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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十二章「再集結」
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第三百五十四話

御伽学園戦闘病

第三百五十四話「作戦会議」


前日島に来訪したTISメンバーの内"三名"は帰って行った。現在残っているのは素戔嗚と蒿里のみ、ほぼ全員が霊力感知でそれを知っていたが咲以上の文句をつける者は誰一人としていなかった。

何故なら島の中で楽しそうに過ごしているエスケープチームを見てしまったら到底言える訳が無いからだ。確かに境遇を考えれば可哀想であり、至極当然の道を歩んでいるのかもしれない。

だがそれが戦わない理由にはならない、あと一ヶ月後には敵なのだ。気を緩める事だけはしないと心がけている。そんな朝、全員へ『阿吽』での連絡が入った。


『本日昼頃から作戦会議を行う。十三時以降に会議室に集まってくれ。全員集まり次第始める事とする』


残り一ヶ月を切っている、ようやくと言うべきか作戦会議が始まるそうだ。島には能力取締課の霊力も感じ取れる、本当に凄い。物凄い数の最強が揃っている。これならば勝てるかもしれない、ほんの少しの希望が、無暗な期待を昂らせた。

ひとまずエスケープチームは適当な事をして時間を潰す事にした。変に遊んで疲労が溜まり、しっかり内容を聞けなかったりしたらいけないからだ。

ただこれも懐かしい、特段会話があるわけではないがリラックス出来る。敵同士にも関わらずここまで安心できているのは仲間だからか、それとも同族だからか。

真相は分からないが少なくとも礁蔽の頭はパンク寸前、一旦眠る事にした。



「おーい礁蔽君ー、そろそろ行こうよー」


流に起こされ、慌てて時計を見る。時刻は十三時三十分、全然セーフラインだろう。どうせ桃季やエリ辺りが駄々をこねて遅れているだろう。

とりあえず急いで学園まで向かう。未だ半壊中の学園で行われる本当に本当の最終会議、もしかしたらこの会議室を使うのさえも最後かもしれない。


「エスケープ来たで~」


意外にもエスケープチーム以外全員揃っていた。桃季もエリもソワソワしているが大人しく着席している。少し感心すると同時に理事長の隣に座っているライトニングが苦言を呈した。


「すまない、私はこの作戦会議に樹枝 蒿里と杉田 素戔嗚を参加させたくない。あくまでも敵だ」


誰も言えなかった事だ。すると礁蔽は物凄い楽観的に口を開き、全員で退室した。


「そういやそうやったわ!まぁ作戦内容自体は後々聞けるやろ!ほなワイらは遊んでるわ!」


だがすぐに扉が開き、香奈美が引き留める。


「ちょっと待て、流石に一人は出席してくれ」


「なら僕が行くよ。良いよね?みんな」


結果として流一人のみが作戦会議に参加する事になった。元TISといえども誰も文句を付ける事は出来ない、何故なら流に意見を申し出た時点でライトニングという切り札の一枚との信頼関係が崩れる可能性があるからだ。名誉を傷付けるわけにはいかない。

そもそも流ならば大抵の人間は納得してくれるだろう。そして流を除いたエスケープメンバーだけが不在の状態で、会議が始まった。方針としてはいつも通り理事長が進行し、皆がそれぞれ意見を出すという流れである。


「さて、この会議が最後になる事は察している事だろう。そして我々学園側の戦力が勢揃いだと言う事も。ここにはいない管凪 礁蔽、沙汰方 兵助、ニア・フェリエンツ、ポメも含めた能力者だけでTISを倒す必要がある。

だが注意するのは最終的な目的はTISを倒す事じゃない。TISを踏み台にして能力者が差別される世界を正す。少々汚いやり方ではあるがTISを必要以上に悪役に仕立て上げ、そのTISを倒した事で我々がまるで英雄のように錯覚させる。こんな所だ」


すると次の瞬間、灼が手を挙げた。


「どうした」


「嫌です!!!!」


響き渡る声、だが驚く間もなく旧生徒会メンバーのほぼ全員が同じ事を言った。


「まぁそもそもあいつら全員犯罪者だし、そこまでする必要が無い様には感じるよなー理事長」


須野昌が補足した。


「それは分かっている。だが私達能力者へのあたりがどれ程強いのか、君達は間近で見ただろう」


だがそこで黙っていた康太が痛い所を突いてきた。


「なら何故TISはあんな暴挙に出たんですか。元々あいつらの目的は迫害を無くす、それだけだったはずです。なのにいつの間にか人類全体を滅ぼすと言う頭が悪いのか良いのか分からない行動に出始めた。

あいつらには莫大な力と悪い意味での名声がある。もっとやりようはあったはずだ、それなのに大きい行動を起こさずにそのまま無差別皆殺しへの思考のスライド、正直な事を言って差別を無くす事が不可能だと感じたじゃないですかね。だから全てを破壊する方針にシフトチェンジした、そう言う事だと俺は思います」


「一理はある。だが私達は一度でもその地位に立てただろうか?そこからの景色を見ただろうか?答えは否、一度も何かを操作する立場になど立てていない。だから何も分からないのだ。

私達は何も知らない、だからこそTISが歩んだ道を辿るようにして行く必要がある。私だってそんな事分かっているのさ、どうしようもなかったのだろう」


「なら尚更そんな事をする必要は無いんじゃないですか」


「違う、ただ辿るだけでは同じ末路を辿る。工夫は必要だ、同じ道を歩むとしても工夫を行い更に良い方向に持って行く。それが私の役目だ」


「……まぁそう言う事なら分かりましたよ。とりあえず少し脱線してますね、今後の事は後回しで良いです。それよりどうやって戦うのか話し合いましょう」


「そうだったな。ではまず改定されるルールを先んじて説明しておこう。

まず一つ目、トーナメント制は廃止する。悪役に仕立て上げるので一つのチームが集中攻撃されても違和感は出ないだろう。そして組み分けは勝ち抜きとする、最初のチームはランダムという名目で私が操作する。そして勝った者が次の挑戦チームと戦闘、それの繰り返しだ。

全員でかかっても良かったが、一網打尽にされかねないから却下した。ある程度小出しした方がこちらとしてはやりやすい。

次に二つ目、人数制限の廃止。そのままだ、何人のチームでも申請出来るようにした。勿論一人でもだ。

大まかにはこの二つのみだ。これ以上何かを変えても効力は発揮されないだろう」


特に異論は出なかった。


「そして今日話し合うのは戦闘をする順番だ。戦闘能力の詳細は伏せてもらって結構だが、確実に何番目に戦闘したいか一人一人が考えてくれ。結局の所結果を左右するのはこの順番だと考えている。

最初に出るチームは覚悟が…」


「私達が行きますよ」


そう声を上げたのは生徒会長の咲だった。


「最初から決めていました。私達が最初に戦闘を行い、最大限情報を落として散ると」


「死ぬ覚悟は出来ているようだな」


皆の眼を見れば一目瞭然、言わずもがな納得しているのだろう。


「ひとまず仮決定だ。今後の兼ね合いで順番が変わりうる事を頭に入れておくように。では二番目だな」


だがどのチームも手を挙げなかった。確かにこのやり方は決め辛い、生徒会のように元々簡単な位置で、そこまで複雑ではない事をすると決めていない限りは少々難儀するだろう。なので聞き方を変える事にした。


「少し文言を変えようか。君達は何番目に戦いたい」


一番は薫だった。その質問を待っていたと言わんばかりに食いつく。


「俺達教師は最後が好ましい、言わずもがな総合戦力で言えばトップレベルだからだ」


だがそれに反抗するようにしてパラライズも食いつく。


「僕達も最後が良いです」


そしてまた対抗するように透が食いつく。


「いや、俺らが最後の方が良い」


更にまたまた対抗するようにしてシウが食いつく。


「いや俺らだ。俺の術はあんまり長い事持たない」


「それは俺の蟲もだ」


「僕らだって同じですよ」


「何言ってんだよお前ら、普通に一番最後に最強戦力ぶつけるのがセオリーだろ」


最早口喧嘩のようになっているが誰も止めようとはしない、確かに全員の言っている事が分かるのだ、特に理事長は。だがそこで駆け込むダークホース。


「あ、そう言えば兵助君が秘策があるって言ってたな」


一瞬にして全員の視線が流に向いた。


「詳細は教えてくれなかったんだけど…僕にだけ話してくれたんだ。確かその時は…最後が僕らエスケープ、次に教師、そしてその次に取締課、それで干支組と突然変異体(アーツ・ガイル)はどちらでも良い言ってたはずです」


「私は兵助の策に従うべきだと考えますよ」


先程まで完全に沈黙を貫いていたタルベが喋った。


「どう言う事だよ、タルベ」


隣に座っている菊が訊ねたがタルベは黙り込んでいる。


「…あら、そう言う事なら私も賛成ですね」


するとレアリーまでもが賛成し出した。


「…あぁ?俺にはよく見えないぞ」


薫も心を除こうとしたのだろうが普段よりぼやけていてよく見えないらしい。

結局その場で賛成したのはタルベのみ、どういう理屈なのか全然分からない。だが兵助の案が却下されそうになったその時だった、扉が開く。


「間に合ったぁ!」


「…あ、俺言ってなかったわ。悪い蒼、色々あってお前行方不明になってたわ」


透が今約束を思い出し、適当に謝った。


「えぇ!?じゃあ僕が黄泉の国に行ってた事も…」


「俺以外誰も知らない」


「えええ!?」


「んで生良はどうした生良は」


「あっ知ってたんですね。いますよ、ここに」


普通に後ろに立っていた。とりあえず透以外の全員状況が良く掴めない、ひとまず宗太郎と英二郎の件もあるので席についてもらった。先に襲撃の事を話し、次に蒼と生良が何をしていたのかを話す事となった。


「僕達は黄泉の国に行っていました。生良はフラッグ・フェリエンツに会いたいと言っていまして、とりあえず僕が何をしていたか説明が終わり次第話してもらいましょう。

……と言っても僕がしていた事は修行です。ロッドの姫だけではなくラッセル先生にも手伝ってもらいました。とりあえず僕が言いたい事は一つ、リイカ・カルムを殺すのは僕です」


タルベが机を叩くようにして立ち上がった。だがそれは憎悪などではない、とても喜んでいる。


「本当にやれるんですか!」


「多分、というか僕以外じゃやれないと思うんだ。莉子の仇でもある、必ず僕が殺します。僕は旧生徒会に所属するので、基本どのタイミングでも良いです。ただあまりに遅すぎる場合はリイカの策に嵌まる可能性がある事だけ留意してくださいね。

さぁ生良、次は君の番だよ。しっかり話すんだ」


後押しされるようにして話し出した。


「ずっと気になっていたんです、遺書の事が。あの時僕は智鷹(ボス)の名前が書いてあったからニアさんは刺されたと考えていました。ですがここ最近それが間違いなのではないかと思い、様々な行動を起こしました。ですが成果は得られず、諦めかけていた所で蒼さんに黄泉の国へ連れて行ってもらい、直接聞く事としたんです……

遺書には続きがあったのではないか、と。すると彼からの返答はこうでした……佐須魔の式神はとうのとっくに生誕しており、力をつけている。その実力というのは蟲毒王怜雄のそれに酷く似ていた。私が言える事は一つ、あれに勝つのはまず不可能だ……と」


大誤算、まさか数年前時点で式神術を会得していたとは。となると既に相当の練度になっている可能性がある。


「まずいな、流。どうする、今にでも式神を作る事も…」


だが次に響いた声は懐かしい声だった。菊の元から放たれている声、ラックだ。


「馬鹿言うな、ここで式神術を使用し形成して何の意味がある。言っておくが今発動しても大会時に発動しても何ら変化は無いぞ、式神術の練度向上には莫大な時間がいる。そうだな、十年は最低で必要だろう」


ラックのAI、式神術に精通しているラックの思考が落としたその言葉。信じるしかあるまい。


「…そうかよ。んじゃもっと早く言ってほしかったぜ。まぁ、今更何を言っても遅いけどな」


少しどよめく空気。だがすぐに流が「あっ!」と閃き、部屋を出て行った。とりあえず待つ事にすると、連れて来たのは素戔嗚だった。凄く嫌そうにしているが、流の雰囲気が違う。降霊しており断るに断れないのだろう。


「ほら出せよ」


「…分かったよ…」


『呪・自身像』


瞬時に水葉が距離を詰め、刀を喉元に突き立てようとする。だが流がそれを手で弾き大人しくしているよう命じた。


「なんだなんだ、わしをこんな所に呼び出しおって」


「いや、俺も分からない。流が出せと…」


「佐須魔の式神は蟲毒王に酷似していると聞いた。お前なら知っているだろう、あくまでも天仁 凱のコピー品ならば」


「知っているが…何故わしが教える必要がある?対価も何も無しに」


「僕は知っているぞ、自身像の壊し方を」


それは冗談なんかではない、あの(マモリビト)にさえもバレなかった自身像の致命的弱点が流には分かっているようだ。すると天仁 凱は大人しく教える事にした。


「だが正直関連性は低いと思うぞ。まずどういう点が蟲毒王と似ていたか分からないと何とも言えん」


「えっと…確か霊力って言ってました」


「本当か!?佐須魔も凄いものを作るのだな…すまんすまん、感心してしまった。この気持ち、分かってくれるだろう?シウ・ルフテッド、平山 佐助よ。あぁ兵助も分かるのか」


その三人、心当たりしかない。


「流君、すぐに素戔嗚の自身像を解かせ、退出させるのだ。今すぐにだ」


珍しく冷や汗をかきながら焦っているように見える。何か異様な空気を残したまま天仁 凱と共に素戔嗚が出て行くその時、その二人にしか分からない言葉を残して行った。

後にこの発言がとあるミスを生む事になるとは、誰も知らないのだろう。天仁 凱のコピー本人も。


「あれは、神の成り損ないであり、蟲毒王と同じ……謂わば……いや、やめておこう。それではな」


そして次の瞬間、ラックのAIが投影される機器がある遺言を残し、破壊された。


『おっさんを、サルサを助けてやってくれ』


サルサ・リベッチオ、英雄の火付け役が一人、唯刀を唯刀・真打へと変化させた男である。



第三百五十四話「作戦会議」

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