第三百七十四話
御伽学園戦闘病
第三百七十四話「奇想天外」
桃季が呪術・封を使いだす頃、鶏太も敵と対峙していた。正直相性も悪いし勝てる算段も全く無い、だからと言って逃げ出すわけにもいかない。何故ならこいつと戦うと決めていたから。
勝つ必要は無い、何なら黄泉の国に行く必要も無い。ある行動をすれば鶏太の役目は終わる、それも全てシウのために。
「あれ~?大した攻撃持ってない君がなんで一人なんだい?」
南那嘴 智鷹。
「…そんなの関係無いでしょ。僕はただ戦うだけですから」
「ふ~ん、直感だけで君が僕に勝てるとは思えないな~。なんかあるでしょ、裏が」
図星。だが動じず言葉を返す。
「そうですね」
「言うんだ」
少しだけ驚いている智鷹にはこう返す。
「だってあなたは見抜いていますから、隠しても格好悪いでしょう?」
「まぁそうだね。でも驚いたよ、君はもっとなよっとしててウザイ奴だと思ってたけど…そうでもないみたいじゃない」
「……最期ですから」
すると一瞬智鷹の表情が柔らかくなったような気がした。
「そうかい。なら僕も多少の情けはあげよう、別に君らには恨みも何も無いしね」
「結構です」
「そう言わないで~」
「本当に大丈夫ですよ、強がりとかでは無く今やれることはやり尽くしているので。後は最後の役目を全うして、黄泉に行くだけですから」
それは本心なのだろう。全く迷いや不安の類が感じ取れない、鶏太は元々精神的に大人な部分があったのは知っていたが更に成長しているらしい。やはり海底での閉鎖生活はあまり良くなかったのだろう。
とりあえず会話に飽きたので右手を機関銃に変える。小手調べなので反動も少なめの弱い銃だ。
『降霊術・神話霊・干支鳥』
出て来た鶏。智鷹はそいつに向かって乱射し出した。精度も非常に悪く、全く当たっていない。だが鶏太には流れ玉が何発か当たりそうになっている。
やはり成長したと言っても銃などは怖く、ほんの少しだけ怖気づいてしまう。だがそれが普通の反応であり、干支鳥も大して責めたりして来ない。
それよりも早く指示を出せと言わんばかりの気迫を放っている。それに気付いた鶏太も動き出した。
『妖術・上反射』
的確だ。ここは下手に責めず発動者本人に直接跳ね返る上反射を使っておけばいい、それで良いのだ。そもそも勝つつもりなど一切無いのだから。
智鷹はただ鶏太が弱気なスタイルなのだと錯覚していた。それもそのはず、鶏太は今までろくな戦闘を見せた事が無いのでTIS側としては情報が足りず正直戦いながら情報を獲得していくしか無いからだ。そんな相手がいきなり勝利を望まない戦い方をして来たら考慮出来ないのも当たり前だ。
「残念、僕のは関係無いのさ」
弾は上反射に弾かれているが、智鷹にダメージは行っていない。少し驚いたが別に問題はない、そのまま時間を稼げば良い。
だがそこまで露骨だと智鷹も勘付く、向かって来た時は堂々と胸を張っている様にさえ見えたのに戦闘が始まった瞬間弱気も弱気、話にならないのだ。違和感、別の目的がある事は分かっていたがまさかただ時間を稼ぐ事なのだろうか。ただそうなると違和感が生まれる、何故智鷹なのだろう。軽く霊力感知をしても來花や佐須魔と戦っている感じはしない、三獄の中でも一番弱いと理解しているだろう。
そうなると戦闘力が要因では無く、智鷹本人に要因があるはずだ。佐須魔や來花ではなく智鷹を優先して拘束する理由、しかも鶏太と言う干支組の中でも唯唯禍と並んで最弱を使って。
段々とただ不自然さだけが浮き彫りになって行く。正直旧生徒会までは戦闘も出来ないだろうと読んでいたので嬉しいっちゃ嬉しいのだが、相手にアドバンテージを与えて良い理由にはならない。早急に突き止めるべきだと、第六感が呼びかけた。
「悪いけどあんまり余裕を与える気分じゃないや」
左手も機関銃に変化させ更に連射し始めた。だがやはり上反射で全てが無効化される、それでも限界は来るはずだ。鶏太の霊力はそこまで高く無い、上反射自体の霊力消費が多いわけでは無いがずっと使っていればそう遠く無い内に限界が来るはずだ。
智鷹は馬鹿だが戦闘となると話が変わる。当然こんなちゃちな策だけで対抗しようなんて思ってもいない。しっかり他の動きも取る。
「こっちだよ」
全速力で後ろに回ろうとしながら撃ち続ける。だが鶏太も頑張って合わせ、全て無効化している。多少はやれるようだ、ならば次の手を取る。
「ならこうかな~」
今度は空に向かって撃ち始めた。意図が分からない、迫撃砲のように使うとしても避けられるし、一時的に上部にも上反射を展開しておけば何の問題も無い。
『妖術・上反射』
しっかりと上部にも展開して真正面の智鷹を見る。すると智鷹は能力を解除して生身で突撃して来る、上反射は抜けられるが鶏が跳ね除ければ良い、他の妖術でも何でもやり方はあるのだ。
タッチ出来る距離まで詰めて来た、何か術を使おうとしたその時、頭からとんでもない激痛が走る。智鷹はすぐに殴り飛ばした、そして干支鳥を掴んで鶏太とは真反対の方向へぶん投げる。
狙うは本体である。今度は機銃に変えながら全速力で走る。木に叩きつけられうな垂れている鶏太にトドメを刺そうと銃口を向ける。だが顔を上げた鶏太は笑っていた、戦闘病だと確信出来るが朗らか、謂わば中途半端な笑みだ。背筋がぞくっとし、何故だか跳んだ。
その選択は正解であった。何故なら干支鳥が突っ込んで来ていたからだ。明らかに速く、正確な動きだった。まだ確定事項とまではいかないが流の『妖術・旋甲』の可能性が高い。
「まぁ、この程度何てことないさ。次でやる」
今度は右手をグレネードランチャーに変えた。自爆覚悟なのだろうか、こんな距離では諸共ダメージをくらう。鶏太も別にそれを願ってなどいない、これは一方的な智鷹からの攻撃だ。受けるわけにはいかない。
急いで対抗策を出そうとしたが既に遅い。発砲。そして爆破。正解など無かった、避けられるはずも無いのだから。
煙が晴れる。智鷹は煙を少しだけ吸ってしまいケホケホと咳をしている、だがダメージは低く多少血が出ている程度だ。一方もろにくらった鶏太はその場に倒れている、血だらけで今すぐにでも死んでしまいそうだ。
「まぁこんなもんだよね~。グレランは痛いしね~」
背を向ける。
『妖術・戦嵐傷風』
すぐに振り向き撃とうとしたが風に持って行かれた。あれでまだ生きているのか甚だ疑問ではあるが、術を使ったならば生きているはずだ。竜巻に巻き込まれた以上何処から攻撃が飛んで来るか分からない、全方位を注意しておく。
だが何も起きずに竜巻は消えた。だが次の瞬間、背後から一突き。心臓だ。着地すると同時だった、どうやら一瞬の困惑と冷静になる狭間を狙っていたらしい。普通ならもっと安全な竜巻中に攻撃するものだ、戦闘病のおかげなのか常人の思考ではない。
そうなると簡単には対応出来ない筈だ。智鷹は楽しくの無い勝負を嫌う、そのために他の人物が自己覚醒を取得する中、唯一別の技術を取得した。その技術とは自分で戦闘病を発症させるというものである。
一見自己覚醒に比べると何のメリットも無いように感じるがそれは智鷹の性格と『覚醒能力』との兼ね合い故である。
「僕の『覚醒能力』ってさ、ゴミなんだよね~。ただの身体強化、効力で言えば結構高い方だけど使いづらい。だかた僕は覚醒を使わない、その代わりに覚えたのが……任意タイミングでの戦闘病発症さ」
笑った。戦闘病対戦闘病なのは見てわかる。だが練度が桁違いである、鶏太に勝てるビジョンは無いし時間を稼ぎ切る事も出来ないだろう。役目を果たせずに終わる。
「仕方が無い……ここで負けたら俺も死ぬだろうからな。本意では無いが助け船を出そう」
そう言ったのは他の誰でも無い、干支鳥だ。今まで一言も話さず鶏太にもどちらかと言うと反抗的な態度を取っていた干支鳥がここに来た喋った。どうやら喋れないわけではなく面倒臭がっていただけのようだ。だが自身の死を感じ取って図々しくも口を開く事にした。
だがそれはとても良い事だ。恐らくこの助けが無かったら本当に何も出来ず死んでいたはずだ。
「降霊をしろ、小僧」
「降霊?僕やった事ない」
「唱えろ、早くしないと死ぬぞ。俺はお前の様なひ弱な小僧なんぞと共に死にたくない、早くしろ」
言われ通り唱える。
『降霊・干支鳥』
智鷹は唱えると同時に右手を変化させライフルを撃った。だがその弾は跳ね除けられた。そこに立っているのは鶏太であり鶏太ではない、戦闘病を発症しているので基本何も考えていないが危険というのは分かる。
そして鶏太は動いた。一瞬にして間合いを詰め、アッパーをかます。思っていた以上に早くかわす事が出来なかった。ただ避けようとはしたので最低限のダメージに抑える事は出来る。脳震盪も全く起こっていないので大した事はない。それよりも早く片付ける。
片手を機関銃に変えて左手は素の状態に戻す。そして左手を鶏太の首に回し、掴むような感じにして自分の方に寄せる。肌が触れ合う距離、そこで智鷹は横から喉に向けて撃った。血が吹き出す、発動帯は壊れずとも息が出来ないだろう。
後は放置すれば勝ちなので距離を取った。鶏太も息をするので精一杯らしく動けない。警戒は怠らず、だが戦闘病は解いた。そして三分が経過する、次の瞬間鶏太が動き出した。
ただ思っていた方向とは真反対、背中を向けて逃げ出した。その時智鷹は思い出す、別に智鷹との戦闘が目的ではない事を。戦闘病の弱点、楽しくなりすぎて重要な事を忘れる場合がある。そして降霊したままなので生身では追いつけない。
完全に見失った。
「…サイアク~。まぁ佐須魔の所帰ろ~」
それでも呑気に歩き出した。肩慣らしは充分だろう。
鶏太が向かう場所は一つ、桃季の元である。わざわざ智鷹を選んだのはふぜけて本気で殺しに来ないだろうと考えていたからである。実際には違う結果となったが結果良ければ全て良し。
健吾と戦っているようなので迷う必要は無い。大会が始まる前、シウに頼まれていた単独行動。「桃季は出しゃばるだろうから助けてやってくれ、やり方は鶏太が決めろ。そっちの方がバレないだろ」と言われていたのだ。
ひとまずこれで良い。後はシウと猪雄が動き出すのを別で待機している唯唯禍と、今から合流する桃季と共に待つだけだ。"このまま"行けば、全ては良い方向に行くだろう。
シウの完全死が杞憂に終わるかもしれない。
第三百七十四話「奇想天外」




