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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十二章「再集結」
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第三百五十三話

御伽学園戦闘病

第三百五十三話「いたずら」


「さぁ皆さん、食べましょう」


久しいニアの料理を六人と一匹で囲む。ポメが食べていいのかは分からないが、頭は良いので駄目そうだったら途中でやめるだろう。ひとまず皆で食べ始めた。

懐かしいあの感じ、ほんの数年前に無くなってしまったはずの雰囲気。ただただ嬉しい。だがやはり蒿里と素戔嗚の雰囲気は全く違う、それでも仲間だ。


「にしても久しぶりやな二人共」


「まぁな…礁蔽は黄泉にいただろうから…約七年ぶり、いやもうちょっとか」


「せやな。地獄で色々特訓してたとはいえ暇だったで、ほんま。智鷹には話しかけに行く気ならんし、流は降霊したままで話そうとしてくれんし」


「ご、ごめん」


「まぁええわ。あれも欺くための策やったんやろ?」


「うん。そうなんだ。最初は來花を殺す為の手がかりを探しに潜入したんだけど次第に佐須魔のヤバさが露呈して来たから少しでも妨害してやろうと思って……ごめんね、急襲作戦の時は。母さんにツンツンしてくれとは頼んでいたけど、ちょっとやり過ぎたかもしれない」


「まぁワイらは気にしてないで。それよりニアと流の変わりようにびっくりしてたわ、なぁ兵助」


「そうだねー、まぁ今となっては二人共元通りだけど」


するとニアの雰囲気が一変する。そして一瞬で元に戻った。


「別に元通りと言う訳ではありませんよ。ただ殺気を抑えているだけです、仮想世界は本当に危ない所でしたから。それに加えてアリスへの殺意が止まらず…」


「あ、そういやなんでアリス殺したいんや?理由聞いて無かったような気がするんやけど」


「理由…ですか。正直明確な理由がないんですよね、ただ殺してあげたいと思っただけです、初対面の時に」


「ほーん、不思議やなぁ。まぁむっちゃ強くなっとるしいけるやろ」


「そうかなぁ…」


蒿里がぽつりと呟いた。


「蒿里が…喋ったで…」


物珍しそうにそう言った。基地に来てから一度も口を開いていなかったのでこんな反応をしたのだ。すると少し呆れながらも普通に喋り出した。


「別に喋れるから……まぁニアが勝てないかって言われると微妙だけで、勝てるかって言われても微妙。なんかどちらも勝つビジョンが浮かんでこないんだよね。素戔嗚はどう?」


「俺か?俺は…そうだな……なんか拮抗した勝負の最中に横やりを入れられそうだな、どっち陣営の槍かは知らんが」


「分かる。私もそうなりそうだなって予想してる。まぁどちらにせよ頑張るしか無いよね」


「そうですね。まだルールの詳細や作戦は立てていないので何とも言えませんが頑張りましょうね、私達が絶対に勝ちます」


「僕も頑張らなきゃな、ちょっとTISにいる間迷惑かけすぎたし……あ、そうだ。スペラ」


スペラが出て来た。やはり無詠唱でも出せるようになっている、才能と言うやつだろう。


「食べなよ、お腹空いているでしょ」


スペラは大変喜びながらご飯を食べ始めた。


「こう考えると懐かしいな。俺達と流が始めて会ったあの日、本当に驚いたんだぞ、礁蔽。まさか地下基地に突入するなんて思っていなかったからな」


「そうやな、結果として二人は自分らの基地に潜入して捕虜を解放したんやもんな!間抜けやな、ほんま!!」


笑いながら言っているが確かに間抜けである。蒿里はまだしも忠誠心の高い素戔嗚があんな事をしたとは今となると考えにくい。何かしっかりとした思考でもあったのだろうが、今聞くのは野暮だろう。どうせその内腹を割って話せる日が来る。

今はほんの少しだけ気を使いながら、この世界で話せる最後の時間を楽しむのだ。


「まぁそう言わないでくれよ…そもそも俺は流が地下基地に監禁されている事なんて知らなかったんだぞ」


「ほんまか、そりゃしゃあな…くはないか。潜入した時点で難癖付けて撤退してけば良かったやん」


「…確かに……少し気が動転していたのかもな、お前らにTISとバレないように」


「確かに難しいだろうね。幸い僕が外で君らがTISって情報を得なかったからあそこまでやれていただけで、知ってたら芋づる式にラッセルまでバレてただろうし」


「ほんっと、嫌だわ。なんでこんな所でばっかり幸運なんだろうねー、素戔嗚」


「まぁ良いだろう。何処であろうが幸運なのは良い事だ」


「そんなもんかねー……あ、ごちそうさま」


思っていた以上に早く食べ終わった。やる事も無いので散歩でも行く事にする。折角なら薫や干支組、突然変異体(アーツ・ガイル)に二人を見せて驚かせたい。

ニアがお皿を洗い終わるとすぐ、全員で出かける事になった。本当に懐かしい道を懐かしいメンバーで歩く。欲を言えば紫苑とラックも一緒にいてほしかった、だが自分達が殺した様なもの、そんな事口が裂けても言えないのだ。


「ほな、最初は翔子辺りにするわ」


学園に付くと早々職員室へ向かった。そしてノックも何も無しに扉を開ける。


「来たで!!」


部屋中に響き渡る声。室内にいた翔子、兆波、元、乾枝が面倒くさそうな顔をしながらそちらを向き、一瞬にして声を上げた。当然の行動だ、TISの中でも相当に強い二人がいつの間にか戻って来ているのだから。

だが二人は何とも言い表せない表情を浮かべたまま硬直している。すぐに兆波が詰め寄って行き、最終的には素戔嗚の顔面をぶん殴った。身体強化は無しだ。


「久しぶりだな、素戔嗚」


「あぁ、そこそこ久しぶりだ」


「まぁ良い、んで何の用だよ。戦闘しに来たって感じじゃないが」


「俺ら二人は一時的に帰還した、それだけだ」


「…一時かよ」


「一時だ。あくまでも最後の一ヶ月を自由に過ごしていいと言う命の元、戻って来たんだ」


「まぁ良い、んで結局何の用なんだよ」


「いや何も用は無いで?驚かせたかっただけや」


「礁蔽お前…何も変わってないな…」


「まぁな、成長なんてする機会無いであんな場所。なぁ流」


「うん、本当に何も無かったから…」


「まぁ良いか。用が無いならさっさと帰れよ、こっちは作戦やら手続きやらで色々面倒なんだ。というか兵助も手伝ってほしいぐらいだ」


「いや、遠慮するよ」


「…そうか」


「ほな次は生徒会室でも行くで!」


言われるがまま生徒会室へと向かう。扉の前まで来た所で何か話している事に気付く、礁蔽が聞き耳を立ててみる。するとどうやら旧生徒会と生徒会メンバーが話し合っているらしい。

別に重い話でも何でも無く、雑談に近しい会話。二つのチームを同時に驚かせる事が出来る、ワクワクしながら礁蔽が扉を開けたその瞬間、物凄い勢いで吹っ飛ばされた。


「なんだ、礁蔽かよ」


康太が誰かに聞かれている事を察知し、待機していたようだ。


「何や康太!!痛いやん!!」


「いや盗み聞きする方が悪い……っておい!!」


大きな声を出したので皆が反応する。


「なんで蒿里と素戔嗚いるんだよ!!」


香奈美と咲が一瞬で部屋の外に飛び出した。そして戦闘体勢に入ったが、兵助がそれを制止する。どうやら敵意は無い様なので二人も警戒しつつ戦闘体勢を解いた。

何か用があるのかと兆波と同じ質問をしたが、礁蔽が全く同じ返答をした。すると先程とは違い、咲が近寄って来る。そして傘牽を素戔嗚の首元に突き立てながら訊ねる。


「偵察ですか」


「違う」


「なら何ですか、まさか元仲間と最後のひと時を過ごしたいだなんて事を考えているのですか?私達の仲間を殺したあなたが」


「ちょちょ咲!駄目だよ!」


流が止めた瞬間すぐに傘牽を降ろす。


「仕方が無いですね。兄さんが言うのなら信じましょう、ただ何かするのであれば問答無用で殺しますから、注視ておく事ですね……それと兄さん、私シウさん連れて一回家に行きますね」


「え?なんで?」


「兄さんは知らないでしょうが……いえ、二人がいる場所で言う事ではありませんね。後々『阿吽』で伝えます。使えますよね?」


「うん」


「それなら大丈夫ですね。では私達はこれで、旧生徒会の皆さんとは後日にでも話してください。今日は私達と重要な話が控えていますので」


「分かったで、次行こか」


こんな感じで回って行くのかと思うと気が滅入る。正直島の人間に良い風に迎えられるとは思っていないからだ。だが礁蔽に逆らうのも何とも言いにくい嫌悪感がある。

ただこんなバカをするのも結構楽しいのだと再認識出来ているのでこれはこれで良いのかもしれない。とりあえず次は突然変異体(アーツ・ガイル)の元へ行く事になった。

現在住んでいる家を訊ねると片腕が無くなっているフレデリックが迎えてくれた。そして部屋の中を見ると全員苦笑、それもそのはず、雰囲気が最悪なのだ。

ギスギスした空気の中透と対面するように伽耶と健吾が座っている。しかも誰も何も話していない。


「お、おーい。わいらが来たでー…」


少しだけ遠慮しながらも声をかけてみた。すると透は獣の様に鋭い眼光を向け、すぐにいつもの眼に戻った。


「なんだよ、お前らか。蒿里と素戔嗚も来てんのか、まぁ良いか。今俺は忙しいんだが、別の奴にでも用があんのか?」


「いや、驚かせに来たんやけど…なんかすまん」


「別に良い。正直話は済んでる、この馬鹿二人に話す事なんて最初から無いも同然だ」


「んな事言うなよ透、ほんとに最後だぜ、これが」


「知るかよ。邪魔しないでさっさと死ねとしか言いようがねぇよ、クソ姉貴もな」


「え~酷い~」


ちょっとだけ泣きそうになっている。


「なら私から聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか」


「どうしたよ、爺さん」


「あなた達にはまだ突然変異体(アーツ・ガイル)の力が必要なのでしょうか?」


すると伽耶が返答する。とても淡白で、悪辣な返しだ。


「必要無いですよ、もうそんなものいらないぐらい佐須魔は強くなったので」


「は?どう言う事だクソ姉貴、あいつはあれ以上強くなんて…」


「人を超えた存在に、力の制限は無用なんですよね~凄い面白いですよ、やっぱり」


すると透が机を叩き割った。


「そんな話してねぇんだよ、何で強くなってんだ。新しい術でも開発したか?」


「言えませんね~」


だが蒿里が言った。


「式神」


「え、ちょ、何で言っちゃうんですか~!」


「だって私TIS嫌いだもん」


礁蔽はとても楽しそうに笑っている。素戔嗚でさえも少しだけ笑っているようだ。何だか空気が和んだような気がする、透もここで詰めてもどうしようもないと理解したのかさっさと二人を追い返す事にした。

だが二人はどうしても行きたくないと駄々をこねている。何故そこまでして帰りたくないんのかと呆れながら訊ねるととんでもなく幼稚な答えが飛んで来た。


「フレデリックの飯が食いたい!!美味いんだろ!!知ってんだぞこっちは!!」


「はぁ?ガキかよお前ら」


「私も同じ、お腹空いた」


「いやなんで敵のお前らにわざわざ…」


「透さんの昔馴染みですしね、こんな時ぐらいは良いでしょう。それにご飯を振舞って漏れる情報なんて私達は持っていませんよ。どうでしょう、エスケープチームの皆さんも」


だがエスケープは既にニアのご飯を食べてしまっているので断る事にした。折角なので突然変異体(アーツ・ガイル)と二人だけにしてあげよう。誰も明言はしていないが今は休戦状態のようなもの、ここで手を出したりするのは違うだろう。

本当に時間が無い、最後の最後、誰もが手を出す気にはなれなかったのだ。


「よっしゃ!次は干支組、行くでー!!」


そんな楽し気ないたずらをしている最中、海辺で姉弟水入らずで話し合っている者がいた。


「今更何を話に来たんでしょうか、リイカ」


「まぁ良いじゃない、たまにはゆっくり話しましょう」



第三百五十三話「いたずら」

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