第三百八十一話
御伽学園戦闘病
第三百八十一話「五分-三人」
唯唯禍が連れて行かれるとほぼ同時にシウの内喰に似た状態は終わった。干支辰も大分低い高度で飛んでいる。いつでも介入できる距離だ。
リイカがあまり良い顔をしていないので全員動こうにも動けない。ただし何もしないと言う訳にもいかず、遠距離から攻撃をしてみる。
『呪・剣進』
三本の剣がシウに向かって飛んで行く。だが干支犬が軽々と弾く。
「俺がいる限りシウには通じないぞ、そんな攻撃はな」
「神!!」
傀聖が声をかける。そして五十円玉が付いている槍をぶん投げた。神は何をしたいのか瞬時に理解し、協力する。
『呪・剣進』
爆速の一本、そして遅れてやって来る三本の剣。しかも全てが違う位置、まるで正方形の角を狙っているかのように別れている。流石の干支犬といえどもその四つを弾く事は難しいだろう。
すると干支犬は右の二つを弾いた。そしてフラフラのシウが右に寄る事で避ける。まだそこまで頭が回っているとは思っていなかった。だが状況が変わる訳では無い、どうせその内限界が来て干支犬は消える。そうすればTISの勝ちだ。
問題なのは大きな柱である。ここに刀迦はおらずその正体を知っているのはTIS内で刀迦のみ、出来る限り早く効果を知っておきたい。ただし慎重に行こう。
「行きますよ、皆さん」
右腕を光の剣に変えた原が前に出た。他のメンバーも攻撃態勢に入り、本当に終わらせる段階までやって来た。猪雄と唯唯禍は放っておいても何とかなるだろう。やるべきなのはここにいる桃季、鶏太、シウの三人である。流石に発動者であるシウと鶏太が死ねばこの柱も消滅するだろう。
それに干支術に精通している刀迦が何の反応も示していないのだから多分そこまで危険じゃない物と予想できる、実際には違うが。
とにかく今は厄介なシウを殺す。
「合わせるぞ!!」
砕胡と同時に距離を詰める。シウは最後のひと踏ん張りだと気合を入れて唱える。
『干支術・干支神化』
『妖術・刃牙』
二つが重なり合い途轍もない力を得る。だが二人は止まらずそのまま干支犬を叩こうとする。原が光を剣で切り裂こうとするが華麗なステップで避けられた。
砕胡がカバーしようと足を伸ばしたが逆に噛みつかれた。持って行かれそうになったがギリギリで急所を作り出し激痛で怯ませる事によってギリギリセーフだ。そしてそれだけではない、折角距離を詰めたのだから使わなくて損だ。
遠距離からの急所作成。だが干支犬が砕胡に飛び掛かり視界を塞ぐ事でそれを防いだ。
「神!俺達も行くぞ!」
「了解!」
『呪・自身像』
大きな赤目と巨大な口を持つ黒い化物が地面から飛び出した。素戔嗚は全力で走りながら唱えた。
『降霊術・唱・犬神』
犬神に先行してもらい、怪物によって視界が悪くなっているシウの元に飛び掛かった。怪物はその事を理解しているので口を閉じようとせずあくまでもフィールドを作り出す役を担っていた。
犬神は干支犬に、その隙に素戔嗚が本体に斬りかかる。フィジカル勝負で言えば圧倒的に素戔嗚が強いはずだ。それに怪物の口の中には砕胡と原もおりその二人も近付いて来ている。
三方向、絶体絶命。シウは大きく息を吸って能力を発動した。
「やるぞ、桃季」
展開される一つの結界、今まで島全体にかけていた幻覚結界を破壊し新たに被せる一枚。その結界は同じく幻覚結界、偽の景色を見させるものである。だがそれに何の意味があるのか、一早く気付いたリイカが全力で走り全員を自身像のフィールドから放り出した。
直後結界が破壊される、大きく口を開け物凄い勢いで振って来る干支辰によって。辰は自身像フィールドを丸々ぶっ潰した。少しでも反応が遅れていたらと考えると背筋が凍る。だがああいった攻撃は全てリイカが対処してくれるはずだ。
自分達はひたすらに攻撃を続けるだけで良い。
「多分飛ぶから、智鷹。やるよ」
譽が智鷹に声をかける。すぐに右手を機関銃に変え干支辰に向けて撃ち始めた。最初は何の気も無しに再度空に飛び立とうとしていたがそれは譽も能力によって阻止される。
急に機関銃の威力が上がり干支辰が苦しみ始めた。そこで桃季だけが飛び降り、シウと交代した。干支辰は何とか飛び上がり再度幻覚結界が展開された。残ったのは桃季のみ。
ここぞとばかりに全員でかかる。
『呪術・羅針盤』
『呪術・氣鎖酒』
「行くよ智鷹」
二人の呪術、どちらも本体で殴りに行っているもののしっかり呪も欠かさない。羅針盤はもう全員軽々と避けながら距離を詰める。まずは素戔嗚が斬りかかるが桃季は唱える。
『人術・螺舌鳥悶』
ら、と言った時点で譽が危機感を覚え対処しなければ全員死んでいた。皆の目の前にそれぞれ頭蓋のみが骨の山羊が現れる。ただ譽の能力によって瞬時に爆散した。
一旦全員が後退する。流石に螺舌鳥悶まで使えるとなると話が変わって来る。リイカからの指示がないためまだ想定内の事で対処出来るのであろうがそろそろ不安になって来る。これまでずっと何とかして来たとはいえどもここは決戦の場、味方であろうと多少の猜疑心は持つべきだろう。
そう思った素戔嗚がある提案を持ち掛ける。勿論味方に向けてだ。
「俺が一番に行く。恐らくシウと鶏太からは見えていないはずだ。『阿吽』を使っても霊力の軽いブレで大体は察せるだろう?」
すると傀聖が口を出した。
「無茶だ。桃季は相当多くの術を習得し扱っている。雑魚のお前じゃどうにも…」
素戔嗚は桃季に見えないようヒッソリとある物を皆に見せた。
「良いのかよ、リイカ」
「駄目だったら即却下してる」
「ま、なら良いけどよ」
傀聖も槍を準備しておく。他の皆も素戔嗚がチャンスを作った瞬間に叩く方針で構えた。
そして動く。村正を手に集中しながら距離を詰めていく。最大限距離を取りながら、ただし致命傷になるレベルの傷を入れれる力で斬りかかる。だが桃季はそんな事許すはずも無く唱えた。
『人術…』
だがそれを許さない者がこの世にはいる。自身の都合のみ、己の道を突き進んだ者が。自己中、利己的、だから強いのだ。そいつの名は[スサノオ]、杉田 堂藍と言う一人の男がこの霊のためだけに自身の人生を捧げる必要があった程の自己中心的な考え。
杉田 素戔嗚は基本的にスサノオに逆らう事が出来ない、許されていない。ただし一応協力関係ではあるためこう言った接戦では"稀に"力を貸してくれる。その基準は曖昧で不規則である、ただし分かっている事が一つだけある。武具[草薙の剣]を所持しており、『降霊・刀・スサノオ』を使用し霊スサノオを草薙の剣に降ろしている時だ。
現在素戔嗚は無詠唱で『降霊・刀・スサノオ』を済ませており、その刀は桃季の真後ろまで近寄っている。どうやら本人は気付いていないようなのでこのまま一撃をぶち込んでやる。
「それが許されたら、僕がいる意味が無くなってしまう」
草薙の剣は弾かれ吹っ飛んで行った。だがすぐに戻って来るだろう。それより重大なのはいつの間にか降りて来ている、シウと鶏太の二人が。
どうやら鶏太のレーダーによって裏から回っているのを気付かれていたようで阻止されてしまった。とりあえず譽がカバーをしようとするがそれより先に桃季が叫ぶ。
『降霊術・神話霊・干支辰』
真正面から突撃、羅針盤が回っているものの恐らく力負けするだろう。上に避けるしかない、誘導だとは理解しているがそうするしかない。
全員が高く跳んだ次の瞬間唱える。
『雲中白鶴』
下、地面だ。完璧なタイミング、このままなら着地した直後に攻撃が始まる。だがリイカが何もしないと言う事は大丈夫なのだろう。しっかりと傀聖が全員の側に十円玉を放り投げ爆発させた。
衝撃で浮き上がりタイミングがズレる。ただしそれだけでは普通にくらうだろう。次は誰が対処するのだろうか、そう思っていると皆の真下、土がボコボコと膨れ上がり爆発した。その破片を踏みつけ更に高く跳ぶ。
雲中白鶴の効果が切れると同時に着地した。とても良い連携である。
「桃季、あと一分だ」
囁き声だった。だが鍛えに鍛えた地獄耳には通用しない。素戔嗚が皆にその事を伝えた。すると全員血相を変えて攻撃を再開する。四方八方から飛んで来る攻撃達を全て避ける事が出来ないと感じたシウはすぐに桃季に覆いかぶさるような形で抱き着いた。
直後地面から出て来た小さな神の自身像によって動きを封じられ、背後に回った傀聖が槍で二人まとめて突き刺そうとする。だがシウが振り向き、顔面に槍をぶつからせた。流石の傀聖でも一瞬困惑しその隙に犬神が引き離す。
「シウ!!」
「良いから自分の身を守れ!!」
シウはその槍によって右目を貫かれた。だが幸いな事に脳みそまでは行っていないので何とかなる。とんでもない痛みだがアドレナリンがドバドバ放出されているので何とか戦えそうだ。
それよりも明らかに格の違うラッシュ。すぐに背中を守りに来てくれた鶏太のおかげで耐えれてはいるがこの状況があと三十秒でも続いたらやられかねない。
ただこれが一番良い方法である事も事実なのだ。干支辰を出しても何の成果も得られないしそれどころか焦ったTISがラッシュを更に強くして対処のしようが無くなるかもしれない。安牌であり弱気の手ではあるもののこれで良い。
そう思っていたのは、この詠唱が聞こえるまでだった。どうやら駄目だったみたいだ。唯唯禍の死亡通知が同時タイミングで来たがそちらにリソースを割く事など出来るはずもない。
何故ならこう聞こえたからだ。
『伽藍経典 八懐骨列』
確かに翔馬 來花の声、終わりだ。
第三百八十一話「五分-三人」




