第三百四十九話
御伽学園戦闘病
第三百四十九話「TIS Ⅳ」
二人は言われた通りに旅館に宿泊する。恐らく今日中には来ないので存分に満喫する事にした。婆ちゃんはあまり佐須魔を町の方に出そうとしなかったので新鮮で少しだけ楽しい。
智鷹は子供のようにはしゃいでいる。夜ご飯も終わり、風呂も済ませた。後は寝るだけと言う状況、そのまま寝るはずもなく何となくから会話が始まった。
「智鷹って何歳なんだ」
「佐須魔より二個上~」
「二個?それだったら店長とか出来なく無い?未成年じゃん」
「個人情報ってのは案外有耶無耶に出来るものだよ、僕みたいに出生届すら出されてない奴ならね」
「野暮かもしれないけど、何してたんだ?昔」
「別に何も?そもそも物心ついた時には婆ちゃんと暮らしてたし。婆ちゃんも何も知らない様だったからね、多分適当に彷徨ってたんじゃない?」
「良く死ななかったな、赤子の時とか」
「もしかしたら赤子の時は親が育ててのかもね~そうだとしても感謝の心なんて一切無いけど~」
「そうか。話し変わるけどどういう能力者を勧誘する気なんだ?最初なんて來花みたいな物好きじゃないと付いて来てくれないと思うんだが」
「まぁ安牌取って孤児とかでしょ。家族がある奴に手を出すのはもう少し先かな~一人だけ先手打ってみたけど…まぁ実験的な要素強いじゃん?」
「まぁそうだな。ある程度人が集まってお前の指揮だけじゃ成り立たない所までは一任する事にするわ」
「良いよ~」
「とりあえず学園側の能力者が妨害してくるだろうから力は付けなくちゃね。そこら辺は戦闘のプロフェッショナルこと來花とも話し合うとしよっか」
「強いとは言ってるけどどれ程なんだ?」
「多分今の佐須魔に言っても指標が分からないだろうから、表現出来ないかも~」
「能力者戦争時代の英雄なら大体分かるぞ」
「ん~まぁアイト、ラック以外が一斉にかかってようやく相打ちぐらいじゃない?まぁ來花も佐須魔と同じ血筋だから式神持ってるしね、見せてくれた事無いけど」
「あー式神なぁ……全然教えてくれなかったら分からないんだよな、何なの結局」
「降霊術の亜種みたいな感じかな~ただ基本一人一匹しか持てなくて、無機物とかもあるね。詳細がほぼ不明だから僕が伝えられるのはここら辺まで、とりあえず詠唱の一節どころか一言変えるだけで大分効果が変わるみたいな推測は立ててみたけど…まぁ微妙だね」
「まぁそんなもんか。とりあえず今は能力の事考えても意味無さそうだよなー、凄い研究者的なの引き入れないと」
「ありだよ、それ。大真面目に学園や世間が知らない所まで解明して切り札として使用するのはあり。最悪学園側もそれを発見したとしても先に見つけていれば研究が進むから有利になる事に変わりないからね」
「とりあえず研究員的なのが一人、戦闘員はどれぐらい欲しいかな」
「僕らは正義の味方だ。だからルールに則って戦いたい。大会、分かるかい?」
「分かる」
「あれに参加出来る人数は欲しいよね、だから四人。佐須魔と來花で二人、あと強いのが二人ぐらい欲しいよね~」
「それなら面白いのがいるぞ」
「ん~?」
「百年前の災厄と契約している女がいる」
「マジィ!?」
「とりあえずそいつはマストだな。他には……うーん、特にいないな」
「まぁ能力者戦争以降強い奴少なくなってるからね、抵抗の意思とか無いも同然だから。学園って言う安息の地ができちゃったから」
「まぁ、その内色々変わるさ。とりあえず今僕らが出来るのは仲間を集めてTISを強くする事だ。学園の能力者達にも負けない程に、強くなろう」
「うん、必ずだ」
二人は拳をこつんとぶつけ合い、そのまま眠りに就いた。
翌朝二人は来客によって起こされた。
「ん~?こんな朝からどうしたの~來花~」
「起きろ二人共、話しをしよう」
真剣な眼。すぐに目が覚めた。朝飯も抜きにして三人は外に出る。朝六時なので非常に冷えて寒い。通気性が良いであろう和服を来ている來花は凄く余裕そうだ。
これが慣れと言うやつなのか、そんな事を考えていると來花が切り出した。
「私は君達に協力する。だが約束してほしい、私の家族には手を出さないでくれ」
「あぁ、それが条件ならば喜んで飲むさ。こっちとしてはお前が協力してくれるだけでクソデカアドバンテージだからな」
「そうか、それなら良かった。ひとまず今後の方針などを聞かせてほしい、ある程度は考えてあるだろう?」
「僕らはこれからメンバーを集める。この革命において難点は一つ、能力者との衝突だ。その場合力でねじ伏せるしか無いと考えている。だから知識の優位性を取るために研究員を最低一人、TISの中でも頭数個飛び抜けている強者が最低五人は欲しい」
「ふむ。そのメンバーはどうやって集めるつもりなんだ?」
「孤児や同じ思想を持つ者から集う。大衆の正義は保守的だが、僕らだって正義であることに違いない。"出来る限り"悪行に手を染めたくは無いんだ」
「……なら何故、数日前に外で暮らす能力者の家系、娘一人を除いて殺害されていたんだろうな、しかも銃で。どうやら現場には二人の残滓霊力があったらしいぞ、何者かまでは判明していないらしいが」
「布石さ。気にするな」
だが次の瞬間來花は佐須魔をぶん殴った。
「覚悟を決めて、既に自分の中で決断を下した後だったから良かったものの、まだ迷っている段階だったら私は降りていただろう。そういったやり方は好まない、覚えておけ」
「あぁ、分かった。ただ一つ言わせてくれ、僕らは罪のない人間を殺してでも成し遂げる覚悟を持っている。覚えてくれよ、來花」
「…あぁ、分かっている。さて与太話はここら辺にしよう。設立記念だ、四人目の仲間だ」
いつの間にか山に入っていた。そして立ち止まったのは何の変哲も無い場所、だが明らかに異常な霊力が感じ取れる。智鷹は露骨に嫌そうな顔をしているが來花は構わず足を出した。
すると何も無かった場所に半円状のドームのような物が出現した。それと同時に吐き気を催す、内側から喰い破られるように、突き刺さるような霊力が周囲に蔓延した。
霊力濃度も高くなっているのだが佐須魔にとっては初めての体験であり、息もし辛く大変な状況だ。ただ二人は佐須魔に見向きもせず結界内へ足を踏み入れた。
そこで留まっている訳にもいかないのでゆっくりと歩を進め結界内へ侵入した。そこにあったのは禍々しい霊力の源であろう"石"だった。
「なんだよ、これ」
「数年前だ。ある少年が禁忌の術を使用し故人を呼び戻した。そいつは久しぶりの現世、そして死に際に後悔を残していた事もあってか笑ってしまう程に暴れていた。
それを私と智鷹で止めたのだ、初対面だったが戦闘の息が合いそこで仲良くなった。だが討伐したは良いものの、あまりに怨念が強く特殊な人間だったのもあってか魂だけがその場に留まり暴れ出した。
収拾がつかなくなり錯乱した私達はある術を使ってこの世の何処か、未だに判明していない何者かにその悪しき力を"半分"押し付けた。その甲斐あってか何とかこの石に封印する事が出来たのだ。
だが今から起こす。妻とも話し合った、この時のために温存していたのだろう、そう結論付ける事となった」
「ホントに起こすの~?僕乗り気じゃないよ~だ」
「そうだな、実の所私も乗り気ではない。だがそれでも心強い戦力になる事は確か、私達に必要なのは絶対的な力なんだ。今ろくに戦えるのは私だけ、仕方がないと受け入れろ、智鷹」
「はいは~い」
それでも不服そうだ。
「さっさとしてくれ、気分が悪い」
「すまない、では早速出すぞ、智鷹構えておけ」
「おけ」
両手を機関銃に変えて、いつでも乱射できるように準備する。來花も懐からコトリバコを取り出し先手を打てるよう注力しながら解放する事とした。
「行くぞ」
來花が左手で石に触れ、術を発動した。瞬く間に結界内に霊力が充満する。全員その霊力に当てられ一瞬で気絶してしまった。無理もないだろう、数年間ひたすらに貯め込まれた"二人分"の思念が霊力となって暴発したのだ。
だが全員すぐに目を覚ます、恐らくは三十秒程だろう。すぐに体を起こし、どうなったかを確認する。
「だれ?」
そこに立っていたのは一つ目の怪物だった。体は明らかに人間、ただの青年だ。だが眼と霊力放出が人間ではないと物語っている。全員戦闘体勢に入ろうとしたがそいつに敵意が無い事に気付く。
來花が制止し、ゆっくりとそいつに近付いた。怪物は全くアクションを起こさず、ただボーっとして來花の方を眺めていた。すると突然指を差し、叫ぶようにしてこう言った。
「にてる!!」
全員ぽかんとする、意味が分からない。だが数秒して來花だけが意味に気付き、ゾッとした。もしや失敗だったかもしれない、少なくともこいつは最期の最期までTISで管理しなくてはいけないだろう。
何故ならば、残っているからだ。ほんのりと、本能としてなのだろうが残ってしまっている。天仁 凱が。そんな事想定できるはずもない、本当は別物だからだ。
だが封印に使用したのは呪だ。呪の父である天仁 凱がそれを対策出来ないなんて今考えればおかしな話だ。
「お前は…誰だ」
「わかんない!!」
ほっと胸を撫でおろした。どうやら天仁 凱であっても意識までは浸蝕されていないらしい。ただ時間の問題であることも事実、不思議そうに眺めている佐須魔と智鷹にも事情を説明した。
「だからやめようって言ったじゃ~ん」
「まぁその時が来るまででも、戦力として連れて行こう。これを世に解き放つのは到底正義の者がする行動じゃない」
「そうだな。呪の扱いは現代なら私が一番詳しいはずだ、基本の世話は私がしよう……だが一つ問題がある。根城は何処にするのだ?こいつに限らず強い能力者を何人も所属させるのならばアジトが必要だろう」
「そうだな…現世だと次第に無理が出てくるはずだ。ここはどうかな、少し前衛的な案があるんだが」
「良いね~どうぞ~」
「別世界、分かるか?二人共」
「僕は分かるよ~」
「私も知っている。黄泉の国と仮称仮想世界だろう」
「そう。その仮想世界に行かないかい?あそこならほぼ無限に土地があるだろ」
「率直に言うが無理だな。あそこのマモリビトは非常に性格が悪いし、気に入った人物以外は仮想世界に入れたがらない。天仁 凱の記憶からそう読み取った」
「右に同じく~」
「なら僕がそのお気に入りだとしたら?」
「いや、根拠が…」
「僕は婆ちゃんの魂を喰った。だが知らなかったんだ、魂の事を。ならどうやって知覚したと思う。あそこはそこそこ山奥、偶然人なんて来ない場所だ」
「…智鷹」
「僕は知らないよ~ん」
「そうか……私達は仲間だ、その言葉を信じよう。佐須魔が神のお気に入りなのであれば可能性はあるな。この怪物にも居場所が無いと暴走するかもしれない、良い案だ」
「え!?なによんだ!?」
「呼んでいない」
「あっそ!!」
「だがここに留めておくのも無理がありそうだ。恐らく力でやりあっても私が死んでこいつも死んで終わりだろう。それは避けたい、となれば今すぐにでも居場所を…」
言葉は遮られる。従順なペットによって。
「主からのご命令です。付いて来てください、三人と…一匹でしょうか」
結界内に堂々と立ち入って来た仮想の青年。戦闘体勢に入るが、今度は佐須魔が制止する。婆ちゃんの記憶には桜花からこの青年の事を少しだけ聞いている場面があった。なので敵わないし、そもそも敵だとしてもわざわざ殺しに来る事は無いだろう。
そう考え一旦話しをする事にした。
「どう言う事だ」
「主からの命です。連れて来いと」
「こっちとしても好都合だ。行くよ。ただその前に…」
「何です」
「少しだけ待ってくれ。僕らは今結成される」
「はぁ…一分は待ちますよ」
「ありがと」
佐須魔は振り返り、二人の元へ寄った。ここから始まるのだ、危険を冒してでも進みたい道が目の前に広がっている。智鷹も來花も本当にワクワクしていた。
こんな腐り切った情勢をひっくり返し、皆が安心して暮らせる世界を作り上げてやるのだ。やり方一つ違うだけ、だがその些細な分岐点が問題を膨らませていく。
全員納得していた。言葉はいらない。ただ目を合わせ、意思疎通をするのみ。これから何人何百人を殺す事になっても構わない、最終的に能力者だけになれば問題は無いのだ。力で全てを、覆す。
「さぁ行くよ、僕らの基地へ」
三人と一匹。仮想世界へ。
「こうして今の僕らがある訳だ、何か質問ある人~」
一瞬にして矢萩が動いた。刀を佐須魔の喉元に突き立て、凄まじい気迫を放っている。
「殺したの、あんたなの」
「俺と智鷹だ。否定するつもりは微塵も無いよ。やるならやりなよ、反撃するつもりも無いけどね」
「…いや、良い。しょうもない」
いつも通りの不愛想な矢萩に戻り、刀を納めてから部屋を出て行った。だが誰も止める事は出来ない。先程まで語っていた中で殺された[榊原]、矢萩の姓である。それに発言を辿っていけば明白だ。
最低な行為である事に違いは無いが、それをしなかったら今のTISが無かった事にも違いはない。全てはリイカが上手く調整してくれたおかげでもある、これが最善策なのだ。本当に。
「さぁ、じゃあTISの成り立ちも説明し終わった事だし、本題に入ろう。零式で蘇らせる。僕は一人、アリスが三人だ。ただアリスは二人温存してもらう」
「あら、戦力を増やさないのですか?」
「革命の時に三獄が一人もいなかったらマズいだろ?」
「ならば残すのは一人分でも…」
「駄目だ」
「何故でしょうか。納得できる理由が欲しいです」
「ラックは生きている、魂として。それが僕と伽耶の見解だ。あいつの能力は厄介だ。ラックは未だに能力を残している、未来を確定させる能力だ。その場合一人が起こされてもまた殺されるかもしれない。リイカの能力とラックの能力、どっちに軍配が上がるかまでは分からないが、絶対に外してはいけない選択なんだよ」
「まぁ…概ね理解出来ました。もう少し踏み込んだ話は後々…」
「そうしてくれると助かるよ。他に何か気になる奴いる?」
誰も手を挙げない。
「よし、じゃあ早速始めようか。外出るよ、一応ね」
三獄が席を立った。先に重要幹部が退出し、出口へ向かって進んで行く。本当に終盤も終盤、ここで学園との決着をつけて革命を起こすのだ。無能力者でも能力者でも、存在している限り争いは生まれる。全員を殺してでも、平和を求める。
「さぁ、皆準備は良いかい?歓迎してあげてね、ようやく正式加入だからさ」
「すみません。今更なんですけど誰と誰と起こすんですか?」
原の質問、佐須魔は待ってましたと言わんばかりに食い気味で返答した。
「流と刀迦だ。まずは流を起こすよ、状況把握は刀迦の方が早いだろうから後回しだ」
「分かりました。ありがとうございます」
「うん、良いよ。それじゃあ行くよ、流からだ」
ここに来て解禁される死者の蘇生。一度だけ行っているのでやり方は大体分かっているが、仮想世界では初めてなので少しだけ緊張ししている。だが問題なく出来るだろう、唱えるのだ。零式-零条を。
だがこの数時間前、その場にいる誰もが予想していない事態が同じ仮想世界で発生していた。
「起きろよ礁蔽、兵助回収するぞ」
第三百四十九話「TIS Ⅳ」




