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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百八十五話

御伽学園戦闘病

第三百八十五話「犬猫フクロウ」


雷は単独行動である。ターゲットも決めている。干支組戦が終わるまではまだまだ情報が少ない譽と戦闘をしようと思っていたが変更した。本来想定していなかった事が起きたからだ。

それは素戔嗚の武具、草薙の剣である。そもそも前大会にて陽がその身を呈してまで破壊したはずだった。だがそれはフェイクでこれからの仲間を助ける為の秘密道具として温存していたのだ。

軽く教師陣と話し合った結果素戔嗚の実力はその剣一つで大きく変わるらしい。なので雷が行く。能力は霊力のON/OFFである。奇襲や一度距離を取ってからの攻撃には有用だが、基本的な戦闘ではほぼ意味を成さない能力である。

サポート系はフィジカルを鍛え抜くのが鉄則なのだが雷は最初からフィジカルはほぼ満点だったので別の力を付けていた。お披露目も兼ねて素戔嗚と戦うのだ。


「よーし!OFF!」


霊力反応を消した。素戔嗚は大分遠くにいるが現在付近でうろついている傀聖と思しき人物に『阿吽』で伝えられたりちょっかいを出されたりしたら嫌だからだ。

この能力の霊力消費は低いので正解の判断である。傀聖も大体の気配には気付いているものの精確な位置が分からないし、殺意を向けられていない事を悟っているのでわざわざ探そうと言う気にもならない。

そして傀聖は素戔嗚に方にその人物が向かっているのを知っているが通達しない。理由は一つ、別にTISのメンバーが死んでもどうでも良いからである。


「何してんの、ここ私がやるから。どっか行って」


矢萩がやって来て傀聖を追い出してしまった。矢萩は霊力反応が無いため付近に雷がいる事を全く気付いていないし普段よりもリラックスしている様子だ。

正直矢萩の手の内は完全に明かしていると言っても過言では無いのでここで戦闘をする必要はない。何せ勝てる見込みは無いのだから。


「…」


「…」


まだ互いの事が見える距離。ゆっくり慎重にヤブを進んで行く。すると突然として矢萩が動き出す。しかも雷の方目がけて一直線に。何らかの方法で位置を特定したのだと理解した雷は瞬時に走り出した。お得意の四足歩行で。

ヤブかつ四足歩行のせいで見失った。だが軽く見上げてからまた雷の元まで全力で駆けて来る。訳が分からない。恐らくどうやって見つけているのか特定し、対策をしなければ素戔嗚との戦闘なんてままならない。


「臭いんだよね、土臭い。まるで虫みたい」


完全に日は沈んでいる。だがまだ月明かりは出ていない。まるで獣と獣の狩り合い。矢萩の刀が雷の右肩に一瞬食い込んだ。だが途轍もない反応速度でしゃがむような形で回避を取った。

とても良い動きだ。まさかこんなに速いとは思っていなかった矢萩は少しだけ驚いている。


「やるじゃん。でも無駄、逃がさない」


すぐに追撃を放つ。雷は転がるようにして避けたが次の追撃は避けられない気がする。仕方が無いのでここで一回目を使用する事にした。

ポケットからある物を取り出し、飲み込んだ。矢萩は一瞬だったがその正体をしっかりと捉える事に成功している。蟲、透の寄生虫である。明らかに普通の虫より霊力が多かったので間違いない。

まるで優衣の消耗蝶のような扱いだ。とにかく何らかの強化を受けるのは確実、身体能力の高い雷相手なので一旦距離を取る事にした。


「捕獲!!」


だが次の瞬間、雷の言葉がすぐ傍で聞こえると共に体の制御が効かなくなった。目も覆われ何も見えない。大体の勘で刀を振るってみるが全方位何もいない。

どうやら一瞬だけ飛びついて目を隠しすぐに移動したらしい。目隠しに使われた布を放り投げ少し上を見上げる。そして位置を特定した矢萩が動き出す、後ろだ。


「えっ!?」


あまりに速い動きに困惑し少々大きめの傷を負ってしまった。だがこの程度何ら問題は無い。それよりも先にヤブに飛び込んで身をくらました。

ただ数秒後、矢萩は真上に跳んできてまるで場所が分かっているかのように精確に刃を突き立てた。完全に反射神経だけで避けはしたは良いがそろそろ限界だ。

両者体が慣れて来るがその時の身体能力の上がり幅は矢萩の方が高い、と言うよりも雷は常にマックスの力で動く癖があるため敵に時間を与える程差が出来てしまうのだ。

戦闘が始まってか約二分、体力は全く問題無い。やるなら今だ。


「逃げる!!」


背を向けて全速力で逃走を図った。だが矢萩は一瞬にして場所を特定し襲い掛かる。やはりどうやって位置を特定しているのかを当てなくては勝つどころか逃げる事も許されないらしい。

矢萩は速いし鋭いしねちっこい、常に送って来る染み付くような視線もいい加減ウザったい。雷はそう言う類の人間と一対一で過ごすのが滅茶苦茶苦手である。そのためメンタル的にもブレが出てくる頃合い、一方的に追い詰められている。


「…まぁそろそろ終わりにしよっか。無駄に体力使いたくないし」


刀から霊力が矢萩に流れて行くのが分かる。絶対に言霊を使って来るはずだ、よく耳を凝らし何を言って来るのか瞬時に理解して対策を取る必要がある。

だがその時耳障りな"音"が気に留まった。聞いた事のある音、それはフクロウの鳴き声だ。完全に夜と言える暗さなので別に違和感は無い。ただその声のせいで言霊が聞き取れない可能性が出てくる、環境にも恵まれていないようだ。


『停止』


覚悟がしていたがどうやっても避けられないタイプだ。一撃をもらうのは受け入れるしかない。矢萩がここぞとばかりに力を籠めて斬りかかった。

物凄い血が吹き出し痛みも伴う。ただむしろ冷静になり後ろに引いてヤブに突っ込んだ。再度姿勢を低くし位置を悟らせないようにする。

場は静まり返った。だがそれでもフクロウは少し静かに鳴き続けている。違和感。


「…!!!」


勘付く、その手口。瞬時に行動に出た。いきなりヤブから飛び出し飛び掛かる。


「まぁそうなるよね、ヤケに」


淡々とそう言いながら攻撃をかわし続ける。通用しないと感じた雷は再度ヤブに飛び込んだ。ただの遅延であったその行動に矢萩は一瞬だけイラっとしたがすぐに心を抑え少し見上げる。

そして固まる。すぐに見上げながらも周囲を確認し始めた。そして大きな舌打ちをした。地面で美味しそうに蟲を頬張っているフクロウの姿があったからである。

雷の推測は完全に的中した。まずここは孤島、しかも太平洋のど真ん中。幾ら猛禽類であろうと大陸や日本などの島から飛んで来るのは無謀である。だがここにいると言う事は何らかの手段によって連れて来られたと考えられる。

そこで雷はこう考えたのだ。TISが連れて来たのではないかと。特にこの突然変異体(アーツ・ガイル)対策として。フクロウは基本何でも食べる、主食となるであろう鼠などは一切存在していない。なので腹を空かせていれば蟲だろうが食いつくだろう。

そしてそこまで空腹の生物のすぐ傍に大量の食べ物を持って動いている奴がいたらどんな反応をするだろうか、ガン見してしまうだろう。

矢萩はそのフクロウの視線から大量の寄生虫を抱えて移動していた雷の位置を特定していたのだ。その思考に辿り着いた瞬間に飛び出し襲い掛かった。そして早い内に退散するとほぼ同時タイミング、バレないレベルの小さな動きで寄生虫を何匹か同じ方面に投げておいたのだ。

フクロウはその蟲に食いつき視線を雷からはずす。するとフクロウ頼りだった矢萩は位置が分からなくなる。こんな真っ暗な空間、幾ら勘が冴えていようとも人間では見つけ出すのは困難である。


「はぁ……もう良いよ。別に殺す必要無いし、どうせ素戔嗚とやりたがってるんでしょ?行けば」


刀をしまい背中を向けた。別に雷もここで倒したい訳では無い。だがこんな好機二度とあるものだろうか、いや無い。最早本能、ゆっくりとヤブから身を乗り出し、飛び掛かってしまった。

だが矢萩はそれを待っていたと言わんばかりに振り返りながら抜刀する。もう間に合わない、死を覚悟する間も無い。死ぬ。


「矢萩!!」


素戔嗚の声。ピタリと刀は止められた。


「何」


「お前言ったよな、数秒前に。俺と戦いたい奴なんだろう、そいつは。だったらお前が殺すべきではないだろ」


「何言ってんの、頭湧いてんじゃない」


「好きに言え。だが俺はここでそいつを殺す事は許せない。ただの侮辱だ」


「……」


いつにも増して攻撃的な目を向けながら呟いた。


「まだ唯刀も持ってないくせにイキらないでほしいんだけど」


「なんだ?何て言った、もう一回言えよ」


「はぁ…じゃあもう勝手にすれば?出来るならばここで殺されて」


大きな舌打ちをしてからその場を離れた。少しの沈黙。止血を終えるとご丁寧にも話しかけて来た。


「何故俺とやりたいんだ」


「だってまだ情報が少ないだろ!"まだ"時間あるしな!!」


「どれぐらいだ」


「五分ぐらい!」


「そうか。それならばやってやろう。五分で決着が付く程度の力でな……ただし忠告しておくが、俺はお前を殺すぞ、研狼 雷」


「出来るものならやってみな!」


「そうか。行くぞ」


連続で唱える。


『唱・草薙の剣』


『降霊・刀・スサノオ』


『降霊術・唱・犬神』


『呪・自身像』


草薙の剣を地面に突き刺しスサノオを降ろす。その後犬神と天仁 凱(コピー)を出す事によって戦力の大幅増強。決着は分かり切っているだろう、素戔嗚が勝つに決まっている。

だが雷は何も諦めてなどいない。むしろ楽しんでいる。それを察知したからこそ素戔嗚も本気で挑むのだ。戦闘病患者相手に手加減など、許されざる行為であるのだから。

島の全員、数ヶ月間共に過ごした突然変異体(アーツ・ガイル)にも伝染しているのは当然であろう。透だってその事を皆に伝えて受け入れさせた。だからこそ成長して強くなったのだ。

突然変異体(アーツ・ガイル)は既に研究チームの域を超え、戦闘員へと昇格していた。

そして研狼 雷は知っている。戦闘の楽しさというものを。



第三百八十五話「犬猫フクロウ」

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