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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百六十四話

御伽学園戦闘病

第三百六十四話「断罪」


蝶理 優衣、そう名付けたのは優衣自身であった。元の名前は[ミト]である。苗字や漢字は知らない、ただ育ててくれた人がそう呼んでいたので自分でもそう思っていた。

外で暮らしていた時は田舎にある小さな教会の神父に育てられていた、日本ではちゃんとしている教会は少しだけ珍しいので目を着けられ、そのまま能力者だと言う事がバレないよう何度も注意されていた。

それが優衣(ミト)の事を思っての行動だとは幼いながらも理解していたし、合理的だとも思った。ここは能力者戦争時代に能力者が勝利を収めた土地であり、流や咲が住んでいた小さな町のように結構寛容だ。

ただそれを嫌がる者も出て来ている。そろそろ優衣(ミト)を逃がす必要がありそうだと、無能力者の神父は考えていた。


「ミト、もうそろそろだ。お前は島に行く事になるだろう、私と離れてな」


「…」


唯一心を開いていた神父に対してもコミュニケーションはほぼ取らない。ただ話はしっかりと聞いている。


「お前は強い子だ。能力も、心も。私がいなくとも他の家族を作りやっていけるだろう。あまり時間が無いんだ、二週間後の抽選に参加する」


「…」


とても悲しそうな顔をしているミトの頭を撫でながら安心するように言葉をかけてあげる。


「大丈夫だ。最初は皆恐れるだろう、私も最初は怖かったさ。だが慣れるものだ、人と言うのは慣れるんだ。必ず良い家族が出来る、そう心配するな。生徒会と言うのに入ればある程度は外に来れるらしいからな、付近に遠征で出向いた時にでもコッソリ顔を出してくれれば私は満足だ。

もう老い先短い老人だ。最後にミトと時間を過ごせて楽しかったよ」


神父は文字通り聖人であった。妻と子を持っていたが通り魔(のうりょくしゃ)に殺された。だからと言って能力者差別に走る事も無く、何なら受け入れている。

この様な人物は稀で、溢れてくれればどれだけ平和になるだろうか。皆が望む世界というのは存在しない、各々が好きな理想を持ち寄って整合性を取る。そうすると必ず願いが叶わない者が出てくる。

それはいつも弱い者だ。力でも権力でも、何かが足りない者が妥協する事になる。なので能力者は常に自分達が追い詰められる事を受け入れている。神父はそう考えているのだ、なので自分ぐらいは受け入れようとしている。


「……いご…に…」


「ん?どうした」


「最後に、教えて……お父さんと、お母さんは……私の事が嫌いなの……」


神父が肉親で無い事ぐらい知っている。神父は考えた、三分間悩み抜いた結果教える事にした。


「私しか知らないんだ、教えてあげよう。ただし気を強く持つんだぞ」


「…」


コクリを頷いた。すると神父はある指示を出す。


「緑で黄色い斑点模様のある蝶を出しなさい、二匹いるだろう」


その言葉で大体は察してしまった。だがゆっくりと呼び出す。神父の手に留まった二匹はミトの方を眺めている。


「この二匹が、両親だ」


やはりそうだった。


「ミトの蝶は人の魂を媒介としている。前に話しただろう、魂の知覚。だがミトは見た事が無いだろう、それは魂が蝶に見えるからだ。何らおかしい事では無い、能力だからだ。

そしてその蝶を手にする事で力を手に入れる。私が極力蝶の捕獲を止めていたのはそう言う事だ、神父の端くれではある。魂を粗末に扱ってはいけないからな」


「…ありがとう」


感謝はしたが受け入れられない、二匹の蝶をおいて教会を飛び出した。神父は止められなかった。やはり話すべきでは無かったかもしれない。だが後悔しても遅い、残り二週間。抽選は絶対に当てる、どれだけ卑怯な手を使い、教えを破ってでも。


「私は何処まで行ってもミトの傍にいよう…」


「そうですか。能力者の傍に、ねぇ。神父様」


「…君は、ジェイムズ・シャンプラーさんだったかな」


「いえ、別に覚えなくて結構です。俺は今から、あなたを殺しますから」



ミトは適当な木陰に座っていた。夜なので大分涼しい、だが苦しい。自分の蝶が人の魂だなんて知らなかった、何回か実験で人を殺した事になってしまう。神父が異様に能力の"内容"を嫌がっていたのはそう言う事だったのだ。

自分は馬鹿だ。今更神父と離れて何が出来るのだろうか、何も出来ないはずだ。自分は弱い、神父は優しすぎたのだ。やはり野良猫のような暮らしをしていた方が良かったに決まっている。それなのに何故こんな贅沢な暮らしをしているのだろうか。人の命を弄ぶ能力を持ってして、こんな暮らしが出来て良いのだろうか。


「…?」


すると教会の方から多数の叫び声が聞こえてくる。すぐに視線を向けると少し遠くに見える教会が燃え盛っていた。瞬時に走り出す。何かを考える事などせず衝動的に。

教会へ着く頃には相当焼け落ちており、周囲に居た人がミトの事を心配し、神父が見当たら無い事も伝えた。だがそんな事耳に入らない、野次馬の少し先に見える緑髪の男。優衣の事を酷い目で見つめている。

あいつだ、そう感じた。半人はあいつだ。すぐでにも蝶を出して殺してやろうかと思った。だが留まる、ここでそんな事をしたら他の住人にリンチにされかねない。優しい人が多いとはいえども不確定な犯人を殺すなど危険人物でしか無いからだ。


「良いから早く消化するぞ!……遅いかもしれないけどよ…」


町の中で一番屈強な男がそう言って消化を始めた。それをただ呆然と見る事しか出来ないミト、その背後に一人の男が近付いてきた。フードを被っておりすぐ傍にいるミト以外は誰も気付いていないようだ。

そいつは後ろから話しかけて来た。男だ、若い男の声をしている。


「やりたいか」


「…」


「復讐をするか」


「…」


「俺の名は[アイト・テレスタシア]、お前に(ゆうき)を与える事が出来る。決めるのはお前だ。あの男を殺すか?ここから逃げるか?それとも、何もせずに眺めているか?

どれも正解だ。否定なんてできっこない。俺も同じような目にあったから分かる、家族を殺されるのは辛い事だ。だから俺は、お前を信じている」


ミトの瞳はピンクである。


「私…は……殺したい……」


「よく言った」


だが次の瞬間右眼だけが、青く変化した。


「後はお前が決める事だ」


男の気配が消えた。それと同時に力が漲って来る、瞬時に呼びかけた。覚えの無い言葉。


『第一蝶隊 白兵』


その一晩で何があったかは未だ解明されていない。ただし一つの町の住人と教会に住む老人、そして少女が行方を眩ませた。



「あの時の罪、なのかな……私はあなたの家族を殺したよ。全員。そしてコッソリあなたに返還した。あれが善意だとでも思った?違うよ、復讐だよ。

私の家族はあの人だけ、そんな人を殺したあなたの父親が憎くて憎くて仕方無かったのだ。だからあなたも憎い。

ごめんね兵助、会長。やっぱり私に、正義はいらないや」


燃え上がった青い炎、緑ではない、青である。だがそれでも充分、マモリビト直々に授けられた碧眼。

怨嗟の触塊は少しずつ形を変えている。人型になろうとしている。


「おこがましいよ、人に成ろうなんて」


切る、ここで全てを。


第五蝶隊(だいごてふたい) 斬兵(ざんひょう)


皆から話を聞く事によってある人物から着想を得た。翅を刃に、いつかの黒蝶のように。総数二十、精鋭ですらない。むしろ練度は低い。

それでも通用するだろう。こんな怪物に負ける道理は、何処にも存在していない。


「私は魂を弄ぶ、だけどそれは、あなた達TISも同じ。同じ屑なら、殺しても罪はないよね」


消耗蝶を三匹食す。

触塊は攻撃を始めた。三十本の触手が襲い掛かる、優衣は難なくかわしたが蝶はそれが出来ない。ただし、刃は持っている。斬兵の体は非常に鋭利である。触手が触れようものなら意図せず、反撃を繰り出す事になる。

触塊は悲鳴にも似た声を轟かせた。それを見た優衣は気持ち悪い、そう思った。まるで被害者面、俯瞰すれば両者正しい事ぐらい分かるはずだ。だがそんな事したくない、こいつが悪いのだと一方的に決めつけて逃げたい。信じたくない。


「斬って!!」


すぐに斬兵が動き出す。凄まじい速度と切れ味でドンドン再生する触手をひたすらに切り刻んでいく。人型のように成ろうとしているが原型が無い程グチャグチャに、切り刻むのだ。

だがこんな正真正銘の怪物がこの程度で死ぬとは思えない。


「まだまだ!!破片も残さないで!!」


自分も破壊しながら共に攻撃を繰り返す。元々の状態の方が手応えがあった、こんなの弱くなっているだけではないか。そう思った直後の事だ、頭部に凄まじい衝撃が走る。

血は出ていない。だが物凄く痛む、脳みそにまで届きそうな痛み。何が起こったのかまるで分からなかった。


「何…」


触塊の方を見ても何も出来ていない。されるがまま再生して、破壊されてを繰り返している。いや、違う。思っていた以上に早い、それは何故だろうか、考える。

身体強化を使っているからだろうか、それとも触塊が何か仕掛けて来たのか、いずれにせよあと数秒で殺さなくては対処が間に合わない。焦った優衣は斬兵に指示を出した。


「トドメを!!」


斬兵が指示を聞き、ほんの少しの隙を晒した。次の瞬間、斬兵が消し飛んだ。それと同時タイミングで触塊の再生速度が早まった。喰ったのだ、あの一瞬で。


『第一蝶隊…』


させない。触塊は早い、触手で出来ているデカい人間の形を保ちながら優衣を食す。逃がさない、全ての怨念をここで今晴らすのだ。全ての触手が口を開き、同時に噛みついた。


「やば…!」


再度唱えようとした時、口を開かせないために一匹の触手が口に入り込み内臓を喰い始めた。生き地獄とはこの事なのだろう、ほんの数秒のはずなのにここが最果てだと感じた。死とは不思議だ、変な感覚に陥ってしまう。

死の感覚と食べられている感覚、共生する二つが混じり合い意識を溶かしてゆく。苦しくて辛い、だがこれが運命だったのだろう。優衣は神経を千切られる直前にこう思った。

あの時の罪も共に喰ってほしいと。

ただ切実にそう思った。魂が現れる、逃がすはずがない。優衣は、死んだ。


「…効いてないと思ったら、そういう事ね。ちょっとは見直したけど、馬鹿だね、本当」


高い木の上から眺める刀迦を無視して藻掻き出す。苦しみの最中、考える事すら許されない。ただただ激痛、怪物は生かされない、殺される運命だ。優衣がこうして、殺されたの同じように。だが優衣は爪痕を残した、心臓を引き裂く爪痕を。

分かる、知ってるのだ。前のシャンプラー(だれか)が同じ攻撃をされたのだ。知っている、知っているのだ。これは、毒だ。優衣は消耗蝶三匹を喰っていた、それが全て毒だとは知らなかった。

魂までも喰ってしまった。刻まれた蝶も全て、その中に毒が何個あっただろうか。過ちだった、もう戻れない。シャンプラー(だれか)と同じく、引き返せない所まで来てしまったようだ。


「まぁ、最後ぐらいは安らかに逝きなよ。家族の元で」


唯刀によって首が跳ね飛ばされた。もう再生は出来ない、ゆっくりと意識を閉じた。



羽化する。

仮想世界のあるエリア、その中にある建物の一室。青年の部屋。

剥製の横で綺麗な蝶が。



《チーム〈生徒会〉[蝶理 優衣] 死亡 > コールディング・シャンプラー》


《チーム〈TIS〉[コールディング・シャンプラー] 死亡 > 神兎 刀迦》


これでようやく、報われたのだろうか。その真実は誰にも届かない。だが少なくとも、因縁は解消出来ただろう。



第三百六十四話「断罪」

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