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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
378/556

第三百七十七話

御伽学園戦闘病

第三百七十七話「短縮作戦」


生良が死んだと通知された鶏太、桃季、合流した唯唯禍はとても驚いた。勿論作戦には無い事であり、混乱するのも当然だ。すると猪雄から三人に向けて『阿吽』が来る。


『シウからの連絡。作戦短縮、生良君だけを除いて目的遂行段階へと移行する。わざわざ敵と交戦する必要は無い、ただ僕とシウの所に来る奴が來花だけにしてくれ…だって』


鶏太が返答する。


『こっちも合流済みだから動くね。頑張って』


『そっちもね。それじゃあバイバイ』


「さぁ行くよ二人共、來花以外を近づけさせないようにね」


シウがいるのは島の"中央"である。そうそこにはTISが集まっている。現在佐須魔、刀迦、來花、智鷹、譽、矢萩、原、神、リイカ、素戔嗚、蒿里がいる。逆にいないのは砕胡とアリス、傀聖、そして健吾だけなのだ。


「にしても凄いね、その呪」


「当たり前!!だって私と干支辰で頑張ったんだもん!!」


鶏太が来る頃には桃季は一人で立っていた。話を聞くと健吾は解放をくらい一瞬だけ気絶、その隙に小部屋から抜け出し、意識を取り戻すと同時に部屋を展開したのですかさず呪術・封を使用し閉じ込めているらしい。

ただし時間制限もあり精々十分持てば良い方らしい。恐らくこの戦闘中には出て来てしまうはずだ、だが多分問題は無い。桃季一人で勝てたのだから三人いれば普通に勝てる。


「じゃあ行くよ。桃季、準備」


「了解!!」


『降霊術・神話霊・干支辰』


出て来た辰に三人が乗り鶏太が鳥を呼ぶ。


『降霊術・神話霊・干支鳥』


「ごめんね、もうちょっと手伝って」


「…まぁ良いが、お前は大丈夫なのか」


「うん。シウ君に治してもらったから。とりあえず大丈夫。君は守るから安心して」


「…いやいらない、自分の身は自分で守る。それよりお前は自分の体の心配をしろよ、その回復は応急処置なんだろう、ボロが出る。早く行くぞ」


「ありがとう」


ツンツンしつつも何だかんだ優しい。そんな鳥に甘えながらも発動する、乾枝と共に作り上げた本当のレーダーを。島全体を包み込むサーチ、全ての位置を把握した。

辰の頭、角のを両手で持つ。


「従ってね」


干支辰は軽く頷いた。そして鶏太が合図を出した瞬間中央に突撃を始める。そして中央にいるTISメンバーもすぐに気付き、戦闘体勢に入った。

木を薙ぎ倒し、最早隠すつもりも無い突進。住宅街に視界に入るとほぼ同時タイミング、低空飛行だった辰は大きく上を向き跳び上がった。そして桃季が飛び降りながら集合しているTIS連中に向かって唱える。


『呪術・封』


この状態で能力を封印する。半ば賭けのようにも見えるがそんな事は無い、健吾との戦闘で桃季が勝った事は知らされているはずだ。それに"あいつ"が動き出した事も察知しているだろう。それならばTISは迂闊に能力を発動できない、万が一"あいつ"の仕組みを知らずともそう易々と能力を発動できる状態ではないのだ。何故ならそれは本能に刻まれた行動なのだ。


「私がやる」


落ちて来る桃季に狙いを付けて刀迦が動こうとしたその時、佐須魔が止める。


「駄目だよ。あれは偽物だ」


次の瞬間、桃季は猿に変化した。そして唯唯禍も猿の元へ瞬間移動する。このままなら唯唯禍は殺される。


「でも唯唯禍はやった方が良い。解除後の瞬間移動で変な事を…」


「シウは干支組の仲間を大切にしている。だから唯唯禍をここで殺させるような作戦は立てないはずだ、多分あれは偽物だ。それか策がある。手を出すだけ無駄だよ」


そして唯唯禍は猿に抱えられながら着地した。だがそこからは何の変化も無い、ただ見合う状態。おかしい、これは本物がする動きだ。佐須魔は刀迦に無言で指示を出す、アイコンタクトである。

だが刀迦は動かなかった、いや違う動けなかった。駄目だ、後ろ、皆の後ろに何かがいる。信じられない程の殺気を放ちながら刀迦以外の誰もが感じ取れない何かが。

おかしいと感じた佐須魔は刀迦、唯唯禍の順で心を見た。そして背後の何かと目の前にいる唯唯禍が本物と言う事を知った。何かがおかしい、全く考慮出来なかった事だ。まさかシウは仲間の命を簡単に失くしてでも殺すつもりなのだろうか。だがそれは唯唯禍を殺せば分かる事、記憶を覗けばいいのだ。


「…」


動かない、体が動かない。刀迦と同じ気持ち、動けないのだ。背後にいる何者かに気圧されて、体が止まる。その時点で他のメンバーもおかしいと感じリイカの方を見る。


「……やられたわね」


少しだけ笑いながら、ただし悔しそうにそう言った。リイカが戦闘中にそう言う場合はただ一つ、どう足掻いても攻撃をくらうしか無い時、謂わば詰み状態の時だ。ただし何処かに突破口自体はあるはずなのでリイカを全力でサポートする形で良いだろう。

佐須魔刀迦が動かないならば他の奴らでやるしかない。まずはリイカがどうやって動くかだ。


「…どうした、リイカ」


隣にいる來花が声をかけたが返答は無い。すると背後から先程までたった三人しか感知していなかった恐怖が皆に襲い掛かる。それとほぼ同時タイミングで砕胡の声が聞こえて来た。


「僕は勿論TISの味方だ。だがそれ以上に優先したい願いや人物というものもある。すまないな、約束してしまったんだ。真澄と"一度だけ"な」


それが真澄の能力であることは一度くらべすぐ分かる。ただ問題なのはこの状態で全員が動けない事にある。砕胡の言葉に嘘はないのだろう、ほぼ契約の範疇であるのだ。仕方無いしこれからの事を考えればむしろプラマイプラスで終わるはずだ。それでもここはやばい。

何故なら全員が集合していて封で能力は使えない。そうなると防ぐ術がないのだ、今上から口を大きく開けて突撃してきている干支辰の攻撃を。


『雲中白鶴』


耳が張り裂けそうな咆哮、透明な攻撃。感覚でしか捉えられないもの。

威力だけで言えば八懐骨列と並ぶのだ。そんあ攻撃をもろにうけたらどうなるか、言わずもがな分かり切っている。避ける術もない、死ぬ。


「…え?」


突っ込む寸前、鶏太が驚いた。レーダーで探知した時には蒿里の気配は無かったはずだ、それなのに立っている、見上げている。嫌な予感がした、最悪な予感が。

そして的中する。


「ごめんね、死ぬのは嫌なの」


蒿里が横に刺してあるオーディンの槍(グングニール)に触れると同時に霊力反応が戻った、どうやら霊力を"全て"オーディンの槍(グングニール)に入れておいたらしい。本当に全部だ、普通ならそんな事は出来ないが恐らくアヌビスの力か何かを使って可能にしているのだろう。

そして霊力が全く無かったと言う事は効かないのだ、普通の術は。呪術・封はその普通の術に該当する。そうなるとその場のTISで能力を使えるのは砕胡だけでは無くなってしまう。駄目だ。


『降霊術・唱・黒龍』


大きく口を開けて黒龍が昇って行く。攻撃性のある霊力を体で受けながらも微動だにせずそのまま突撃した。黒龍と干支辰がぶつかり、互いに口から噛み千切ろうとする。

だが両者共ギリギリ力が足りず、少し逸れる形で適度に口周りの肉を抉る事しか出来なかった。ただそれでいい、目的は時間稼ぎなのだ。砕胡の威圧が消えるための、時間稼ぎ。


「行くよ」


もう容赦出来ないと刀迦が動き出した。まずは唯唯禍から潰そうとしていたのだが、地面に衝突した干支辰に掴まってすぐに上空へと逃げてしまった。

流石に追えない。ならば桃季を殺す。


「…」


絶対にいるはずなのだ。降って来たのが偽物の桃季ならば何処かでタイミングを合わせて本物が呪術・封を使っているはずである。そうでなければおかしい。

そして辰の体には居ないのはほんの一瞬で捉えたので地上にいるはずだ。霊力感知を行おうとしたが阻止される、感じた事の無い霊力である。何だか周囲にモヤがかかっているような感覚、分からない。


「…鳥か」


レーダーには他の者の霊力感知を阻止する役割もあるのだろう。そうなると桃季は目視で探し出すしかない、全力で周囲を探索し始めた。

一方他の重要幹部も刀迦に任せる形で戦闘体勢に入る。だがその中でリイカがただ一人呆然としたまま立ち尽くしている。心配した來花が声をかけるとハッと正気を取り戻した。


「なんかとても変な感覚がして……何があった……」


「大丈夫か。どこまでやって戻って来たんだ」


「干支組は終わって……突然変異体(アーツ・ガイル)も終わった……取締課も終わって……そこからが…よく……」


するとリイカは気絶した。急に起こった事に他の者は困惑する、だが冷静に攻撃をくらったのではないかと周囲を確認するが誰もいないように感じる。

少し危険だと判断した佐須魔が動き出した。能力はまだ使えないので鍛え抜いた力だけで何とかする。刀迦も探しているが桃季の姿は無いようだ。

三十秒は経過したのでこの住宅街全域は軽く見たはずだ。それなのに見つからないのだろうか。


「いないのか?」


「いない」


「…おかしいね、攻撃も止んだよ」


干支辰は上空で飛んでいるだけだ。やはりおかしい、もう訳が分からない。なんのために速攻を仕掛けたのだろうか、こんな事をせずとも良かったはずだ。現に桃季は危険に晒されている。発見されるのは時間の問題。

正直シウの作戦は全てがガバガバだ。唯唯禍だって少しでも刀迦が速く動けば殺されていた。それは現実的な速度であり普通に迷いが無ければ殺せていた。

もう干支組の命などどうでも良いのだろうか、いやそうとしか考えられない。あまりにも扱いが雑なのだ。


「一旦中央に戻ろう、僕がやる」


「ん」


中央に集まったその時、異変の正体が突き止められる。

まずはおかしいと感じる点があった。何故、どうやって干支辰が消えたのか。上空にいたはずの干支辰がふと消えたらしい、本当に皆同じく「急に消えた」と言う。

そして佐須魔が少し考え、來花とほぼ同時に同じ回答に辿り着く。それは一度まんまとはめられたやり方、またかかってしまったらしい。まさか二度目があるとは考えもしなかった。しかもこんな命をかけた場面で。

シウは仲間を捨ててなどいない。全力で助ける為に一度だけ入ってもらったのだ、唯唯禍に。


「まずい、避けろ!!」


遅い、天が崩壊する。ドームが崩れ、現れる本物の干支辰。結界が破壊され知る真実。それは最初の敗北を期した干支組との戦闘、シウが全域を結界で覆う事で身を隠し奇襲したあれ。

それと同じ事をまたやったのだ。しかも今度は干支辰を使って。


「行け桃季!!」


大きな大きなドーム、シウも当然その中にいる。そしてその指示を聞いた桃季は唱えた。


『雲中白鶴』


本当の雲中白鶴。そしてここでシウはある結界を展開する。中央、TISが集まっている場所から半径10m程度になるよう攻撃が漏れないという効果を付けた結界を。

それは正に仮想世界にあったドームそのも。だが崎田とは違い霊力消費も大して多くない。完璧だ。生良が死んでしまった事以外は完璧に進んだ。

広域に逃げられない攻撃性を持つ霊力達。普段より密度の高い攻撃だ。


『弐式-弐条…』


佐須魔の詠唱は遅い。


『呪・封』


それはシウ・ルフテッドの声だった。皆のすぐそば、円のようにして固まっているTISメンバーの中央に、突如として出現した。そして唱える。


『呪術・羅針盤』


疑似ドーム結界は展開中、もしかしたら自分にも当たるかもしれない。だがそれで良い、この狭い空間、逃げ場がない状態での羅針盤。

思い知る、海底に沈んでいた才能を。

作戦遂行まで、あと一息。



第三百七十七話「短縮作戦」

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