第三百五十二話
御伽学園戦闘病
第三百五十二話「揃わぬ二人」
歓迎などは一旦後回しで全員の状況報告が終了した。旧生徒会は能力を主にしたなんでも屋として名を売っていたらしい、だがあくまでも学園の者ではなく一能力者としてだ。
そして本来関係ないであろう無能力者を一人連れて来ていた。それは直近の襲撃が起こった際に一瞬だけ姿を見せた宗太郎の姉、国後 皐月だ。
「香奈美君、何故この子を連れて来たのだね。もう島は危ない、今すぐにでも帰らせるべきだ」
「いえ、彼女は危険だと分かっても付いてきたのです。私達が頼んだり、ましてや強制的に連れて来たわけでもありません」
「ふむ、どう言う事だい。君はどうしてこの島に来たんだ」
「…私が宗太郎を殺した…から。償いとは言えないですけど、協力したいんです。本当は宗太郎がやりたかったこと、完璧な代わりになれるかと言われたらちょっと…難しいですけど……どうか、お願いします。出来る事ならば何でもするので、どうか」
「島の危険性について小一時間話したい所だが…もしかしたら開花する可能性があるかもしれない、良いだろう。特別に滞在を許可する」
嘘だ。皐月は既に高校生、この年齢で能力が発現していない時点で能力者でない事が非常に多い。それに能力者の血が薄いわけでも無く、両親はれっきとした能力者のはずだ。なので基本的に皐月に能力が芽生える事は無いと見える。
だが宗太郎の死、自身が何も出来なかったのも事実。理事長だけではなく皆が何処かで悔いているだろう、皐月だけではない、それが罪滅ぼしになるのなら喜べはしないものの歓迎するまでだ。
「さぁ、旧生徒会の話は終わりだ。次は流君、次に薫君だ」
二人の説明も終わった。干支組や突然変異体などの説明は一番最初に行ったのでこれで情報共有は終わりだ。ただ何人か真実を隠している者がいる、だが突っ込まない。危惧しているのだ、盗み聞きを。
「にしても光輝そんな事なっとったんんか!」
「あぁ、黄泉の国に行っていた。英雄達に会ったさ、佐嘉さんも良い人だった。あそこまでいってしまうと何でか分からなくなったよ、あそこまでして戦い抜いた理由が…」
「当たり前じゃ。佐嘉は三百年近く黄泉の国におる。丸くなっただけじゃよ」
いつの間にか光輝の後ろに女性が立っていた。
「お!絡新婦!」
ここ最近まで一緒に暮らしていた絵梨花が反応を示した。
「絵梨花、ちと久しぶりだのぅ。まぁ私がここに出向いた理由は一つじゃ。薫、来い」
薫が呼ばれた。とりあえず敵じゃないのは知っているので近付いてみると絡新婦は蜘蛛の姿に変身し、指を薫の胸に突き立てた。明らかに心臓部、何かヤバイ雰囲気を感じ取りながらも逃げたりはしない。
絡新婦はその覚悟を見てからゆっくり、指を突き刺した。鋭い指先が肉を押しのけ、鈍い音を立てた。それと同時に両者が目を閉じる。
数秒後、目を開けた。絡新婦は何だか嬉しそうにしながらも人の姿に戻る。薫は兵助によって治された。
「それってどんな意味があるの?絡新婦さん」
流がそう訊ねる。
「あれは簡単に言えば外部から行う魂との会話じゃ。須野昌なら分かるだろう、香澄と話す際にエンマに使われていたはずだからな」
「なんで知ってんだ?お前一応神話霊だろ?」
「私の子供は霊ではなく、生物でもない。だから黄泉の国に行けるんじゃ、私は神話霊の中でも異質、自負するほどじゃ。お主らの戦いはほぼ全部子供を通して見ているぞ」
「そう言う事か。んであれってエンマにしか出来ないとかじゃないんだな」
「いや、お前らには出来ないぞ?霊力の塊にしか出来ない芸当、しかも相当な練度がいる。恐らく現世で使えるのは私だけ、黄泉の国でもエンマとごく少数の人物だけじゃろう。
まぁ紗里奈と話しただけじゃ。古くからの友人だからな」
大体の人間が頭に疑問符を浮かべた。それもそのはず、古くからというのが引っかかるのだ。紗里奈はただの高校生だったはず、どう言う事だろうか。兵助が軽く詰めてみると薫からその答えが明かされた。
「紗里奈は和ロッドだ、一個前の姫って事だ。あいつは禁忌を犯していた、寿命の延長。初代と同じやり方だ。何年生きていたかまでは知らないが、相当長生きだったんだろうな…
まぁそんな所だ。奉霊を持たなかったのはあいつ自身の意思らしい、ガネーシャは持ってたけど」
「ん!?ちょっと待て薫」
「どうしたよ、菊」
「私の母親ではないよな?」
「あぁ」
「じゃあ紗里奈は私のおばさん、なのか?」
「そうであってそうじゃない。あいつ自身はお前の事を姪だと言っていたが長寿だった、絶対に言葉だけの戯言だ。お前の母親は姫じゃなかっただろ、恐らく祖母も。ずっと紗里奈が姫だったんだよ、それだけの話だ」
「えぇ……もっと早く言ってくれよー」
「知るかよ、俺だって最近知ったんだ」
「と言うか対話出来るようになってたんだな」
するとそこで珍しく反応を示した透が介入して来る。
「確かにそうだ。おい薫、お前は突然変異体の心配は無いだろうが、戦闘病は大丈夫か」
「大丈夫だ。ガネーシャを使えるようになった時はちょっと危なかったが、まぁガネーシャレベルを急に使えるとなると自然だとも思える。別にそこまで気にする事じゃない。
それよりも俺はお前が協力してる事に驚きだ」
「まぁな、仲間を一人奪還するの手伝って貰ったからな。礼だ」
「まぁ良い。とりあえず後一ヶ月しかないんだ、恐らく大体の人間が死ぬだろう。刀迦が下ろされるんだろ?流」
「はい、佐須魔は確かにそう言ってました。僕の安否が確認でき次第刀迦を復活させると」
「そうか。それは本当だ。刀迦はマジでヤバイ、戦った事がある俺だから言える。今の俺なら負けはしないが…佐須魔と戦闘する気力なんて削り取られるだろう。
まず刀迦が関門だ……まぁその前にも何個も関門はあるだろうがな。今日は作戦会議はしない、だが後日、必ず全員で集まって会議を開く。良いですよね?理事長」
「勿論だ。全員が集合し、話し合う。そしてその時に発表しよう、大会の改定されたルールを。取締課は私が連絡をつけておく、ひとまず今日は各々好きな事をすると良い。まだしなくても良いが、覚悟も必要だからな」
「では今日は解散としましょうか」
咲の一言でそれぞれ好きなように動き出す。教師陣は全員薫の元へ。生徒会は旧生徒会の元へ。透以外の突然変異体は帰宅、透は珍しい力を持っている流と様々な話を繰り広げている。礁蔽はニアと兵助と楽しそうに話ながら一足先に基地へ戻った。
結局能力館に残ったのは流、透、薫、理事長の四人になった。
「さて、言わずもがな伝わっていたようで感謝します」
神妙な面持ちで流が口を開いた。
「いや、良いんだ。明らかに何か話し足りなかったからな」
「はい。今話したい事は式神術についてです。僕は反旗を翻す前に式神術を戻され、そのまま逃げてきました」
「マジか!?じゃあお前も式神術使えるのか!」
「薫先生は既に使用しましたか?」
「いや、俺はまだなんだよ。いかんせん詳細が分からないし、切り札だしな」
「そうですか、それは良かった。僕は地獄にいました、礁蔽君とは離れ、智鷹とも少し距離を取っていました。理由としては知られたくなかったんです、式神術を調べ回っている事を。
地獄は予想より楽でした。あれはエンマことフロッタ・アルデンテが作り出した地獄なのでしょう。有名な初代ロッドが作った地獄ではなく。
そこで何人かの能力者と会いました。叉儺とも話しました。そして紫苑君とも軽く。ですが両者式神術は何も分からず、結局分からずじまいで呼び起されるのかと思ったその時、たった一人の男が教えてくれました。
僕はそれが誰なのか知っていましたよ。怜雄です。原初の能力者。本当に詳しく教えてくれました、恐らくラックの遺書にも書いてあるでしょうが、多分もっと詳しい事を教えてくれたんですよ」
「頼む、凄い気になる」
「ひとまず先程の状況報告で読み上げた所は省きます、真実ですので。そしてその四項目の中にも記されていなかった情報、というよりも訂正です。
開花させた際に思い描くものへと式神は形を変え、力を貸してくれるようになる。
これです。これが違います」
「ふむ、どこが違うのかね、流君」
「思い描くものへと形を変える、これが違うんです。式神術というのは確かに無限の可能性があります、ですがそれはリスクも高い。少しでもミスをすれば使い物にならない式神が出来上がってしまうかもしれないんです。
そんなリスクを減らす事が出来る。それに安定もする。緊急時、咄嗟に式神術を開花させる場合はこの方法が安定らしいです。その方法に名は無い、何故ならやった者がいないから。
簡単にまとめると元々持っている霊を式神術に変える、というものです。僕の場合はスペラ、薫先生の場合はラーや天照、白虎もいけると思います。とにかく一定の絆を結んでいる霊を思い浮かべながら式神術を初めて使うとその霊が"そのまま"式神となり、強化されるらしいです。
レジェストのサンタマリアやキキーモラ、雨竜のように爆発力は無いかもしれませんが非常に安定します」
「…そうか。ありがとう、マジで良い情報だ。お前もやるようになったなぁ流!最初は半田にも苦戦してたのにな!」
「あれも皆の助けがあったからですよ、ラックだけじゃなく素戔嗚と蒿里も」
「なぁ流、さっき話しただろ、突然変異体について」
「はい、透さんも突然変異体なんですよね?」
「そうだ。成り方までは教えられないが、大体の要素は教えたはずだ。お前は違うか?突然変異体」
「多分違います。僕の能力に変化はありませんでしたし、式神術を戻されても何ら異変はないですから」
「そうか。それなら良いんだ。とりあえず俺は帰る、流も早く基地に行った方が良いぜ。馬鹿が二人、待ち遠してくれたまらないだろうからな」
言葉の意味が良く分からなかったが、とりあえず言われた通り基地に戻る事にした。懐かしい道、もうここで過ごせる時間はそう長くない。出来たらエスケープチーム全員で過ごしたかった、だがそれも叶わないだろう。ただ、一部だけ叶う。
エレベーターの前、二人の能力者。流は嬉しかった、同じ思いなのだろうと。警戒もせず近付き、エレベーターに乗り込み、振り向く。そして嬉しそうな笑顔で手を引きながら、言った。
「行こう、二人共!」
エレベーターが降り、扉が開く。基地内の三人がふとそちらに視線を向けると同時に、驚いた。だが嬉しい。
「うおお!!素戔嗚!!蒿里!!お前ら戻って来たんか!!!」
二人は申し訳なさそうにしている。だが四人は少しも嫌そうな顔をせず、歓迎した。そしてニアは二人分多くご飯を作り出す、ソファに無理矢理座らされ、話をする事になった。
だが重く、息が詰まるような話ではない。ただあの時のように、皆が仲良く、楽しく、時間をも忘れてしまいそうになる程のただただ楽しい会話。
まるで夢のような、ひと時である。
素戔嗚、蒿里、一時帰還。
第三百五十二話「揃わぬ二人」




