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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第三百五十八話

御伽学園戦闘病

第三百五十八話「最終対面」


長く短い一週間が経過した。時は十二月三十一日、全世界で能力取締課と島への連絡が相次いだがハックが生成したシステムにより全機で無能力者の味方である、それしか言わなかった。

一方直接突撃してくる班も数多く、そう言った者には全て理事長が取り合い、敵では無いと半信半疑程度には証明する事が出来た。この調子で勝利を納めれば一定に権利を得る事も可能だろう。このまま事が進むかは別として、だが。


「さぁお前ら、準備は出来とるか?」


エスケープチームの待機室、礁蔽の掛け声で全員の覚悟が決まった。顔を上げ、見合わせる。たった四人、だが全員最初の頃とは別人のようだ。本当に強くなった、とてもとても。

そんな四人の元に数人の来客だ。


「やぁ、ちょっと久しぶりだな」


香奈美と水葉、そして蒼だ。


「お、香奈美か。なんや?」


「餞別だ。それと蒼からは大事な話とかいうのがあるらしい、私達は聞かないがな」


「ええな、まずは餞別くれや」


「ほら、これだ」


そう言って香奈美が放り投げたのはたった一つのチョコだった。不思議そうに首をかしげている礁蔽のために水葉が補足を行う。


「霊力チョコ、崎田がこの一週間の半分も使って量産してた。しかも試製品、馬鹿だと思ったけどそれ従来の三倍は濃縮してあるらしい。受け取りに行った時なんか崎田本人はシナシナになってた。

とりあえずそれぞれのチームに一個ずつしか渡せないから、礁蔽にあげるね。まぁ流とか兵助が使う場合は好きに共有して良いよ、別に半分渡すでも良いはず…」


「三倍か、ほんなら全部流に渡すわ。ニア、兵助、なんか異論あるか?」


「私は大丈夫ですよ。あくまでも能力とかはサブの攻撃手段ですので」


「僕も大丈夫、多分」


「多分か。なら四分の一ぐらい渡すのどうかな?礁蔽君」


「流がええならそれでもええで、どうせわい使わへんし」


「うん。じゃあ兵助君が四分の一だけ持っててよ」


「分かった。じゃあそうするよ」


チョコを受け取ったのを確認すると二人は部屋を出て行ってしまった。残ったのは蒼、緊張しているのか初めてあった頃の情けない感じが透けて見えているが何とか心を落ち着かせながら椅子に座り、話しを始めた。


「僕が黄泉の国に行っていたのは確かに最後の特訓の意味合いもあるが…それよりもエンマや英雄の話しを聞きたかったんだ。僕は最後になる、魂の仕組み、喰ってしまったからには黄泉の国に行けるのは莉子か僕のどちらかのみ。まぁ、言わなくても分かると思う。

だから最後に凄い人達の話しを、ね。とりあえず収穫はあったよ、それを今から君達に教える。二つあるんだ、まずは紫苑の事からだ。

紫苑は今地獄の門番をしているらしい。一瞬チラッと姿だけ見させてもらったけど雰囲気っていうのかな…オーラっていうのかな、凄い成長していたよ。だから言いたい、多分来るよ」


「本当ですか!?紫苑さんが…」


「あくまで僕の予想だ。でも来てくれると思う。

そして二つ目の話し、能力者戦争時代に生きていた人から話しを聞いたんだ。本当にただの雑兵だったらしいんだけど面白い事を教えてくれたんだ。アイト・テレスタシアが姿を消して戦線が本格的に崩壊しだした頃ある人物が身を削って争ってくれたらしいんだ。

ラックでもなく、何処かに名を残している訳でも無い。僕は気になったんだ、なんで名前が無いんだろうって。そこでこの一週間を使って調べ上げた、現地にも行った。

そして発見があったんだ。その正体は式神術、キキーモラだった」


「…?どう言う事?その時既にレジェストの方のラックはアイト(ラック)に喰われたはずじゃ…」


「そこから二つの仮説が立てられる。まずは本体が死んでも式神は生き続ける可能性。もう一つがレジェスト本人が生きていた可能性だ。

そして僕は当然会って来たよ、絡新婦とも。凄いちょっかいかけられてウザかったけど教えてくれた、式神術は本人が死んだら二度と出てくる事は無いし同じ形のモノを作り出す事も出来ない、と。

導き出される結果は一つ、本体が生きていた。だが確かに魂は喰われたはずだ。だからこれ以上正確な情報を得るのは不可能で、しかもタイムリミットが来てしまった。これは本当にさっき、元会長と水葉が部屋を出る時に思いついたんだ。

まず前提として通常のニンゲンの魂は喰われた時点で基本的に能力を発動できなくなる、だがレジェストは違った。恐らくはマモリビトだったからだ、マモリビトは何らかの作用によって魂を喰われても能力が発動できた、それ即ち生きていた。

僕はこう思うんだ。現世のマモリビトには定められた寿命がある、逆に言うとその寿命が来るまでどんな状況下にあっても死ねないんじゃないか、って」


「ならばラックさんも何処かで生きている可能性があるのでしょうか」


「ごめん、そこまでは分からない。僕が言えるのはここまでだ。皆短期決戦だろうから僕らの戦闘までそこまで時間が無い、そろそろ休みたいんだ、それじゃここら辺で」


「おう!さんきゅーな!」


「ありがとうね、蒼先輩」


「無駄にはしないから、その苦労」


「ありがとうございました、それでは」


「うん…さよなら」


最後まで蒼は、笑っていた。

そして扉が閉じられ、ほんの一瞬の沈黙。何か話そうかと口を開いたその瞬間、ノック音が鳴り響く。すぐにそちらに視線を向け、誰か確認する。驚いた。


「うお!どうしたんや!二人共!やっぱ戻って来るんか!?」


蒿里と素戔嗚だった。だがその質問への返答は無く、ある一言を残しに来ただけだった。


「俺は容赦しない。本気で来いよ、返り討ちにしてやる」


「…」


「…行くぞ、蒿里」


蒿里は遂に何も言わずその場を離れてしまった。やるせない気持ちとモヤモヤだけが募る、折角二人から持ち掛けて来たのだ、本当に最後にならぬよう言葉はかける。


「ほんじゃあな!多分わいが一番に黄泉送りや!!まぁ零式で起こされた犯罪者やから地獄行きやけどな!!」


「素戔嗚さん!アリスに言っておいてください、本気でやると!」


「それじゃあね!でも僕は負ける気ないよ、婆ちゃんに誓ってね!」


「…素戔嗚!僕はお前と戦いたかったけど…多分無理だ!!だからこう言い残しておくよ!許さないからな!!!」


二人は角を曲がり姿を消してしまった。とりあえずパッと思いついた言いたい事は言えたので満足だ。後は第一戦、生徒会とTISの戦いが始まるのを待つだけ。

だが大変心配だ。流にとっては咲がいるし、ニアにとっては同年代の友達、兵助にとっては教え子だ。そんな子達が多くの情報を落とす為の鉄砲玉として戦うのだ。非常に心が痛み、今にでも立場を変えてやりたい。だがいつかの皆で賛成した作戦、ここで引く訳にはいかないのだ。


「さぁ、もう少しだね。しっかりと見届けよう、僕らの最初の一撃を」



生徒会待機室、エスケープや他のチームとは打って変わって大変軽快な雰囲気だった。まさかこんな奴らが今から死にに行くとは思えない程だ。

何人かは完全死前提の戦い方をする、本当の本当に最後になってしまうのだ。少々納得し難いが理解出来ない雰囲気でもない。楽しそうに今までの事を振り返ったり、残っている真波の遺品の使い方を軽くチェックしておいたり、緊張をほぐすためのじゃれあいを繰り返している。

決して緊張や覚悟が消えたわけでは無い。眼に宿るその感情、誰もが分かっていた、怖いのだろうと。優衣の蝶隊ですら怯えている。だがそれでもやるしかない、先発としては充分な戦力である。

今のTISは少しでも舐めてかかったら敗北するだろう。命を駒と見ているというわけでは無いが、ある程度は割り切らなくてはやっていけないだろう。咲は生徒会長になった際メンバーにそう説き、早めに覚悟を決めさせておいた。良くも悪くも単純な者が多いのだ、上手く扱えればとても良い方向に働くだろう。


「さぁ皆さん、準備は出来ているのですか」


当然出来ている。すると咲が神妙な面持ちで語り掛ける。


「私が生徒会長に就任してから、いえその以前からですね、兄さんを探している事から付き合ってくださった人もいるでしょう。島に来てから私の人生は百八十度変化しました、馬鹿をするのも真剣に勉強するのもとても楽しかったです。

ですがそんな日々はここで終わりです。私も覚悟は出来ています、來花は私の獲物です。兄さんにも渡すつもりはありません、皆さんもそれぞれやりたい人がいるのでしょう……戦闘が始まり次第解放を許可します、戦闘病、覚醒、両方の」


そうこなくてはつまらないだろう。


「ただ、一つ注意してください。必ず情報が伝わるように戦う事、どんな方法でも良いのです。私達の目標は敵を倒す事では無く、情報を落とす事です。それにどうせ最初で倒しても回復されるのがオチです。この事をしっかり心に刻み、挑むように。

よろしいですか?」


にっこりと笑いながら訊ねた。本気の時はいつもそうだ、咲は笑いながら聞いて来る。その時少しでも迷いがあると大体長い説教が挟まれる、それもお決まりだった。

だが今回だけはそんなお決まりさえ通用しない。全員が全員、大きく元気に頷いた。


「それは…良かったです…」


変なタイミングで感極まったようで涙目になりながら俯いてしまった。ファルと虎児が笑いながら元気付ける、普段なら逆だ。こんな時に情けないとすぐに気合を入れ直した。

咲は強い、力も心も。蒼の力を借りながらも挫けず何とかやって来た、何度も何度も酷い目に遭いその分強くなって来た。全てが始まったのは子供の時の一件だった。こんな事になり、こんな良い子達を鉄砲玉として扱う事になったのも、全て一人の男のせいなのだ。

そんな野郎と決別し、決着をつける。いつだかそれが目的になっていた。兄の事を心配した時間は総合すると大変少なかった、何故なら信用しているから。生きている唯一の家族、そしてその背中には常に母親もいる。

安心して預けられるだろう、自身の意しを。


「さぁ、行きますよ」


腕時計を装着し、部屋を出る。その道中、TISと対面するような形で遭遇した。咲は何も言わずに曲がり角を行こうとしたが、一番嫌な奴に声をかけられた。


「咲、私は…」


「屑の戯言を受け取れる程低品質な耳を持ち合わせていません。行きますよ、皆さん」


雨も降っていないのに傘牽を開き、進む。他の者も中指を立てたり舌ベロを出してからかったりしている。TISのメンバー、特に素戔嗚と蒿里は内心驚いていた。メンタルが強すぎる、普通なら少しは怯えたりするはずだ。

これが最初の相手とは、少々手こずるやもしれぬ。


「俺達も行くよ、初陣さ」


《開幕》


――――――――――――


 最終章「終わり」


――――――――――――



第三百五十八話「最終対面」

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