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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
371/556

第三百七十話

御伽学園戦闘病

第三百七十話「新生」


残り三人、そんなタイミングで咲は動き出す。

傘牽はしまい、ゆっくりと。


「それにしてもシャンプラーは誤算でしたね……あんな文字通りの怪物になるとは……ですが優衣さんが倒してくれましたし、まぁ問題は無いでしょう。

もしかしたら他の者も同じような力を持っているかもしれませんが……その時になったら他の方が対処してくれるでしょう。それより早くやりたいですね」


咲は全力で來花を殺しに行く。兄である流がどれ程恨んでおり、殺そうとしていようが関係ない。ここだけは何があっても譲れないのだ。全員それを理解して放っているのだろう。

人生で最も憎んだ能力者への復讐である。ずっとずっと待ち遠しかった。流が記憶を取り戻したあの日から咲の目標は常に來花の殺害だったのだ。そのために様々な手法を盗んで来た。

恐らく咲が出来る事は全てやり尽くしたのだろう。ただやれる事を隈なく熟したとしても勝てるとは限らない。当然負けるつもりは無いのだが万が一負けた場合は潔く次の手段を取る事にしよう。


「あら、コトリバコも持たずして何をしに来たんですか」


住宅街に入った所で、前方から一人の男が歩いて来た。


「咲、お前は私を殺すつもりなのだろうが……私も既に後には引けない。魂までも殺すつもりはない。だからここで、息の根を止める」


「珍しく同意見ですね。しかも家族全員で」


ニッコリと微笑みながらそう言ったがその言葉には確実な棘が存在していたし、來花の心に突き刺さった。だが動じず戦闘体勢に入る。自分の子供になんて負けられないのだ、これから起こす革命に比べれば朝飯前のはずだ。

そう言い聞かせ、深呼吸をした。ゆっくりと体内の霊力を整える。速度を一定に、心地よいとさえ感じる程に。霊力を練り、放出する、体の糧にする。既に霊に近しい來花の動力源は体力であり、霊力を含まない攻撃は完全に無効化できるようにもなっている。

咲はうっすらとその雰囲気を感じ取り、傘牽を開く。


「行くぞ」


『呪・自身像』


最初から手加減は無いようだ。自身像が速攻を仕掛ける。だが咲は傘牽でガードし、それどころか生身一つで本体の來花に向かって突撃しようとする。すぐに自身像が鈴を投げ牽制する事によって動きを止めさせた。

咲は傘牽を拾って距離を取る。


「自身像が大分強くなったのですね。感心です、兄さんでも重ねていたんですか」


何も返答は無い。ただ素早い自身像が咲に攻撃を仕掛け、それをかわしながら少しずつ反撃で削って行くだけだ。咲も相当強くなっているのでこのままでは自身像がやられる。

再度呼び出せば問題は無いのだが、底を知られたくない。呪とはショボい術と派手で強い術の差が激しい、なので來花の自身像がこの程度と思われて次に呼び出した時チャンスと思われるのはあまり良くない。なので自然に誤魔化しつつ、意識を逸らす。


『呪・重力』

『呪・剣進』


定番のコンボ、重力で動きを止めて剣進で貫く。ただ傘牽が開かれる。それだけではなく傘の先端から炎が飛び出してきた。自身像と來花は軽くかわしたが三本の剣は全て焼き尽くされた。

どうやら霊力で出来た炎らしい。そうなると來花がくらったらひとたまりもないだろう。やはり(キョウカ)が残した物の一つ、便利で強い武具だ。

ひとまず互いに距離を取り、見合う。

とても異質である。他の生徒会メンバーは躍起になって情報を伝える為身を粉にしてでも奮闘した。それなのに咲と來花の勝負はジットリとしていた互いに自分の事しか考えていないのが表情から見て取れる。それと同時にどちらがいつ致命傷を与えてもおかしくない緊迫感が心の隙間にねじ込まれる。


「生良さんから奪った干支霊は使わないのですか」


「あれは私の力では無く、京香の力の一端だ。咲に対して使用するのは違う、先程そう思っただけだ」


「そうですか。今更律儀にこちらの事を考えなくても結構ですのに……どうかTISに入ると言う人生で一番の悪手を反省し、活かして欲しかったですよ。本当に馬鹿なんですね、あなたと言う人間は」


「否定のしようも無いさ、私は馬鹿だ。京香がいてくれたからこそ生きていけた。今の私は生きた屍も同然、むしろ一度死んでいるしそれより酷い存在だろう。

ただ佐須魔に逆らおうと言う気にならないのだ。重要幹部や上、勿論下の仲間も裏切ろうと言う気持ちが、一切湧いて来ないんだ。ただそれだけだ」


「……それが意図的に仕組まれた感情だとしても?」


「どういう意味だ」


「リイカ・カルム。彼女に都合良く改変された…」


「違う。リイカが生まれる前から私はこうだった、彼女は何も…」


「変わろうとしなかった…いえ、変われなかったんでしょうね。私は生徒会会長になって様々な派遣を受けました、そして様々な人間を目の当たりにして来ました。その中で学んだ事の一つ、屑は何処まで行っても屑のままなんです。

あなたは今私達への懺悔や後悔の気持ちではなく、リイカ・カルムを庇う気持ちを優先した」


「それは常に…」


「思っていても口に出さなければ思っていないのと同じなんですよ。だから私は何事も包み隠さず言います、それがどれ程不謹慎で人を傷付ける行為であっても。そうしなくては人は強くならないんですよ。

感謝します。私をここまで、強くしてくれて」


動き出す。まるで身体強化使いのような速度で自身像の背後に立ち、左手で首を掴んだ。そのまま左手で傘牽を突き立て、炎を放出した。自身像は燃え上がり消滅した。

底を知られてしまったが致し方ない。想像以上に強くなっている。ここまで来ると本当に容赦が出来ないかもしれない、そうも思ってしまった。だがここで誤って魂ごと殺してしまったら本当の本当に取り返しがつかない事になってしまう。慎重に行くのだ、來花は実質的に無限のエネルギーを携えているのだから。


『呪・瀬餡』


まずは動きを止める事からだ、素早く移動されていると当たる攻撃も当たらない。しかも現在は重力が発動中である、全然目で追える速度ではあるが重力が解除されてからが怖いので今の内に拘束しておく。

そしてほんの一瞬、油断した。瀬餡で咲は動けないだろう、やって来ても炎ぐらいだろう、と。だが違う、そんな甘ったるい考えでこの島に足を着けた者など誰一人としていないのだ。


「残念ですが、私は強いです」


闇に飲まれている足首から下、そこを分断するように左足に向けて傘牽を振った。吹き出す血、來花はただ驚きながら瀬餡を解除した。だが甘い。

瞬時に距離を詰めた咲は腹部に傘牽を突き立て、まずは一撃目をくらわせる。思い切り炎を吹き出させた。來花は苦しみながらも唱える。


『呪・封』


霊力操作も封じられ、炎は止まった。咲も急いで離れて様子を見る。何とも軽快な一撃であった、來花の腹部は焼けただれ、普通の人間なら即死レベルに高まっている。

こんな事で死なないとは理解している。だが別に殺害と今の攻撃がそう遠い訳でも無い。この炎の威力は絶大だ。喉元にでも放射すれば発動帯は完全に破壊され簡単に殺せるはずなのだ。

ただ発動帯は命と同じレベルに重要な部位、そう易々と狙わせてくれるはずがない。その証拠に先程の攻撃の寸前、來花は突き立てられたのが喉元では無いと察知したと同時に反撃の詠唱をやめたからだ。もっともその詠唱とはまだ口を開く段階であったのだが。


『呪術・羅針盤』


思っていた以上に猶予を与える隙は無い様子なので、もう決めにかかる。それを見た咲は内心ニヤリと微笑みながら、表では表情を一切崩さず冷たい目線で動きを追う。

既に左足が使い物にならない状態。数秒前よりは早い回避行動、とても適切で最小限の動きであった。だが遅い、あまりにも。


『呪…』


喉元に傘牽がぶつかった。だが咲は羅針盤の範囲外にいる。目的は反射的に理解できる、詠唱中断だ。しかもタイミングが悪く呪・封の時にそれをされてしまった。

呪は詠唱を初めてから途中でやまてしまうと発動者に反動が来るという仕組みがある。そのためこの時來花に訪れた反応は術の反射、呪・封を逆に來花が受ける事となったのだ。

羅針盤が消えた。咲は封だったと分かるや否や動き出す、左足を引きずるようにしながらも俊敏に。対抗策なんてあってないようなもの、避けるしかない。咲に対する封が発動中であったとしても距離を詰められるのは非常にマズイ、封が解除された瞬間に攻撃される可能性が高まるからだ。


「良かったですね。最後まで一人では無くて」


解ける封、既に手中にある傘牽を突き立て、炎を発生させた。なす術も無く炙られる、声も無い。ただただ真っ黒に燃えて行く何かが燃え盛る炎の中に映るのみ、面白味も無い。

作業にように殺した。さっさと次のターゲットでも探そうかと思い、最後に死んだか確認しようと炎を止めたその時だった。何だか体がフワッと浮いたような感覚がした。

そして次の瞬間、意識が一瞬だけ飛んだ。すぐに正気を取り戻し、状況を把握する。地面に横たわっていて前方には來花がいる。確かに殺したはずだ、手応えもあった。確実に、絶対に。


「何故……」


「言ったはずだぞ。私は既に人間ではないと。通用しないさ、人間のやり方など」


ゆっくりと近付いて来る。不快感しかない。内側から迫りくる吐き気を抑えながら何とか抵抗しようと体に力を入れる。だが全く、何も力が入らないのだ。

どうやら心臓に一撃くらったらしく、一種のパニック状態のようだ。そう冷静に考えてはいるがこのままでは普通に死ぬ。


「武具にはある特性がある。それは埋葬だ。所持者が死ぬ時、心臓に刺しておくと共に消えて行く。草薙の剣や唯刀 龍、聖剣 エクスカリバーなどもそうして消えて行った。

傘牽も、同じくして姿を消すだろう。お前が天に昇る手助けをしながら」


その時咲の怒りは頂点に達した。だが怒りの感情は湧いて来ない、ただ覚悟が決まった。シャンプラーや空傘 神がいなければもっと早くに使っていただろう。だが両者はとても正常とは思えなかったのだ。そして咲も今、自分でも正常とは思えない。


「…を……さげ……」


「何だ」


ブツブツと何かを呟いている咲の元に耳を近付け、聞き取ろうとする。


「この身の全て、魂、心、脳、全てを捧げ伝える。力を」


本能によって來花は全力で距離を取った。

少し遠くに見える咲の傍では一つの魂が浮遊していた。だが意思は無いようにも見えるし、そもそも魂なのかすら怪しい程嫌な霊力を大量に放っている。まるでシャンプラーと同じような雰囲気を感じた。


「まさか!!」


そして気付く。


「やめろ!!咲!!!」


その声は届かず、魂が破裂した。そしてすぐに嫌な霊力が島だけではなく、待機島にも伝わる。

そいつはゆっくりと体を起こし、息を吸った。

顔を上げ、來花を見る。

誰でも分かる、咲ではない。

だが体は確かに咲なのだ。

來花は分かる、これが真波の遺品なのだと。人の脱却、だが神ではない。ただ何らかの定められた対象を狩るだけの無機物生命体、存在自体が矛盾そのもの。ただしその矛盾を討ち滅ぼすかのようにして存在している。

空傘 神を作り出した呪の応用とも言えるその技術。仮想のマモリビトの他に習得していたのは真波だけだった。そして可哀想で、哀れな囚人である咲にその力を与える事とした。

現世のマモリビトは罰せない、真波はそれを知っていた。何故なら同じことをしていたのだから。存外に弄んだ、それは息を吹き込まれた瞬間に元の人物の意思や魂を喰らい、憑依とも表せる降臨を行う。


「何故そこまでして……私を殺したいのだ……」


絶望する來花の前に現れたのは櫻 咲の姿をした、別の何かでしかなかった。目を閉じ、軽やかに動く。美しい、確かに美しい。だが不気味でしかない。それはニンゲンではないと本能が呼びかけた。

そして本能が無意識に呼びかけたのはそれだけでは無い。

櫻 咲は完全に死んだ、そう受け止めきれない無情な現実さえも叩きつけて来たのだ。だが終わらない、この戦いは、ここからなのだ。

咲は最初から覚悟していた、全てを失ってでも、能力者の評判を下げようとも、この男だけは殺してやると。

新生。



第三百七十話「新生」

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