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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百七十九話

御伽学園戦闘病

第三百七十九話「五分-猿巻 唯唯禍」


瞬時に素戔嗚と矢萩が斬りかかる。だが唯唯禍がシウを吹っ飛ばして回避させた。唯唯禍は空中で桃季とほぼ同時タイミング、拳に変身させた干支猿を踏み台にして大きくジャンプしたのだ。雲中白鶴はくらわずその後着地した猿が変身を解く事で落下の衝撃も受けず地上に行けた。

頭が冴えているようだ。一般人並みの知能がある唯唯禍は厄介、素戔嗚と矢萩が目を合わせ矢萩が担当する事にした。サルサ、リヨンや猪雄のように押し出すようにして分断しようとする。


『呪・瀬餡』


どうやらまだ内喰と同じような状況は続いているらしく、矢萩の足を止めた。


「何やってんの速くして素戔嗚!!」


すぐに素戔嗚がシウに向かって刀を振った。だが軽く避けられ、むしろ反撃の腹パンをくらった。ただそこは鍛えているので問題ない、左手でシウの腕を掴んで右手で刀を振り下ろす。

避けられず左肩に深い傷を負った。内喰に近い状況とはいえどもほぼ解除されているような状況でもあるので体の主導権や意識は全てシウが持っている。こういう場面で後退しない馬鹿ではない。

すぐに手を振り払い距離を取った。


「シウ!!」


「自分の身は自分で守れ!!」


それは自身の心配などせずに自分のやれることをやれという意味だ。ザっと理解した桃季は攻撃を始める。


「行くよ!!」


『妖術・遠天』


飛んで来るエネルギー弾、原が手を光の剣に変えて防いだ。恐らく遠距離からの攻撃は雲中白鶴やら伽藍経典やらでないと通用しないのだろう。桃季は戦闘病から来る本能の刺激によってこの戦闘を全て感覚でこなしていた。だがそんな桃季の感覚にも限界と言うものはあり、それが時間制で疲労が溜まって行く傾向にある事を本人は知らない。

桃季の体は未熟も未熟、現在十二歳、学級で表すと小学六年生なのだ。全てが足りない、そんな状況で干支辰を抱え込んでいる。本来ならばオーバーフローし異常が起こるはずだ。それなのに数年間ずっと戦闘病以外の異常が発生していない理由、シウだけはそれを知っていた。だが語らなかった。あまりにも残酷だったからだ。


「…皆さん気を付けてください。恐らく干支辰を抑える事で精一杯なのでしょうが……神龍宮 桃季、あの子は…」


そう言いかけた所で唯唯禍が原の元に突っ込みぶん殴ろうとした。その時の気迫は普段とは桁違い、本物の獣のようだった。あまりのギャップに原は反撃では無く回避を取った。

それが正解と言えるのかは難しい判断だが、少なくとも両者の総合的な被害は同じ程度で済んだだろう。


「何してんの。あんたの相手は私、逃がす訳ないじゃん」


矢萩が唯唯禍の首元を掴み、逆方向へ吹っ飛ばした。シウが妨害しようとしたが素戔嗚に阻まれ、そのまま抵抗も出来ず猪雄と同じ様にして森の方へと連れ込まれてしまった。

矢萩が使う能力は降霊術と言霊、そして何より特徴的なのはその武具(かたな)だ。唯刀 猫、刀迦から一人前と認められた際に送られた刀。完璧な切れ味、所有者にフィットするよう洗練された柄、霊力を通し様々な戦略を取れるギアル製の刃、武具としての刀としてはこれでもかと強い要素が詰め込まれている。


「もう私はTISを信頼なんてしてない。今なら分かるの、蒿里の気持ち。だから同じ、飼い猫状態で良い。私の居場所はここだけだから」


大会が始まる前から矢萩はずっと首輪を着けていた。それは飼われている証、戒め"だった"アクセサリー。だが今は違う、ただ現実逃避のための道具。ペットと言う立場にある事で自身の身を守る、そんな弱気な心の体現者。

頭の悪い唯唯禍にはそんな事分からないがとりあえず良くない物なのだろうとは分かった。だがそれが矢萩の魂にも近しい存在である事も同時に分かっていた。

別に温情をかけようなんて思いは一切無い。家族のように親しくなった生良を殺したTISを許せる気はしない。だが揺らぐ心の中こんな言葉が胸から口へと、流れ着いた。


「ごめんね」


「何、急に」


下にあった目線を上げ、顔を見る。すると唯唯禍の目からはとくとくと涙が流れていた。だがそれが自身に向けられた涙でない事は当然理解出来るし、逆に何に向けた涙なのかもおおよそ予想が付く。

だから矢萩は嫌な気持ちになった。TISであるがTISでない、その状況に至ってから初めての人殺しだからだ。手が震える、本当に初めて人を殺した時と同じだ。最初は佐須魔に色々サポートされながらだった。だが家族を殺したのはその佐須魔だった。

もう嫌だ、全てを投げ出したいと思ってしまう。するとその時ふとした揺れから首輪に付いている鈴が鳴った。懐かしい音、小さな頃から聞いていた音。

逃げてはいけない。蒿里は逃げなかった、自分より幾分も辛い体験をしている蒿里は逃げずに戦い続けている。負けていられない、一人の"能力者として"。


「行くよ」


刀を構える、現在中に入っている霊力は実に800程度である。これだけあれば最期まで持ちこたえるだろう。ただし"ここで言霊を使わなければ"の話にはなる。

刀と降霊術のみ、相手は神話霊。想像以上に苦しい勝負になるだろうがそれで良い。

確実に先手は取る。勢い良く飛び出して斬りかかる。だが唯唯禍はそれをかわし、後ろに下がった。弱気な態度が見えた瞬間に矢萩は更にスピードを上げて攻め立てる。

あまりの速度に本気で行くしかないとようやく理解した唯唯禍が唱える。


『降霊術・神話霊・干支猿』


すぐに拳に変身した。干支猿の変身は能力をコピーする事は出来ないが、元々体の一部である筋肉などはそのままコピー出来る。なので知っている限り素の肉体が一番エグイ拳をピックアップしているのだ。

それぐらい当然知っているので攻撃をくらってはいけないと少し大きく回って背後を取ろうとする。だが猿は動体視力なども拳と同じなので追いつける。唯唯禍の後ろに来た瞬間腹部をぶん殴った。

そもそも仕上げを済ませた拳の実力を知らないのだから迂闊に動くべきでは無かった。あまりの衝撃に意識が飛びそうになる、口から血を吹き出したせいで喉が痛い。不快だ。


「はーうざ、次」


それでもすぐに体勢を整え突っ込む。今度は猿から先に仕留める算段である。唯唯禍は完全無視で、体勢は低く突き上げるような感じで攻撃を行った。


「妖術・上反射」


耳に入った瞬間力を抜きギリギリで攻撃を止めた。だが猿の前には上反射が展開されていない。気付く頃にはもう遅い、重い拳が頭にダイレクトで入った。

脳震盪は勿論頭蓋が砕け散った。瞬時に言霊を使う。


『治って』


霊力消費120、本当に勿体ない事をしてしまった。だが反省は後、今は目の前にいる怪物を殺す。言霊はこれ以上使えない、それ即ちこれ以降攻撃を受けた場合回復をせずに戦う必要があるのだ。


「まぁいいや」


突きの構えを取る。猿も神経を研ぎ澄まし、何処から来るか警戒を怠らない。動く、猿は正面から来るのを察知し反撃の拳を突き出した。だがその衝撃で吹っ飛ばしたのは刀のみ、矢萩自身は先程と同じ様に低い姿勢で懐に潜り込んでいた。

唯唯禍も反応が間に合わずサポート出来ない。まずアッパーをかまし、少し怯んだ所に(すね)に蹴り、体勢が少し崩れた瞬間地面に叩きつけるようにして脇腹をぶん殴った。

本物の拳ならばそこで無理矢理蹴りを繰り出して敵との距離を取ったはずだ。だがそんな事干支猿に出来るはずがない。


「スペックは良いけど、まぁこんなもんだよね」


下がって刀を取り、再度突っ込む。すぐに振り下ろして顔面を狙う。


『妖術・上反射』


今度は反省を活かし後ろに下がった。同じ場所に停滞するから攻撃をくらうのだ。偽物は弱い、どれだけ良い体を与えられても干支猿の意識が追いついていない。しっかりと間合いや隙を管理する事が可能ならば大した脅威には成り得ないだろう。

拳の変身が干支猿の出せる最大火力である事は予想がつく。それならばもうこれ以上の成長は無いはずだ、気持ちが楽になる。矢萩は表には絶対出さないし誰にも言った事が無いがプレッシャーに非常に弱い。だがもう先は無くこれで終わりなのだと知った途端に力が増す。それは早く終わらせようという意思の元に来る乱雑な力では無く、明確なゴールが見えたからこその力の使い方なのだ。

今矢萩の少し遠くにはそのゴールが見えている。そして絶対に逃がさまいと力を使おうとしている。

唯唯禍にはそれが気配で伝わった。


「…防ぐよ、絶対」


矢萩の姿が消えた。すぐに周囲を確認しようとしたが既に刀が胴体に刺さっていた、右の肺を貫いている。だが唯唯禍は負けじと唱えた。


『妖術・刃牙』


その時の矢萩は感覚に身を任せていた。なので刃牙を拳の状態で使う事の違和感に気付いたのは刀を抜き、後方にいる奴に突きを行ってからだった。その刀、宙を突く。

干支猿は食らい付いた、喉元に。


「あなたはあの時干支猿の右脇腹をへし折った…だから突きで追撃するかなって……拳は干支猿よりデカいから……拳基準でやったら、当たらないよ!」


先程の連撃で骨を折ってしまったのがいけなかった。だがそんなの結果論も良い所だろう。すぐに次の攻撃を行おうとしたが干支猿が離れようとしない。

刃牙のせいで鋭くなった牙は喉を貫通し、発動帯を破壊しようと探し回っている。それに特大の不快感を覚えた矢萩は思い切り猿を蹴飛ばした。すると中途半端に牙が抜けてしまい半分だけ喉に残ってしまう形となった。

それでも不快感に比べればマシ、苛立ちを隠す事もせず猿に向かって全力ダッシュで突き進む。


「ねぇ私も頑張って覚えたんだよ、干支術」


背筋が凍る。ただし間に合わない。


『干支術・干支神化』


最も扱いが難しいであろう干支術、強化されるが何が起こるか不明。賭けた、猿巻 唯唯禍はギャンブルをした。このままでは勝てないと本能で悟り最後の足掻きを始めたのだ。

三分限りの干支神化、干支神による干支神化。百に百を重ねる、限界の突破。

厄介である。何故なら唯唯禍はピンチになると全て流れに身を任せる。そして唯唯禍の本能は鋭い。矢萩はとうに理解している、次の一撃で仕留め無ければ死ぬと。



第三百七十九話「五分-猿巻 唯唯禍」

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