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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百六十九話

御伽学園戦闘病

第三百六十九話「始点」


素戔嗚が構えた刀、当然ギアル製なので霊力を籠める。恐らくは疑似覚醒状態、だがそれでも多少の霊力増加はあるはずだ、効く。梓の方は大丈夫そうだ。相変わらず距離を取っているのでサポート系から変化は無いように見える。

ファルを殺せば実質的に素戔嗚の勝ちと言う事になる。だが実際にはそう簡単には行かないだろう、二人にどんな強化が与えられたのかは不明だが考えるべき事が多くなり些細なミスを連発、そして大きな隙を作ってしまいそのまま押し切られる可能性だってある。


「悪いがここで手こずっているとまた半殺しにされるかもしれない。俺も本気で行かせてもらおう、容赦は無いぞ、ファル」


「好きにしなよ。こっちだって同じだから」


ファルが戦闘体勢に入った瞬間に距離を詰める。その速度は凄まじく、身体強化でも相当上澄みのファルだからこそ見えたは良いが相当な戦闘経験者か動体視力が無くては捉える事の出来ない速さだった。

体をよじるようにして突きをかわし、足に力を入れて跳ぶ。先程とは明らかに変わっている戦闘スタイルを目の当たりにした素戔嗚は警戒しつつ下がった。

空中ではそこまで動けないのでそのまま着地する。その瞬間素戔嗚は再度距離を詰めようとした。


「今!」


梓のその声、視界が真っ暗になった。どうやら能力自体は変わっていないらしい、問題は能力の強化か身体強化、どちらなのかだ。ひとまず一旦は距離を取って様子を見ようと足を動かした次の瞬間、宙に浮いた感覚がした。間髪入れずに腹部、胸部、顔とまるでせり上がっている様な連撃をくらう。

吹っ飛ばされるが何も見えないので受け身もクソも無い。ただ痛いのを我慢しながら風切り音と木が倒れていく音を聞くしかない。

だがその微か合間に聞こえた何かが風を薙ぎ払うような音、瞬時にそちらに刀を振った。するとファルの驚いたような声が聞こえた。そして遠ざかって行く。

吹っ飛ばされた時の勢いは完全に消え失せ、普通に立つ事が出来た。とりあえず近付いていないので安心だが少し気になる。梓の能力をくらったあの瞬間、ファルに向かって走っていたとはいえどもあまりに速かった気がする。ファルも能力自体に変化は無くただの強化か、身体能力の強化なのだろう。

二人共『覚醒能力』ではないと言い切れるだろう。それだけでも大きなアドバンテージである。


「戻ったか」


視覚妨害が解けた。すぐに周囲を確認するが、景色はほぼ変わっておらず気配も無い。また隠れているのかもしれないと霊力感知を行うが近くに反応は無い。

わざわざ遠くまで感知する必要もとりあえず構えて待つ。二人は絶対に仕掛けて来るはずなのでまずは反撃で様子を窺う。


「今!」


右側から梓の声、直後視覚妨害。左から草やぶを蹴りつけるような音が聞こえた。近付いて来ている。先程と同じタイミング、合わせるようにして刀を振るった。

だが当たらない。そしてコンマ数秒後、素戔嗚の顔面に衝撃が伝わった。感覚でしかないが膝蹴りだ、ならまだ間に合う。すぐに刀の向きを変え、切り上げた。

またカスッた。流石にこれは当たらなくてもおかしくないのでそこまで気にしてはいないが、最初が気になる。わざとタイミングをズラしたのだろうか。そうなると動きが読まれていた事になる。ただファルがそこまで出来るとは思えない。

『阿吽』だったら霊力感知で分かるはずだ、能力を使っているから。ただ無いように感じたのでアイコンタクトか手話の類だろうか。だがそれこそ無茶な気がする。


「まぁ良いか」


『降霊術・面・狐』


素戔嗚の持っている霊の中では唯一の完全サポート型。肩に乗る程の小さな狐である。


『妖術・上反射』


言わずもがな全方位展開だ。これで迂闊には近付けない筈だ。それに完全サポートなのでどれだけ視界を奪われようが関係無い。この狐はただひたすらにサポートをするだけなのだ。

今回は犬神や目白、そしてスサノオにはこれ以上の出番は無いだろう、良い事だ。消費が少ないのは大変良い事だ。本体だけならば佐須魔に回復してもらえば良いのだから。


「梓!」


何の掛け声だろうか、狐には反射で能力を使っているだろう。これ以上梓が能力を使う相手はいないはずだ。

ひとまず反撃に備え集中する。右側から一人、じわじわと近付いて来ている。バレていないとでも思っているのか、それとも上反射をすり抜けようとしているのか、どちらでも良いが射程圏内に入った瞬間に斬る。

後一歩、後一歩で完全に仕留める事が出来る。そんな時だった、背後から喉を絞められた。その力は強く、確実にファルだと分かる。だとすると近付いて来ていたのは梓と言う事になるだろう。

そんな事考えもしなかった。確かに歩いている速度ではどちらか何て判断できっこない。そんな風に梓に集中している所を更に気配を消したファルが近寄り、急襲したのだ。


「良いよ!!」


梓も突っ込んできている。何をするのだろうか、だがそんな事を考えている暇は無い。両手だけではファルを引き剥がすのは難しい、だが刀を使っても大した効果は得られないだろう。狐霊に妖術を使ってもらうのが得策だ。

掠れた声で唱えようとした。ただ肩が少し軽くなった、それと同時に狐霊の霊力反応が少し遠くに感じる。理解した、梓に引き剥がされた。このままでは狐霊のサポートも出来ない。

この詠唱が失敗し、遂には声も出せないようにされてしまった。

こうなると本意では無いがやるしかないだろう、今後の戦闘にも絶対的に響いて来るはずだ。それでも今ここで負けて刀迦にボコボコにされるよりは幾分も、マシだ。


「…!ファル!!」


だが遅い。振り返ると共に、天仁 凱(コピー)がファルの喉を手で貫いた。


「まさかこんな序盤から無詠唱を使うとはな。あまり油断するな、素戔嗚」


むせながら返答する。


「黙って…動けっ!」


「まぁ良いだろう。既に勝負は付いている」


やはりコピーとはいえども強い。あくまでも神に挑んだなのだろう。いや、もしかしたら今ならば本物より強いかもしれない、來花に授けられてた武具(じゅぐ)のおかげで。


『呪詛・伽藍経典・八懐骨列』


コトリバコ、八懐の力を使った來花が作り上げた伽藍経典。來花はそれを喜ばなかった、だが來花にべたべたの刀迦でさえも一時的に渡して覚えさせた方が良いと言ったほどだ。

それほどに強く、完成されている術。即時の二連斬撃、十字状に、冥界の痕。

梓もファルも間に合わない。砂塵王壁(さじんのおうへき)と言う対抗策があるにも関わらず、使えなかった。だが別におかしくない、張り詰めた緊張感を抱えながらだったので早く感じていたが天仁 凱が出て来てから実に一秒、それにファルは喉元を貫かれて発動帯を破壊されている可能性だってある。

正直な事を言うと、この二人では絶対に避けられなかっただろう。


「これで終わりだ、わしらでの勝ちでな」


二人は地面に横たわった。


「…どれだけラックがお前に味方をしようとも、負けるつもりは微塵も無い。それがたとえ間違った選択だとしてもな」


まだ息はあるようだ。今の内に殺してやろうと刀を心臓に一突き、しようとした時だった。背後からラックの声が聞こえる。


「素戔嗚」


無視だ。だが手が止まった。


「何をしている素戔嗚、早くやってしまえ」


天仁 凱には聞こえていない、幻聴のようだ。


「あぁ…分かっている…」


それでも手が止まる。


「そんな事をしなくてもファルは死ぬ。わざわざお前が刺す必要なんて…」


次の瞬間、ラックの声がしていた場所に嫌な霊力が重なった。


「何してるの、早く殺しなよ」


刀迦だ。


「…というかもう使ったの、伽藍経典」


「……」


「何とか言いなよ」


「…使い、ました…」


刀迦は素戔嗚を軽く蹴飛ばした。だが物凄い力で吹っ飛ばされ、気絶寸前まで追い込まれる。すぐ目の前まで移動して来た刀迦は胸ぐらを掴みファルの手前までぶん投げた。


「早く殺しなよ。それは素戔嗚の役目」


「…はい」


今度こそ覚悟を決め、刀を振り下ろそうとしたその時だった。ファルを除いた全員の視界がシャットアウトされた。刀迦が刀を抜き、気配だけで梓を斬った。そしてすぐに能力を解除されたが、素戔嗚の傍にはファルが立っていた。

しかも何かを投げた様子だ。


「練習…しといて良かった……槍投げ……」


そして誰かに攻撃されるでもなく、その場に倒れた。閉じ行く視界で一人、報告をしていった。


「ちゃんとやったよ…ラック……咲ちゃんを……助けたよ……」


意味が分からない。すぐにでもファルを殺すべきだと判断した刀迦が動き出したその瞬間、遠くで凄まじい霊力がした。まるでシャンプラーが怪物になった時のような。

そしれ刀迦はその場所を霊力感知で特定すると共に、全てをほっぽり出したかのような勢いで駆け出した。そこまで本気になって移動する理由などたった一つ、來花だ。

そもそも今残っているのは三人、死にかけ、というか既に死んでいるファルと梓。そして咲のみ。更に全員が知っていて止めようとしなかった、咲は確実に來花を狙うと。

素戔嗚は急いで佐須魔の元へ戻り、指示を仰ごうとする。天仁 凱も戻り、軽く止血もした。足を突き出した。


「なぁ素戔嗚」


まただ、背後からラックの声。


「別に答えなくても良いけどよ、一つ言っとくぜ。それ以上はただの地獄だ、救いは無い。それでも良いと本当に、心の奥底からお前が思っているのなら行けよ。俺は止めない。

マモリビトであるアイト・テレスタシアとしても、エスケープチームのメンバーであるラック・ツルユとしても」


足が止まる。

だがすぐにでも歩み出した。その時覚悟は決まった、少しだけ迷いがあったのだろう。本当のラックなのか、ただの幻聴なのか。分からない。

ただ助けてくれた。それが良くない道への補佐だとしてもラックはやってくれたのだ。知っていた、アイト(ラック)はアホほどお人よしなのだと。

ある意味の信頼であり、ある意味の期待だったかもしれない。分からない、このまま分からないままかもしれない。だけどそれでも良いかもしれない。


「大丈夫だラック。俺はもう、TIS(せいぎ)なんだ」


素戔嗚も向かう。何を投げたのか、察しが付いたからだ。草薙の剣、ファルは陽からの意思を継ぎ、今度は自分が咲に繋ごうとしている。

止める。それだけは絶対に、許さない。

この魂は三獄(おんじん)の為に。


《チーム〈生徒会〉[コル―ニア・スラッグ・ファル] 死亡 > 杉田 素戔嗚》


《チーム〈生徒会〉[白石 梓] 死亡 > 杉田 素戔嗚》



第三百六十九話「始点」

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