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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百八十二話

御伽学園戦闘病

第三百八十二話「起動、死亡」


シウはすぐに庇う様にして覆い被さった。この行動はワンチャンに賭けたあまり良くない方法であり最善策でもあった。八懐骨列は螺舌鳥悶のように範囲内全員に強制的に不可避の斬撃を二連で与えると言うもの。だが放たれる瞬間、本当に本当の一瞬、(かみ)でさえも知覚出来るか分からないレベルの出来事。

エネルギーが放出され斬撃へと変わる。その瞬間に大きく体を動かす事で受けるダメージを最低限に出来る。シウは本当にたまたま大きく覆い被さり移動した事で本来は即死級である攻撃を桃季と共に避ける事に成功したのだ。

だが桃季の分もあってか右手は飛んだしへその高さ辺りが綺麗に切れてしまった。


「何?」


発動者である來花さえも驚いている。すぐ傍にいた鶏太は二連撃をくらい瀕死状態だと言うのに二人は避けているかだ。シウの体は既に限界、まともに戦えるラインを越えてしまった。

それなのにまだ立ち上がる。最後に一矢報いてやろうなんて魂胆が感じ取れない、強い眼。來花は薙核根を見ると同時に何かヤバイ事は理解した。


「もう一回!」


リイカの命令、すぐに唱えた。


『伽藍経典 八懐骨列』


もう無理、そう思われた時完璧なタイミングで猪雄が三人を突き飛ばした。まだ降霊は続いているようで速度が段違いである。それに判断能力も相当上がっているように見える。

これならば八懐骨列も多少は対処が可能だ。ただしそれ以上の問題があるのだ。猪雄が来たと言う事はここにいなかった者、作戦が崩壊しかねるからこそ分断していた者、神兎 刀迦がやって来る。

そのスピードは尋常じゃない。何故身体強化も無しにそんな速度が出せるのかと小一時間問いただしたくなる。だがそんな事どうでも良い、恐らく最長でも三十秒程である。

現在の経過時間は四分四十三秒、残り十七秒は耐えなくてはいけない。そして刀迦が到着する時間はおよそ三秒、無理だ。八懐骨列のおかげで一旦ストップが入ったラッシュに刀迦と來花が加わるとなると幾ら降霊をした状態の猪雄がいてもどうにもならない。

どうすれば良いものか考えようとした直後、到着した。


「行くよ、全員」


刀迦の声。姿は見えない、いや違う既に移動して来ている。シウの首元目がけ刀を突き出した。だが桃季が咄嗟に腕を前に出し刀を肉で食い止めた。

物凄い痛いし何なら苛立ちすら覚える。だがそれ以上に完璧な動きが出来た事に幸福を感じている。


「まぁいいや、次」


引き抜いて今度は振るった。桃季とシウの慎重差は目測25cm程度、どれだけ反応速度が良かろうが防ぐのは全ての要素を加味した場合絶対に無理だ。他のTISメンバーもそれを察し、一瞬だけ気を緩めた。

だがその油断が敗北を生むのだ。鶏太は待っていた、ずっとここまで待っていた。ラッシュが始まった時からここまで。どれだけ痛みを伴おうとも最高のタイミングで使わなくては損だと知っていたから。

そしてこの行動はシウ、桃季、猪雄の全員に伝えていなかった行動である。覚悟の表れ、一般人が見たらそう思うのかもしれない。だがここまで戦闘をして来た奴らならば分かる。この湧き立つ勇気はただの戦闘病なのだと。


「全部あげる、だからやって。頼んだよ。僕の全てを、君に捧げるよ。干支鳥!!」


「良いだろう!!この俺がやってやる!!」


干支鳥が鶏太の右半分、そして左半分を喰った。刀迦は鶏太が何か言い出した時点で本能的な忌避を感じ撤退している。それは正解だった。今まで文献にも残っていないやり方だった。

干支神に全てを捧げた場合どうなるのか。とても原初的で何処でも通用する便利な戦術、体の何かを捧げ霊の強化を行う。それぞれの霊によって好みはあるものの部位で言えば大体皆目を好んでいる。だが大は小を兼ねている、勿論全て喰えるのならそれに超したことは無い。


「行くぞぉ!!」


明らかに霊力が増えた干支鳥が刀迦に向かって突っ込んでいく。シウはいまいち状況が掴めていなかった。あまりに唐突過ぎる全ての謙譲、こんなの聞いてもいなかったのだ。だが解る、最初から切り札として温存していたのだろう。戦闘病があったとしても怖いはずだ。それなのに自分達のためにやってくれた、残り十秒、耐えきれる。

干支鳥の力は凄まじく刀迦と互角にやり合えている。それを見た他のメンバーがこのままだと逃げ切られると悟り一気に動き出す。既にシウは動ける状況に無い、桃季も抱き抱えられているため瞬時には動けない。

仕方無い。体の主には悪いが恐らく怒ったりはせずむしろ褒めてくれるだろう。降霊状態の猪雄が動く。それと同時に干支猪が飛び出し驚異の來花の腰に突撃し時間を稼ぐ。

他の重要幹部の中で意識を向けておくべきなのはやはり砕胡だろう。瞬間火力が半端じゃない。だが知らなかった、真に警戒すべきは譽だと。


「させない」


次の瞬間体の中が煮えたぎるように熱くなる。体も動かなくなりその場に倒れ込む、だがそれでも根性だけで受け身を取った。物凄い執念、干支神にここまでの団結力と執念があるとは知らなかった。

だがそれもここで終わりだ。何だか面白い空気を感じ取りやって来た怪物がいる。譽は伝える。


「かけるよ!」


「了解です」


微笑みながら高く跳びあがる。長い金髪がなびき、メイド服が涼しい風に揺らされる。この華奢な体格から放たれるとは思えない力、そして譽の能力。避けようのない、トドメの一撃。

まだうな垂れている猪雄の背中をそのまま貫いた。血が噴き出し押し出されたような声が鳴る。結局この程度かとガッカリしたアリスが腕を引き抜いたその瞬間体の中から大量の干支鼠が飛び出して来た。

そして他の全員の目元に飛びつく。これではろくな移動も出来ないし何より砕胡の能力が使えない。譽がカバーのために指を鳴らそうとするが、時は満ちた。


「あとは…頑張って……」


猪雄はその場に倒れ、そのまま目を閉じた。

干支鳥も限界、既に死にかけだ。猪も來花に引き剥がされ八懐骨列が放たれてしまう。そんな中、皆の注目する先には二人の能力者がいた。

桃季の体を左手で軽く支え、何とか抱きしめようとする。


「悪いな……結局お前に…辛い思いさせる事になった……」


桃季は言葉が出ない。


「でも皆が頑張って繋いでくれたから勝てたんだ……一緒に唱えてくれるな?…桃季」


死体や惨状を目にして涙ぐみながらも頷いた。


「ありがとうな……それじゃあバイバイだ……ごめんな、本当に……」


最後に振り絞った力で強く抱きしめ、言葉を残す。

既に妨害は間に合わない。


「愛してるぜ、桃季」


重なり唱える、最後の呪詛。


干支術(えとじゅつ)呪詛(じゅそ)薙核根(ちかくこん)


薙核根が広く知られていない理由の大きな要因、それは完成されていなからである。文献に残っているのは薙核根を起動させる所まで、最後の手順、どうやって魂と能力を投影するのかが何処にも記されていないのだ。

それが何故か、答えは一つ。あってはならない術だからだ。だがシウは完成させた。ラックの地下研究室、そこに残されていた干支術の資料を何とか繋ぎ合わせ完成させた。そしてその完成系には干支術だけでなく何らかの術として唱える必要があった。

そこは干支蛇こと口黄大蛇に頼み込んで協力してもらったのだ。そして出来たこの術、薙核根に入るのは当然シウ・ルフテッドである。

次の瞬間シウの体が消滅した。薙核根から禍々しい霊力が放たれた。これで目的は遂行されたのだろう。そう理解した桃季は膝から崩れ落ちた。涙も途切れ途切れ、全く状況が分かっていないのだ。


「私がやる」


刀迦が斬りかかる。だがその肩をある男が掴み制止した。


「何、健吾」


「やめろ。こいつは生かす、リタイアさせる」


「訳の分からない事…」


「させるって言ってんだよ。どうせ俺らが勝って革命起こすんだ、その時に干支神の行方が分かってた方が良いだろうが」


「…あっそ」


刀迦は刀をしまった。他のメンバーも納得する。それに今の桃季に戦える余力なんて残っていないはずだ。健吾が煙草を咥えながら近寄ると桃季はガバッと顔を上げ唱える。


『降霊術・神話霊・干支辰』


恨みだけ、精確性も何も無い適当な術。健吾は辰だけを小部屋に入れて一発ぶん殴ってから能力を解除した。


「あのな、その"右眼"の意味、分かってんのか」


そう言われた時ようやく違和感に気付く。すぐに手を当てて確認した。そして包帯を取り、やはりそうだと確信した。目が見える、契約の時に持って行かれた右眼が再生しているのだ。そんな事を有り得ない、何が起きたのか分からない。


「この戦い中シウが何度か不自然な回復をしたり、施したりしていた。まぁ俺は見つけたぜ、"あいつ"はやっぱ頭が良いってこった。んで最後の最後でお前を助けたんだ。もしかしたらその体力を自分に充てていたらこんな危険な橋渡る必要無かったのにな。

……まぁここまで言えば大体分かるだろ。お前は…」


「だったらもう…殺してよ……」


涙ぐんだ声、すると戻って来た矢萩がこう問いかけた。


「それで一体誰が救われるの?あんただって救われない。皆が命がけで繋いで、あんたは偶々生き残れた。それなのに、生き残れるのに死ぬの?馬鹿でしょ、それってただの馬鹿。

だったらいっその事私がやる」


刀を抜き、桃季の元まで詰め寄った。そして上から大きく振りかぶり、突き刺す。だが心臓や首ではなく右手の甲だった。それでも滅茶苦茶に痛いし、声も出てしまう。

だが何だか正気になれた気がした。


「早く戻りなよ。あんたにだって出来る事はまだあるでしょ」


血を拭き、刀をしまった。そして矢萩はその場を離れてしまった。桃季は半泣きになりながらも何とか手を動かし、腕時計を操作してリタイアボタンを押した。


《チーム〈干支組〉[鼠田 猪雄] 死亡 > アリス・ガーゴイル・ロッド》


《チーム〈干支組〉[シウ・ルフテッド] 死亡 》


《チーム〈干支組〉[神龍宮 桃季] リタイア 》


《チーム〈干支組〉 の 残り人数が 0 となったため 第二戦 干支組 VS TIS の戦闘を 終了します》


《勝者 〈TIS〉》


目的だけを見れば完璧であった。薙核根を稼働させる事により今大会中永続的な結界によるサポートが可能となったのだ。次が突然変異体(アーツ・ガイル)、下準備はこれで終わる。

突然変異体(アーツ・ガイル)の目的は皆へのサポートなんてものではない、佐須魔への超大きなデバフと、布石である。



第三百八十二話「起動、死亡」

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