのをただ見ることしか出来ず頭の中には「ごめんなさい。エンマさん」と言う言の葉だけが浮かび上がり超至近距離まで来た自分より何倍も大きい怪物を見上げることしかできなかった。
その日神は何かを思い出した。何度も経験していたはずだが今の今まで忘れていた、何百年ぶりの感覚だろう。この感覚は來花と出逢ってからは感じていなかった感覚、そんなモノを一日で何度も経験してしまった。圧倒的な快感と優越感に浸った神はこれからも繰り返すだろう、その感覚とは、そう「人を殺す感覚」だ。
第三十九話「快感と優越感」
2023 10/7 改変
2023 10/7 台詞名前消去




