第三百六十七話
御伽学園戦闘病
第三百六十七話「失言」
発射された八本の槍は全て虎児に向けて放たれた。だが砂塵王壁で防いでやろうと発動を試みる、だが八本全ての速度が違う事に気付く。
砂塵王壁は一瞬防ぐだけ、恐らく偏差三秒程度、二連続で使用するのは単純に練度が足りず難しい。数本は体で受けるしかない。瞬時に覚悟を決めて発動する。
『人術・砂塵王壁』
五本は防げた。だが砂塵王壁が解除され、残りの三本は胴体に二本、左腕に一本突き刺さった。
「大丈夫か!!」
「ダイジョブ!!それより反撃!!」
大体こういう時狐神は心配する、なので食い気味に反撃を促した。狐神は突撃する、それに合わせるようにして妖術を唱える。
『妖術・遠天』
小さな弾を発射しながら突進する。傀聖は一円玉を足元に落として回避しようとしたが、その一円が遠天によって弾かれた。すぐに生身の回避行動を取ろうとしたが片足が取れているせいで上手く動けずそのまま大きな狐にタックルされた。
物凄い衝撃が体全体に伝わり、その後から痛みがまとわりついて来る。相当な距離を吹っ飛ばされたがすぐに体勢を整え、足以外体は破壊されていない事を確認し遠距離から攻撃する事にした。
このままだと殺されかねない、虎児は当たり前のように両耳の聴力を渡すような輩だ。そこまで強く無いとはいっても油断して良い敵ではない。
「よーし行くぞ」
弓を引く、そのまま一矢のみ放ち、狐神に当てた。だが怯む様子も無くむしろ勇敢な雄叫びをあげながら突進の速度を上げて来た。もう一回くらうと流石にマズいので早めに回避行動を取った。
大分早い段階で動き出したので当然避ける事が可能だ。だが右側にフラッと避けたその時、気配を真横から感じる。振り向きながら遜色のない剣を創り出したが既に遅い。
「残念でーした」
脇腹に刺される短剣、どうやら隠し持っていたようだ。精度が凄い、動いている傀聖の腎臓を的確に貫いた。特段問題は無いのだが恐れるべきはダメージではない、隠密性だ。
常に軽い霊力探知はしているのだがそれでも感じ取れなかった。どうやって隠密行動をしたのか、それも気になる。完璧な勘だが虎児はそう言う技術を作らない気がする、もっと攻撃寄りの技術を作りそうだ。
となると誰かの入れ知恵、今の内に暴いておく必要がある。だが虎児からするとバラす訳にはいかない、自分は相手の情報を落とし、こちら側の情報は一切渡さない。それが仕事なのだ。砂塵王壁に関しては構造上バレても問題ないし、むしろ利用出来るので良いとするがこの隠密行動は駄目だ。
使うのもこの一回っきり、あとは自身の力で追い詰める。
「片目あげる!!」
咄嗟に叫んだ。次の瞬間虎児は左眼を閉じた。そして背後から近寄って来る狐神の霊力が非常に多くなった。霊は目を好む傾向にある、水葉の右目、蒿里の右目、桃季の右目、全体の割合で言えば少ないが強力な霊を持っている者として見ると相当の人数が目を捧げて協力体勢に持ち込んでいる。
そして契約を結んだからと言って好みが変わる事は無い。狐神は鎖骨辺りの皮膚も好きなのだが、それよりも目は大好物だ。力が漲る。
「流石に右目はあげられないからね!」
「分かっている!!」
板挟みのようにして攻撃を繰り出す。虎児は首元、狐神は全身。これが決まれば霊力発動帯に相当のダメージをぶち込めるはずだ。そうなれば焦ってボロを出すはず。そう考えていた。
だがそんな誰でも思いつくような作戦、傀聖にだって当然見透かされている。実際発動帯が破壊されたらこの戦闘での勝ち目がほぼ零になる、やってはいけない行動を取るのも頷ける。ならば対策は必須、そしてその対策こそが破壊されない事である。
「別に外に放出するだけじゃないぜ?」
背中と腹部からそれぞれ槍が飛び出した。その槍は一人と一匹の腹部を貫いた。
「お前ら霊だって同じような事が出来るだろ、中途半端な成形だ。まぁ不意打ちとして普通に使えるんだけどな」
今度は手に槍、硬貨すら使わずにぶん投げた。虎児は回避が間に合わず喉元を完全に貫かれる。息も出来ないし、狐神も消えた。破壊されたようだ。
この時点で何も出来なくなった。霊力を練る事も出来ないので完全な無能、ただの的だ。
「別に俺は痛めつける趣味無いからよ、さっさと死んでくれ」
大きな剣を掲げ、振り下ろした。肉を断つ音、これで死ぬはずだ。失血死は苦しいだろうが真っ二つにする感覚は気持ち悪いのでやらない、右手を切断するようにして斬った。はずだった。
虎児はある霊に抱かれ、移動していた。
「は?なんでお前がいるんだよ、宿主は死んだんだろ。早く消えろよ」
既にヨレヨレ、ろくな戦闘が出来るとは思えない状態のメルシーがそこには立っていた。だがその顔に曇りなどは一切存在しておらず、少しでも虎児を守ってやろうという強い意思だけが感じ取れる。
「だからお前じゃ相手にならないって言ってんだろ」
最大限の情け、今いなくなれば見逃してやる。そう言っているのだ。ただメルシーは聞く耳を持たず背後に瞬間移動した。当然予想できるので適当に回し蹴りをくらわせた。しっかり足に霊力を集中させていたの大打撃だ。
宿主が消え霊力の供給が途絶えたメルシーの体は崩壊寸前、蹴られた腹部には風穴が空いている。傀聖はそのままトドメを刺そうと槍を構える。
『人術・螺舌鳥悶』
佐嘉の人術。既に発動帯は壊したはずだ。それなのに頭蓋のみが骨の山羊はしっかりと現れた。
だがしっかり考えれば当たり前だ。佐嘉の人術は自分だけが使う前提ではない、発動帯を持たない無能力者でも使用できるように作られたのだ。破壊されても人術だけは使えるはずだ。
それでも驚く。まさか螺舌鳥悶を使えるとは思っていなかった。術の中では格段に簡単な人術の中でも相当な練度がいるはずだ、その行動からは血反吐も吐くような努力が垣間見えてくる。
殺すのが勿体ないと感じる人間だ。ただ傀聖は知っている、理不尽とは常に努力の側で様子を窺っているという事を。
『呪・封』
「お前にとっての理不尽とは、恐らく俺の事なんだろうな」
メルシーが助けに入ろうとしたが蹴り飛ばし、そのまま剣を持って虎児に斬りかかった。既に手は尽くした、虎霊は充分仕事を果たしてくれた。戦闘はせずとも連れて来てくれたのだ。"二つ"の物体を。
そしてその一つであるメルシーがほんの少しだけ時間を稼いでくれるはずだ。
「バイバイ、皆」
遺言の後、虎児は死んだ。魂は放置だ。
「よし。ついでにお前も…」
虎児は真波とあまり仲が良くなかった、だが真波はある部位を強制的に改造させた。当時は使う必要など無いと考えていたが、今となっては真反対の意見だ。大変感謝する。
魂の改造、足掻きの一手。
魂を使った、渾身の一撃。風の通り穴が、腹部に出来た。
「…マジかよ。そこまでするか?普通」
だが問題はない。あとは死にかけのメルシーをさっさと殺し、佐須魔に回復してもらえば良いのだ。片足が取れているのもそろそろウザったい。時間はかけない。
「んじゃお前も殺すぞ、良いな」
メルシーは背後に移動し、殴りかかった。だが背中から突き出て来た槍によって喉と貫かれ、そのまま崩壊する。死に際で何を思ったのか、傀聖にとってはどうでも良い事だ。
それより先に身の安全、生成した槍を杖にして歩く。全体のダメージは大した事無いので足と風穴さえ直してもらえればすぐにでも戦闘可能だ。
だがどちらも相当痛む。愚痴を零す。
「でも普通にヤバかったな……てっきり切り札使う所だったぜ……初戦からこれだと、先が思いやられるな……まぁ奥の手使えば話なんだけどよ……」
別に大きな声で話していた訳でも無い。だが届くはずだ、足元までなら。そして中継されるはずだ、皆の元に。その瞬間意図せず方から鳴る羽音、いや違う、プロペラの音だ。
すぐに下を向き、上昇するドローンの姿が目に入った。そこで気付く、やらかした。
虎霊が連れて来たのはメルシーだけではない、ドローンだ。そして音を立てぬよう少し遠くで待機していた、常に音を拾えるように設定して。
既に遅い、言ってしまった、奥の手がある事を。虎児がどこまで予測して動いていたのかは今となっては不明、確かめる手段は存在していない。だが分かる、その場にいたら嘲笑っているだろう。
「……最悪だ、マジで…」
それでも楽しそうに笑いながら、佐須魔の元へと向かうのだった。
「いやー死んじゃったよ、エンマー」
「お疲れ。頑張ったと思うよ、奥の手の情報。そこまで考えて動いてたの?」
「もっちろん!あたしはそう言う事が出来る偉い子だからね~。というか普通に戦っても勝ち目無いし」
「それもそうだね。で、君はこれから無へと向かう。何も無い、君は消える」
「うん。分かってやった事だから」
「最後に何か伝えたい事とかあるかい?預かっておくよ」
「んーじゃあ先生達に伝えて~」
「良いよ」
「元先生には声が小さくてたまに授業で何言ってるか分かんなかった。
兆波には手加減って言葉を覚えた方が良い。
崎田には授業ペース遅いくせにテストはちゃんと範囲広いのふざけんな。
翔子には能力使ってないのに授業時間が長く感じるの何で?
絵梨花嬢には相変わらずロリ系風俗にいそうだね。
乾枝先生には授業真面目過ぎて九割寝てたわ。
時子先生には色々治してくれてありがとう。
薫には……うーん、弟より弱い兄って存在してるんだね。
理事長には拾ってくれてありがとうございました。
って感じでよろしく~」
「おっけー。でも生徒会の子達には何か言わなくて良いの?」
「別に良いよ。いつも一緒にいたし特別言いたい事とか思い浮かばないや……あっ!そうだ!最後に神にさ、性格悪すぎバーーーーカ!!って言ってくれん!?」
「えぇ……ちょっと僕の身が危ういよ、それ」
「良いじゃん良いじゃん!面白そう!」
「んも~しょうがないな~」
「やった!!じゃあちゃんとやっといてね!!それじゃ、バイバイ!」
「うん、お疲れ様」
虎児は消滅した。最後までマイペースだった。だがエンマは知っている、生徒会メンバーで一番努力していたのは間違いなく虎児だった事を。
人の技術を見て盗み、応用し、戦って来た。だが大体の技術への適性が無く、大した力を得られなかった。結果として目に見える大きな功績を残す事は出来なかったが、非常に大きなアドバンテージとなるであろう情報を落とせたのだ。
「僕はこういう子が一番好きだよ。ラックはどうだい?」
「別にどっちでもねぇよ。だって賛成しても英雄のくせに~とか言って否定すると英雄自慢~って煽って来るだろ、お前」
「よく分かってるじゃん~」
「それぐらい分かる。仮にも半年一緒に暮らしてたんだ」
「いやまぁあの時僕と今の僕ってほぼ別人だけどね~」
「まぁな、精神的にも物理的にも。まぁ良いだろ、とりあえず俺は言って来る。ちゃんと遺言聞いてやれよ」
「うん。行ってらっしゃい」
ラックが向かうのは一人の能力者の元である。そしてこの具現化精神世界からは一時的に離脱した
《チーム〈生徒会〉[橋部 虎児] 死亡 > 松雷 傀聖》
第三百六十七話「失言」




