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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百八十六話

御伽学園戦闘病

第三百八十六話「犬犬スサノオ天仁 凱」


常に口角が上がっているような人間ではあるがそんな雷でも笑えない様な事は多々存在している。一見桃季やエリのようなクソガキに似た性質を持っているかのように窺えるが、実際は全く違う。

ラインを越えた言動は絶対にせずあくまでも決められたルールや一般的なマナーの中で全力で楽しんでいる。そのため度々初対面の人に驚かれたりもする。

ただそれも一種の楽しみに昇華している節がある。そしてその楽しみは戦闘にも直結している。


「行くぞー!」


「あぁ来い」


村正を構える。両脇には降霊し意思を持ったスサノオと犬神が佇んでいる。どう考えても単純に突っ込んだら返り討ちに遭う状況である。だが雷は突っ込んだ。それを理解しながらも。

そして犬神にタックルをかまされ軽く吹っ飛ばされる。すぐに受け身を取って四足歩行スタイルに切り替えた。まずは大体の力を把握するのが先、引き出すのは後からだ。


「もっかい!」


わざと声をかけるのだ。スサノオはプライドが高く、弱い敵の場合は基本犬神と本体の素戔嗚に戦闘を任せている。なので犬神、そして後方でずっと見ているだけの天仁 凱も動かせるかもしれない。

犬神と軽い戦闘を繰り広げながら常に素戔嗚の方を見ている。物凄い練度だ。刀迦でも多少は敵に目線が行く、何故ノールックで戦えるのだろうか、分からない。

とにかく相当強いはずだ。気を抜かず、最悪の場合天仁 凱の呪を使ってでも殺す。


「犬神!」


このまま戦わせていても何の意味も無いので引かせる。雷はそれに合わせて距離を詰めて来るが関係無い、素戔嗚が自身が前に飛び出した。

数年前とは見違えるほどに動きが良い。速度も当然ながら刀の使い方も上手くなっている。素人目で見ても分かる。だが素戔嗚と雷を比べるとフィジカル面では雷が圧倒している。

そのせいで攻撃は一回も当たらない。それでも両者隙は見せずに攻防を繰り返している。本当に軽い傷は所々出来るのだが大きな一撃が全く出てこない。

このままでは霊力消費が多い素戔嗚の方が断然不利、勝てないかと言われると答えづらい。取り上げるべきはこの後の戦闘なのである。取締課、旧生徒会、教師、エスケープ、まだまだ強者揃い、素戔嗚だって戦う必要があるはずだ。それなのにここで霊力を使い切って勝負するのは得策なはずがない。


「ならばこうしよう」


『呪術・氣鎖酒』


能天気な雷ならば酒への耐性もほぼ無いだろう、そう読んでの氣鎖酒だった。そして酔っている事を悟らせないように何の保険も作らずに斬りかかった。普通ならば避けられないからだ、普通ならば。

だが素戔嗚の予測は間違っていた。雷は仲間とのコミュニケーションが好きだ。煙草を吸っているのも透が良く吸っていて共に吸っているといつもより沢山話せるからであるし、面倒だが手のかからない態度もエリに親近感を湧かせるための無意識の行動であるし、とにかく体が勝手にそういった行動を起こすのだ。

そして加入当時一番距離が遠かった人物、フレデリック・ワーナーとの話題が欲しいと考えていた。フレデリックは近そうに見えても皆より数個も違う格の上に佇んでいると感覚的に理解していたのだ。

そんなフレデリックの好きな事を探して見たかった。違和感の無い範囲で追いかけて見たり、普段屋敷で何をしているのかも見ていた。結果として一番良さそうなのが"酒"だった。

フレデリックは週に一度、土曜日の夜にだけ一人で酒を飲んでいる。そこに突撃して一緒に飲む事にしたのだ。普段とはほんの少しだけ違う態度に何故かワクワクし毎週土曜の夜に共に酒を飲むようになっていた。

その酒の度数が大分強かったのだがそんな事気にしておらずガブガブ飲んだ結果アルコールへの耐性がいつの間にか身に付いていたのだ。


「何!?」


完全に気付いていない、酔わせようとしていた事に。急に隙を晒しながら斬りかかって来たので当然する事は一つ、反撃だ。素早く姿勢を低くしてからアッパーをかまし怯んだ瞬間に腹に連続パンチをくらわせてやった。

そこまで力は入れていないので吹っ飛んだりはしていない。なのでまだまだ追撃がいける。更に距離を詰め、二足歩行スタイルになってから素戔嗚の顔面を掴み膝蹴りをくらわせた。すぐに四足歩行に戻って蹴りを首にぶち込んだ。

流石に草薙の剣(スサノオ)がすっ飛んで止めに入った。両者距離を取ってから体勢を整え、見合う。雷は迂闊に距離を詰められないし、素戔嗚は先程の連撃から経験を得てしっかり警戒するべきだと学んだのだ。

その結果静寂が続いている。すると見かねた天仁 凱(コピー)が声を出す。


「止まっていてもどうにもならんだろうが。動け」


そう急かすならばサポートぐらいはしてくれるのだろう。ゆっくりと一歩目を踏み出してから二歩目で一気に飛び出す、雷もそれに対抗する為前に出ようとするが阻止される。


『呪・瀬餡』


止められた。よく考えたらそうだ、雷は完全フィジカル頼りの戦闘をしている。だからどうにかして行動を封じればこっちのもの、負ける要素など何処にも無い。

自信満々に斬りかかった。雷も抵抗する術は無いので完全に受け入れる形で、ただし反撃を確実に当てられるように構える。すると犬神が素戔嗚より先に襲い掛かかった。想定外の攻撃、雷は焦り体勢を崩してしまった。

そこに叩き込む、強靭な一撃。両腕、内臓の切断を狙い横からしっかりと刃を入れて斬る。だがそこは雷といった所か上手く体を捻じって左腕が半分程切断される程度で済んだ。

物凄い痛みだし筋肉も駄目、正直左腕はもう使い物にならない。今までならばそうだった。だが今回は違う、透のサポートもある。


「回復!!」


そう言うとポケットに潜んでいた蟲が這い出て左腕に入って行った。するとみるみる内に治って行き、くっついて元通りになった。完璧な修復、犬神や天仁 凱は勿論素戔嗚も驚愕する。

それが寄生虫のおかげだというのは瞬時に理解できるが仕組みが一切分からない。こういう回復は基本体力を尋常じゃないレベルまで使用して行うもの。だが一瞬だけ見えた蟲にその気は無いように見えた。

体力無しに回復する方法など回復術以外に無い。だが優衣の蝶はまだしも、単純に霊力で構成されている透の寄生虫がそんな事出来るとは到底思えない。何かカラクリがあるはずだ。


「攻撃力上げて!!」


もう見せたのでここぞとばかりに新しい蟲達を使い始めた。言葉通り攻撃力だけのようで、身体能力全般が上がっているわけではない。その代わりに空気を殴る音だけでもヤバイ事が伝わってくる。


「わしもやってやる。本気で行くぞ、素戔嗚」


「頼む。スサノオもな」


反応は無い。

ひとまず犬神と天仁 凱で行く。


『呪・斬壇堂』


それは美琴の呪、周囲から飛んで来るギロチンの刃。まだ瀬餡が解けていない雷にとっては絶体絶命、普通にヤバイ。だが対処法が無いわけでは無い。

急いで仰向けになって寝転んだ。ある一定の高さから飛んで来る物は全て避けられるが、上から来ると避けられないだろう。だが雷は避ける。まるで時計の針のように、固定されている足を支えにしてクルクル回って避けている。

馬鹿にしか見えないが非常に効果的かつシンプルだ。基本どんな所から飛んできても対処が出来る最善策とも呼べる。

だがそれはあくまでも斬壇堂のみの場合、他の術や他の者が介入してきたら崩壊する。


『呪・剣進』


やはりやって来た。その三本の剣は動きを抑制するために現在の雷の位置を時計の十二時の位置だとすると大体二時、七時、十一時の部分に刺さった。

本来ならばそれで動きを抑え犬神や素戔嗚に決めてもらう算段であった。ただ雷だってそれぐらい容易に想像出来るのだ。一瞬である判断を下す。

まずは十一時の剣を口で咥え、傷付きながらも引き抜いた。そしてろくに力の入らない体勢のまま犬神に向けて放り投げた。本体を狙わなかった理由は単純に当たらなさそうだからだ。犬神はこの中で一番油断というか隙の大きい者故に狙われた。

だがそれでもへにょへにょの攻撃なんて当たる訳も無く軽々とかわされてしまった。


「あっ!!」


「当たるはずがないだろう、この犬神が」


そう言いながら噛みついて来る。首元、念の為発動帯を破壊しようとしているのだ。ついでに呼吸も止める事が出来る。だがタイミング良く瀬餡が解けた。

瞬時に犬神を抱え込み、押しつぶそうとする。恐らく殺せば素戔嗚にもダメージが行くはずだ、そう思っていた。ただ霊には強い特性がある、いつでも還る事が出来るのだ。今回のように時間をかけて殺すなど愚策、一瞬で大きすぎるダメージを与える事が出来ないのなら、オーバーダメージ作戦はやらない方が良い。何故なら結果として隙を晒す事になるからだ。

犬神が姿を消し力が分散しほんの一瞬だけ体勢を崩した。その瞬間を見逃さず素戔嗚が斬りかかった。一応防御をしようとはしたものの、全く意味を成さず右腕を吹っ飛んだ。


「ああぁ!!」


大きな唸りを見せたその時、スサノオがこことばかりに突っ込んで来た。避ける間もなく、右眼に向かって。その刀身は目から貫くようにして脳まで到達する、その瞬間、叫ぶ。


「すさのお!!」


刷り込まれた恐怖、瞬時に全員の動きが止まった。特に素戔嗚と草薙の剣(スサノオ)は顕著でピタリと止まった。それがどちらに向けた言葉なのか、または両者に向けた言葉なのかが分からなかったからだ。

そして言葉は本体の背後、冷や汗を滝のように流しながらもゆっくりと振り返った。やはりそこには刀迦が立っている。


「何ですか……師匠…」


刀迦はズカズカと歩み寄り、素戔嗚をぶん殴った。本気だ。死ぬかと思う程の激痛と意識の揺れ、気絶しそうになったが更にビンタされる事で完全に覚醒した。

いつも通りの冷たい顔、だが怒りが見て取れる。弟子への心配か、自身の教育の不甲斐なさか、どちらだろうか。


「馬鹿じゃないの、相手にはエリがいるし透もいる。一度瀕死状態で何回か攻撃してからトドメを刺すべき。なんでいきなり殺そうとするの?何にも成長していない。

前からそう、なんで中間が選べないの?なんで極端な短期戦か長期戦しか選べないの?ちなみにそれは長所とか個性じゃなくてただの弱点、対策するべき所。

教えてよ。私何回も言っているはず。学習能力が無い理由、今すぐ早く」


本当に嫌な説教の仕方である。


「…分かりません…」


すると刀迦は不機嫌そうに舌打ちをして胸ぐらを掴んで来た。そしてそのまま問いただす。


「そんな曖昧な答えは求めてない。本当に殺すよ、私は別にあんたが死のうがどうだって良いから」


発破をかけているわけではない、本当に殺すつもりだ。殺気が半端じゃない。なのでこれ以上に怒られても良いので正直に答える事にした。


「出来る限り短くしようと思ったからです…今後の戦闘で霊力が少ないのは致命的かと思いまして……」


刀迦は手を放した。


「最初からそう言えば?私が分かってないとでも思ってるの?なんで言わなかったの、最初から」


今まで言えなかった事、だが今なら言える気がする。ずっと言えなかった事、この場なら。目を見る度胸はない、地面を見ながら言い放った。


「…あなたが怖いからですよ」


すると刀迦は驚いたような顔をしてから、背を向けた。


「私は來花と合流しなくちゃいけない。だから素戔嗚は佐須魔の所行って休んでなよ」


「えっ…ですが雷は…」


「ちゃんと見て、もういない」


振り返るともう雷は逃走していた。


「これは私の責任。後で何かあったら私の指示、そう言って」


そう言い残し場を後にした。霊と自身像を戻し、一人になった素戔嗚は立ち上がり少し考える。物凄い違和感があった、その正体について。


「ねぇ素戔嗚、ちょっとだけ話そうよ。もう暇でしょ」


久しぶりに聞いた声、すぐにそちらの方を向き何故だか安堵した。それと同時に心配という気持ちが強くなり話に乗る事にした。


「良いだろう、蒿里。何を話したいんだ」


「素戔嗚の"力"の事。そしてそれに付属する"関係性"について」



第三百八十六話「犬犬スサノオ天仁 凱」

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