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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十二章「再集結」
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第三百五十五話

御伽学園戦闘病

第三百五十五話「権利剥奪」


「…んだこれ」


菊の一言で全員がそちらに視線を向けた。すぐにAIに異常が発生し、謎の力によって破壊された事を告げる。そしてそこには[サルサ・リベッチオ]という人物への救援申請が出されている事も同時に伝えた。

するとシウと理事長の脳裏に嫌な思考が生まれる。その思考というのは地下研究室の奥に存在していた天仁 凱曰く神の成り損ない、それがサルサ・リベッチオなのではないかと言う事だ。

だがラックの遺品や置いて行ったものに人間は何処にも無い。もしかしたら外で暮らしているのかもしれないが、そうだとしても助け行く余裕などない。


「まぁ良いだろう。今の私達にそこまでの余裕は無い、ひとまず作戦を…」


すると薫が突っ込んだ。


「何隠してるんすか」


次の瞬間レアリーの顔色が悪くなる。覗いてしまったのだろう、あの何かを。


「仕方無い…私と薫君は一時退室する。いや、シウ君もだ。二人共、来たまえ」


言われるがまま三人は退室した。レアリーの隣に座っている香奈美が耳打ちで何を見たのか訊ねたが断固として話そうとはしない。部屋の中には微妙な空気が流れていたがその時、流が衝撃の発言をした。


「よし、作戦完了。兵助君、良いよ」


扉が開かれる。そこには今までに無い程真剣な兵助が立っていた。


「悪いね、ここまで僕らの作戦さ。ラックは僕らに切り札を残してくれた、勿論こういった場面での切り札もね。だからそれを今切った。

だが勘違いしないでくれ、別に妨害をしようとしたわけじゃない。主導権を僕にくれないか、皆」


急すぎる提案納得出来る者など少ないだろう。だがその中でも意外な人物が賛成した。


「俺は良いぜ、お前を信じてるからな」


透だった。てっきり最初の方に否定するかと思っていたがそんな事は無いらしい、ただ他の突然変異体(アーツ・ガイル)は全員反対派らしく少し対立してしまっている。

すると兆波がどう言う事か追及した。


「言った通りだ。僕には秘策がある、確実とまえでは言えないが普通に戦うよりかは何十倍も成功率が高い」


だがそんな曖昧な確率など誰も信じないだろう。結果として賛成したのは透、流、咲、優衣、光輝、タルベの五人だけだった。透は突然変異体(アーツ・ガイル)の秘密を話したりして兵助を信用しているから。流はその内容を知っているから。咲は流が賛成派だから。優衣は兵助の言葉を信じたから。光輝は黄泉の国での訓練によってこのままではTISに負けると分かっているから。

逆に言えばそれ以外は反対派なのだ。それもそのはず、兵助は作戦内容を話すつもりは無いとハッキリ言ったからだ。そんなの誰も賛成するはずが無いだろう。これは殺し合いであり、能力者だけではなく全人類の命を懸けた戦いと言っても過言では無いのだ。

そんなふざけた作戦には乗れない。


「と言うかタルベは何で賛成したの~?」


灼の質問、兵助と目配せをしてから決意を固めて、話した。


「今から言う事は確実に記憶から消してもらいます。理事長の能力でも、何なら透さんの寄生虫を使ってでも。何故ならこの作戦の要、最重要案件ですから」



一方退出した三人はラックの家に到着していた。だがそこにはエスケープチームが立っていた。


「すまない、通してくれ」


扉への道を塞ぐようにして立っている皆を退かそうとするが絶対に退いてやらないという強い意思を見せた。理由としては二階と地下通路への結界、それが気になって仕方ないらしい。

すると薫が力尽くで退かそうとする。それを理事長が制止、その後地下へ同行させる事にした。シウは心の中でどうかと思ったがそんな事言える空気間ではない。


「さぁシウ君」


「…はい」


結界を解く、そのまま地下へ降りた。エスケープメンバーは始めて来たので物珍しそうに物色している。だが薫、理事長、シウはそんなものに目もくれず奥の扉へと向かう。

それに続くようにしてエスケープも付いて行った。理事長が大きな深呼吸をしてからゆっくりと扉を開いた。その瞬間よどんだ空気が部屋中に蔓延する。それと同時に皆の顔が曇った。


「これは…誰だ」


薫は瞬時に生き物だと理解する。


「私にも分からない。だがラックが残した何かだとは…」


次の瞬間蒿里と素戔嗚がそれぞれオーディンの槍(グングニール)と村正を突き立てた。だが本当に殺すつもりは無いようで、ただ明らかな異常を前にして咄嗟にしてしまった行動らしい。

礁蔽が二人を引き剥がすとそれが何なのか、良く観察する。生きているのは確かなのだが心臓などはないし、そもそも臓物すらないようだ。これは本当に生き物なのだろうか、そんな疑問が浮かび上がってくる。


「ちょっと退いてろ…邪魔になる」


薫が冷や汗を垂らしながらそう言った。心を見るつもりらしい、そもそも心や記憶があるのかも分からないが、とりあえずやってみるだけやってみよう。

だが心を覗いた薫の顔色は変化した。だが予想していたのとは大変違う、まるで憐れんでいる様な目を向けながらそいつの手を取った。


「そうか…だが安心しておけ、俺のやり方ならお前も逝ける。あと数週間、ただ数週間で良い。ここで待っていてくれよ、"サルサ"」


理事長とシウが追及しようとする間もなく、薫自身が語り出した。


「こいつはアイト・テレスタシアの唯刀を唯刀・真打、刀身の素材をギアルに変化させた凄腕の鍛冶屋だ。だが佐嘉の能力者無差別攻撃から一人の女の子を守り死亡…その後ラックがそれを知り遺体を回収、何とかマモリビトの力で復活させられないか試した結果……アンスロとしての再起を図った。だが失敗しこんな有様だ……そして何人かを同じ様にこんな姿にした結果、成功寸前だったのが[空十字 紫苑]らしい。

だがその計画は破棄、恐らく仮想のマモリビトによって生成されたのが俺らが知っている[空十字 紫苑]……か。そんでこいつは死ねないらしい、他の奴らとは違いこいつにだけは不死の力が与えられた。失敗するなんて、思ってなかったんだろうな…」


「ほんまに言うとんのか…」


「なんで嘘をつくんだ、ここで」


「…せやな」


この事は生前誰も知らなかった、一番に信用されていた菊でさえも、勿論薫や礁蔽も。


「責任感…でしょうか。ラックさんは恐らく自分のせいでこの人を争いに巻き込ませ、殺してしまった事がいたたまれず何としてでも復活させようとしたのでしょう。方法や倫理観はともかくとして、分からなくもありません。

ですがこれは何と言えば良いのでしょう……少なくとも敵には見えないんですよね、私の眼から見て」


あくまで雰囲気だが仮想世界の住人と似たものを感じた。敵ではないが莫大な力を所持しているせいでただの人間であるこちらは警戒せざるを得ない状況、どれだけ心を開こうとしても本能がそれをやめさせ、留めさせてくる。

非常に悔しい。こんな状況の人間を放ってはおけない、だが近付く事さえもはばかられましてや救う方法など分かるはずも無く、薫以外はお手上げ状態なのだ。


「行こうぜ、理事長。さっさと作戦立てて仕上げに取りかかろう。それが最善策だ、こいつのためにも、俺らのためにも」


「そうか……それでは行こう。すまないが私達は行く、ここの結界を再度展開したいのでエスケープチームの皆も出て言ってもらおうか」


「分かったで……行こか、お前ら」



会議室に戻った三人は驚いた。いつの間にか兵助がいるし、何とも言えない空気が漂っているのだ。こんな変な空気だったかと思いながらも元の席についた。

その瞬間香奈美がある提案をする。


「私達は兵助の作戦に乗ります。既に順番も決めました。なので今ここで全員の記憶を消してください、理事長、あなたが消す際に見た記憶も」


「どう言う事だ、話が掴めないぞ」


「とりあえず私の記憶を覗けば分かりますよ」


「そうか…少々見せてもらおうか」


香奈美の記憶を見た理事長は物凄い反応を見せていた。そして長い付き合いであるフレデリックと目を合わせ、頷いた。


「良いだろう。兵助君の作戦に従う事にする。そしてこれよりここにいる全員の記憶を消去する、勿論この作戦に関連する部分のみだ。最後の最後に私の記憶も削除する。

今一度聞いておくが皆、納得しているのだな?」


全員がコクリと頷いた。

そして始まる記憶の消去、シウと薫は内容を知らないが全員が賛成している作戦、別に内容を知らなくても何とでもなるのだろう。そもそも今知っても結果は変わらない、なら無駄な時間になるだけだ。

三十分程かけて全員の記憶を消去する事が出来た。


「さて、会議はこれで終わりだ。ただ順番だけは確認しておこうか」


記憶を消す前に唯一紙に書いて残しておいた情報、それが順番だ。その紙には理事長の筆跡でこう書かれていた。


『一 生徒会


 二 干支組


 三 アーツ・ガイル


 四 能力取締課


 五 旧生徒会


 六 教師


 七 エスケープチーム』


「ふむ、では解散としよう。それぞれ好きなように動くと良い、緊急招集があるかもしれないので常に阿吽は使えるようにしておく事、以上で終わりだ」


ぞろぞろと退出していく。



それと共に、一人の魂も退出した。そしてそのまま結界を通り、エリアの壁を抜け、体へと納められる。すぐに目を覚ました、それに気付いた來花が安否を訊ねる。


「大丈夫か!砕胡」


「あぁ、それより良い情報が掴めた…といっても曖昧だけどな」


「本当か。それは良かった。とりあえず何があったかを説明する、王座の間まで行こう。佐須魔と智鷹が待っているはずだ」


「了解、行こう」


王座の間には佐須魔と智鷹、そして地面に座りながら槍を磨いている傀聖の姿があった。


「ん、砕胡じゃないか、帰って来たのかい」


「まぁな、情報手に入れたぞ。そこそこ曖昧だが一応報告しておく」


「よろしく、その後に何がったのかを話す事にしよう」


「学園側の作戦は不明だ。ただ僕が見た時には既に記憶を消していた、作戦に関連する記憶全てをだ。何の意図でそんな事をしたのか不明だが、僕の推測では佐須魔に見られない為だと考えている」


「まぁそうだろうね。だけどその作戦には確実な脆弱性が存在するはずだ、内容を知らない作戦なんて綱渡りも同然。確実に崩壊させる事が出来るさ。

まぁありがとう、とりあえず話そうか、まずは僕らTISの成り立ちからだ…」



第三百五十五話「権利剥奪」

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