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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
367/556

第三百六十六話

御伽学園戦闘病

第三百六十六話「砂塵王壁(さじんのおうへき)


「ちょっと誤算だけど…まぁ誤算と誤算がぶつかった感じだし、まぁセーフっしょ!」


虎児はシャンプラーと優衣の死亡通知を見て呑気にもそう呟いた。実際生き残っている四人はそう思っていた。あの怪物はTISも想定外だったはずだ、なので多少は困惑しているであろう今は攻め時と言う事にもなる。

現在譽はある程度戦闘で情報が落ちたはずである。佐須魔は恐らく無駄死に、來花を狙うのは無粋、智鷹は既に情報が落ち切っているようなもの、そうなるとあまり戦闘記録が無く面倒そうな能力を持っている松雷 傀聖か久留枝 紀太のどちらかに行きたい。

だが何故か紀太はさんかしていない。なので結果的に戦うのは傀聖と言う事になる。能力は既に知れ渡っているが戦術や覚醒、戦闘病の有無は不明なので既に遺品を切っている虎児が特攻紛いの戦闘を仕掛けるべきだ。


「よーし、あたしも行こ!」


霊力感知で場所を特定し進み始める。


「にしてもあたしの遺品弱かったなーまぁあれが無かったら切り抜けるのは相当困難だった……ってまさかあそこまで予想してたって事!?だとしたら凄いなー」


「分かる。すげーよなー。だってお前ら全員真波って奴の遺品のおかげでここまで戦えてるんだぜ?シャンプラーなんてやられちまったよ、あー悲しいなー、あー悲しい」


「なんでそんな棒読みなの?」


「そりゃ別に大して悲しくないからだよ。俺はTISに思い入れがある訳じゃない、交渉を成立させて、尚且つ学園がおもんなそうだからこっちで戦うだけだ」


「ふーん、自分の意思とかじゃ無いんだ」


「半分は俺の意思、半分は流れって感じだ。まぁ気にすんなよ、お前はここで死ぬしな」


木に登っていた傀聖が槍を手にしながら飛び降りた。


「まぁ言っとくと…あたしは遺品とか特別な術とかを使わない場合、生徒会で一番強いから」


「あっそ。蛙ってことだな、虎の()とか言う大層立派なお名前のくせして」


「いやあたし井戸の中にはいないから。とりあえず来なよ、その井戸の中に入らないと虎児は得られないよ~」


「そうかい。んじゃ行くぜ」


軽く煽りあった後、戦闘体勢に入る。当たり前に降霊術・唱をマスターしたので面を降霊術で使用する事はもう無い。初心者のサポート的な役割を担っている手印を結ぶ必要も無い。言葉だけで充分だ。

一方傀聖は槍の尻に五十円玉を装着し、能力を発動した。


『降霊術・唱・狐神』


勿論これだけではない、だが狐神の座を奪われないよう手間はかけた。災厄に比べると弱いがそれでも神格としてやっていけるレベルには強い、少なくとも佐須魔がろくな育成をしていない神格最弱である猫神に比べれば相当マシだ。

それに虎児には虎霊もいる。むしろそっちが本命だったりもする。


「させねぇよ」


槍を投げる。五十円玉の爆発によって加速され、虎児の喉元を精確に貫いた。そこが能力発動帯である事を両者は知っており、傀聖の強さが早速垣間見える。

だが甘い。能力発動帯を破壊する事は出来なかった。


「外したか…まぁ一発目だしこんなもんか」


すぐに次弾を放とうとするが狐神が突進して来たので瞬時に一円玉を足元に落とし、小さな爆発で宙に浮いて回避した。だが狐神はそれを見逃さず、口を大きく開いて待ち構える。


「ばーか」


最大火力である五百円玉を足元に落とした。だが狐神は悠長にこう答える。


「馬鹿はそっちだ」


ふーっと息を吹いた。当然五百円玉など軽々と打ち上げられ、丁度傀聖の眼前まで上昇した。五百円玉の火力は相当高く生身の人間の場合一発で死にかねない。そんなのを最初から顔面にくらうのは嫌だ。完全に感覚の話でしかないのだが傀聖は初速が悪い場合大体負ける。ほぼスピリチュアルなのだが実際初動が悪かったが勝った戦いは五部も無い、あくまで模擬戦なので鵜呑みにして戦闘スタイルを変える必要は無いのだが、やはり実戦経験が浅い傀聖にとってその情報は重要な要素となるのだ。

急いで槍の先端で押し上げ、ギリギリ髪に引火する程度で済んだ。木の枝に片手で掴まってもう片方の手で火を消し、すぐに太い枝に飛び乗った。


「結構な身体能力だね、話には聞いてたけどさ」


「俺の能力はフィジカルあってこそだからな。言うて出来る事の幅も狭い」


「それはラッキー、このまま押し切ちゃっおかなー」


「戯言抜かすなよ」


「ひど」


そう言いながら虎児も動き出す。どうやら本体もガンガン戦うタイプらしい。それは好都合、霊にオバーダメージを与えて怯ませたりする必要は無さそうだ。

どこか隙を見つけて一気に叩く。傀聖の攻撃は非常にテンポが早く、一度でもペースを乱されるとそのまま何も出来ずにやられてしまう。虎児はそれを今までの戦闘だけで予測していた、確信まではしていないが、それを証明するのは自分で良い。


「まぁ一つ言っとくと俺は"誰にも"見せるつもり無いぜ、戦い方」


「あっそ、見せるよ」


その言葉の意味に気付けなかった、仕方無いがあまり良くない。


「行くぜ」


今度は左手に小さな盾、右手に本来は両手で使うであろう重厚感のある剣を創り出した。創躁術に特殊な力を付ける事が出来るのか、それも知りたいが恐らく不可能、そこまで戦えない気がする。ひとまず今は狐神と共に上手く攻撃を弾き、隙を作ってひたすらに追い詰めていく。

大きな剣を振り上げ、声を出しながら一刀両断を試みた。だが狐神の機敏な動きに対して行う攻撃ではない、到底通用するとは思えない。それなのに武器を変えようとしない。狐神が攻撃しても盾で防ぐ気が無いような動きばかりしている。

少し試す事にした。


『妖術・水弾』


小さな水の弾を発射する妖術。狐神が口からそれを吐き出すと、傀聖はようやく盾を使ってガードした。その時点で通常の盾ではない事は明らか、ただ違和感が残る。

パッと見異質感が一切無い。ただの鉄製の盾にしか見えない。それなのに水弾を反動も無く防いでいた。そこで少し疑問に思う、傀聖が創り出せる武器の定義とは何なのだろうか、と。

一般的に武器と認知されている物か、傀聖が知っている物か、物理的に実現可能な物か、大体はこの三択だろう。どれにしてもこう予想出来る、現在手にしている盾はギアル、またはそれと同等の性質を持っていると。

このままでは妖術は基本通用しないし、いつの間にか攻められていそうだ。かと言ってやり過ぎても佐須魔がやって来そうである、良い塩梅、何とかして皆に情報を伝えなくてはいけない。

虎児は頭が悪い、戦闘IQもさほど高く無いので正直二匹の霊が弱かったら戦力にすらならないタイプである。それは自覚しているし、直せない悪癖であることも自覚している。ただ他の戦闘員とは違う視点を持てると言う個性もある。一見アホそうに見える灼や馬鹿っぽい優衣も感覚で様々な行動や処理をこなしている。なので本当に無能なのは虎児だけだ。

そんな中でも必死に咲や友達と戦いたいと言う思いをバネにして頑張って来た。それも基本コツコツとした努力で。そうなるとやはり多少なりとも違う景色が見えているのだ、傀聖は天才(あっち)側の人間であることが明白。

ならば通用する戦法がある。


「ねぇ傀聖、知ってる?どうやって霊が作られるか」


「あ?発動帯に刻まれた形に霊力が形成される、自動的に」


「そう。能力を発動しようと思うから形成される。でも高度な霊力操作によってその放出されるべき霊力が体内に留まって場合、どうなると思う?」


「知るかよ。俺は霊使いじゃない」


「発動者の体に異変が起きる、またはその霊力は消滅する。だけどその霊力もあくまで霊力、瞬時の霊力操作によって移す事が出来る。霊力って流し込まれた場合案外その物体に留まるものなんだよね」


そう言いながら虎児は懐から面を取り出した。察した傀聖は瞬時に剣と盾を放棄、二本の槍を創り出し五十円玉をくっ付けた。そのまま二本共面に向けて放った。だが既に遅い、準備は会話中に済ませた。


「本当に昔、まだ能力者がろくに戦闘も出来なかった頃の話。まだ発動帯の扱いを本能に刻まれていなかった世代、その人達がまず身に付けたのは霊力操作。

霊力を物に流し混み、霊への武器として使用していた……数年前仮想世界に行った時マモリビトに聞いたら気前よくそう答えてくれた」


実践したのだ。こんなクソの役にも立たない様な技術を、基本誰もが勝手に覚える霊力操作なんて事を。一部の物好きは練習したりする、だがそれは能力の更なる強化や武具への注入だったり明確な理由がある。ただ虎児は理由をあえて作らなかった、いや作れなかった。

発想力も無い。そんな虎児にはただがむしゃらに何でもかんでも鍛えるしかやり方が見つからなかったのだ。その結果ある事が判明した。



それは霊の持続時間と霊力操作、マルチタスク、実質的に三つの訓練を行っていた時だった。ふと霊力を籠めた石を放り投げると狐霊に当たってしまった。自身の霊力なのでダメージは無いのだが、少し不機嫌になってしまった。


「ごめんって、機嫌直してよ~」


当時はまだ関係が深く無かったので喋れない狐神はプイっとよそを向いてしまった。


「んーだったら食べる?私の体、皮膚とか髪ぐらいしかあげれないけど」


古風なやり方。ただ手や目など大きな物を与えてしまうと自然治癒はしない、だが皮膚や髪など自然に再生するものはあげても回復する。なので誠意はあまり感じられない気もするが狐霊はそれで満足するようだ。

すると狐霊は鼻先で虎児の鎖骨を突いた。


「鎖骨の皮膚?別に良いけど…好きなの?」


狐霊は自慢げに頷いた。


「ふーん、まぁ良いけどあんまり持ってかないでね。擦れて痛いから。

それじゃああげる、鎖骨辺りの皮膚」


すると右の鎖骨にだけ違和感が出た。軽く服を脱いで確認するとちゃんと皮膚が無くなっている。保健室に行って消毒だけでもして貰おうと校庭を出ようとした時だった。

皮膚の持って行かれ具合がたまに気分で与える時とは違う、多い。


「ねーあんま持ってかないで言ったじゃーん。そんなに好きなの~?」


からかうってみたが、狐霊はきょとんとしている。本当に分かっていないようなのでしっかり見せてみると狐霊も訝しむようにして鎖骨を眺めている。だがその視線が明らかに私的なものに変わったと感じたのでさっさと服で隠した。


「私主なんだけど……まぁいいや、とりあえず保健室行こ。にしてもなんで多く持ってかれたんだろ、なんか変化とか感じた?」


狐神は思い出すようにして首を傾げ、反応を示した。そしてすぐに背中を向け、尻尾を見せつける。そこに秘密があるのだろうと探ってみる。

二分程して理解した。昨日尻尾を枕にした際無意識に毛を抜いてしまい、素肌が剥き出しになっていた箇所が治っている。


「もしかして傷が治った…?」



それが起点だった。誰にも伝えず二匹の霊と共にその秘密を暴くために少し傷付けては与えてを繰り返していた。結果として分かった事は霊が傷付いてて体を捧げた場合普段より多く持って行かれるが回復する。何回か捧げていると回復するかどうかを制御出来るようになる。回復で過剰に持って行かれた分も力は増す。という三つの事項であった。

これは今まで誰にも話す事が無く、心の奥底にしまっていた事だ。実際の所レアリー辺りにはバレているのだろうが秘密にしているか理事長などに言いふらさないと言う条件付きで伝えていたのだろう。

その気遣いはとてもとても嬉しいものだった。何故なら最後の最後で惜しみ無く使えるのだ。相手の知らない情報と言うのは流れで攻めるタイプの敵には物凄い有効打になるのだ。


「はい!!」


すぐに狐神に面を投げた。するとその面に籠った霊力で狐神が怪我をした。槍は刺さらず、地面を軽く抉っただけである。そして既に虎児のペースに惑わされている事に気付く。

何故なら本来有り得ないからだ。自身の霊力で自身の霊が傷付く事など有り得ない、となると面に籠った霊力はまた他の誰かの物だ。それなのに霊力の話をしたのは何故だろうか、安易な思考誘導である。だが確かに引っかかった、足元の枝から伝わってくる、他者の霊力。

すぐに離れようとしたが肝心の足場である枝が破壊された。どうやら目的はそっちのようだ。落下する、一円玉で軌道修正も間に合わない。だが真下で待ち構えているのは狐神のみ、何とか乗り切れるはずだ。そう思った直後、既に終わらせた予備動作を否定される。


「あたしの聴覚あげる、どうせ聞かないし」


元々猫耳ヘッドフォンを付けているので大して関係ない。二つ分の聴力、回復には充分過ぎる代償。だが与えるのだ、力にするために。大変古風で扱いづらいやり方である。

ここ最近の戦闘では体の一部が欠けていると単純な殴り合いで不利になる事が多く基本使われなくなっていた。だが何事も一巡するものだ。案外全員考える事は同じなのかもしれない。

ただその中でも虎児は異端である。ただの着地狩り、決めても致命傷にならない内に対処される事ぐらい分かっている。幾ら殺すつもりが無いといえども自身の体の価値を軽く見積り過ぎだ。


「まぁ、しょうがないか!!」


右足だけを突き出し、差し出す様にして狐神の口にダイブする。もくろみ通り狐神は右足を噛み千切った。その瞬間に十円玉を足元に落とし、爆発で抜け出した。

実際の所そこまで痛く無い攻撃だ。乗り切れば回復してもらえるし、傀聖の能力別に近接戦に拘る必要が無いからだ。それでも近接戦を好む理由はただ一つ、そっちの方が純粋に楽しいからだ。


「言っとくが既に、タネは仕掛けてあるぜ」


ニヤッと笑いながら能力を発動させた。爆発で逃げる際に吹っ飛んだ肉片、それが一斉に武器へと変化する。ただし小さい、大変小さい。その代わりに、強力だ。

全てがまち針へと変化し、振りまいた一円玉によって虎児の方へ飛んで行く、背後以外の全方位からだ。狐神も間に合わない、絶対に虎霊を使うはずだ。

だが次の瞬間使用した手は別のものであった。


『人術・砂塵王壁』


「残念、斬撃と突きは無効化だよ」


砂の壁、まさかこんなしゃばい攻撃で使用してくるとは思わなかった。だが幸運だ。


「そうか、ありがとな。俺がここまで引っ張った理由はそれが見たかったからだ、万一他の奴が持ってた時用にな。でももうお前は用済みで、行くぞ、本気で」


五十円玉を八枚宙に。そして創り出す、八本の槍。装着する必要も無い。何故ならそれは、落下する前に放たれる。



第三百六十六話「砂塵王壁(さじんのおうへき)

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