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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百七十三話

御伽学園戦闘病

第三百七十三話「真似」


「さぁお前ら、準備は出来てるよな?」


待機室でシウがそう問いかけた。全員頷く。


「やる事は既に伝えたはずだ。ガンガン戦闘しても良いが、しっかりとやるべきことはやるんだぞ。魂を捨ててでもな」


干支組はやりたい事が既に決まっている。しかも学園側のチームで唯一全員に内容を話してもいる、それに全員が納得し文句の一つも出なかった。むしろ完璧な作戦である。

早めに申請していた理由は一つだろう、生徒会が大体の力量を皆に伝えてから干支組が全てに続くサポートを行うのだ。干支組は全体的に力が弱い、その代わりと言ってはなんだがシウと桃季がいる。

他のメンバーにも唯一無二の力がある。シウはその全てを把握しているのでこの作戦に決めたのだ。


「お前らは今から死にに行くようなものだ。正直生き残れるのは一人いれば良い方だと考えている、そして俺は絶対に死ぬ。何があろうとな、だからその一人を生かす為の行動と作戦に尽力する。

俺がどれだけ死の間際にいようが助けようとするなよ。助けない事こそが俺への救済だと考えるんだ」


「……やっぱり死んじゃうの?」


猪雄が悲しそうに訊ねる。


「猪雄も死ぬし、俺も死ぬだろう。だが黄泉の国には全員行けるさ、だから安心しろよ。俺達が受けて来た酷い扱いを無くすために命を捧げるんだ、誇りを持てとは言わないがカッコいいだろ」


「うん。頑張ろう」


桃季と唯唯禍はそこまで気にしていないようだが生良と鶏太は少し顔色が悪い。心配したシウが話しかけると二人共小刻みに震えていた。だが生良の顔からは明らかなる覚悟が見て取れる、フラッグと遺書の続き以外で何を話したのかは分からないが勇気を貰ったのは確かなのだろう。

ここはシウが出しゃばる場面ではない。だが鶏太だけは心配なのでしっかりと声をかけておく。


「おい、大丈夫か」


「…あっ!う、うん……大丈夫、だよ…」


「明らかに大丈夫じゃないだろ。まぁ安心しろって、お前が要とはいえども失敗しても何とかなるんだからよ。それに完全死なんてしないぜ?別にやり残したことも無いんだったら問題なんて…」


「あるよ、やり残した事…」


「何の事だ」


「僕はもっと、"全員"で楽しく過ごしたかったよ」


その時シウは言葉が出なかった。気付いてしまっていたのだろう、いつからかは分からない。もしかしたら作戦を伝えた時かもしれない、今かもしれない。

だがもう引き返せない。その事は鶏太も理解しているようでそれ以上は語らなかった。適当な励ましの言葉だけを投げかけ、シウも気合を入れ直す。


「さぁ行くぞ、最後の殴り合いだ」


皆を連れて部屋を出る。道中兵助が待っていた。


「ちょっとだけ、良いかな」


シウを連れて角を曲がり、誰にも見えない所で密談を始めた。


「やるんだろう」


「あぁ、やるさ。お前らエスケープの為にな」


「感謝するよ、残った子は全員必ず素敵な世界で暮らせるようにサポートするよ」


「…あぁ、助かる。初めて会った時はショボい男だと思ってたけどよ…ま、頑張れよ。ありがとな、連れ出してくれて。成長って感じだ」


「そうだね。僕も嬉しいよ。それじゃあ行ってらっしゃい、全力でね」


「おう。そっちも任せるぜ」


再度干支組と合流し、ファストの元へ向かった。

兵助は待機室に戻った。すると流が壁をぶん殴って破壊していた。


「流!駄目だよ、物に当たっちゃ。温存しておくんだ、待ち時間はそう長くないさ」


「…分かってる、分かってるけど……許せない…根本から腐ってるんだって再認識出来たから躊躇無くやれるのはありがたいね、本当に」


苦し紛れの強がりなのは理解している。だが口の動きだけで咲が最後に何を言ったのか理解した流には怒りしかなかったのだ。來花を許す事など出来ない、せめて自身の手で殺してやる。そう決めた。

絶対に最後の最後まで生き残るはずだ。殺す、絶対に。


「次は干支組だっけ?僕はあんまり関わりないけど、大丈夫なの」


「大丈夫だよ。だから見守ろう、シウは凄いよ、本当にね。僕はさ、最初シウがただのヘタレだと思っていたんだ。精神力は無いけど力だけは持ってしまっている、だから嗅ぎつけられる干支神を持っている奴らを全員集めて密かに暮らしているんじゃないか、って。

だけど全然違った。ただ優しいんだ、だから閉じこもっていた。こうなる事を分かっていたから。でも僕が連れ出した、勝手な意向でね。それでも島に来てからは嫌な顔一つせず訓練し協力してくれた。

今でも思う、シウは能力者なんかになるべきじゃなかったって。でもそれはシウにだけ言える事じゃない、ここにいる皆、全員がそうなんだ。TISもそうなんだ…

だからこそぶつかり合うんだ、でもそれは悪い事じゃない。だから、だから見るんだ。目を逸らさず、別の物に怒りをぶつけず、力に変えるんだ」


その時の兵助は下唇を噛み、手を握り込んで震えていた。生徒会は兵助の生徒でもあった、何度も何度も会話をして、仲を深めていたはずだ。そんな子達が一瞬で殺されてしまった、何と例えようか。怒り心頭、流と同じ、いや怒りの度合を比べても意味なんて無い。全てを力に変えるのだ。

そして映し出される、第二戦目の映像。腕時計に通知が来た。


《第二戦開始》



干支組は最北端でのスタートである。周囲にTISメンバーの気配は無い。


「それじゃあそれぞれで動くんだ。言われた通りに、頑張れよ」


シウと猪雄のペア以外は全員単独行動でばらばらに散って行った。残った二人は三分程待ってから動き出す。


「さぁ行くぞ!」


干支猪に乗って全速力で南に走る。向かうは当然、住宅街。佐須魔が居る所だ。



一方最初に敵と対峙したのは桃季であった。既にバレており、向かい合っている状況である。敵は健吾、生徒会戦では戦っていない人物のため入念に注意して戦闘をするべき相手、相性が悪い。

健吾は煙草を吸いながら桃季が動くのを待っている。だがそれは桃季も同じ、干支辰を出しても良いが誰かが潜んでいたらその内に攻撃される可能性がある。


「やらねぇのかよ、戦闘」


「別に良いもん!!あんたとなんかやんなくたって!!」


「うるっせぇなぁ…頭が痛くなる声だな」


吸殻をポイ捨てし、戦闘体勢に入る。空気がピンと張り詰める、桃季は感覚で察知し瞬時に唱えた。


『降霊術・神話霊・干支辰』


直後、干支辰に拳がぶつかった。


「お!多少はやるじゃねぇか、速攻防ぎやがった」


その時感じた異常性、まだ気付かないが確実に新しい戦法である。ただまるでテレポートかと思う程の速度で近付いてきた事は分かる、これはモタモタ解明している時間は無いと見た。

短期戦で決める、例え腕が無くなろうとも。


『妖術・遠天』


本来なら小さなエネルギー弾を放つ術、だが干支辰が使うと威力が凄まじくサッカーボール一個分程度の大きさかつ破壊力はそこら辺のグレネードの比にならないレベルだ。しっかり地形も変化させている。

健吾は当たり前のようにかわしたが凄い速度が出ているのでTISの中でも遅い奴ならば当たっていても何らおかしくなかった。とりあえず普通の速度の攻撃では威力云々の前に通用しない事が分かった。ならばもっと速い術を使う。


『妖術・戦嵐傷風』


それは香奈美が作り出した強烈な嵐を発生させる術、だが範囲自体はそう広く無いので離れれば問題はない。それに当の本人達も巻き込まれるというデメリットがあるのでむしろ嬉しいぐらいだ。

軽く離れようとしたその時だった、辰にしがみ付きながら物凄い速度で突っ込んで来る桃季の姿が見える。既に遅い、妖術・刃牙を使用され鋭利になった牙を剥き出しにしながら突っ込んできているのだ、避けようも無いし無駄な抵抗をするぐらいだったら反撃に転ずるまでだ。


「良い事教えてやる、俺はいつっも本体を叩いて終わらせるんだ」


速攻と速攻が重なり合う。瞬時の能力発動、本体だけが放り込まれた小部屋。逃げ道も無いし対策も出来ない、どうしようもないそんな状況、桃季はそれを待っていた。

今までの動きなど所詮はこの状況を作り出す為のお膳立て、タイマンに持ち込みたかったのだ。逃がさない、絶対に。


『呪術・封』


呪、呪術、呪詛と『呪』には三つのタイプが存在している。それぞれにはある区切りが存在している。まずは一番種類が多い呪からだ。呪は何の変哲もない術の事を指している。次に呪術、これは天仁 凱ではない人物が作り出した呪全般を指している事が多い、ただし美琴の呪・斬壇堂のように呪術と名付けないものもある。違いは本人の意思でしかない。

そして最後、呪詛。これは霊力消費が確定で300以上のものを表しているのだ。

となると今桃季が唱えた呪術・封は呪使いの基本である呪・封とはまた違う術という結論、そして聞いた事も無いので桃季が作り出したと考えるのが思考の流れとして当然

そしてそうなるとこのタイミングを待っていたと言う事も分かる。危険だと感じた健吾はすぐにでも能力を解除しようとする、だが出来ない。


「私の呪は固定化!!能力をその状態で固定化する!!だから出れないよ、ここからね!!!」


「んなら直接殴るだけだ」


当然それを狙っているのだ。神龍宮 桃季は学園メンバー全員の中でも戦闘病が強い方である、だが自身ではそれを理解しておらず戦闘病故の成長も自身の才能だと謳っている。実際多少は才能もあるのだろうが、大半は戦闘病のおかげだ。

そしてその病の後遺症、力。呪、妖術、それだけではなく人術さえも新しいものを生み出してしまった。これはその人術の一つである。


人術(じんじゅつ)都花汰(とばた)


ぶつけた拳のそのダメージは消え去った。攻撃無効化系の術らしい。それなら問題はない、何度も殴り続けていればその内限界は来るし、油断も隙も当てなければ呪術・封の限界も来るはずだ。そこで決めれば良い。

すると桃季は楽しそうにニヤッとしながら言った。


「違うよ、これは"無くす"術じゃない。"貯める"術」


何を言いたいのかはすぐに理解できた。だがこの拘束された狭い空間、逃げ場は無い。

name ライトニングの戦闘方、それの真似である。

放たれた力の全て、全体に放出するわけではない。上反射のようにして元の主へと返還される。


『都花汰・解放』



第三百七十三話「真似」

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